瞬迅引斥
ー/ー「あっちゃぁ……アリシア負けちまったのかぁ……勝てると思ってたんだけどなぁ」
「ギリギリだったわね。アリシアが勝っててもおかしくなかった」
「だからこそ歯がゆいんだよなぁ! あとちょっと……ん〜悔しい! 助言は余計だったかな……」
「なに? あんたそんなことしてたの?」
「ここに来る前にちょっとね」
残る結界はあと一つ。開始の合図はとっくに出されているというのに、試合を始める様子もなく、結界に張り付いて他の試合をまじまじと眺める二人。
乾いた空気が肌を撫でる。視線はただ一箇所だけに吸い寄せられている。二人で全員の注目を集めて、焦らすように試合を長引かせている。
これは煽りだ。自分の実力には注目せざるおえないだろうと確信しているが故に、あえてこの状況になるまで待っていたのだ。目に焼き付けろとでも言いたげな顔をして、二人はようやく重い腰を上げる。コツコツと鳴る足音をわざと響かせて、お互いにゆっくりと距離を取った。
「さて、レオノール。そろそろ始める?」
「そうだな。準備はいいか? クラウディア」
レオノール・ブラックハウンドとパーシー・クラウディアが激突する。
その衝突に合図はなかった。
「雷式 ”衝”」
風が強く吹いて、突き抜けていく――
「反重力 ”重界”」
目にも止まらぬ攻防が繰り広げられる。思わず感嘆の声が漏れてしまうほど圧巻の光景だった。
拳に魔力を集中させ、近接戦闘に特化させたレオノールの新しい魔法、『雷式 ”衝”』。全身に魔力を流していた時のデメリットである、耐え難い痛みは緩和された上で、魔力を拳に集中させることで威力も向上させることに成功した。雷を纏ったレオノールの拳は相手に触れるだけで麻痺してしまうほどだ。
「女殴るのは趣味じゃねぇんだよなぁ……」
「女殴る趣味の男は存在しちゃいけないのよ」
「それもそうだ」
軽口を叩きながらパーシーはレオノールの猛攻を完全に防いでみせる。レオノールの攻撃は触れるだけで効果を発揮する。電撃が伝わりきる前に攻撃を弾くことで対策は可能ではあるが、受けて流すことは極めて難しい。その最適解は簡単だ。
避けてしまえばいい。
受けて耐えるまでもなく、受け流す必要もない。攻撃は単調な接近の殴り合い。直線的な攻撃を予測することは容易い。
(それにしても避けすぎだっつーの! 未来でも見えてんのかこいつ!)
「見えてないわよ」
「思考盗聴すんな!」
思わず振り抜いてしまった拳は空を切る。そこにいたはずのパーシーの姿は消えていた。アニメーションのコマ送りのように、世界がゆっくりとスローモーションになる。レオノールが視線を下に落とすと、そこには屈んで右ストレートを避けたパーシーの姿があった。そこから先は、分かっていても避けることができなかった。
「あんた、考えてることが顔に出すぎよ」
振り抜かれた右ストレート。防御もできずにがら空きになった右脇腹をパーシーの拳が捉える。
完全に油断しきっていたレオノールは防御も間に合わず、完全な無防備を晒している。か弱い少女のただのパンチであっても致命的な痛手となる状況だ。しかし忘れてはいけない。この一撃はただの少女のパンチではない。
パーシーが最も得意とする魔法は『重力を操る魔法』である。それは、単純な周囲の重力を強める、弱める、反転させるといった操作に留まらない。例えば、レオノールの『雷式 ”衝”』のように、拳だけに集中させるように魔法を使えばどうなるか。その答えは次の瞬間に明かされた。
「終わったな、あいつ」
ボソリと旭がそう呟くと、ほとんど同じタイミングでパーシーの拳がレオノールの右脇腹に直撃する。するとどうだろうか。動作だけを見れば、それは少女が軽く振り抜いたパンチと遜色ないその一撃は、レオノールの右脇腹を確実に捉え、何かが折れるような悲痛の音を立てながらめり込んでいく。
「痛ッ……!!!」
あまりの激痛に悶えるレオノールをよそに、無慈悲にもパーシーの拳は振り抜かれた。その所作からは考えられないほどの威力と轟音を響かせて、レオノールは衝撃で吹き飛ばされ結界に衝突する。
種明かしをしよう。パーシーの拳に集中した魔力。威力と比例しない動作。そのカラクリは単純だ。
重くするのは空間だけではない。魔力を拳に集め、一点に集中させる。そして、重量を操作し、拳を重くする。それだけで岩石を粉々にするくらいには威力を出せるのだが、パーシーの一撃はそれだけに留まらない。拳がぶつかるインパクトの瞬間、レオノールの身体を引き寄せて、衝撃によって威力を倍増させる。恐ろしいのは、狙ってか狙わずか、パーシーが攻撃したのがレオノールの右脇腹だということだ。それが何を意味するのか、それを知る者は多くないが、そここそがレオノールの弱点なのだ。
「今、右脇腹にガッツリ入りましたよね……?」
「入ったね……いたそ〜」
一部始終を見ていたヨナが顔を真っ青にして見守る。メモリアとの激闘があったあの夜から、まだ数日しか経っていない。あの日、レオノールはメモリアからの攻撃によって右脇腹に風穴を空けられるという、とてつもない重症を負った。療養を経て日常生活を送れるくらいには回復したが、完治はしていない。歩くだけでも痛みが走るはずだ。
そんな箇所に、普通に食らうだけでもタダではすまない一撃を与えられたレオノール。結果はお察しの通りである。
「……くそったれ」
そう言い残して、衝撃で結界に激突したレオノールがパタリと倒れる。どれだけ待っても立ち上がる様子はない。ボクシングのレフェリーのような仕草をして、獄蝶のジョカがじっくり観察し、無慈悲にも継戦不可の判定が下された。つまるところ、パーシーのノックアウト勝ちだ。
「呆気ねぇな。あんだけ鍛錬してた最終演目も使わずリタイアかよ。もったいねぇ」
「そんなこと言わないであげてよ……食らってみるとわかるけど、あれ想像以上に痛いんだよ……?」
過去、喧嘩の末、同じ一撃を食らわされたことのあるモニカは痛そうに頭を擦りながら言った。控え室では既に第二回戦の準備が進んでいるようだ。モニカたちに見られながら、パーシーは意識の戻る気配のないレオノールを担ぎ、医療班に渡して結界を後にする。
「……あと、二回」
第一回戦の全ての試合が終了し、続く第二回戦。シード枠の生徒がその頭角を現す――
「ギリギリだったわね。アリシアが勝っててもおかしくなかった」
「だからこそ歯がゆいんだよなぁ! あとちょっと……ん〜悔しい! 助言は余計だったかな……」
「なに? あんたそんなことしてたの?」
「ここに来る前にちょっとね」
残る結界はあと一つ。開始の合図はとっくに出されているというのに、試合を始める様子もなく、結界に張り付いて他の試合をまじまじと眺める二人。
乾いた空気が肌を撫でる。視線はただ一箇所だけに吸い寄せられている。二人で全員の注目を集めて、焦らすように試合を長引かせている。
これは煽りだ。自分の実力には注目せざるおえないだろうと確信しているが故に、あえてこの状況になるまで待っていたのだ。目に焼き付けろとでも言いたげな顔をして、二人はようやく重い腰を上げる。コツコツと鳴る足音をわざと響かせて、お互いにゆっくりと距離を取った。
「さて、レオノール。そろそろ始める?」
「そうだな。準備はいいか? クラウディア」
レオノール・ブラックハウンドとパーシー・クラウディアが激突する。
その衝突に合図はなかった。
「雷式 ”衝”」
風が強く吹いて、突き抜けていく――
「反重力 ”重界”」
目にも止まらぬ攻防が繰り広げられる。思わず感嘆の声が漏れてしまうほど圧巻の光景だった。
拳に魔力を集中させ、近接戦闘に特化させたレオノールの新しい魔法、『雷式 ”衝”』。全身に魔力を流していた時のデメリットである、耐え難い痛みは緩和された上で、魔力を拳に集中させることで威力も向上させることに成功した。雷を纏ったレオノールの拳は相手に触れるだけで麻痺してしまうほどだ。
「女殴るのは趣味じゃねぇんだよなぁ……」
「女殴る趣味の男は存在しちゃいけないのよ」
「それもそうだ」
軽口を叩きながらパーシーはレオノールの猛攻を完全に防いでみせる。レオノールの攻撃は触れるだけで効果を発揮する。電撃が伝わりきる前に攻撃を弾くことで対策は可能ではあるが、受けて流すことは極めて難しい。その最適解は簡単だ。
避けてしまえばいい。
受けて耐えるまでもなく、受け流す必要もない。攻撃は単調な接近の殴り合い。直線的な攻撃を予測することは容易い。
(それにしても避けすぎだっつーの! 未来でも見えてんのかこいつ!)
「見えてないわよ」
「思考盗聴すんな!」
思わず振り抜いてしまった拳は空を切る。そこにいたはずのパーシーの姿は消えていた。アニメーションのコマ送りのように、世界がゆっくりとスローモーションになる。レオノールが視線を下に落とすと、そこには屈んで右ストレートを避けたパーシーの姿があった。そこから先は、分かっていても避けることができなかった。
「あんた、考えてることが顔に出すぎよ」
振り抜かれた右ストレート。防御もできずにがら空きになった右脇腹をパーシーの拳が捉える。
完全に油断しきっていたレオノールは防御も間に合わず、完全な無防備を晒している。か弱い少女のただのパンチであっても致命的な痛手となる状況だ。しかし忘れてはいけない。この一撃はただの少女のパンチではない。
パーシーが最も得意とする魔法は『重力を操る魔法』である。それは、単純な周囲の重力を強める、弱める、反転させるといった操作に留まらない。例えば、レオノールの『雷式 ”衝”』のように、拳だけに集中させるように魔法を使えばどうなるか。その答えは次の瞬間に明かされた。
「終わったな、あいつ」
ボソリと旭がそう呟くと、ほとんど同じタイミングでパーシーの拳がレオノールの右脇腹に直撃する。するとどうだろうか。動作だけを見れば、それは少女が軽く振り抜いたパンチと遜色ないその一撃は、レオノールの右脇腹を確実に捉え、何かが折れるような悲痛の音を立てながらめり込んでいく。
「痛ッ……!!!」
あまりの激痛に悶えるレオノールをよそに、無慈悲にもパーシーの拳は振り抜かれた。その所作からは考えられないほどの威力と轟音を響かせて、レオノールは衝撃で吹き飛ばされ結界に衝突する。
種明かしをしよう。パーシーの拳に集中した魔力。威力と比例しない動作。そのカラクリは単純だ。
重くするのは空間だけではない。魔力を拳に集め、一点に集中させる。そして、重量を操作し、拳を重くする。それだけで岩石を粉々にするくらいには威力を出せるのだが、パーシーの一撃はそれだけに留まらない。拳がぶつかるインパクトの瞬間、レオノールの身体を引き寄せて、衝撃によって威力を倍増させる。恐ろしいのは、狙ってか狙わずか、パーシーが攻撃したのがレオノールの右脇腹だということだ。それが何を意味するのか、それを知る者は多くないが、そここそがレオノールの弱点なのだ。
「今、右脇腹にガッツリ入りましたよね……?」
「入ったね……いたそ〜」
一部始終を見ていたヨナが顔を真っ青にして見守る。メモリアとの激闘があったあの夜から、まだ数日しか経っていない。あの日、レオノールはメモリアからの攻撃によって右脇腹に風穴を空けられるという、とてつもない重症を負った。療養を経て日常生活を送れるくらいには回復したが、完治はしていない。歩くだけでも痛みが走るはずだ。
そんな箇所に、普通に食らうだけでもタダではすまない一撃を与えられたレオノール。結果はお察しの通りである。
「……くそったれ」
そう言い残して、衝撃で結界に激突したレオノールがパタリと倒れる。どれだけ待っても立ち上がる様子はない。ボクシングのレフェリーのような仕草をして、獄蝶のジョカがじっくり観察し、無慈悲にも継戦不可の判定が下された。つまるところ、パーシーのノックアウト勝ちだ。
「呆気ねぇな。あんだけ鍛錬してた最終演目も使わずリタイアかよ。もったいねぇ」
「そんなこと言わないであげてよ……食らってみるとわかるけど、あれ想像以上に痛いんだよ……?」
過去、喧嘩の末、同じ一撃を食らわされたことのあるモニカは痛そうに頭を擦りながら言った。控え室では既に第二回戦の準備が進んでいるようだ。モニカたちに見られながら、パーシーは意識の戻る気配のないレオノールを担ぎ、医療班に渡して結界を後にする。
「……あと、二回」
第一回戦の全ての試合が終了し、続く第二回戦。シード枠の生徒がその頭角を現す――
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