#135 月神の導き (カグヤ視点)
ー/ー「この『黄昏の牙』も、組織自体は儂が加わる以前から存在していたが、その実態は下剋上を目論むだけの、一般人を巻き込むことも厭わない、野蛮なテロ組織でしかなかった。儂のように権力闘争に敗れた者たちが、恨みを晴らし返り咲くために寄せ集まっていたに過ぎぬ。正義も信仰も無い、野心と復讐心の集合体。栄耀教会と何ら変わりが無かった」
「腐敗した栄耀教会を倒すためには、まず自分たちの組織から是正していくべきってことで、大将はそうした連中を徹底的に粛清していき、真に同志と呼べる奴だけを残したんだ」
利益と保身のみを行動原理にしている味方は、敵からそれを提示された途端に変心して、それまでの仲間を平気で売り渡してしまう訳だから信ずるに値しない。
ダスクの主君だったカルディス王弟も、利害に依存しない信頼関係をこそ重視していたと聞いている。
「色々と苦労したが、やはりその判断は正しかったと思っておる。そうした内部改革があったからこそ、ベリオのような勇士が集まり、シュナイン家のように密に合力する貴族も少数ながら現れた。此度の其方との巡り会いもその成果と言えよう」
「そうですね。私もこの引力に感謝します」
クレオーズ加入以前の『黄昏の牙』だったならば、あっと言う間に栄耀教会に滅ぼされていただろうし、私やフェンデリン家が協力を考えることも無かった。
「引力か。或いは、これはリュミス神の御導きなのかも知れぬな」
「リュミス神?」
この世界に来てからは、栄耀教会が信奉するサウル神以外に神と呼ばれる存在を耳にしたことが無い。
「確か……ラッセウム帝国で崇められていた月の神、だったか? 『リュミスの咢』もそれに肖って名付けられたとか……」
三百年前の人物であるダスクは知っていたようだ。
「然様。ラッセウム帝国はサウルとリュミスの双子神を奉じる『天明双教』を国教としていた。一つの体に二つの頭を持ち、光と闇、朝と夜、表と裏、動と静、生と死、武と智、実と虚という二面性を以て世界を司ると語られておる」
「二人で一人の、太陽と月の双子ですか……」
生まれを同じくしながら対照的な存在──まるで私とテルサのようだ。
「しかし、初代『聖女』様の召喚、その後の『聖戦』によるラッセウム帝国の征服により絶大な権威を得た栄耀教会は、サウル神こそ唯一神としてリュミス神を廃し、征服民に天明双教からサウル教への改宗を迫ったのじゃ。教団の公式記録には改宗は極めて順調だったと書かれておるが……一方で当時の魔術師の日記には一揆が多発し、応じない何百何千の者が虐殺、処刑されたと記載されておる」
「後者が真実だろ。奴らのやりそうなことだ」
日本でも、日神と名高い天照大御神が日本神話の主神、皇室の祖神として祀られ、月神の月読尊の他、バラエティー豊かな神々が神話には登場する。
古代のギリシャやエジプト、アステカの宗教、ヒンドゥー教やゾロアスター教、仏教など、世界各地の宗教を見ても多神教の方が多く、対してキリスト教やイスラム教、ユダヤ教は一神教だ。
多神教と一神教のどちらが正しいとか、どの神の教えこそが尊いなどと言う気は毛頭無いが、自分たちが崇める神とその教え以外は邪道であり断じて認めない、全ての者は神と教団に服従すべし、反する者は差別して当然、という過剰な信仰から来る不寛容と強要は、やがて争いと悲劇の発端になるということを、元の世界でもこの世界でも嫌と言うほど見てきた。
信教は自由かつ平等、そして何よりも寛容であって欲しいというのが私の持論だ。
「どうして栄耀教会は、そうまでして天明双教を廃したのでしょうか?」
「当時は『邪神の息吹』の『邪神』とは、闇を司るリュミス神を指すとも言われておったからな。それを奉じるラッセウム帝国は邪教の国、征伐することこそサウル神の御意思に適った正義、というのが『聖戦』の大義名分の一つだったそうじゃ」
「ふ~ん。要するに、栄耀教会にとってリュミス神は自分たちの正当性を誇示するための、打って付けの悪役だったって訳だな」
「目障りな双子の片割れを闇に葬った、か。聞けば聞くほど君たちに重なるな」
「重なり過ぎて少し怖いくらいです」
その後の栄耀教会の隆盛とサウル教徒の増加、そして三百年という年月を経た末、月神リュミスなど最初から存在しなかったかのように、人々の意識からも歴史からも薄れてしまった。
私もまた、テルサと栄耀教会によって邪悪な罪人と見做されて命を狙われ、表向きには元の世界に帰ったことにされてしまった。
いくら魔法が常識の世界とは言え、神までもが実在するとは思っていないが──居ると仮定するならば、クレオーズの言うように、私はリュミス神の引力によってこの世界へ導かれたのかも知れない。
ならば感謝しよう。
牢の中で咎人としてただ朽ちていくだけだった私に、新天地で過去の罪を償う機会を与えてくれたことを。
良き出会いと大いなる力を授け、艱難辛苦の人生に意味を見出させてくれたことを。
「腐敗した栄耀教会を倒すためには、まず自分たちの組織から是正していくべきってことで、大将はそうした連中を徹底的に粛清していき、真に同志と呼べる奴だけを残したんだ」
利益と保身のみを行動原理にしている味方は、敵からそれを提示された途端に変心して、それまでの仲間を平気で売り渡してしまう訳だから信ずるに値しない。
ダスクの主君だったカルディス王弟も、利害に依存しない信頼関係をこそ重視していたと聞いている。
「色々と苦労したが、やはりその判断は正しかったと思っておる。そうした内部改革があったからこそ、ベリオのような勇士が集まり、シュナイン家のように密に合力する貴族も少数ながら現れた。此度の其方との巡り会いもその成果と言えよう」
「そうですね。私もこの引力に感謝します」
クレオーズ加入以前の『黄昏の牙』だったならば、あっと言う間に栄耀教会に滅ぼされていただろうし、私やフェンデリン家が協力を考えることも無かった。
「引力か。或いは、これはリュミス神の御導きなのかも知れぬな」
「リュミス神?」
この世界に来てからは、栄耀教会が信奉するサウル神以外に神と呼ばれる存在を耳にしたことが無い。
「確か……ラッセウム帝国で崇められていた月の神、だったか? 『リュミスの咢』もそれに肖って名付けられたとか……」
三百年前の人物であるダスクは知っていたようだ。
「然様。ラッセウム帝国はサウルとリュミスの双子神を奉じる『天明双教』を国教としていた。一つの体に二つの頭を持ち、光と闇、朝と夜、表と裏、動と静、生と死、武と智、実と虚という二面性を以て世界を司ると語られておる」
「二人で一人の、太陽と月の双子ですか……」
生まれを同じくしながら対照的な存在──まるで私とテルサのようだ。
「しかし、初代『聖女』様の召喚、その後の『聖戦』によるラッセウム帝国の征服により絶大な権威を得た栄耀教会は、サウル神こそ唯一神としてリュミス神を廃し、征服民に天明双教からサウル教への改宗を迫ったのじゃ。教団の公式記録には改宗は極めて順調だったと書かれておるが……一方で当時の魔術師の日記には一揆が多発し、応じない何百何千の者が虐殺、処刑されたと記載されておる」
「後者が真実だろ。奴らのやりそうなことだ」
日本でも、日神と名高い天照大御神が日本神話の主神、皇室の祖神として祀られ、月神の月読尊の他、バラエティー豊かな神々が神話には登場する。
古代のギリシャやエジプト、アステカの宗教、ヒンドゥー教やゾロアスター教、仏教など、世界各地の宗教を見ても多神教の方が多く、対してキリスト教やイスラム教、ユダヤ教は一神教だ。
多神教と一神教のどちらが正しいとか、どの神の教えこそが尊いなどと言う気は毛頭無いが、自分たちが崇める神とその教え以外は邪道であり断じて認めない、全ての者は神と教団に服従すべし、反する者は差別して当然、という過剰な信仰から来る不寛容と強要は、やがて争いと悲劇の発端になるということを、元の世界でもこの世界でも嫌と言うほど見てきた。
信教は自由かつ平等、そして何よりも寛容であって欲しいというのが私の持論だ。
「どうして栄耀教会は、そうまでして天明双教を廃したのでしょうか?」
「当時は『邪神の息吹』の『邪神』とは、闇を司るリュミス神を指すとも言われておったからな。それを奉じるラッセウム帝国は邪教の国、征伐することこそサウル神の御意思に適った正義、というのが『聖戦』の大義名分の一つだったそうじゃ」
「ふ~ん。要するに、栄耀教会にとってリュミス神は自分たちの正当性を誇示するための、打って付けの悪役だったって訳だな」
「目障りな双子の片割れを闇に葬った、か。聞けば聞くほど君たちに重なるな」
「重なり過ぎて少し怖いくらいです」
その後の栄耀教会の隆盛とサウル教徒の増加、そして三百年という年月を経た末、月神リュミスなど最初から存在しなかったかのように、人々の意識からも歴史からも薄れてしまった。
私もまた、テルサと栄耀教会によって邪悪な罪人と見做されて命を狙われ、表向きには元の世界に帰ったことにされてしまった。
いくら魔法が常識の世界とは言え、神までもが実在するとは思っていないが──居ると仮定するならば、クレオーズの言うように、私はリュミス神の引力によってこの世界へ導かれたのかも知れない。
ならば感謝しよう。
牢の中で咎人としてただ朽ちていくだけだった私に、新天地で過去の罪を償う機会を与えてくれたことを。
良き出会いと大いなる力を授け、艱難辛苦の人生に意味を見出させてくれたことを。
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