表示設定
表示設定
目次 目次




#3

ー/ー



>>Towa

 見ているだけで吐き気を催すようなソレ。アイリスが鋼の獣(メタルビースト)と呼んだソレは、悪意や憎しみではなく、冷徹で無機質で……純粋な殺意だけをこちらに向けているように感じた。四つ脚獣達が喰われずにただ殺されていた理由は、ソレの殺意が理由だったんだ……。
 いや、そんな事を考えている場合じゃない。ソレを倒す方法。この場を生き延びる方法を考えないと。私は「帰らないといけない」んだ。こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。そして、何よりもアイリスを死なせるわけにはいかないんだ。
 身構えたまま動かない鋼の獣(メタルビースト)を注視しながら、無言になったアイリスと2人、私達も攻撃に参加出来る位置へと移動する。

「もう、何なのよぉぉ!!!」

 鋼の獣(メタルビースト)との睨み合いに耐えられなくなったヘルミナがアサルトを乱射し、それにつられてジョッシュが、少し遅れてアイリスも攻撃に加わる。私もブラスターを構えたけど、先ほどの状況を考えるとここで撃ってもダメージを与えられると思えない。なので、今は狙いだけを付けてエネルギーを温存することにした。
 パパの形見を両手で構え、敵の動きを目で追う。左右に小刻みに跳躍しながら距離を詰める鋼の獣(メタルビースト)にヘルミナがばらまく弾幕の何発かは確かに命中している。それなのに、やはり碧の弾は着弾の寸前にエネルギーが消散しているように見えた。ジョッシュやアイリスが放つ朱色のエネルギー弾はかき消されずに着弾しているようだけど、こちらも有効打にはなっていないようだ。

「嫌、いや、イヤァァァ!」

 ダメだ、あんなに大声を上げて無茶苦茶な撃ち方をしたら……!パニックに陥りフルオートで弾をばらまき続けるヘルミナに鋼の獣(メタルビースト)が迫る。ヘルミナの手は震え、銃口からは碧のエネルギー弾が奔流のような勢いで流れ出ているけど……そのエネルギー弾を意にも介さず、迫る獣は一瞬の隙も見せない。あいつ、ヘルミナの攻撃が効かない事を学習してる!?
 そして碧の奔流が途絶え、ヘルミナの視線が引き金を引き絞ったままの指先に向いた瞬間、一瞬の静寂の後に鈍い切断音が洞窟に響いた。

「へっ……」

 振り下ろされた鋼の獣(メタルビースト)の爪は、エネルギーの尽きたアサルトをまるで小枝か何かのようにあっさりと両断した。呆然としたまま、銃身を支えていたヘルミナの左腕もろとも。

 愛銃と片手を一度に失い、ショックのあまり声も無くへたり込んだヘルミナに鋼の獣(メタルビースト)はそのまま襲いかかり、追撃を加えようとする。すんでのところでジョッシュとアイリスが銃撃を加え追撃を阻止した。二人の猛攻に再び距離を取る鋼の獣(メタルビースト)

 この状況で私ができることは……攻撃じゃない。自慢じゃ無いが私の銃の腕は上手いとはいえないから。なら、出来ることはこれだ。ジャケットのポケットからメディキットを取り出し、ヘルミナの元へ走る。

 ヘルミナに駆け寄った私は、アイリス達が鋼の獣(メタルビースト)を牽制してくれている間にメディキットで応急処置を試みる。
 倒れた際に頭を打ったのか、ヘルミナは意識を失っている。頭部の負傷は軽微。他の負傷箇所は……切断された腕部だけのようだけど、出血が酷い。このままだと失血死してしまう。メディキットではこんな大けがの治療はできないけど、止血や簡易的な傷口の保護なら出来る。何もしないよりはマシだ。

「トワ、止血だけしたら、ヘルミナを外に!」
「……今終わった」

 アイリスに返事をし、ぐったりとしたヘルミナの体を動かそうとしたけど重さはともかく、自分と同じぐらいの体格の人間を運ぶのは思ったより難しかった。

「オレが代わる。トワはアイリスの援護を」

 弾切れになったらしいジョッシュにヘルミナを任せ、私もアイリスを援護するためにブラスターを撃つ。予想通り私のラピッドでは命中しても効果はなく、鋼の獣(メタルビースト)もそれを学習したのか足止めにすらならないようだ。パパのブラスター、軍用モデルだと聞いてたのにな。
 でも、これが効かないってことはアレが居留地へ入ったら、保安部の人達でも倒せないって事だ。でも、アイリスが放つ朱色のエネルギー弾はかなりの確立で命中し、多少とは言えダメージを与えていた。
 さすがアイリス。普段から頼りになる私の親友、そして姉はこんな危機的な状況でももちろん頼りになる。そんな彼女を死なせるわけにはいかない。だから私は一計を案じた。

「アイリス、予備カートリッジをあいつに投げる」
「……それを撃って、出口にダッシュ?」
「うん」

 私の言葉にすぐに意図を理解してくれる。以心伝心っていいよね。大好きだよ、アイリス。

 ジョッシュ達が洞窟の外にたどり着いたことを確認した私は、ポケットから予備カートリッジを取りだし、タイミングを伺う。アイリスの射撃に鋼の獣(メタルビースト)が再び距離を取った。

 ――今だ!

 私が放ったカートリッジが放物線を描いて飛び、鋼の獣(メタルビースト)の鼻先に達した瞬間。アイリスは無造作にカートリッジを撃ち、着弾を見届けずに出口に向かって駆け出した。
 ……少しだけ出遅れた私の腕を掴んで。

 私達の背後で破壊されたカートリッジに充填されていた光子(フォトン)エネルギーが一気に解放される。炸裂した光が恒星の光のように燃え上がり、瞬時に世界を白く染め、次いで爆発的な光が暴風のように吹き荒れる。そして放出されたフォトンの光圧は私達を洞窟の外へと弾き飛ばした――。


「アイリス、痛い。これ、後で痣だらけになるやつ」
「まあ、痣で済むなら万々歳じゃない?下手したら四つ脚みたいにバラバラになってたところだし」

 光圧で吹き飛ばされて、色々なところをぶつけたけど……とりあえず私もアイリスも無事に洞窟の外へ脱出できた。手近な岩に腰掛けて互いの状態を確認する。擦り傷や打ち身はあるけど、メディキットで処置する必要があるような傷はない。2人とも行動には問題は無さそうだ。
 洞窟の方は入り口の少し先で崩落しているようだけど、あれで鋼の獣(メタルビースト)は……倒せてないだろうな、たぶん。そう思いながらも私は念のためアイリスに確認してみる。

「倒せたと思う?」
「ブラスター用のフォトンエネルギーって、C3で増幅する前提のものだからね。それを素のまま解放してるし、多少離れていたとはいえ私達が五体満足なんだから、直撃してもそう大きなダメージは受けてないんじゃないかな」

 手際よくブラスターのカートリッジを交換しながらアイリスが答えた内容は、概ね私の予想と同じだった。取りあえずの時間稼ぎ。その場しのぎの、仕切り直し。
 さて、この後はどうしようか。打てる手はそう多く無いけど。

「大丈夫か、2人とも!」

 次の手を考えていると、ジョッシュがバギーを運転して洞窟まで戻ってきた。後部座席に寝かされたヘルミナは、まだ意識が戻っていないようだ。

「とりあえず2人とも無事だけど、たぶんアレは倒せてない。体勢は立て直せたけど、あまり時間はないと思う」

 アイリスが簡潔に状況を説明する。

「なら、とりあえず一度居留地へ戻って……」
「そうだね。ヘルミナの事もあるし、ジョッシュはこのまま戻って本部に報告してくれる?」
「ちょっと待て、アイリス!お前はどうするんだ?」
「誰かが居留地に知らせる必要があるし、同じように誰かがここに残ってアレを倒せたかどうか確認する必要があるでしょ?もし倒せてなかった場合は野放しにはできないから、最低でも足止めはする必要があるだろうし」
「ならオレが残って……」
「あなたは弾切れ、私とトワはまだ戦える。それにあなたが守らないと誰がヘルミナを守るの?」
「……だが」

 なおも言いつのるジョッシュ。頭ではそれが最善だと理解しつつも、女の子二人を残して行くのは気が引けるんだろうね。まぁ、男の子だし、危険な現場に美少女2人を残して逃げ帰るのはプライドが傷つくんだろう。ちなみにその2人の美少女とはもちろんアイリスと私だ。
 よし、ここは私も説得に参加しよう。

「大丈夫、アイリスは私が見守る」
「いや、見守るだけじゃなくてトワもちゃんと戦ってね?」

 ジョッシュを説得するつもりで口にした言葉は、私の想いとは少し違う感じで言葉になった。そして結果としてアイリスに呆れられた。いつものことだけど、腑に落ちない。どうして私の口は、思った通りのことを言葉に出来ないんだろう。

「ともかく、折角稼いだ時間が無駄になる。早く行って」
「……無理はするなよ。ヘルミナを医療部に預けたら応援を連れてすぐに戻る」
「わかってるよ。私、こんなところで死ぬつもりはないからね」

 アイリスはそう言ってジョッシュにさっさと行けと合図する。私もまねをして合図をしたら、ジョッシュに嫌そうな顔をされた。解せない。
 それはともかくとして、私もまだ死ねない。「帰らないといけない」から。どこへ帰るのか、自分にもわからないけれど。離れて行くバギーに手を振りながら、そんな事を考えた。


>>Iris

 ジョッシュとヘルミナを見送った私達は、再び岩場に腰掛けて作戦会議を行うことにした。まぁ、こういうときは基本的に私が提案してトワは賛同するパターンが多いんだけど。でも、今回は私にも良い考えは無い。

「さて、と……まだ動きは無いみたいだから、対策を考えよっか」
「そもそもアレ、何?」
鋼の獣(メタルビースト)……としか呼びようがないよね。生き物じゃないし、ギルドのライブラリで見た機族(マシナリィ)とも違うみたいだし。それに、あの揺らぎも理解不能だし」
「ブラスターの弾、かき消してた」
「碧は無効だけど朱はダメージ通ってたよね。そこが唯一の救いかな?限界までチャージした一撃なら、もしかしたら……」

 ――倒せるかもしれない。でも、倒せないかもしれない。私は最後まで考えを口にすることが出来なかった。必殺を期した一撃が相手を倒せなかった場合、抗う手段を失った私達を待つのは敗北、死だ。不確実な戦いにトワを巻き込むべきではなかった。その場の勢いで一緒に戦ってとは言ったけど……やはりジョッシュと共にトワを行かせるべきだった。

「大丈夫。私達なら倒せる」

 トワはそう言うが、瞳の色は仄暗く鈍い金色だ。この色は……ああこれ、本気で不安に思ってるけどやせ我慢してる状態だね。

「うん、トワが言うとおり、大丈夫。お姉ちゃんに万事任せなさい」

 トワを抱きしめ、微笑みながらそう呟く。大丈夫。私の感情は瞳に出ない。不安も恐怖もちゃんと隠せている。貴重な時間だけど、トワを落ち着かせるためなら、いくらでも時間なんて使ってやる。……もしかしたら、これが最後になるかもしれないから。

「……揺らぎの対策、思いついた」
「うん」

 抱きしめられたままのトワが唐突に切り出した。私も普通にそれに答える。わざわざ瞳を見て確認しなくても、もうトワが落ち着きを取り戻している事はわかったから。

 崩れた洞窟の奥から物音が聞こえてくる。岩の隙間から鈍い轟音が響き、重々しい地響きが足元に伝わってくる。何かが……いや、アレが必死にもがいているのだろう。もうあまり時間は無い。

「あれがフィールドなら、力押しは無謀。一点突破の方が、チャンスがある。はず」
「フルチャージショットでも無理そう?」
「ダメージは通ると思う。でも」
「確実じゃない」
「うん。だから、収束させて、一点を撃ち抜く」

 ブラスターの中でもエネルギーを収束させる精密射撃型はスナイプと呼ばれ、蒼のC3を必要とする。私のブラスターは朱のチャージだしトワのものは碧のラピッド。どちらもスナイプではない。手元に蒼のC3があれば急いで交換する事ができるかもしれないけど、そもそも予備のC3なんて持ち合わせがない。理屈はともかくとして、普通に考えれば手詰まりだ。

「スナイプなら大丈夫?」
「……確実じゃない。だから、今あるC3に蒼を混ぜ合わせ(ブレンドす)る」

 トワが言っている事は、三重の意味であり得ない事だ。
 まず、調律済みのC3は色を後から変える事はできない。
 次に、仮に変えられたとしても、自分の持つ属性以外の色を与えることはできない。
 そして最後に……他の色を与えられる事が可能だとしても、混ぜ合わせ(ブレンドす)ることはできない。

 なので、常識的に考えればトワの言葉は正気を疑うようなものではあるが……私は特に驚かない。

「どっちのブラスターを混ぜ合わせ(ブレンドす)る?」
「両方」
「トワは私を見守るんじゃなかったっけ?」
「一緒に戦いながら、見守る」
「そんなに器用だっけ?」
「器用だよ、ものすごく。再調律(リチューン)できるぐらいに」

 自信に満ちたトワの答えに、私は自然と微笑みがこぼれた。
 トワには秘密の力がある。私と、故人であるトワの父……アルフレッドおじさん以外は知らない力が。

再調律(リチューン)
 そして
混合(ブレンド)

 ギルドの常識では不可能とされている、そのあり得ない2つの調律を行う力が、トワにはある。
 もちろんこれは器用とかそういうレベルの話ではない。少なくともこの開拓団に所属しているBランク以下のシンガーでそんな能力を持つ人はいない。Aランク以上のシンガーが持つ特殊能力である可能性も考えたけど、ギルドの資料にすらそんな能力についての記述は無かった。
 なので、その2つがトワ固有のものなのか、それともAランク以上の限られたシンガーがもつ力なのか、詳細は全くわからない。でもはっきりしている事実が一つある。トワが、その能力を確かに使えるということだ。

 私はブラスターをトワにそっと手渡した。いつものように顔には出ない微笑みを私に向けたトワは、大きく息を吸い込み柔らかな声で短い歌を口ずさみ始める。その旋律はどこか懐かしく、それでいて心の奥底に響く不思議な力を帯びていた。
 私自身もシンガーだけど、私にはこの歌を歌うことはできない。そう思えるほど、力のある歌だった。


 ――瞬間、周囲の空間が淡い蒼の光に包まれ、空気が一瞬で澄み渡ったような感覚が広がる。同時にトワの手の中で私のブラスターが、朱に燃え上がるかのように輝きを増していく。
 まるで二つの色が互いに呼応するかのように、蒼と朱の光が揺れ、踊るように混じり合ってゆく。やがてその二つの光はゆっくりと溶け合い、深い紅紫の輝きへと変わる。光は、まるで息をするように鼓動しながらブラスターの中へと収束し、武器全体に新たな力が宿っていくのが感じられた。

 トワは満足そうに頷くと、今度は自分のブラスターを手に取り、再びその唇から旋律を紡ぎ出す。

 その声は先ほどと同じ調子でありながら、少し異なる響きを持っていた。彼女の歌声に呼応するかのように空間は再び蒼に染まり、そこに碧の輝きが重なっていく。光は静かに、しかし確実にブラスターへと流れ込み、蒼と碧が混じり合いながら深く澄んだ藍碧の輝きが生まれた。それはまるで海の深淵から引き上げられた宝石のように、神秘的で美しい輝きだ。
 次の瞬間、トワのブラスターもまた新たな生命を得たように光を放つ。私たちは互いに微笑み合い、強敵に立ち向かう準備が整ったことを無言で確認した。

再調律(リチューン)によって私のブラスターは朱と蒼、すなわち高威力収束射撃の力を。トワのブラスターは碧と蒼、すなわち収束速射の力を得た。
 この力があれば。
 トワの託してくれた力があれば鋼の獣(メタルビースト)だって倒せる。どこか誇らしげなトワの表情が、私の心を奮い立たせてくれた。


「アイリス、大事な話がある」
「なに?調律の疲れがでちゃった?少し休む?」
「違う。C3の限界を超えた調律(チューン)をした。たぶん一射でC3が砕けると思う。よろしくお願いします」
「それはまた、唐突で大事なお話だね……。でもわかったよ、よろしくお願いされた」
「……私が先制して足止めする。あとはアイリス」
「任された。ワンショットキルで終わらせるよ」

 準備は整った。さぁ、戦いの時間だ。ブラスターに新しく付与された蒼の力のように、私の心は不思議と静かで穏やかに澄みきっていた。私は深呼吸を一つして、隣に立つトワの方を見る。
 彼女は朱色を宿した瞳で前を見据え、その小さな手に力を込めている。いつもはマイペースであまりやる気をみせないトワだが、時に私よりもずっと勇敢で、まっすぐに困難に向かっていく。時に危なっかしくて、でも時には頼りになる。いつまでも隣にいたい。そして守ってあげたい、大切な妹。

 ――こんなところで失うわけにはいかない。どんな困難も、あの凶暴な獣の爪ですらも。決して私たちの絆を裂くことはできない。

 だから。例え血は繋がっていなくても。私達「姉妹」の力を、あの獣に見せつけてやろう。


 激しい金属音が響き、鋼の爪が岩を割り裂く。粉砕された破片が舞い上がり、崩れた石の中からヤツの姿が浮かび上がった。砂埃で汚れてはいるものの、その体には目立った傷も無く、残念ながら思っていた以上にダメージは軽微だったようだ。

「アイリス」
「チャージに10秒だけ頂戴。その後なら、いつでもいいよ!」

 ブラスターのトリガーに力を込めると、紅紫の光が銃身に収束してゆく。それを合図に、私の前に陣取ったトワのブラスターが藍碧の光を立て続けに撃ち出してゆく!
 まるで針のように細い光弾が撃ち出される速度は、先ほどヘルミナが自慢していたアサルトのそれを軽く凌駕していた。もし彼女(ヘルミナ)がこれを見ていたら、なんと言うだろう。戦闘中だというのに、ふとそんなことを思った。

 トワの射撃の腕前は可も無く不可も無くというレベルで、本来であれば機敏な鋼の獣(メタルビースト)の動きに対応する事はできない。だけど、あれだけの連射速度だ。銃口を相手に向けるように振り回せばそれなりの確率で命中する。そしてトワが推測したように、収束された藍碧の針は「揺らぎ」を貫通し、鋼の(メタルビースト)に確実にダメージを与えている。
 トワの狙いは鋼の(メタルビースト)の足。有効打を重ねれば、いくらタフなヤツでも、足が止ま……った!

[MAXIMUMCHARGE]

 タイミング良く、愛銃Xthキャリバーの合成音声がチャージ完了を告げた。子供っぽい演出だけど、私はこの音声が好きだ。心を奮い立たせてくれるから。トワがくれた一度きりのチャンス、絶対に外さない!

「いっけぇぇぇ!」

 私の叫びに反応し、ヤツがこちらに視線を向け無言の咆哮を放つかのように顎門を開く。
 だが私が放った紅紫に収束された一条のエネルギー弾……いや、フルチャージ弾とは思えない程小さく収束された、エネルギーレイとでも呼ぶべきその一撃は……狙い過たず鋼の獣(メタルビースト)の頭部から後方までを一直線に貫き、そして背後の岩山に深い穴を穿った。

 頭部と胴体の中心を撃ち抜かれた鋼の(メタルビースト)は飛びかかろうとした姿勢のまましばらく立ち尽くしていたが、やがてゆっくりと横倒しに崩れ落ちた。


「「シャン……」」

 それを見届けたかのようなタイミングで、私とトワのブラスターに内蔵されたC3が涼やかな音を響かせて砕け散った。まるで力の限界を超え、主を守るという重責を全うしたことを誇るような。私達の勝利を祝うような……そんな音だった。

「……ふぅ」
「アイリス、有言実行。すごい」
「言ったからには、ね。外してたらシャレにならないし」
「一撃必殺はロマン」
「それにしてもなんなのよ、あの威力……。鋼の(メタルビースト)どころか後ろの岩山もぶち抜いてない?」
「本気出したC3はすごい」
「すごいのはC3じゃなくてトワでしょ……」
「ところで今思い出した。お昼食べてなかった。お姉ちゃん、お腹すいた」
「ジョッシュが帰ってくるまではお預けだね。っていうか、こんな時だけ姉呼びするの?」
「不意打ち成功」

 微笑み、お互いが無事であることを再確認する軽いじゃれ合い。お腹すいてるのは事実っぽいので、取りあえずトワにはジャケットに入れてあったキャンディを与えておく。

「お姉ちゃんがいれば大丈夫って言ったでしょ?」
「信じてた。アイリスはいつも約束守ってくれる」
「今度はお姉ちゃんって呼んでくれないの?」
「くせになったらいけない」
「ええぇ……」

 戦いの後の高揚感に包まれた私達は、傾き掛けた陽を二人で見つめながらくだらないことを話し、迎えが来るのを待った。




スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む #4


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



>>Towa
 見ているだけで吐き気を催すようなソレ。アイリスが|鋼の獣《メタルビースト》と呼んだソレは、悪意や憎しみではなく、冷徹で無機質で……純粋な殺意だけをこちらに向けているように感じた。四つ脚獣達が喰われずにただ殺されていた理由は、ソレの殺意が理由だったんだ……。
 いや、そんな事を考えている場合じゃない。ソレを倒す方法。この場を生き延びる方法を考えないと。私は「帰らないといけない」んだ。こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。そして、何よりもアイリスを死なせるわけにはいかないんだ。
 身構えたまま動かない|鋼の獣《メタルビースト》を注視しながら、無言になったアイリスと2人、私達も攻撃に参加出来る位置へと移動する。
「もう、何なのよぉぉ!!!」
 |鋼の獣《メタルビースト》との睨み合いに耐えられなくなったヘルミナがアサルトを乱射し、それにつられてジョッシュが、少し遅れてアイリスも攻撃に加わる。私もブラスターを構えたけど、先ほどの状況を考えるとここで撃ってもダメージを与えられると思えない。なので、今は狙いだけを付けてエネルギーを温存することにした。
 パパの形見を両手で構え、敵の動きを目で追う。左右に小刻みに跳躍しながら距離を詰める|鋼の獣《メタルビースト》にヘルミナがばらまく弾幕の何発かは確かに命中している。それなのに、やはり碧の弾は着弾の寸前にエネルギーが消散しているように見えた。ジョッシュやアイリスが放つ朱色のエネルギー弾はかき消されずに着弾しているようだけど、こちらも有効打にはなっていないようだ。
「嫌、いや、イヤァァァ!」
 ダメだ、あんなに大声を上げて無茶苦茶な撃ち方をしたら……!パニックに陥りフルオートで弾をばらまき続けるヘルミナに|鋼の獣《メタルビースト》が迫る。ヘルミナの手は震え、銃口からは碧のエネルギー弾が奔流のような勢いで流れ出ているけど……そのエネルギー弾を意にも介さず、迫る獣は一瞬の隙も見せない。あいつ、ヘルミナの攻撃が効かない事を学習してる!?
 そして碧の奔流が途絶え、ヘルミナの視線が引き金を引き絞ったままの指先に向いた瞬間、一瞬の静寂の後に鈍い切断音が洞窟に響いた。
「へっ……」
 振り下ろされた|鋼の獣《メタルビースト》の爪は、エネルギーの尽きたアサルトをまるで小枝か何かのようにあっさりと両断した。呆然としたまま、銃身を支えていたヘルミナの左腕もろとも。
 愛銃と片手を一度に失い、ショックのあまり声も無くへたり込んだヘルミナに|鋼の獣《メタルビースト》はそのまま襲いかかり、追撃を加えようとする。すんでのところでジョッシュとアイリスが銃撃を加え追撃を阻止した。二人の猛攻に再び距離を取る|鋼の獣《メタルビースト》。
 この状況で私ができることは……攻撃じゃない。自慢じゃ無いが私の銃の腕は上手いとはいえないから。なら、出来ることはこれだ。ジャケットのポケットからメディキットを取り出し、ヘルミナの元へ走る。
 ヘルミナに駆け寄った私は、アイリス達が|鋼の獣《メタルビースト》を牽制してくれている間にメディキットで応急処置を試みる。
 倒れた際に頭を打ったのか、ヘルミナは意識を失っている。頭部の負傷は軽微。他の負傷箇所は……切断された腕部だけのようだけど、出血が酷い。このままだと失血死してしまう。メディキットではこんな大けがの治療はできないけど、止血や簡易的な傷口の保護なら出来る。何もしないよりはマシだ。
「トワ、止血だけしたら、ヘルミナを外に!」
「……今終わった」
 アイリスに返事をし、ぐったりとしたヘルミナの体を動かそうとしたけど重さはともかく、自分と同じぐらいの体格の人間を運ぶのは思ったより難しかった。
「オレが代わる。トワはアイリスの援護を」
 弾切れになったらしいジョッシュにヘルミナを任せ、私もアイリスを援護するためにブラスターを撃つ。予想通り私のラピッドでは命中しても効果はなく、|鋼の獣《メタルビースト》もそれを学習したのか足止めにすらならないようだ。パパのブラスター、軍用モデルだと聞いてたのにな。
 でも、これが効かないってことはアレが居留地へ入ったら、保安部の人達でも倒せないって事だ。でも、アイリスが放つ朱色のエネルギー弾はかなりの確立で命中し、多少とは言えダメージを与えていた。
 さすがアイリス。普段から頼りになる私の親友、そして姉はこんな危機的な状況でももちろん頼りになる。そんな彼女を死なせるわけにはいかない。だから私は一計を案じた。
「アイリス、予備カートリッジをあいつに投げる」
「……それを撃って、出口にダッシュ?」
「うん」
 私の言葉にすぐに意図を理解してくれる。以心伝心っていいよね。大好きだよ、アイリス。
 ジョッシュ達が洞窟の外にたどり着いたことを確認した私は、ポケットから予備カートリッジを取りだし、タイミングを伺う。アイリスの射撃に|鋼の獣《メタルビースト》が再び距離を取った。
 ――今だ!
 私が放ったカートリッジが放物線を描いて飛び、|鋼の獣《メタルビースト》の鼻先に達した瞬間。アイリスは無造作にカートリッジを撃ち、着弾を見届けずに出口に向かって駆け出した。
 ……少しだけ出遅れた私の腕を掴んで。
 私達の背後で破壊されたカートリッジに充填されていた|光子《フォトン》エネルギーが一気に解放される。炸裂した光が恒星の光のように燃え上がり、瞬時に世界を白く染め、次いで爆発的な光が暴風のように吹き荒れる。そして放出されたフォトンの光圧は私達を洞窟の外へと弾き飛ばした――。
「アイリス、痛い。これ、後で痣だらけになるやつ」
「まあ、痣で済むなら万々歳じゃない?下手したら四つ脚みたいにバラバラになってたところだし」
 光圧で吹き飛ばされて、色々なところをぶつけたけど……とりあえず私もアイリスも無事に洞窟の外へ脱出できた。手近な岩に腰掛けて互いの状態を確認する。擦り傷や打ち身はあるけど、メディキットで処置する必要があるような傷はない。2人とも行動には問題は無さそうだ。
 洞窟の方は入り口の少し先で崩落しているようだけど、あれで|鋼の獣《メタルビースト》は……倒せてないだろうな、たぶん。そう思いながらも私は念のためアイリスに確認してみる。
「倒せたと思う?」
「ブラスター用のフォトンエネルギーって、C3で増幅する前提のものだからね。それを素のまま解放してるし、多少離れていたとはいえ私達が五体満足なんだから、直撃してもそう大きなダメージは受けてないんじゃないかな」
 手際よくブラスターのカートリッジを交換しながらアイリスが答えた内容は、概ね私の予想と同じだった。取りあえずの時間稼ぎ。その場しのぎの、仕切り直し。
 さて、この後はどうしようか。打てる手はそう多く無いけど。
「大丈夫か、2人とも!」
 次の手を考えていると、ジョッシュがバギーを運転して洞窟まで戻ってきた。後部座席に寝かされたヘルミナは、まだ意識が戻っていないようだ。
「とりあえず2人とも無事だけど、たぶんアレは倒せてない。体勢は立て直せたけど、あまり時間はないと思う」
 アイリスが簡潔に状況を説明する。
「なら、とりあえず一度居留地へ戻って……」
「そうだね。ヘルミナの事もあるし、ジョッシュはこのまま戻って本部に報告してくれる?」
「ちょっと待て、アイリス!お前はどうするんだ?」
「誰かが居留地に知らせる必要があるし、同じように誰かがここに残ってアレを倒せたかどうか確認する必要があるでしょ?もし倒せてなかった場合は野放しにはできないから、最低でも足止めはする必要があるだろうし」
「ならオレが残って……」
「あなたは弾切れ、私とトワはまだ戦える。それにあなたが守らないと誰がヘルミナを守るの?」
「……だが」
 なおも言いつのるジョッシュ。頭ではそれが最善だと理解しつつも、女の子二人を残して行くのは気が引けるんだろうね。まぁ、男の子だし、危険な現場に美少女2人を残して逃げ帰るのはプライドが傷つくんだろう。ちなみにその2人の美少女とはもちろんアイリスと私だ。
 よし、ここは私も説得に参加しよう。
「大丈夫、アイリスは私が見守る」
「いや、見守るだけじゃなくてトワもちゃんと戦ってね?」
 ジョッシュを説得するつもりで口にした言葉は、私の想いとは少し違う感じで言葉になった。そして結果としてアイリスに呆れられた。いつものことだけど、腑に落ちない。どうして私の口は、思った通りのことを言葉に出来ないんだろう。
「ともかく、折角稼いだ時間が無駄になる。早く行って」
「……無理はするなよ。ヘルミナを医療部に預けたら応援を連れてすぐに戻る」
「わかってるよ。私、こんなところで死ぬつもりはないからね」
 アイリスはそう言ってジョッシュにさっさと行けと合図する。私もまねをして合図をしたら、ジョッシュに嫌そうな顔をされた。解せない。
 それはともかくとして、私もまだ死ねない。「帰らないといけない」から。どこへ帰るのか、自分にもわからないけれど。離れて行くバギーに手を振りながら、そんな事を考えた。
>>Iris
 ジョッシュとヘルミナを見送った私達は、再び岩場に腰掛けて作戦会議を行うことにした。まぁ、こういうときは基本的に私が提案してトワは賛同するパターンが多いんだけど。でも、今回は私にも良い考えは無い。
「さて、と……まだ動きは無いみたいだから、対策を考えよっか」
「そもそもアレ、何?」
「|鋼の獣《メタルビースト》……としか呼びようがないよね。生き物じゃないし、ギルドのライブラリで見た|機族《マシナリィ》とも違うみたいだし。それに、あの揺らぎも理解不能だし」
「ブラスターの弾、かき消してた」
「碧は無効だけど朱はダメージ通ってたよね。そこが唯一の救いかな?限界までチャージした一撃なら、もしかしたら……」
 ――倒せるかもしれない。でも、倒せないかもしれない。私は最後まで考えを口にすることが出来なかった。必殺を期した一撃が相手を倒せなかった場合、抗う手段を失った私達を待つのは敗北、死だ。不確実な戦いにトワを巻き込むべきではなかった。その場の勢いで一緒に戦ってとは言ったけど……やはりジョッシュと共にトワを行かせるべきだった。
「大丈夫。私達なら倒せる」
 トワはそう言うが、瞳の色は仄暗く鈍い金色だ。この色は……ああこれ、本気で不安に思ってるけどやせ我慢してる状態だね。
「うん、トワが言うとおり、大丈夫。お姉ちゃんに万事任せなさい」
 トワを抱きしめ、微笑みながらそう呟く。大丈夫。私の感情は瞳に出ない。不安も恐怖もちゃんと隠せている。貴重な時間だけど、トワを落ち着かせるためなら、いくらでも時間なんて使ってやる。……もしかしたら、これが最後になるかもしれないから。
「……揺らぎの対策、思いついた」
「うん」
 抱きしめられたままのトワが唐突に切り出した。私も普通にそれに答える。わざわざ瞳を見て確認しなくても、もうトワが落ち着きを取り戻している事はわかったから。
 崩れた洞窟の奥から物音が聞こえてくる。岩の隙間から鈍い轟音が響き、重々しい地響きが足元に伝わってくる。何かが……いや、アレが必死にもがいているのだろう。もうあまり時間は無い。
「あれがフィールドなら、力押しは無謀。一点突破の方が、チャンスがある。はず」
「フルチャージショットでも無理そう?」
「ダメージは通ると思う。でも」
「確実じゃない」
「うん。だから、収束させて、一点を撃ち抜く」
 ブラスターの中でもエネルギーを収束させる精密射撃型はスナイプと呼ばれ、蒼のC3を必要とする。私のブラスターは朱のチャージだしトワのものは碧のラピッド。どちらもスナイプではない。手元に蒼のC3があれば急いで交換する事ができるかもしれないけど、そもそも予備のC3なんて持ち合わせがない。理屈はともかくとして、普通に考えれば手詰まりだ。
「スナイプなら大丈夫?」
「……確実じゃない。だから、今あるC3に蒼を|混ぜ合わせ《ブレンドす》る」
 トワが言っている事は、三重の意味であり得ない事だ。
 まず、調律済みのC3は色を後から変える事はできない。
 次に、仮に変えられたとしても、自分の持つ属性以外の色を与えることはできない。
 そして最後に……他の色を与えられる事が可能だとしても、|混ぜ合わせ《ブレンドす》ることはできない。
 なので、常識的に考えればトワの言葉は正気を疑うようなものではあるが……私は特に驚かない。
「どっちのブラスターを|混ぜ合わせ《ブレンドす》る?」
「両方」
「トワは私を見守るんじゃなかったっけ?」
「一緒に戦いながら、見守る」
「そんなに器用だっけ?」
「器用だよ、ものすごく。|再調律《リチューン》できるぐらいに」
 自信に満ちたトワの答えに、私は自然と微笑みがこぼれた。
 トワには秘密の力がある。私と、故人であるトワの父……アルフレッドおじさん以外は知らない力が。
「|再調律《リチューン》」
 そして
「|混合《ブレンド》」
 ギルドの常識では不可能とされている、そのあり得ない2つの調律を行う力が、トワにはある。
 もちろんこれは器用とかそういうレベルの話ではない。少なくともこの開拓団に所属しているBランク以下のシンガーでそんな能力を持つ人はいない。Aランク以上のシンガーが持つ特殊能力である可能性も考えたけど、ギルドの資料にすらそんな能力についての記述は無かった。
 なので、その2つがトワ固有のものなのか、それともAランク以上の限られたシンガーがもつ力なのか、詳細は全くわからない。でもはっきりしている事実が一つある。トワが、その能力を確かに使えるということだ。
 私はブラスターをトワにそっと手渡した。いつものように顔には出ない微笑みを私に向けたトワは、大きく息を吸い込み柔らかな声で短い歌を口ずさみ始める。その旋律はどこか懐かしく、それでいて心の奥底に響く不思議な力を帯びていた。
 私自身もシンガーだけど、私にはこの歌を歌うことはできない。そう思えるほど、力のある歌だった。
 ――瞬間、周囲の空間が淡い蒼の光に包まれ、空気が一瞬で澄み渡ったような感覚が広がる。同時にトワの手の中で私のブラスターが、朱に燃え上がるかのように輝きを増していく。
 まるで二つの色が互いに呼応するかのように、蒼と朱の光が揺れ、踊るように混じり合ってゆく。やがてその二つの光はゆっくりと溶け合い、深い紅紫の輝きへと変わる。光は、まるで息をするように鼓動しながらブラスターの中へと収束し、武器全体に新たな力が宿っていくのが感じられた。
 トワは満足そうに頷くと、今度は自分のブラスターを手に取り、再びその唇から旋律を紡ぎ出す。
 その声は先ほどと同じ調子でありながら、少し異なる響きを持っていた。彼女の歌声に呼応するかのように空間は再び蒼に染まり、そこに碧の輝きが重なっていく。光は静かに、しかし確実にブラスターへと流れ込み、蒼と碧が混じり合いながら深く澄んだ藍碧の輝きが生まれた。それはまるで海の深淵から引き上げられた宝石のように、神秘的で美しい輝きだ。
 次の瞬間、トワのブラスターもまた新たな生命を得たように光を放つ。私たちは互いに微笑み合い、強敵に立ち向かう準備が整ったことを無言で確認した。
|再調律《リチューン》によって私のブラスターは朱と蒼、すなわち高威力収束射撃の力を。トワのブラスターは碧と蒼、すなわち収束速射の力を得た。
 この力があれば。
 トワの託してくれた力があれば|鋼の獣《メタルビースト》だって倒せる。どこか誇らしげなトワの表情が、私の心を奮い立たせてくれた。
「アイリス、大事な話がある」
「なに?調律の疲れがでちゃった?少し休む?」
「違う。C3の限界を超えた|調律《チューン》をした。たぶん一射でC3が砕けると思う。よろしくお願いします」
「それはまた、唐突で大事なお話だね……。でもわかったよ、よろしくお願いされた」
「……私が先制して足止めする。あとはアイリス」
「任された。ワンショットキルで終わらせるよ」
 準備は整った。さぁ、戦いの時間だ。ブラスターに新しく付与された蒼の力のように、私の心は不思議と静かで穏やかに澄みきっていた。私は深呼吸を一つして、隣に立つトワの方を見る。
 彼女は朱色を宿した瞳で前を見据え、その小さな手に力を込めている。いつもはマイペースであまりやる気をみせないトワだが、時に私よりもずっと勇敢で、まっすぐに困難に向かっていく。時に危なっかしくて、でも時には頼りになる。いつまでも隣にいたい。そして守ってあげたい、大切な妹。
 ――こんなところで失うわけにはいかない。どんな困難も、あの凶暴な獣の爪ですらも。決して私たちの絆を裂くことはできない。
 だから。例え血は繋がっていなくても。私達「姉妹」の力を、あの獣に見せつけてやろう。
 激しい金属音が響き、鋼の爪が岩を割り裂く。粉砕された破片が舞い上がり、崩れた石の中からヤツの姿が浮かび上がった。砂埃で汚れてはいるものの、その体には目立った傷も無く、残念ながら思っていた以上にダメージは軽微だったようだ。
「アイリス」
「チャージに10秒だけ頂戴。その後なら、いつでもいいよ!」
 ブラスターのトリガーに力を込めると、紅紫の光が銃身に収束してゆく。それを合図に、私の前に陣取ったトワのブラスターが藍碧の光を立て続けに撃ち出してゆく!
 まるで針のように細い光弾が撃ち出される速度は、先ほどヘルミナが自慢していたアサルトのそれを軽く凌駕していた。もし|彼女《ヘルミナ》がこれを見ていたら、なんと言うだろう。戦闘中だというのに、ふとそんなことを思った。
 トワの射撃の腕前は可も無く不可も無くというレベルで、本来であれば機敏な|鋼の獣《メタルビースト》の動きに対応する事はできない。だけど、あれだけの連射速度だ。銃口を相手に向けるように振り回せばそれなりの確率で命中する。そしてトワが推測したように、収束された藍碧の針は「揺らぎ」を貫通し、鋼の獣《メタルビースト》に確実にダメージを与えている。
 トワの狙いは鋼の獣《メタルビースト》の足。有効打を重ねれば、いくらタフなヤツでも、足が止ま……った!
[MAXIMUMCHARGE]
 タイミング良く、愛銃Xthキャリバーの合成音声がチャージ完了を告げた。子供っぽい演出だけど、私はこの音声が好きだ。心を奮い立たせてくれるから。トワがくれた一度きりのチャンス、絶対に外さない!
「いっけぇぇぇ!」
 私の叫びに反応し、ヤツがこちらに視線を向け無言の咆哮を放つかのように顎門を開く。
 だが私が放った紅紫に収束された一条のエネルギー弾……いや、フルチャージ弾とは思えない程小さく収束された、エネルギーレイとでも呼ぶべきその一撃は……狙い過たず|鋼の獣《メタルビースト》の頭部から後方までを一直線に貫き、そして背後の岩山に深い穴を穿った。
 頭部と胴体の中心を撃ち抜かれた鋼の獣《メタルビースト》は飛びかかろうとした姿勢のまましばらく立ち尽くしていたが、やがてゆっくりと横倒しに崩れ落ちた。
「「シャン……」」
 それを見届けたかのようなタイミングで、私とトワのブラスターに内蔵されたC3が涼やかな音を響かせて砕け散った。まるで力の限界を超え、主を守るという重責を全うしたことを誇るような。私達の勝利を祝うような……そんな音だった。
「……ふぅ」
「アイリス、有言実行。すごい」
「言ったからには、ね。外してたらシャレにならないし」
「一撃必殺はロマン」
「それにしてもなんなのよ、あの威力……。鋼の獣《メタルビースト》どころか後ろの岩山もぶち抜いてない?」
「本気出したC3はすごい」
「すごいのはC3じゃなくてトワでしょ……」
「ところで今思い出した。お昼食べてなかった。お姉ちゃん、お腹すいた」
「ジョッシュが帰ってくるまではお預けだね。っていうか、こんな時だけ姉呼びするの?」
「不意打ち成功」
 微笑み、お互いが無事であることを再確認する軽いじゃれ合い。お腹すいてるのは事実っぽいので、取りあえずトワにはジャケットに入れてあったキャンディを与えておく。
「お姉ちゃんがいれば大丈夫って言ったでしょ?」
「信じてた。アイリスはいつも約束守ってくれる」
「今度はお姉ちゃんって呼んでくれないの?」
「くせになったらいけない」
「ええぇ……」
 戦いの後の高揚感に包まれた私達は、傾き掛けた陽を二人で見つめながらくだらないことを話し、迎えが来るのを待った。