#4
ー/ー>>Towa
居留地へ戻り、色んな人と色んな話をして、気付いたら真夜中になっていた。
ジョッシュには謝罪と感謝をされた。私達を残して戻ったことへの謝罪、ヘルミナを助けた事への感謝。何故か男泣きに泣いていた。手柄を取られたのが悔しかったんだろうか。
資材部の人達には文句を言われた。ブラスター用のC3を2つも壊してしまったから。結構高いからね、ブラスター用のC3。でも、美少女2人の命と比べると安いと思うんだけど。
保安部の人には称賛された。居留地に対する脅威を未然に防いだことはお手柄らしく、スクールを卒業したら保安部に就職しないかと勧誘された。私はシンガーだし、興味が無いし、保安部はむさ苦しい男所帯なので無論断った。
そして、お義父さんには感謝され、叱られた。団長として、ヘルミナを救い未知の敵を撃退したことを感謝された。そして、父親として危ないことをした娘達に対する愛情のある叱責を受けた。
叱られたのに嬉しかった。私は、この人に愛されてる。そう感じたから。隣にいたアイリスもたぶん同じように思っていたと思う。
一度に多くの感情を浴びて、少し疲れた。結局ご飯は食べられなかったけど……今日はもう寝よう。アイリスには平気だと言ったけど、立て続けの混合再調律はさすがに体力を削るものだったらしい。煩わしい着衣を全て脱ぎ捨て、ベッドに潜り込もうとしたところで記憶が途絶えた。
――翌日は結局、昼前にアイリスに起こされるまで爆睡してしまった。どうやらベッドにたどり着く前に寝落ちしてしまったようで、目覚めたのは床の上だった。
「トワ、もうお昼だよ……ってどこで寝てるのよ」
「空腹で気絶してた。結局、丸一日ご飯食べてない」
「もう、この子は……。家の中で行き倒れられると迷惑だから、お昼にするよ」
「わかった、すぐ行く」
「ちょっと待った!だから、部屋を出る前に服を着なさいって、いつも言ってるでしょ!」
「服を着ている間に餓死する」
「しない!」
Tシャツを頭から勢いよく引っ張られるようにかぶせられた。恒例行事となっている朝の攻防、これがないと朝が来た感じがしない。いや、今は昼だし、アイリスが来なければそのまま出かけていただろうけど。
いつもの1.5倍ぐらいの量のランチを食べ、それ以上食べられなくなったので諦めた。3食も抜いたのにその半分ぐらいしか食べられないのは、なんだかとても損をした気がする。なので、これからは何があっても食事だけは絶対に抜かないようにしようと心に決めた。
食事中に聞いたところによると、アイリスは朝から色々な部署を回って報告や根回しをしてくれていたらしい。アイリスも疲れてただろうに。私はちょっと反省した。
「ごめん」
「別に気にしなくていいよ、管理官としてのお仕事の一環でもあるからね」
「頼りになる。アイリス、好き」
「はいはい。そうだ、ブラスター用C3、新しいのもらってきたよ」
そう言うとアイリスは鈍色のクリスタルを差し出した。この色合いは……。
「これ、Cランク?」
「うん。Dランクだとまた壊しそうだからって」
ランクが一つ上がるごとにC3が充填できるエネルギー総量や増幅効果は倍々になる。元々使っていたのがDランクだったので、ランクアップよる効果倍増は一見すると良いことに思えるけど、もちろんデメリットだってある。それはエネルギーの消費量も2倍になるということだ。
神業レベルの射撃能力を持ち、無駄撃ちしないアイリスには有効なランクアップだけど、射撃が得意な訳ではない私にとっては、ただ撃てる時間が半分になるぐらいのデメリットしかない。ああ、そうか状況に応じて再調律する幅が広がったと考えればいいか。
「そういうこと」
あれ?私、声に出してた?
「トワが考えてる事ぐらいわかるよ?」
私の姉には隠し事ができないらしい。そういえば時々考えを読まれてる気がするので、頭の中で姉と考えるのもやめた方が良いかもしれない。気恥ずかしいし。あ、もしかしたらアイリスは特殊能力者なのでは。
「別に読心能力とかはないよ?」
読心能力者ではないということは、さては天才か。いや、元から天才だよね、アイリスは。天才な上に努力家だし、おまけにスタイルの良い美少女で胸も大きいとか。ホロムービーのスーパーヒロインでもこんな子いないよ。
昼食の後、救護室にいるヘルミナを見舞いに行った。昨夜のうちに意識を取り戻したらしいヘルミナは、出血の影響で顔色こそ悪いものの思ったよりは元気そうだった。そんな彼女にまずは謝らないといけないことがある。
「ヘルミナ、ごめん」
「こっちがお礼を言わないといけないのに、なんでトワが謝るのさ?」
「腕、回収できなかった」
そう、私が洞窟を崩落させてしまったせいで、切断されたヘルミナの腕を回収することができなくなってしまった。普通の獣による裂傷ならともかく、鋼の獣の鋭利な爪による切断なら、欠損部位さえ回収できていれば、再接合できていた可能性があったのに。
「ああ、そういうことかぁ……。でも、腕のために命を無くしてたら意味ないからね。それに、エピテーゼ手術で新しい腕を付けるから気にしなくていいよ」
エピテーゼ手術とは義肢装具による機能回復治療だ。C3鉱山があり、崩落事故が発生する可能性の高いこの星にはギルドからの支援で十分な医療体制が整えられている。特に外科手術においてそれは顕著で、大きなプラントが必要なクローン施設は無理だけど、辺境の惑星では珍しい中央星域の最先端技術による医療機器や義肢装具ならギルドから支給されていると聞いた事がある。
なので、外見の修復に加えて腕としての機能が失われることはない……けど、それでもやはり生身の腕とまったく同じという訳にはいかないだろう。
「そうだ、どうせなら新しい腕は機械式にしてブラスターを内蔵するのもありかも!威力と弾数を増加したタイプを内蔵すれば……いや、いっそのこと五指すべてから弾を発射できるように?それよりもカートリッジ交換で色々な機能を付加した万能アームにするのもありかも!」
なにやらヘルミナがおかしな事を言い出した。もしかしたら洞窟で倒れたときに頭を強打していたのだろうか。隣にいるアイリスに目でヘルミナの容態を問うと、無言で頭を振られた。なるほど、これはヘルミナの素なのか。私の中でヘルミナと言う女性は「よく知らない人」から「よくわからない人」になった。
……いや、本当はわかっている。私に罪悪感を持たせないようにわざと明るく振る舞ってくれていることは。
「ブラスターに内蔵するC3の希望があれば言って。責任をもって私が調律する」
だから、私に出来るかぎりの事は協力しよう。
「いや、アレは本当に素だと思うけどな……」
アイリスは呆れたようにそう言い、肩をすくめた。
その後は保安部が回収した鋼の獣の残骸を確認しにいくことにした。バギーに積まれたままの鋼の獣は頭部から臀部までを綺麗に撃ち抜かれた状態で、完全に機能を停止しているようだ。
改めて間近で見ると、その異質さに怖気が走る。居留地のルールでは狩りの獲物は狩った当人の所有物になるけど、さすがにこれは持って帰って食べる訳にもいかないし、トロフィーとして飾るには気持ち悪すぎる。
「アイリス、これどうするの?食べる?」
「歯ごたえ十分、鉄分もたっぷり摂れそうだね」
「じゃあ持って帰って晩ご飯?」
「食べるのはトワだけにしてね?」
「私は金属アレルギーだからパス」
「相変わらず仲が良いな、お前達は。ああ、私も歯医者は嫌いだからパスさせてもらうぞ」
アイリスとじゃれているとお義父さんがやってきた。どうやら鋼の獣を確認しに来たらしい。
「しかし、これは……」
鋼の獣を見たお義父さんは眉をひそめ、何事か考え込んでいる。アイリスはギルドのライブラリーに載ってなかったと言っていたけど、何か心当たりでもあるんだろうか?しばらく待ったがお義父さんは何も言わず、黙ったまま鋼の獣を睨んでいる。
「お義父さん」
「あ、ああ。すまん、少し考え事をしていた。ここに置いたままにもできんだろうし、うちへ運ばせておこう」
「アイリスの部屋に飾ると喜ぶと思う」
「喜ばない!」
「ならお義父さんの執務室に」
「トロフィーを飾る栄誉はトワに譲ろう」
「えー、ひどい」
心安い、家族の会話。いつまでもこの人達の家族でいたい。全てを失った私に多くのものをくれた、大事な家族。なのに、どうして、私はこの人達と別れてでも「帰らないといけない」と思うのだろう。私の心はCM41F3Cにいたいと叫んでいるのに。
>>Towa:3 Month Later
鋼の獣の一件から3ヶ月が経った。自宅の屋根に独り腰掛けた私は、夜風を頬に感じながら静かに星空を見上げていた。満天の星々が瞬く夜空は存在しないはずの遠い昔の……大宇宙の彼方の記憶を呼び起こすように感じられた。
私は無意識に掌中の小さなC3の表面を指で撫で回していた。冷たく滑らかな感触を指先で感じながら、私はこの3ヶ月の事を思い返した。
辺境の惑星にはそうそう重大な事件が起こるはずも無く、毎日は平穏であるけど代わり映えの無い日常の繰り返し。しかしそんな中で私自身にはいくつかの変化があった。
まず一つ目の変化は私がスクールを卒業したこと。ギルドの庇護下にある子供は5歳になる年にギルドが運営するスクールに入学し、15歳になるまでの10年間、様々なことを学ぶ。
最初の5年間は初等クラスとして全員が一般常識をはじめとした基礎的な学問を。次の5年間は職業適性に応じた専門クラス別に、就業に必要な技術や知識を高める実践的な訓練を。私の場合はシンガーとしてC3に関する様々な知識を学んできた。
そしてスクールを卒業したという事は、訓練が満了し就業する準備が整ったということになる。
そして卒業時にシンガーとしての適性を再測定した結果、私はSランクであると認定された。BランクのC3を砕いたことがあるから、おそらくそうだろうと思っていたけど、Sランクは銀河にも数人しかいないと言われてそのレアリティに自分で驚いた。判定結果を告げたリーザロッテ先生にそう言うと、驚く箇所が違います、と思いっきり呆れられたけど。
帰宅してからお義父さんとアイリスに報告したけど、さほど驚いた様子もなく、驚かない理由を尋ねると「トワだから」と口をそろえて言われたことは良く覚えている。
二つ目の変化は私が15歳の誕生日を迎えて成人したこと。無数の惑星に活動拠点を持つギルドでは多くの惑星と同じようにEST……時元標準時(Epochal Standard Time)換算で15歳になった時点で一人前と認められ、正式にギルドの一員となることが許される。
他の惑星や支部の事情はわからないけど、この星にはギルドメンバー以外の住人はいないし、ギルド以外の働き口も存在しない。なのでこの星で生計を立てるにはギルドの一員として働く以外の選択肢は存在しない。
例外的にギルドのC3輸送船の乗員になったり、ギルドを脱退して星外へ移住したりする人もいるらしいけど、それはごく少数派だけと……。ともあれ、成人したことで私は自らの身の振り方を自分で決めることが出来るようになったんだ。
三つ目の変化は……それまで秘密にしていた、私の能力が親友であるエミリーにバレだということだ。
私がSランクシンガーだと言う事が皆に知れ渡った時、スクールの同級生をはじめとした居留地の皆は辺境の惑星で最高位のシンガーが誕生したことを驚き、喜んでくれた。けどエミリーだけはジト目で私の事を見てきたんだよね。
そしてスクールの卒業式が終わり、卒業記念パーティの後に私はエミリーに校舎の裏へ呼び出されたんだ。ホロムービーとかで良くある告白シーンかと聞いた私をグーで殴った後にエミリーは言った。
「トワ?あなた、わたしに隠してること、ありますでしょう?」
って。確かにお義父さんやアイリスに言われていくつかエミリーには話していないことはあったけど、エミリーがぷんすか怒りながらそう言うのはどの隠し事かわからなかったから、普通に何の話かと聞くと……エミリーは言った。私とアイリスのブラスターは普通じゃないよね、と。
なんでもエミリーは破壊された鋼の獣の残骸を見て、その破壊痕がアイリスの朱でも私の碧によるものでもないことに気付いたんだそうだ。つまりアレは蒼……それも強化された蒼によるものだって。
エミリーは最初、ヘルミナが同行していたこともあって彼女による改造かと思っていたらしい。けどヘルミナ本人からそれを否定され、私とアイリスが持ったいたブラスターはそれぞれ朱と碧だと聞いたんだそうだ。
私達はC3を産出する惑星で暮らしているけど、常日頃からC3を持ち歩いている訳じゃない。だから戦闘中にブラスターの特性が変わったのだとしたら、Sランクシンガーである私が何かしたんだろう、さぁ秘密を吐けとエミリーは悪い顔で言った。
私とエミリーは親友だから、隠し事はしても嘘は付きたくなかった。だから素直にそうだと答えた。エミリーはその答えに満足した様子で頷くと、私に口止め料を要求してきたんだ。
「じゃあ、トワ?わたしのブラスターも強化して下さいな。あ、あと最近二丁拳銃の練習をしていますの。あなた、支給されたブラスターを使ってないですよね?そちらも同じように強化してわたしに下さいな」
「エミリー、強盗?」
「それをいうなら強欲か強要……って強欲でも強盗でも強要でもありませんわ!」
念のためアイリスに確認を取ったところ、そこまでバレてるなら口止めのためにエミリーのブラスターを強化するのは仕方ないがないだろうということになった。もちろん、混合するところを見せると騒ぎが大きくなるから現物支給の形になったけど。
結局、エミリーの希望でエミリーのブラスター――と、机の中に放り込んでいた私のXthキャリバー――は藍碧のC3を宿すことになったんだ。でもそんな強化をしてどうするつもりなんだろうね、エミリー。
そして最後の変化。3日前に迎えた、私の15歳の誕生日の夜。私は、私自身も知らなかった自分の出自をお義父さんに聞かされ、アイリスからある告白を受けたんだ。
>>Towa:3 Days ago
「それは、アイリスも知ってる話?」
友人達を招いた誕生会が終わり、夜も更けた頃。私の過去にまつわる大事な話がある、とお義父さんに切り出された。
「いや、この事を知っているのは、私とお前の父だったアルフレッドだけだ」
「なら、アイリスと一緒に聞かせて欲しい」
「……それはかまわんが……理由を聞いてもいいか?」
「アイリスとはお互いに隠し事はしないと約束してる。どうせ後で話すなら、一緒に聞いてもらったほうが面倒がない」
「……実にトワらしい答えだな。いいだろう、アイリスを呼んできなさい」
お義父さんの言葉に無言で頷き、私はアイリスの部屋に向かった。私の言葉に嘘はない。ただ『大事な話』の内容次第では、私がアイリスに話すことを躊躇ってしまうかもしれない。私の躊躇でアイリスに隠し事をするのは嫌だった。なら、一緒に話しを聞いてもらった方が良い。……そう思っただけだ。
アイリスは既に寝る準備を済ませていたけど、私の様子に何も言わず同席を了承してくれた。二人で執務室へ赴き、お義父さんがいれてくれたココアを飲みながら、話を聞く。お義父さんが話してくれた内容は、私の不思議な出自にまつわる話だった。
今から15年前。新しいC3鉱脈の探索を目的に、開拓団保安部の隊長だった私のパパ、アルフレッド・エンライトを隊長とした調査隊が編成された。調査隊の目的地は居留地のある大陸の反対側、衛星軌道上から確認されたC3らしき反応があるエリアだ。
その地へ向かった調査隊は探索エリア内の荒れ果てた渓谷地帯の特に入り組んだ地形の先で朽ち果てた遺跡のようなものを発見した。半ば風化し、砂に埋もれた機械の残骸が無数に横たわる遺跡は現在よりも高度な文明の産物であるように思われたらしい。
調査隊のメンバーは遺跡の最奥に長き時を経て未だ稼働状態にある区画を発見する。何かの生物が収容されていた可能性のある、密閉された囲い状の構造物。破損したいくつもの冷凍睡眠ポッドと思わしき装置。それらのほとんどは朽ち果て機能を停止していたが、その中の一つだけがかろうじて機能を維持していた。ポッド――というより水槽の様な構造体の中に氷付けの状態で眠っていたのは、生後間もない女の子だった。
赤子を保護し、遺跡の外へと向かう調査隊のメンバーの前に機械のような姿の獣が立ち塞がった。ポッドを解放するために試行錯誤したことで、獣が収容されていた封鎖施設が開放されてしまったのだ。
冷たい殺意と共に襲いかかる獣に調査隊はブラスターで応戦するが効果は無く、一人、また一人とその鋭い爪の餌食となって行く。やがて戦闘の影響で遺跡は崩落、その混乱に紛れて生き延びたのは、重傷を負ったアルフレッド……パパと赤子だけだった。
瀕死の状態で居留地へ帰投したパパは事の次第を団長に報告したが、団長は保護した赤子の将来を思い表向きには事実と異なる内容を公表した。調査隊は崩落事故によって壊滅。赤子はアルフレッドと調査隊のメンバーであった女性との間に産まれた娘である、と。
「その赤子が、私?」
「……そうだ。あまり驚かないんだな?」
なんとなく、そんな予感はあった。パパと私は全く似ていなかったし、遺伝の影響が強く影響するシンガー能力的にもパパと私の血縁関係は疑わしかったから。なにせ、パパのシンガー能力は最低レベルだったのに対して私は物心つく前からAランクの調律が出来ていたからね。
遺跡の中から発見されたというのはさすがに予想外だったけど、遺跡の正体を推測したことで納得できた事もある。
「むしろ諸々納得した。それで、私の正体は異星人?」
「いや、健康チェックを兼ねてかなり精密な検査を行っているが、トワは普通に私達と同じ人間だ」
「ちょっとがっかり」
「……いや、そこは安心しなさいよ?というか私が安心したよ……」
何故かアイリスがぐったりした様子で突っ込みを入れてきた。解せない。
「妹の正体はエイリアン。そっち方が物語的に盛り上がる」
「いや、物語じゃなくて現実の話だからね?あ、でも……」
アイリスが眉をひそめ、何事か考え込む。たぶん、私が納得した事実にアイリスも思い当たったのだろう。
「そういえば、私の名前。パパが付けたの?」
「ああ、そうだ」
「名前の由来を知りたい」
出自が不明なら、せめてパパの想いを知っておきたい。普段お義父さんはあまり昔のことを話してくれないから、このタイミングで聞くしかないと思ったんだ。
「アルフレッドに聞いた話では、お前を連れて遺跡から脱出する際に声が聞こえたと」
「声?どんな?」
「崩落の最中だったので良く聞き取れなかったそうだが、エトワとか、アトワとかそういう言葉に聞こえたそうだ」
「……それで、トワ?」
「そう聞いている。アルフレッドはそれがお前の本来の名前なのだと思ったと言っていた」
「……わかった」
パパは「本当の私」を尊重してくれた、という事なんだろうか。ふと、割とぶっきらぼうで口数は少なかったけど、いつも大きな手でやさしく頭をなでてくれたパパの事を思い出した。あの人なら、自分の想いよりも本当の私を尊重してくれそうな気がして、すっと腑に落ちた。……名前の由来は解けない謎になったけど。
「そうだ、トワ。お前に渡しておきたいものがある」
お義父さんはそう言うと親指ほどの大きさのクリスタルがぶら下がったペンダントを差し出した。一見するとそのクリスタルはC3のようだけど、調律によって与えられる単色のそれとは異なり、揺らめく色と色が重なり合う、儚くも美しい……虹色の光がそれには宿っていた。
「きれい……」
「アルフレッドがおまえが眠っていたポッドの中で見つけたものだ。トワが小さな手で握りしめていた、と言っていた。トワが成人したら渡してくれと託されていたのだ」
「パパが?」
そう呟きながら水晶を手に取ると、その表面が優しく揺らめくように輝き出した。まるでパパの温もりが今もそこに宿っているかのように。パパはもういないけど、ここにはパパがいる。そんな気がした。
「本当に綺麗だね……。まるでトワの瞳みたい」
「ああ、私もそう思っていた。きっとこれはトワの出自に繋がるものなのだろう」
クリスタルの事も気になるけど、私にはもう一つ気になった事があった。
「ところで、さっきの話。機械のような獣って」
「ああ、おそらく3ヶ月前にお前達が倒した鋼の獣と同種、もしかしたら同一の個体かもしれんな」
「お義父さん。あれ見て思い当たる節があった?」
「ああ。映像は残っていなかったが、報告にあったものと特徴が酷似していたからな」
「ちょっと待って、その話って15年間の事だよね?なんで今頃になって……」
アイリスの言葉ももっともだ。そこは私も不思議に思っていた。
「あれが同一個体だったと仮定しての推測だが、遺跡のあった場所はこの大陸の反対側に近い。そこから各地をさまよい歩いてここまでたどり着くのに、15年の時間が掛かったと考えるのが妥当だろう。地形の厳しさを考慮すれば、そうした年月が必要だったとしても不思議ではない」
「まぁ、あんなのが複数うろついてると思うよりは、15年掛けて来たと考えたいけど。……でも、楽観視はできないかな」
「鋼の獣は遺跡に囚われていた。ということは」
「ということは?」
「鋼の獣は私のお姉ちゃんかもしれない」
「どうしてそうなるの!?アレを姉呼びするぐらいなら、私をお姉ちゃんって呼んでよ!」
冗談はさておき、同じ遺跡に眠っていたということは、私と何か関係がある可能性は否定できない。そして鋼の獣の正体を調べることが、私の望みを叶える手段になるかもしれない。私はそう考えたけど……それはすなわち、アイリスやお義父さんと別れ、CM41F3Cを独り出て行くということと同義だった。
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