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第103話 福音

ー/ー



 悠木の四体の分身は無事に合体して一人の少年に戻った。しかし悠木は疲労から回復しなかった。一か月以上たっても、ほぼ寝たきりだった。

 ある天気のよい朝だった。悠木はベットから起き上がった。
「今日は少し体調がいい」

 白猫はすばやく悠木の体を支えた。

 悠木はリビングルームに顔を出すと、瞳と桐子に挨拶をした。
「散歩に行く」

 瞳が悠木にコートを着せて頭をなでた。
「無理をしちゃだめよ」

「分かってる」と悠木。

 瞳と桐子が玄関までついて行き、桐子がドアを開けた。風が吹きこんできた。

「まだ風が冷たいから、体を冷やさないように気をつけるんだ」
 桐子は悠木が靴を履くのを手伝った。

「大丈夫だよ」
 悠木は手を振って玄関を出た。

 ドアが閉まると瞳が桐子の肩につかまった。

「行ってしまったわ」
 瞳がぽつりとつぶやいた。

「ああ」
 桐子は涙をこらえた。

「可笑しいわね。私たちが姉妹だなんて」
 瞳は桐子にもたれかかって顔を伏せた。

「全部姉さんが決めたことだ。私は反対したのに……」と桐子。

「悪かったわね」と瞳。「でも楽しかったでしょ?」

「ええ。今は感謝をしている。ありがとう、お姉さん」
 桐子は倒れ掛かってくる瞳を抱きかかえた。


 悠木は白猫を連れて外に出た。控えていたメイド姿のククリ姫とタタリ姫が供に付き従った。

 悠木は家の敷地を出て、よたよたと近所の公園の道を歩き始めた。ククリ姫とタタリ姫が少し後ろに離れて歩いた。強い風が吹いていた。

「風よけにそばに立ってくれ」
 悠木は横にいた白猫に声をかけた。

 白猫は悠木のやや左後ろにぴったりついて体を支えた。

 風にあおられた木々がざわざわと音をたてている。二人はゆっくりと遊歩道を歩いた。

「時が来たようだ」
 悠木は白猫の耳元でささやいた。

「お供します、ご主人様」
 白猫がうれしそうに返事をした。

 二人はさらに歩き続け、見晴らしのよい小高い丘に出た。

「強く抱いてくれ」
 悠木はおもむろに白猫に向き合った。

「はい」
 白猫は悠木の体を持ち上げ、胸に抱きかかえた。

「もっと強く頼む」と悠木。

 白猫は少し前かがみになって、悠木の体が折れそうになるほど強く抱いた。

「そう、それでいい」
 悠木はかすれた声を絞り出した。
「ありがとう」

 離れて後ろを歩いていたククリ姫とタタリ姫は、二人の様子がおかしいことに気がついて駆けよった。

 突然ゆらゆらと青い炎が悠木と白猫フェンから立ちのぼった。しだいに二人の体が消えていくのを、ククリ姫とタタリ姫は茫然と見つめた。

 後には二人の衣服と悠木の義手と義足が地面に残されていた。

 雲一つない空が青く澄んでいた。そして風がひゅーと音をたてた。



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 悠木の四体の分身は無事に合体して一人の少年に戻った。しかし悠木は疲労から回復しなかった。一か月以上たっても、ほぼ寝たきりだった。
 ある天気のよい朝だった。悠木はベットから起き上がった。
「今日は少し体調がいい」
 白猫はすばやく悠木の体を支えた。
 悠木はリビングルームに顔を出すと、瞳と桐子に挨拶をした。
「散歩に行く」
 瞳が悠木にコートを着せて頭をなでた。
「無理をしちゃだめよ」
「分かってる」と悠木。
 瞳と桐子が玄関までついて行き、桐子がドアを開けた。風が吹きこんできた。
「まだ風が冷たいから、体を冷やさないように気をつけるんだ」
 桐子は悠木が靴を履くのを手伝った。
「大丈夫だよ」
 悠木は手を振って玄関を出た。
 ドアが閉まると瞳が桐子の肩につかまった。
「行ってしまったわ」
 瞳がぽつりとつぶやいた。
「ああ」
 桐子は涙をこらえた。
「可笑しいわね。私たちが姉妹だなんて」
 瞳は桐子にもたれかかって顔を伏せた。
「全部姉さんが決めたことだ。私は反対したのに……」と桐子。
「悪かったわね」と瞳。「でも楽しかったでしょ?」
「ええ。今は感謝をしている。ありがとう、お姉さん」
 桐子は倒れ掛かってくる瞳を抱きかかえた。
 悠木は白猫を連れて外に出た。控えていたメイド姿のククリ姫とタタリ姫が供に付き従った。
 悠木は家の敷地を出て、よたよたと近所の公園の道を歩き始めた。ククリ姫とタタリ姫が少し後ろに離れて歩いた。強い風が吹いていた。
「風よけにそばに立ってくれ」
 悠木は横にいた白猫に声をかけた。
 白猫は悠木のやや左後ろにぴったりついて体を支えた。
 風にあおられた木々がざわざわと音をたてている。二人はゆっくりと遊歩道を歩いた。
「時が来たようだ」
 悠木は白猫の耳元でささやいた。
「お供します、ご主人様」
 白猫がうれしそうに返事をした。
 二人はさらに歩き続け、見晴らしのよい小高い丘に出た。
「強く抱いてくれ」
 悠木はおもむろに白猫に向き合った。
「はい」
 白猫は悠木の体を持ち上げ、胸に抱きかかえた。
「もっと強く頼む」と悠木。
 白猫は少し前かがみになって、悠木の体が折れそうになるほど強く抱いた。
「そう、それでいい」
 悠木はかすれた声を絞り出した。
「ありがとう」
 離れて後ろを歩いていたククリ姫とタタリ姫は、二人の様子がおかしいことに気がついて駆けよった。
 突然ゆらゆらと青い炎が悠木と白猫フェンから立ちのぼった。しだいに二人の体が消えていくのを、ククリ姫とタタリ姫は茫然と見つめた。
 後には二人の衣服と悠木の義手と義足が地面に残されていた。
 雲一つない空が青く澄んでいた。そして風がひゅーと音をたてた。