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雪翼惨禍 ―5―

ー/ー



 決着がついた。外からはそれだけしかわからなかった。観戦席から戦いを見守るモニカは、じっと結界内をみつめる。やがて、白い霧の中から、一つの影が浮かび上がってきた。そこに立っていたのは――


「僅差だったけど……勝負あったね、アリシア」


 ボロボロになりながらも、一人立っているクロウの姿がそこにあった。アリシアは片腕を庇いながら、力なく地に横たわっている。どちらが勝者であるかは一目瞭然だった。


「……なん、で? どうして、アリシアが――」


 モニカは呆然としながらも疑問をこぼした。確実に勝っていたはずだった。使い捨て魔法媒体(マジックスクロール)は発動している。アリシアは右腕を犠牲にして白の静寂(シレシオン・ブランク)を直撃させた。優位に立っていたはずなのだ。つい数秒前までは。


「何が……何が起きたの……?」

「エストレイラ」


 戸惑うモニカに声がかかる。隣に座っていたフィスティシアが立ち上がって観客席から身を突き出し、鋭い視線を結界内のアリシアに送っていた。フィスティシアの一言で冷静さを取り戻したモニカはガタンと椅子から飛び上がって走り出す。


「私、いってきます!」


 そう言うとモニカは一目散に走り出す。戦闘を終えたアリシアは酷く疲弊している様子だった。医療班が待機しているとはいえ、腕の傷は治せるだろうが、魔力切れは致命的すぎる。
 魔法使いにとっての魔力切れは深刻な状況である。日常生活を送る上で、一般市民が魔力切れに陥ることはまず無い。そのため、魔法使いにとっての魔力切れの恐ろしさを知らないのだ。
 例えば、RPGにおけるMPが切れた、という状態。これは、魔法を行使するためのエネルギーが切れて魔法が使えなくなってしまうことを指す。しかし、魔力切れは違う。
 魔法が使えなくなることに加え、魔力切れは()()()()()()()()()()ことになる。魔法使いにとって、魔力とは血肉そのものである。それが枯渇してしまえば、魔法使いはたちまちに貧血や意識障害に似た症状を引き起こす。
 対処法はただ一つ。魔力が自然に回復するまで安静にしていること。魔法を使うことはもちろん、運動も控えなければならない。
 しかし、モニカ・エストレイラがその常識を覆した。公には隠されているが、モニカの扱う魔法の一つ、『星の抱擁(エンブレイス・ステラ)』は治癒魔法に分類されるものの、その枠を大きく逸脱している。『星の抱擁(エンブレイス・ステラ)』は、()()()()()()()()()()なのだ。この話を聞いたヨナはあまりの異次元さに頭を回して倒れてしまったという。
 一般的な治癒魔法は肉体を再生させる魔法、あるいは、自己治癒力の活性化が主である。他者の魔力に干渉できる魔法など存在しなかった。単純な話、モニカがいれば、リスク度外視で、消費魔力の多い魔法をいくらでも発動することができてしまうことになる。そのため、星の抱擁(エンブレイス・ステラ)という魔法はおろか、星の魔法という存在そのものすら隠蔽されている。


「じゃあ、わたしも。先輩方、ありがとうございました」

「……お前に礼を言われる筋合いは無い」


 フィスティシアは、冷たく、無機質な瞳をしていたヴェローニカと目を合わせる。何を考えているのか、何を見ているのか、何一つ見通すことのできない不気味な瞳だった。


「モニカはたまに目の前が見えなくなることがありますから、友達に親切にしていただいたのです。感謝するのは当たり前では?」

「友か。()()()を持っていてか?」

「あら、ご存知だったんですね」

「生徒会長を舐めるなよ」

「そんなつもりはありません。まぁ、あの日からもう隠すつもりもなかったので、困ることはありませんよ。それに――」


 ヴェローニカは笑う。妖しく、不敵に。その笑みの裏に隠された表情を、フィスティシアは読み取ることができなかった。


「先輩の隣にいたあの人は、もう友ではないと言うのですか?」

「……貴様は――」

「私はモニカの味方です。それ以上でもそれ以下でもない」


 逃げるようにヴェローニカは立ち去っていく。その背後に、不穏な影を残して。


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 決着がついた。外からはそれだけしかわからなかった。観戦席から戦いを見守るモニカは、じっと結界内をみつめる。やがて、白い霧の中から、一つの影が浮かび上がってきた。そこに立っていたのは――
「僅差だったけど……勝負あったね、アリシア」
 ボロボロになりながらも、一人立っているクロウの姿がそこにあった。アリシアは片腕を庇いながら、力なく地に横たわっている。どちらが勝者であるかは一目瞭然だった。
「……なん、で? どうして、アリシアが――」
 モニカは呆然としながらも疑問をこぼした。確実に勝っていたはずだった。|使い捨て魔法媒体《マジックスクロール》は発動している。アリシアは右腕を犠牲にして|白の静寂《シレシオン・ブランク》を直撃させた。優位に立っていたはずなのだ。つい数秒前までは。
「何が……何が起きたの……?」
「エストレイラ」
 戸惑うモニカに声がかかる。隣に座っていたフィスティシアが立ち上がって観客席から身を突き出し、鋭い視線を結界内のアリシアに送っていた。フィスティシアの一言で冷静さを取り戻したモニカはガタンと椅子から飛び上がって走り出す。
「私、いってきます!」
 そう言うとモニカは一目散に走り出す。戦闘を終えたアリシアは酷く疲弊している様子だった。医療班が待機しているとはいえ、腕の傷は治せるだろうが、魔力切れは致命的すぎる。
 魔法使いにとっての魔力切れは深刻な状況である。日常生活を送る上で、一般市民が魔力切れに陥ることはまず無い。そのため、魔法使いにとっての魔力切れの恐ろしさを知らないのだ。
 例えば、RPGにおけるMPが切れた、という状態。これは、魔法を行使するためのエネルギーが切れて魔法が使えなくなってしまうことを指す。しかし、魔力切れは違う。
 魔法が使えなくなることに加え、魔力切れは|心《・》|身《・》|が《・》|機《・》|能《・》|不《・》|全《・》|に《・》|陥《・》|る《・》ことになる。魔法使いにとって、魔力とは血肉そのものである。それが枯渇してしまえば、魔法使いはたちまちに貧血や意識障害に似た症状を引き起こす。
 対処法はただ一つ。魔力が自然に回復するまで安静にしていること。魔法を使うことはもちろん、運動も控えなければならない。
 しかし、モニカ・エストレイラがその常識を覆した。公には隠されているが、モニカの扱う魔法の一つ、『|星の抱擁《エンブレイス・ステラ》』は治癒魔法に分類されるものの、その枠を大きく逸脱している。『|星の抱擁《エンブレイス・ステラ》』は、|魔《・》|力《・》|を《・》|回《・》|復《・》|さ《・》|せ《・》|る《・》|魔《・》|法《・》なのだ。この話を聞いたヨナはあまりの異次元さに頭を回して倒れてしまったという。
 一般的な治癒魔法は肉体を再生させる魔法、あるいは、自己治癒力の活性化が主である。他者の魔力に干渉できる魔法など存在しなかった。単純な話、モニカがいれば、リスク度外視で、消費魔力の多い魔法をいくらでも発動することができてしまうことになる。そのため、|星の抱擁《エンブレイス・ステラ》という魔法はおろか、星の魔法という存在そのものすら隠蔽されている。
「じゃあ、わたしも。先輩方、ありがとうございました」
「……お前に礼を言われる筋合いは無い」
 フィスティシアは、冷たく、無機質な瞳をしていたヴェローニカと目を合わせる。何を考えているのか、何を見ているのか、何一つ見通すことのできない不気味な瞳だった。
「モニカはたまに目の前が見えなくなることがありますから、友達に親切にしていただいたのです。感謝するのは当たり前では?」
「友か。|曜《・》|の《・》|名《・》を持っていてか?」
「あら、ご存知だったんですね」
「生徒会長を舐めるなよ」
「そんなつもりはありません。まぁ、あの日からもう隠すつもりもなかったので、困ることはありませんよ。それに――」
 ヴェローニカは笑う。妖しく、不敵に。その笑みの裏に隠された表情を、フィスティシアは読み取ることができなかった。
「先輩の隣にいたあの人は、もう友ではないと言うのですか?」
「……貴様は――」
「私はモニカの味方です。それ以上でもそれ以下でもない」
 逃げるようにヴェローニカは立ち去っていく。その背後に、不穏な影を残して。