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第30話:世界を救ったのは、ただの猫だった件。-3

ー/ー



 数日後、世界は、ゆっくりと本来の姿を取り戻し始めていた。
 枯れかけていた草木には、再び鮮やかな緑が戻り、花々は色とりどりに咲き誇る。空気の乾燥も和らぎ、心地よい風が吹き抜けていく。

 世界の魔力は、再び豊かになり、生き物たちは活力を取り戻していった。鳥たちは再び歌い、獣たちは森を駆け巡る。世界全体が、生命の喜びで満たされていた。

 王国では、賢者リリアーナの「偉業」が、大々的に称えられた。彼女は「世界を救った賢者」として、歴史にその名を刻まれることになった。彼女の功績は、吟遊詩人によって歌われ、子供たちに語り継がれるだろう。

 アリアは、リリアーナの世話を甲斐甲斐しく焼き、常にその傍らにいた。彼女は、リリアーナの行動の全てに、深遠なる意味を見出し続けていた。

「リリアーナ様は、この世界の魔力を一度解放することで、世界の再生を促されたのです!魔王の計画を逆手に取り、世界を救うとは…!何という深遠なる知恵…!賢者様の御力は、まさに無限でございます!」

 アリアは、そう言って、リリアーナに最高級の干し魚を差し出した。それは、この世界の魚の中でも、特に脂が乗り、香ばしく焼かれたものだった。

「ニャー…(美味しいニャ…)」

 リリアーナは、干し魚を幸せそうに平らげた。
 彼女にとって、世界が元に戻ったのは、ただ「日向ぼっこが気持ち良くなった」という、猫らしい理由でしかなかった。
 美味しいお魚が食べられること。それが、彼女にとっての最高の報酬だった。

 魔王シエルは、魔力を失い、その力は完全に失われた。
 彼は、魔王城の片隅で、ただ呆然と座り込んでいる。彼のリスとしての本能は、冬の備蓄を全て失ったことを嘆き続けていた。
 彼の瞳は虚ろで、その体は、まるで抜け殻のようだった。

「キィィィィィィィッ…(私の備蓄が…全てが…私の…私の世界が…)」

 ゼノスは、魔王の傍らに寄り添い、その姿を見て、涙を流した。彼は、魔王の「世界を救う計画」が、あの女によって無に帰したことを嘆いていた。彼の忠誠心は、決して揺らぐことはなかった。

「魔王様…!申し訳ございません…!我々の力が及ばず…!このゼノス、魔王様をお守りできませんでした…!しかし、魔王様の崇高な御心は、決して無駄にはなりません…!」

 ルーナは、遠くからその光景を眺めていた。
 彼女は手帳を閉じ、ペンを挟み込む。この壮大な茶番劇の「真実」を、ついに彼女は確信したのだ。

「やれやれ、世界は救われたようね。猫とリスの気まぐれな戦いのおかげでね。歴史書には、きっと壮大な英雄譚が記されるんでしょうけど、真実は、こんなにも滑稽なものだなんてね。」

 ルーナは、そう呟きながら、カップに残ったお茶を飲み干した。彼女は、この世界の真実を知る、唯一の傍観者だった。

「結局、世界を救ったのは猫の気まぐれと、リスの貯め込み癖だったってわけね。人間も魔族も、みんな真面目すぎて滑稽だこと。彼らがこの真実に気づく日は、果たして来るのかしら。

 まあ、気づかない方が、世界は平和なのかもしれないわね。

 ……ええ、このドタバタ劇は、後世に語り継がれるべき『壮大な英雄譚』として、私がこの手で記録しておきましょう。真実を知る者は私一人で十分。歴史は、いつだって勝者の都合の良いように書かれるものだもの。」

 ルーナは、そう言い残すと、手帳を懐にしまい、静かにその場を立ち去った。彼女の背中には、この世界の「真実」を秘めた、どこか悪戯っぽい笑みが浮かんでいるようだった。

 リリアーナは、王都の城壁の上で、気持ち良さそうに日向ぼっこをしていた。ポカポカと暖かい陽光が、全身を優しく包み込む。毛並みも、すっかり元の滑らかさを取り戻していた。彼女の瞳は、満足げに細められている。

「ニャー…(やっと静かになったニャ。お昼寝するニャ…ゴロゴロ…)」

 リリアーナは、満足げに喉を鳴らそうとした。
 しかし、やはりゴロゴロという音は出ない。
 代わりに、口からは「気持ちいいニャ…」と、人間の言葉が漏れる。

 彼女は、自分が世界の救世主になったことなど、夢にも思っていなかった。
 ただ、快適な猫生を取り戻せたことに、心から満足していた。

 そして、この世界のどこかで、また新たな「キラキラ」や「美味しいお魚」を見つける日を、楽しみにしているのだった。彼女の冒険は、まだ終わらない。

 こうして、元猫の少女が、世界の命運を左右する「脱力系」魔法バトルを繰り広げ、誰もその真意を知ることなく、世界を救った物語は、幕を閉じたのだった。


(おしまい)



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 数日後、世界は、ゆっくりと本来の姿を取り戻し始めていた。
 枯れかけていた草木には、再び鮮やかな緑が戻り、花々は色とりどりに咲き誇る。空気の乾燥も和らぎ、心地よい風が吹き抜けていく。
 世界の魔力は、再び豊かになり、生き物たちは活力を取り戻していった。鳥たちは再び歌い、獣たちは森を駆け巡る。世界全体が、生命の喜びで満たされていた。
 王国では、賢者リリアーナの「偉業」が、大々的に称えられた。彼女は「世界を救った賢者」として、歴史にその名を刻まれることになった。彼女の功績は、吟遊詩人によって歌われ、子供たちに語り継がれるだろう。
 アリアは、リリアーナの世話を甲斐甲斐しく焼き、常にその傍らにいた。彼女は、リリアーナの行動の全てに、深遠なる意味を見出し続けていた。
「リリアーナ様は、この世界の魔力を一度解放することで、世界の再生を促されたのです!魔王の計画を逆手に取り、世界を救うとは…!何という深遠なる知恵…!賢者様の御力は、まさに無限でございます!」
 アリアは、そう言って、リリアーナに最高級の干し魚を差し出した。それは、この世界の魚の中でも、特に脂が乗り、香ばしく焼かれたものだった。
「ニャー…(美味しいニャ…)」
 リリアーナは、干し魚を幸せそうに平らげた。
 彼女にとって、世界が元に戻ったのは、ただ「日向ぼっこが気持ち良くなった」という、猫らしい理由でしかなかった。
 美味しいお魚が食べられること。それが、彼女にとっての最高の報酬だった。
 魔王シエルは、魔力を失い、その力は完全に失われた。
 彼は、魔王城の片隅で、ただ呆然と座り込んでいる。彼のリスとしての本能は、冬の備蓄を全て失ったことを嘆き続けていた。
 彼の瞳は虚ろで、その体は、まるで抜け殻のようだった。
「キィィィィィィィッ…(私の備蓄が…全てが…私の…私の世界が…)」
 ゼノスは、魔王の傍らに寄り添い、その姿を見て、涙を流した。彼は、魔王の「世界を救う計画」が、あの女によって無に帰したことを嘆いていた。彼の忠誠心は、決して揺らぐことはなかった。
「魔王様…!申し訳ございません…!我々の力が及ばず…!このゼノス、魔王様をお守りできませんでした…!しかし、魔王様の崇高な御心は、決して無駄にはなりません…!」
 ルーナは、遠くからその光景を眺めていた。
 彼女は手帳を閉じ、ペンを挟み込む。この壮大な茶番劇の「真実」を、ついに彼女は確信したのだ。
「やれやれ、世界は救われたようね。猫とリスの気まぐれな戦いのおかげでね。歴史書には、きっと壮大な英雄譚が記されるんでしょうけど、真実は、こんなにも滑稽なものだなんてね。」
 ルーナは、そう呟きながら、カップに残ったお茶を飲み干した。彼女は、この世界の真実を知る、唯一の傍観者だった。
「結局、世界を救ったのは猫の気まぐれと、リスの貯め込み癖だったってわけね。人間も魔族も、みんな真面目すぎて滑稽だこと。彼らがこの真実に気づく日は、果たして来るのかしら。
 まあ、気づかない方が、世界は平和なのかもしれないわね。
 ……ええ、このドタバタ劇は、後世に語り継がれるべき『壮大な英雄譚』として、私がこの手で記録しておきましょう。真実を知る者は私一人で十分。歴史は、いつだって勝者の都合の良いように書かれるものだもの。」
 ルーナは、そう言い残すと、手帳を懐にしまい、静かにその場を立ち去った。彼女の背中には、この世界の「真実」を秘めた、どこか悪戯っぽい笑みが浮かんでいるようだった。
 リリアーナは、王都の城壁の上で、気持ち良さそうに日向ぼっこをしていた。ポカポカと暖かい陽光が、全身を優しく包み込む。毛並みも、すっかり元の滑らかさを取り戻していた。彼女の瞳は、満足げに細められている。
「ニャー…(やっと静かになったニャ。お昼寝するニャ…ゴロゴロ…)」
 リリアーナは、満足げに喉を鳴らそうとした。
 しかし、やはりゴロゴロという音は出ない。
 代わりに、口からは「気持ちいいニャ…」と、人間の言葉が漏れる。
 彼女は、自分が世界の救世主になったことなど、夢にも思っていなかった。
 ただ、快適な猫生を取り戻せたことに、心から満足していた。
 そして、この世界のどこかで、また新たな「キラキラ」や「美味しいお魚」を見つける日を、楽しみにしているのだった。彼女の冒険は、まだ終わらない。
 こうして、元猫の少女が、世界の命運を左右する「脱力系」魔法バトルを繰り広げ、誰もその真意を知ることなく、世界を救った物語は、幕を閉じたのだった。
(おしまい)