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#12

ー/ー



>>Towa

 アイリスが議事堂の大扉を開け放ち、私達はそろって室内へ足を踏み入れる。私達の乱入にその場の空気が凍りついたのがわかった。
 目の前に広がるのは合議のための「評議室」ではなく、まるでホロムービーに出てくるような玉座を備えた「謁見の間」だ。最奥の高い場所には大げさな玉座が据えられていて、まるで王様みたいな様子で私達を見下ろす男が座っていた。
 玉座の前には並んで立つ評議員たち。そちらはまるで臣下のように高座に向かい合って、皆立ったまま微動だにしていない。

 玉座の男は痩せた体躯で五十代ぐらいかな?顔立ちは鋭く痩せこけているけど、白髪交じりの髪をきっちりと撫で付けた感じは……まるで「貴族らしさ」を強調しようとしているみたいだ。だけど遠目にもその顔に不満と不安の影が浮かんでいるのがわかる。
 その男、ベルンハルトの服装もやけに貴族的だ。華美な金糸の刺繍が施された黒い外套に、光を反射する銀の勲章らしきもの。見るからに派手だけど、そのデザインがどこかちぐはぐで、威厳を感じるというよりも無理に作り上げた豪奢な虚勢に見えた。そう、まるでホロムービーに登場するような「伯爵の役を演じる」ためだけに選んだ衣装のように、私には見えたんだ。

 私達の突然の乱入にベルンハルトが視線をこちらに向けた。抑えきれない苛立ちが刻まれた険しい顔つきのまま、じろりと私達を睨みつける。明らかに予想外の来訪者に対する怒りと、不快感――そしてわずかな不安の色。

 評議員達の間にもざわめきが小さく広がっていくのがわかった。

「なんだ?何者だ?」
「ギルドの制服……?もしや監察官か?」
「まさかベルンハルト様に……」

 そんな囁きが漏れ聞こえる。突然の事に全員が私達の姿に釘付けになっているのがわかる。特に、ギルドの制服を身に付けた一番年長に見えるウォルターさんに。
 私達がベルンハルトに近づこうと前進すると評議員たちは次々に視線を逸らしたり、慌てて書類に目を落としたりと動揺を隠せないようだ。しかしその中で、ほんの少し好奇心の光を宿してこちらを見つめる者もいるように見えた。なるほど、一口に評議員といっても立場や思惑が違う人がいるんだろうな……。

「……何のつもりだ?」

 私達が玉座に近づくと、最奥の高座からベルンハルトの冷たい声が響いた。権力を誇示するように彼は玉座から微動だにせず、私達を見据えている。まるでここは自分が支配する領域だとでも言わんばかりに。
 彼の声には怒りの色と無礼に対する不快感がはっきりと感じられた。

「私の名前はウォルター・クレマン。モーリオンギルド統括局から派遣された監察官です。ペレジス支部、ベルンハルト・ファルケライヒ支部長。あなたをいくつかの罪状で告発するために来ました」

 ベルンハルトの視線を正面から受け止め、ウォルターさんはギルド章を掲げ、宣言する。

「ほう……告発だと?面白い、余興として聞いてやろう」

 ベルンハルトの言葉には余裕が感じられる。証拠は隠滅したという自信?それとも強がってるだけ?
 ……たぶん、両方だろう。

「具体的な告発は、彼女から」

 ウォルターさんはそう言うとアイリスを指し示した。ベルンハルトの視線がアイリスに向かう。評議員達もこれまで付き添いの秘書官とでも思っていたのか、初めてアイリスの姿に注目する。
 アイリスは一歩前に出て、無表情のまま淡々と告発を始める。まるで感情を押し殺したように、姉の声は冷ややかで静かだ。

「モーリオンギルド所属、アイリス・ブースタリアです。ベルンハルト支部長、あなたの罪状をひとつずつ告発させて頂きます。まず、横領罪」

 アイリスはフォトンタブを使って保管庫内で撮影した映像と物品目録を映し出した。画面には高価そうな宝石や、年代物の書物、数々の美術品が映っている。
 ギルドの正規備品とは到底思えないそれらが、びっしりと保管庫に詰め込まれている様子が次々と明らかにされてゆく。

「これがあなたの私的な保管庫に収められていた資産の映像です。これらが個人の所有物であるという証拠は見当たりませんでしたか、逆に一部の物品については軌道ステーションで強権的に押収されたいう証拠があります」

 ベルンハルトは冷笑し、肩をすくめて言った。

「横領、か。私がこの星のギルド支部を管理するにあたって必要なものを集めているだけだ。管理者が資産を保管するのは当然のことだろう?軌道ステーションで押収した品については、密輸品であったが故に押収し保管している。それだけだ」

 私は唇を噛んだ。違う。本当は、個人の資産を奪った、ただの盗人なくせに……。彼の言い訳に腹が立ったけど、アイリスは反論せずベルンハルトを一瞥するとそのまま次の罪状へと進んだ。

「次に、C3の不正輸出に関連する横領罪。こちらがあなたがギルドに隠して他の惑星へ不正輸出した輝彩水晶核の取引データです」

 アイリスの言葉にウォルターさんが証拠となるC3輸出データをホロディスプレイに投影した。そこに映るのは、明らかに非正規ルートで流通した痕跡を示すログだ。

「輝彩水晶核、すなわちC3はギルドの重要な資源です。あなたがそれを簿外で外部に売却した証拠があります」

 アイリスの追求を、ベルンハルトは冷ややかに鼻で笑った。

「証拠?そのデータが本物であると言うことをどうやって証明するつもりだ?この告発ごっこと同じく、でっちあげではないと言う証拠はあるのだろうな?」

 またしても強弁だ。証拠が偽造されたものではないことを証明するために、別の証拠が必要だとでも思っているんだろうか?自信たっぷりに言い切るベルンハルトの言葉に少しだけ不安がよぎる。しかしアイリスは気にする様子もなく淡々と告発を続ける。

「次に、窃盗罪です。あなたが所持していたマリエル・プランタジネットが描かれた肖像画には正当な所有者がいます。つまりこの物品は正当な手続きを経て取得されたものではありません」

 アイリスが言葉を続けると、アリサが持っていた母の肖像画を掲げて見せた。ベルンハルトはその時初めてアリサがこの場にいることに気づいたのか、彼女を鋭い目でにらみつけると軽く舌打ちをして、不快そうに返す。

「その絵がどうした?確かに保管庫に収蔵していたものかもしれぬが、それはただの美術品だ。何か特別な価値や意味があるとでも?欲しいのであればくれてやるぞ」

 ……本当に腹立たしい。アリサの両親の形見とも言える絵を、まるでガラクタ扱いするなんて。アリサの表情も心なしかこわばっている。
 でも、アイリスは表情を変えず次に進んだ。だけど、私の心に不安がよぎる。アイリス、あいつ……全然堪えてないよ?本当に大丈夫なの?

「さらに、傷害罪。……アリサさん」

 アイリスの声に、アリサが一歩前に進み、羽織っていた外套を脱いだ。彼女が身にまとっているのは、アイリスの衣装。機械の獣(メタルビースト)と戦ったときに着ていた、動きやすいタンクトップとショートパンツ。つまり、アリサの肌は大部分が露出している。そして、その白い肌に刻まれた無数の傷跡。
 評議員達は無言だけど、アリサのその姿に驚いたのか痛ましそうな表情を浮かべている。

 ……出発前にアイリスが行った提案。それはベルンハルトを追い詰めるための証拠として、アリサの傷跡を公開する選択肢がある、というものだった。指示や強要ではなく、あくまでも選択肢の提案。アリサはそれを承認し、配信映像を通じて人々の前にその傷を晒すことを自ら選んだ。アイリスが言うには、傷の公開はアリサが被害者であることを星の人々に印象付ける狙いもあるらしい。
 だけどベルンハルトはそんなアリサの決意を、まるでくだらないものように冷ややか表情で言う。

「傷跡?確かに痛ましい姿だが、それが私のせいだという証拠でも?」
「……私の傷は、あなたがつけたものです」

 被害者であるアリサ自身の証言。だけど……。

「その傷跡がどういう経緯でついたかを示す証拠でもあるのか?私に責任があるわけではないし、アリサの身辺保護に関しては部下に一任していた。彼女がギルドにとって危険な能力を隠していたのは事実だ。私はむしろ、その力をギルドのために活かすよう説得しようとしていただけであり、彼女を傷つけるつもりなどなかった」

 私は息が詰まる思いだった。確かに彼は自分の手を汚さなかったのかもしれないけど、それでもアリサを徹底的に痛めつけたのは明白だ。
 怒りで頭がいっぱいになる。もしアイリスに止められていなければ、私はこの場でベルンハルトを射殺していたに違いない。けど、それでもアイリスは……アリサに外套を着るよう指示し、冷静に告発を続けた。

「最後に、シノノメ前支部長の死。これはあなたが起こした事件であり、明らかな殺人です」

 アイリスはシノノメ前支部長の手帳を掲げ、書かれたメモの内容を読み上げた。シノノメ支部長がベルンハルトの背信行為に気づき、それを記録に残していたこと。そして、その記録の存在を知っていたベルンハルトが、彼を謀殺したとする推測を語った。ベルンハルトの表情は一瞬険しくなったけど、すぐに薄笑いに戻る。

「憶測に過ぎないな。手帳に書かれた走り書きが、どうして殺人の証拠になる?その程度の物が証拠とは、笑わせてくれる」

 ……確かに、決定的な証拠にはなりにくいかもしれない。でも、これはシノノメさんが命を懸けて残したメッセージだ。なのに、彼はその事実に対して何の敬意も持たず、薄ら笑いを浮かべて嘲笑している。もう少し時間があれば、手帳のヒントを追うことでより確実な追求ができたかもしれないのに……。

 告発劇にわずかな期待を抱いていたかのように見えた評議員達も、私達の劣勢を察して表情を暗くしている。中にはあからさまに私達を非難するような目を向けている評議員すらもいる。

 ベルンハルトのこじつけまじりの反論を聞いていた私は苛立ちと不安を感じ始めていた。もしかすると、アイリスも少し弱気になっているのかもしれない。数を重ねたとは言え、どの証拠も決定打にならなかったことに不安が頭をよぎる。
 そしてアイリスの告発が途切れ、これ以上の罪状列挙がないと判断したのかベルンハルトはゆっくりと立ち上がった。高座の上から私達を見下ろし、冷笑を浮かべながら大仰に手を広げる。

「ふん、なんという無礼だ。私をこのような公の場で吊し上げようとは……。無実の私を貶め、地位を奪おうなどとは。この、反逆者どもめ!」

 その声は議事堂全体に響きわたり、ベルンハルトはまるで自らが高潔な被害者であるかのように振る舞っている。その顔には怒りよりも、自らの正しさを信じる傲慢さが浮かんでいた。

「貴様らこそが罪人である!私がこの星の秩序を守っているにもかかわらず!不正を働き民を惑わすのはそちらの方だ!」

 ベルンハルトの視線が私達を一人ずつなぞる。明らかに大げさで自己愛に満ちた言葉が続くけれど、そのどれもが証拠も無く、ただ私達を叩きのめそうとする言いがかりに過ぎない。

「私がこの星を繁栄させたというのに!高潔な私が自らの立場を利用して何をしたというのだ?横領?窃盗?たかが妄言ではないか!無実の罪を着せようとする反逆者の常套手段よ!」

 あきらかに根拠のない主張ばかりだ。その場にいた評議員も彼の発言に困惑や疑念の色を浮かべている。だけど、ベルンハルトは周りの反応なんか気にも留めていないようだった。むしろ、自分の言葉が絶対的な真実であると、自らの言葉に酔っているようにすら思える。

「そして、前支部長の死について、だと?そもそも私がそれに何の関係があるというのだ?あの男は勝手に転落しただけではないか!幾ばくかの走り書きを根拠に私をその死に結びつけるとは、なんたる無礼!」

 シノノメ支部長の死はベルンハルトの不正に気づいたがためのものだと、これ以上なく明白なはずなのに。それでも、彼は自分を無垢な被害者として演じ続けている。まるで役者みたいな表情で。

「断罪されるべきはむしろお前たちだ!ギルドの掟を乱し、我が統治に泥を塗ろうとする……そう、この星の平和と秩序を乱す者こそが真の罪人なのだ!」

 その言いがかりと見え透いた嘘ばかりの自己弁護に私は吐き気すら感じる。でも、アイリスは何も反応せず、彼の独り芝居を静かに見つめている。

 そして、ベルンハルトはついに最後の切り札を取り出すかのように、自信満々に玉座の上で手を掲げた。

[Photon Flag, deployed.]

 無機質な機械音声が響き、玉座の上に光の紋章が展開された。あれは……ベルンハルトの名が記された、管理官としての彼の身分を示すギルドの正式な紋章……フォトンフラッグだ。


 私も故郷で何度もお義父さんが掲げるフォトンフラッグを見たことがある。
 結婚式で人生の門出を迎える二人を祝福する時に。
 新しく生まれた生命の誕生を祝う時に。
 死出の旅に向かう同胞を悼むときに。

 お義父さんは人々の事を心から想い、ギルドの代表として祝福や弔意を示すためにフラッグを掲げていた。お義父さんの紋章もギルド管理官のものだけど、そこには威厳と優しさが表現されていた。まるでお義父さん本人の人柄を表すかのように、温かな光を放っていた。

 だけどベルンハルトのこれはなんだ?確かに正式なフラッグだけど、とても無機質で、。ただ誰かを支配する事だけを目的にしたような、そんな冷たい印象を受ける。そもそもフォトンフラッグを掲げて名乗りを行うときには正式な作法があるのに、それすら無視しているじゃない!

「見よ!この紋章(フラッグ)こそ私が正統なギルドの支部長であり、この星の唯一の支配者である証である!貴様らごときが私を断罪することなど出来はしないのだ!」

 フラッグが投影された事で、評議員達は一斉に臣下の礼を取った。合議制によって統治される惑星の、評議会の場だというのに。フラッグを掲げるベルンハルトの顔には、勝利を確信したかのような笑みが広がっている。
 しかし、私の視線は自然とアイリスに向いた。彼女の静かな眼差しは変わらず、微動だにしていない。

「……あなたは」

 静かな声で呟く、アイリス。

「……どこまでギルドの誇りを貶めれば、気が済むのですか」

 フォトンフラッグの輝きを背景に君臨するベルンハルトを冷たい目で見つめながら、アイリスは続けた。

「小娘が、頭が高いぞ!たとえ貴様らが監察官やその助手であったとしても、管理官の紋章(フラッグ)に跪いて忠誠を誓うがいい!」
「……なるほど、あなたはギルドの職員は上位者(・・・)に跪いて、忠誠を誓う必要がある、と言うのですね?」
「当たり前だ」
「わかりました、では」

 アイリスはそう言うと、さらに一歩前に出る。

「あなたの流儀に、合わせてあげましょう」

 そう呟くと、アイリスはコートの裾を翻して自らのギルド章を取り出し、それを左手で高く掲げた。アイリスは低く、力強く言葉を発する。

「ギルドの(しるべ)たる黒水晶よ!」

[Voice recognition, activated.]

 アイリスの声に反応し、左手のフォトンタブが無機質な機械音声で応答を始める。同時に、黒水晶を象ったギルドの紋章が空間に投写された。
 機械的に投影されたベルンハルトのフォトンフラッグとは異なり、アイリスがこれから行うのはギルで定められた正式な作法に従った名乗りだ。

「アイリス・ブースタリアの名において命じる!」

[Voiceprint, matched.]
[C3 internal data, verification initiated.]
[All personal data, verified.]

 ギルドの紋章を取り巻くように、アイリスの名前を意匠化した文様がまるで花開くように展開する。アイリスの美しさと気高さ。そして内に秘めた知恵と勇気を感じさせるその文様は、お義父さんのものとどことなく似ている気がした。

「我が身の証を、光と共に示せ!」

[Photon Flag, deployed.]
[Honor the name of Boosteria, Second-Class Administrator.]

 アイリスの最後の言葉に反応し、周囲に眩い光が一気に弾けた。空間が震えるほどの威圧感が漂い、アイリスの頭上に完成した紋章――フォトンフラッグが荘厳に浮かび上がる。

 ベルンハルトの掲げていたフラッグは今も確かに権威を示す冷ややかな輝きを放っているけど、それはもはや霞んで見えた。
 アイリスの紋章(フラッグ)が放つ、精緻で神聖な輝きの前ではベルンハルトのものなどまるで子供の手による粗雑な模倣のようだ。比べようとすること自体が烏滸がましいほどの絶対的な差が、両者の間に広がっている。

 その瞬間、評議員たちがざわめき立った。彼らは呆然と目の前に浮かぶアイリスの紋章(フラッグ)を見つめるしかなかった。あまりの威容に立ち上がって呆然としている者もいる。圧倒的な存在感の中で、アイリスはただ静かに立っている。

 そしてベルンハルトは――

「二等……管理官……だと?こんな、小娘が……?」

 ベルンハルト三等管理官(・・・・・)は、譫言のようにそう呟いた。


>>Towa:Three Months Ago -CM41F3C-

「ねえアイリス」
「何?」
「管理官の試験、合格した?」
「したよっ!」

 とても良い笑顔でそう答えるアイリス。そう、私の優秀な姉は超難関と言われる管理官の試験に合格したらしいのだ。どれぐらいすごいのかは私にはわからなかったけど、いつもは厳格なお義父さんが一人書斎で泣いていたので、それぐらいすごいのだろう。

「いや、あれは……多分嬉し涙じゃないと思うなぁ」
「ちがうの?」
「えっとね、私が合格したのは二等管理官なんだよ」
「うん。お義父さんは管理官でしょ?アイリスの上司」
「確かにギルドの支部長とか、開拓団の団長も確かに管理官だけどね。そういう立場の人は三等管理官(・・・・・)、なんだ」
「へっ?」

 思わず変な声が出た。
 お義父さんは三等管理官。
 お姉ちゃんは二等管理官。
 ……それなら私は一等管理官かな。

「……何考えてるのか大体わかるけど、違うからね?一等管理官ってギルド総帥の別称なんだからね?」
「ということは」
「そういうこと」

 ノリで言ってみたけど、どういうことだろう。アイリスがお義父さんより上役ってことだろうか。

「アイリスって偉い?」
「うん、ものすごくね」
「びっくりした。これから私はアイリスの下僕?」
「いやいや、別に今まで通りでいいよ?それにトワのSランクだって二等管理官以上にレアなんだし」
「じゃあアイリスは私の下僕?」
「どうしてそうなるかな……」

 ともあれ、お義父さんが涙していた理由がわかった。アイリスが超難関試験を突破したことに。そして娘が自分より偉くなった事に。すごく複雑な涙だったんだな、あれは。あとでお義父さんを慰めに行かないと。……私が何かいうと逆効果になるかもしれないけど。

 その後、アイリスに改めて聞いたところによると、三等管理官というのが資源惑星の責任者や支部長クラスに就くのに必要な資格で、二等管理官は星域を管理する統括局や監察部をはじめとした部門の長に相当するギルドの高位幹部らしかった。
 そして二等管理官の資格試験というのは管理官業務を10年以上経験しないと受験資格すら得られないらしい。……なんとアイリス、5歳の頃からお義父さんの仕事を手伝って業務経験のカウント進めていたらしい。
 びっくりするほど計画的だ……。私の姉は優秀だと思っていたけど、優秀なんて言葉では形容できない超天才、いやむしろチート主人公(ヒロイン)だと言うことを、このとき改めて思い知った。




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>>Towa
 アイリスが議事堂の大扉を開け放ち、私達はそろって室内へ足を踏み入れる。私達の乱入にその場の空気が凍りついたのがわかった。
 目の前に広がるのは合議のための「評議室」ではなく、まるでホロムービーに出てくるような玉座を備えた「謁見の間」だ。最奥の高い場所には大げさな玉座が据えられていて、まるで王様みたいな様子で私達を見下ろす男が座っていた。
 玉座の前には並んで立つ評議員たち。そちらはまるで臣下のように高座に向かい合って、皆立ったまま微動だにしていない。
 玉座の男は痩せた体躯で五十代ぐらいかな?顔立ちは鋭く痩せこけているけど、白髪交じりの髪をきっちりと撫で付けた感じは……まるで「貴族らしさ」を強調しようとしているみたいだ。だけど遠目にもその顔に不満と不安の影が浮かんでいるのがわかる。
 その男、ベルンハルトの服装もやけに貴族的だ。華美な金糸の刺繍が施された黒い外套に、光を反射する銀の勲章らしきもの。見るからに派手だけど、そのデザインがどこかちぐはぐで、威厳を感じるというよりも無理に作り上げた豪奢な虚勢に見えた。そう、まるでホロムービーに登場するような「伯爵の役を演じる」ためだけに選んだ衣装のように、私には見えたんだ。
 私達の突然の乱入にベルンハルトが視線をこちらに向けた。抑えきれない苛立ちが刻まれた険しい顔つきのまま、じろりと私達を睨みつける。明らかに予想外の来訪者に対する怒りと、不快感――そしてわずかな不安の色。
 評議員達の間にもざわめきが小さく広がっていくのがわかった。
「なんだ?何者だ?」
「ギルドの制服……?もしや監察官か?」
「まさかベルンハルト様に……」
 そんな囁きが漏れ聞こえる。突然の事に全員が私達の姿に釘付けになっているのがわかる。特に、ギルドの制服を身に付けた一番年長に見えるウォルターさんに。
 私達がベルンハルトに近づこうと前進すると評議員たちは次々に視線を逸らしたり、慌てて書類に目を落としたりと動揺を隠せないようだ。しかしその中で、ほんの少し好奇心の光を宿してこちらを見つめる者もいるように見えた。なるほど、一口に評議員といっても立場や思惑が違う人がいるんだろうな……。
「……何のつもりだ?」
 私達が玉座に近づくと、最奥の高座からベルンハルトの冷たい声が響いた。権力を誇示するように彼は玉座から微動だにせず、私達を見据えている。まるでここは自分が支配する領域だとでも言わんばかりに。
 彼の声には怒りの色と無礼に対する不快感がはっきりと感じられた。
「私の名前はウォルター・クレマン。モーリオンギルド統括局から派遣された監察官です。ペレジス支部、ベルンハルト・ファルケライヒ支部長。あなたをいくつかの罪状で告発するために来ました」
 ベルンハルトの視線を正面から受け止め、ウォルターさんはギルド章を掲げ、宣言する。
「ほう……告発だと?面白い、余興として聞いてやろう」
 ベルンハルトの言葉には余裕が感じられる。証拠は隠滅したという自信?それとも強がってるだけ?
 ……たぶん、両方だろう。
「具体的な告発は、彼女から」
 ウォルターさんはそう言うとアイリスを指し示した。ベルンハルトの視線がアイリスに向かう。評議員達もこれまで付き添いの秘書官とでも思っていたのか、初めてアイリスの姿に注目する。
 アイリスは一歩前に出て、無表情のまま淡々と告発を始める。まるで感情を押し殺したように、姉の声は冷ややかで静かだ。
「モーリオンギルド所属、アイリス・ブースタリアです。ベルンハルト支部長、あなたの罪状をひとつずつ告発させて頂きます。まず、横領罪」
 アイリスはフォトンタブを使って保管庫内で撮影した映像と物品目録を映し出した。画面には高価そうな宝石や、年代物の書物、数々の美術品が映っている。
 ギルドの正規備品とは到底思えないそれらが、びっしりと保管庫に詰め込まれている様子が次々と明らかにされてゆく。
「これがあなたの私的な保管庫に収められていた資産の映像です。これらが個人の所有物であるという証拠は見当たりませんでしたか、逆に一部の物品については軌道ステーションで強権的に押収されたいう証拠があります」
 ベルンハルトは冷笑し、肩をすくめて言った。
「横領、か。私がこの星のギルド支部を管理するにあたって必要なものを集めているだけだ。管理者が資産を保管するのは当然のことだろう?軌道ステーションで押収した品については、密輸品であったが故に押収し保管している。それだけだ」
 私は唇を噛んだ。違う。本当は、個人の資産を奪った、ただの盗人なくせに……。彼の言い訳に腹が立ったけど、アイリスは反論せずベルンハルトを一瞥するとそのまま次の罪状へと進んだ。
「次に、C3の不正輸出に関連する横領罪。こちらがあなたがギルドに隠して他の惑星へ不正輸出した輝彩水晶核の取引データです」
 アイリスの言葉にウォルターさんが証拠となるC3輸出データをホロディスプレイに投影した。そこに映るのは、明らかに非正規ルートで流通した痕跡を示すログだ。
「輝彩水晶核、すなわちC3はギルドの重要な資源です。あなたがそれを簿外で外部に売却した証拠があります」
 アイリスの追求を、ベルンハルトは冷ややかに鼻で笑った。
「証拠?そのデータが本物であると言うことをどうやって証明するつもりだ?この告発ごっこと同じく、でっちあげではないと言う証拠はあるのだろうな?」
 またしても強弁だ。証拠が偽造されたものではないことを証明するために、別の証拠が必要だとでも思っているんだろうか?自信たっぷりに言い切るベルンハルトの言葉に少しだけ不安がよぎる。しかしアイリスは気にする様子もなく淡々と告発を続ける。
「次に、窃盗罪です。あなたが所持していたマリエル・プランタジネットが描かれた肖像画には正当な所有者がいます。つまりこの物品は正当な手続きを経て取得されたものではありません」
 アイリスが言葉を続けると、アリサが持っていた母の肖像画を掲げて見せた。ベルンハルトはその時初めてアリサがこの場にいることに気づいたのか、彼女を鋭い目でにらみつけると軽く舌打ちをして、不快そうに返す。
「その絵がどうした?確かに保管庫に収蔵していたものかもしれぬが、それはただの美術品だ。何か特別な価値や意味があるとでも?欲しいのであればくれてやるぞ」
 ……本当に腹立たしい。アリサの両親の形見とも言える絵を、まるでガラクタ扱いするなんて。アリサの表情も心なしかこわばっている。
 でも、アイリスは表情を変えず次に進んだ。だけど、私の心に不安がよぎる。アイリス、あいつ……全然堪えてないよ?本当に大丈夫なの?
「さらに、傷害罪。……アリサさん」
 アイリスの声に、アリサが一歩前に進み、羽織っていた外套を脱いだ。彼女が身にまとっているのは、アイリスの衣装。|機械の獣《メタルビースト》と戦ったときに着ていた、動きやすいタンクトップとショートパンツ。つまり、アリサの肌は大部分が露出している。そして、その白い肌に刻まれた無数の傷跡。
 評議員達は無言だけど、アリサのその姿に驚いたのか痛ましそうな表情を浮かべている。
 ……出発前にアイリスが行った提案。それはベルンハルトを追い詰めるための証拠として、アリサの傷跡を公開する選択肢がある、というものだった。指示や強要ではなく、あくまでも選択肢の提案。アリサはそれを承認し、配信映像を通じて人々の前にその傷を晒すことを自ら選んだ。アイリスが言うには、傷の公開はアリサが被害者であることを星の人々に印象付ける狙いもあるらしい。
 だけどベルンハルトはそんなアリサの決意を、まるでくだらないものように冷ややか表情で言う。
「傷跡?確かに痛ましい姿だが、それが私のせいだという証拠でも?」
「……私の傷は、あなたがつけたものです」
 被害者であるアリサ自身の証言。だけど……。
「その傷跡がどういう経緯でついたかを示す証拠でもあるのか?私に責任があるわけではないし、アリサの身辺保護に関しては部下に一任していた。彼女がギルドにとって危険な能力を隠していたのは事実だ。私はむしろ、その力をギルドのために活かすよう説得しようとしていただけであり、彼女を傷つけるつもりなどなかった」
 私は息が詰まる思いだった。確かに彼は自分の手を汚さなかったのかもしれないけど、それでもアリサを徹底的に痛めつけたのは明白だ。
 怒りで頭がいっぱいになる。もしアイリスに止められていなければ、私はこの場でベルンハルトを射殺していたに違いない。けど、それでもアイリスは……アリサに外套を着るよう指示し、冷静に告発を続けた。
「最後に、シノノメ前支部長の死。これはあなたが起こした事件であり、明らかな殺人です」
 アイリスはシノノメ前支部長の手帳を掲げ、書かれたメモの内容を読み上げた。シノノメ支部長がベルンハルトの背信行為に気づき、それを記録に残していたこと。そして、その記録の存在を知っていたベルンハルトが、彼を謀殺したとする推測を語った。ベルンハルトの表情は一瞬険しくなったけど、すぐに薄笑いに戻る。
「憶測に過ぎないな。手帳に書かれた走り書きが、どうして殺人の証拠になる?その程度の物が証拠とは、笑わせてくれる」
 ……確かに、決定的な証拠にはなりにくいかもしれない。でも、これはシノノメさんが命を懸けて残したメッセージだ。なのに、彼はその事実に対して何の敬意も持たず、薄ら笑いを浮かべて嘲笑している。もう少し時間があれば、手帳のヒントを追うことでより確実な追求ができたかもしれないのに……。
 告発劇にわずかな期待を抱いていたかのように見えた評議員達も、私達の劣勢を察して表情を暗くしている。中にはあからさまに私達を非難するような目を向けている評議員すらもいる。
 ベルンハルトのこじつけまじりの反論を聞いていた私は苛立ちと不安を感じ始めていた。もしかすると、アイリスも少し弱気になっているのかもしれない。数を重ねたとは言え、どの証拠も決定打にならなかったことに不安が頭をよぎる。
 そしてアイリスの告発が途切れ、これ以上の罪状列挙がないと判断したのかベルンハルトはゆっくりと立ち上がった。高座の上から私達を見下ろし、冷笑を浮かべながら大仰に手を広げる。
「ふん、なんという無礼だ。私をこのような公の場で吊し上げようとは……。無実の私を貶め、地位を奪おうなどとは。この、反逆者どもめ!」
 その声は議事堂全体に響きわたり、ベルンハルトはまるで自らが高潔な被害者であるかのように振る舞っている。その顔には怒りよりも、自らの正しさを信じる傲慢さが浮かんでいた。
「貴様らこそが罪人である!私がこの星の秩序を守っているにもかかわらず!不正を働き民を惑わすのはそちらの方だ!」
 ベルンハルトの視線が私達を一人ずつなぞる。明らかに大げさで自己愛に満ちた言葉が続くけれど、そのどれもが証拠も無く、ただ私達を叩きのめそうとする言いがかりに過ぎない。
「私がこの星を繁栄させたというのに!高潔な私が自らの立場を利用して何をしたというのだ?横領?窃盗?たかが妄言ではないか!無実の罪を着せようとする反逆者の常套手段よ!」
 あきらかに根拠のない主張ばかりだ。その場にいた評議員も彼の発言に困惑や疑念の色を浮かべている。だけど、ベルンハルトは周りの反応なんか気にも留めていないようだった。むしろ、自分の言葉が絶対的な真実であると、自らの言葉に酔っているようにすら思える。
「そして、前支部長の死について、だと?そもそも私がそれに何の関係があるというのだ?あの男は勝手に転落しただけではないか!幾ばくかの走り書きを根拠に私をその死に結びつけるとは、なんたる無礼!」
 シノノメ支部長の死はベルンハルトの不正に気づいたがためのものだと、これ以上なく明白なはずなのに。それでも、彼は自分を無垢な被害者として演じ続けている。まるで役者みたいな表情で。
「断罪されるべきはむしろお前たちだ!ギルドの掟を乱し、我が統治に泥を塗ろうとする……そう、この星の平和と秩序を乱す者こそが真の罪人なのだ!」
 その言いがかりと見え透いた嘘ばかりの自己弁護に私は吐き気すら感じる。でも、アイリスは何も反応せず、彼の独り芝居を静かに見つめている。
 そして、ベルンハルトはついに最後の切り札を取り出すかのように、自信満々に玉座の上で手を掲げた。
[Photon Flag, deployed.]
 無機質な機械音声が響き、玉座の上に光の紋章が展開された。あれは……ベルンハルトの名が記された、管理官としての彼の身分を示すギルドの正式な紋章……フォトンフラッグだ。
 私も故郷で何度もお義父さんが掲げるフォトンフラッグを見たことがある。
 結婚式で人生の門出を迎える二人を祝福する時に。
 新しく生まれた生命の誕生を祝う時に。
 死出の旅に向かう同胞を悼むときに。
 お義父さんは人々の事を心から想い、ギルドの代表として祝福や弔意を示すためにフラッグを掲げていた。お義父さんの紋章もギルド管理官のものだけど、そこには威厳と優しさが表現されていた。まるでお義父さん本人の人柄を表すかのように、温かな光を放っていた。
 だけどベルンハルトのこれはなんだ?確かに正式なフラッグだけど、とても無機質で、。ただ誰かを支配する事だけを目的にしたような、そんな冷たい印象を受ける。そもそもフォトンフラッグを掲げて名乗りを行うときには正式な作法があるのに、それすら無視しているじゃない!
「見よ!この|紋章《フラッグ》こそ私が正統なギルドの支部長であり、この星の唯一の支配者である証である!貴様らごときが私を断罪することなど出来はしないのだ!」
 フラッグが投影された事で、評議員達は一斉に臣下の礼を取った。合議制によって統治される惑星の、評議会の場だというのに。フラッグを掲げるベルンハルトの顔には、勝利を確信したかのような笑みが広がっている。
 しかし、私の視線は自然とアイリスに向いた。彼女の静かな眼差しは変わらず、微動だにしていない。
「……あなたは」
 静かな声で呟く、アイリス。
「……どこまでギルドの誇りを貶めれば、気が済むのですか」
 フォトンフラッグの輝きを背景に君臨するベルンハルトを冷たい目で見つめながら、アイリスは続けた。
「小娘が、頭が高いぞ!たとえ貴様らが監察官やその助手であったとしても、管理官の|紋章《フラッグ》に跪いて忠誠を誓うがいい!」
「……なるほど、あなたはギルドの職員は|上位者《・・・》に跪いて、忠誠を誓う必要がある、と言うのですね?」
「当たり前だ」
「わかりました、では」
 アイリスはそう言うと、さらに一歩前に出る。
「あなたの流儀に、合わせてあげましょう」
 そう呟くと、アイリスはコートの裾を翻して自らのギルド章を取り出し、それを左手で高く掲げた。アイリスは低く、力強く言葉を発する。
「ギルドの|標《しるべ》たる黒水晶よ!」
[Voice recognition, activated.]
 アイリスの声に反応し、左手のフォトンタブが無機質な機械音声で応答を始める。同時に、黒水晶を象ったギルドの紋章が空間に投写された。
 機械的に投影されたベルンハルトのフォトンフラッグとは異なり、アイリスがこれから行うのはギルで定められた正式な作法に従った名乗りだ。
「アイリス・ブースタリアの名において命じる!」
[Voiceprint, matched.]
[C3 internal data, verification initiated.]
[All personal data, verified.]
 ギルドの紋章を取り巻くように、アイリスの名前を意匠化した文様がまるで花開くように展開する。アイリスの美しさと気高さ。そして内に秘めた知恵と勇気を感じさせるその文様は、お義父さんのものとどことなく似ている気がした。
「我が身の証を、光と共に示せ!」
[Photon Flag, deployed.]
[Honor the name of Boosteria, Second-Class Administrator.]
 アイリスの最後の言葉に反応し、周囲に眩い光が一気に弾けた。空間が震えるほどの威圧感が漂い、アイリスの頭上に完成した紋章――フォトンフラッグが荘厳に浮かび上がる。
 ベルンハルトの掲げていたフラッグは今も確かに権威を示す冷ややかな輝きを放っているけど、それはもはや霞んで見えた。
 アイリスの|紋章《フラッグ》が放つ、精緻で神聖な輝きの前ではベルンハルトのものなどまるで子供の手による粗雑な模倣のようだ。比べようとすること自体が烏滸がましいほどの絶対的な差が、両者の間に広がっている。
 その瞬間、評議員たちがざわめき立った。彼らは呆然と目の前に浮かぶアイリスの|紋章《フラッグ》を見つめるしかなかった。あまりの威容に立ち上がって呆然としている者もいる。圧倒的な存在感の中で、アイリスはただ静かに立っている。
 そしてベルンハルトは――
「二等……管理官……だと?こんな、小娘が……?」
 ベルンハルト|三等管理官《・・・・・》は、譫言のようにそう呟いた。
>>Towa:Three Months Ago -CM41F3C-
「ねえアイリス」
「何?」
「管理官の試験、合格した?」
「したよっ!」
 とても良い笑顔でそう答えるアイリス。そう、私の優秀な姉は超難関と言われる管理官の試験に合格したらしいのだ。どれぐらいすごいのかは私にはわからなかったけど、いつもは厳格なお義父さんが一人書斎で泣いていたので、それぐらいすごいのだろう。
「いや、あれは……多分嬉し涙じゃないと思うなぁ」
「ちがうの?」
「えっとね、私が合格したのは二等管理官なんだよ」
「うん。お義父さんは管理官でしょ?アイリスの上司」
「確かにギルドの支部長とか、開拓団の団長も確かに管理官だけどね。そういう立場の人は|三等管理官《・・・・・》、なんだ」
「へっ?」
 思わず変な声が出た。
 お義父さんは三等管理官。
 お姉ちゃんは二等管理官。
 ……それなら私は一等管理官かな。
「……何考えてるのか大体わかるけど、違うからね?一等管理官ってギルド総帥の別称なんだからね?」
「ということは」
「そういうこと」
 ノリで言ってみたけど、どういうことだろう。アイリスがお義父さんより上役ってことだろうか。
「アイリスって偉い?」
「うん、ものすごくね」
「びっくりした。これから私はアイリスの下僕?」
「いやいや、別に今まで通りでいいよ?それにトワのSランクだって二等管理官以上にレアなんだし」
「じゃあアイリスは私の下僕?」
「どうしてそうなるかな……」
 ともあれ、お義父さんが涙していた理由がわかった。アイリスが超難関試験を突破したことに。そして娘が自分より偉くなった事に。すごく複雑な涙だったんだな、あれは。あとでお義父さんを慰めに行かないと。……私が何かいうと逆効果になるかもしれないけど。
 その後、アイリスに改めて聞いたところによると、三等管理官というのが資源惑星の責任者や支部長クラスに就くのに必要な資格で、二等管理官は星域を管理する統括局や監察部をはじめとした部門の長に相当するギルドの高位幹部らしかった。
 そして二等管理官の資格試験というのは管理官業務を10年以上経験しないと受験資格すら得られないらしい。……なんとアイリス、5歳の頃からお義父さんの仕事を手伝って業務経験のカウント進めていたらしい。
 びっくりするほど計画的だ……。私の姉は優秀だと思っていたけど、優秀なんて言葉では形容できない超天才、いやむしろチート|主人公《ヒロイン》だと言うことを、このとき改めて思い知った。