#130 神を穿つ月刃 その6 (カグヤ視点)
ー/ー「防御も回避も許されないのなら手は一つ。分かるな?」
「攻撃あるのみ、ですね」
魔力を充填している今ならば隙だらけ、近付いて胸の傷へ攻撃を加えることも容易いが、私たちがブレスの射線から外れた瞬間、間違い無く発射してしまう。
ドラゴンの討伐に成功したとしても、引き換えにノトスが消し飛んでしまっては本末転倒、誰にも顔向けできない完全敗北でしかない。
この位置から動くことは許されない。
「「『超重力の純黒星』」」
ダスクに魔力を供与、二人で天に指先を向けて闇の魔力を注ぎ込む。
上空に形成されるは、直径四十メートルは下らない暗黒の巨大球。
見た目こそ『宵月に誘われる宿命』に似通っているが、こちらは質量による純粋な破壊を目的とした攻撃魔法、特異な性質は持たない。
「これで決着が付く。全てを出し切れ」
「はい……!」
まだ辺りに残っている瘴気も限界まで吸い尽くし、先程回復した魔力も存分に費やす。
仕掛けるのはこちらが先。
天に浮かぶ暗黒球が動き出し、地上のドラゴンに向かって急降下していく。
ドラゴンがノトスの街へ攻撃を加えようとしているのは、あくまで私たちを倒すための手段に過ぎない。
落ちて来る『超重力の純黒星』を無視して正面へのブレス砲撃を敢行すれば、私たちとノトスを吹き飛ばすことはできても、ドラゴンもまた『超重力の純黒星』の直撃に晒され、死闘は相討ちという結末を迎える。
ドラゴンの目的は生き延びることであり、差し違えることは彼にとって本末転倒。
必然、身を護るためにドラゴンはブレスの照準を上へ向け、攻撃目標を『超重力の純黒星』へ変更した。
これでノトスの街が吹き飛ばされる事態は回避された訳だが、まだ楽観はできない。
互いの最高威力の攻撃がぶつかり合う。
「きゃあ……ッ!!」
水鉄砲が窓ガラスに当たって飛沫を撒き散らすように、『超重力の純黒星』に衝突したブレスが派手に拡散、広範囲に小威力の破壊をもたらす。
ダスクが『安静の幕板』を張ってくれたお陰で、こちらにブレスの被害が及ぶことは無かったものの、最強魔法同士がぶつかり合うことで生じる強烈な波動、大気の震えは凄まじく、その場に蹲って耐えることしかできない。
「まずいな。奴のブレスに押されて『純黒星』が止まってしまった……ッ!!」
ドラゴンのブレスと『超重力の純黒星』の勢いは完全に拮抗、どちらもそれ以上先へ進まなくなってしまっている。
例え破壊されずとも、ブレスの圧力に負けて押し戻されたり、軌道を変えられてしまう可能性もある。
『望月』のほとんどを費やしてしまった以上、この『超重力の純黒星』が失敗に終われば、もうドラゴンを倒す術は無く、潔く諦めて逃げるだけだ。
その場合に備えて、『夜陰を急ぐ密行者』を一回行う程度の魔力は残してある。
為すべき務めが残っている以上、私がここで死ぬことは許されない。
「お願い……ッ!」
『超重力の純黒星』は絶大な破壊力を有する一方で、攻撃の方向を決めたら後はそちらへ自動的に直進するという単調な動きしかできないため、魔力の有無に関係無く、発動後に術者が軌道や速度に手を加えることは不可能なのだ。
最早私にできることと言えば、ダスクに護られながら、ただ攻撃の成功を祈るのみ。
その祈りが通じたのか、直後に異変が起きた。
「見ろ、『超重力の純黒星』が進み出したぞ……! ブレスを押し切って、じりじりとドラゴンに迫って行く……!!」
「ブレスの勢いが弱まっている……? ──もしかして……!」
魔物大全によれば、魔物たちが使うブレス攻撃は射程と威力に優れる半面、喉や口への負担が大きいそうだ。
銃火器でも、間を置かず撃ち続けることで熱や粉塵などが内部機構に蓄積し、変形や弾詰まりによって暴発の危険を高めたり、銃自体の寿命を縮めたりすると聞いたことがあるが、ブレスでも同じような現象が起こるようだ。
「この戦闘が始まってから今に至るまでに、奴がどれだけのブレスや重力機雷を吐き出してきたかなど俺も憶えてないが、奴の生涯で最も気管を酷使してきた時間だったに違い無い」
「蓄積されたダメージがこの最終局面で表面化して、土壇場の力を削いでいるのですね……!」
決して意図した展開ではなく、ここまで諦めずに重ねてきた過程が偶然実を結んだに過ぎない。
「偶然が生む運命は、私たちに味方した……!」
間近まで迫り来る『超重力の純黒星』を押し戻そうと、ドラゴンも必死の様子でブレスを吐き続けていたが、精神論だけでは克服できないものがある。
限界を迎えたドラゴンの口から、遂にブレスが途絶えた。
抵抗が無くなった瞬間、暗黒の巨大球のスピードがグンと上昇。
ビルの解体作業に使われる鉄球クレーンを遥かに上回る、圧倒的な重量と質量が襲い掛かり、ドラゴンの体を真正面から盛大に打ちのめした。
痛々しい打撃音と、遅れて轟く悲痛な絶叫。
「何とか命中はした、が……流石のタフネス、奴を仕留めるには及ばなかったか……!」
ブレスを浴びせ続けられたせいで『超重力の純黒星』の威力と速度、耐久性が減衰、致命傷を負わせるには今一歩足りず、大きくよろめかせはしたが転倒には至らなかった。
「──ですが、何の問題もありません」
最大威力とは言え、闇属性の『超重力の純黒星』では同属性に耐性のあるアメジスト・ドラゴンの強固な外殻に阻まれ、仕留め切れないであろうことは想定済み。
『夜陰を急ぐ密行者』一回分の魔力を残しておいたのは、逃走のためであると同時に、最後の追撃のための布石でもあった。
体勢が大きく崩れたドラゴンの懐を目指して、速やかに転移。
弱点の胸の傷が今、私たちの目と鼻の先にある。
「仕留められずとも、再びアメジストを砕くことには成功しました」
砕けたアメジストの破片や塵が舞い上がり、流星雨の如く辺りに降り落ちていた。
「アメジストから漏洩した大量の瘴気を吸収すれば、カグヤの『望月』は再び輝く……!」
全力の『超重力の純黒星』と最後の『夜陰を急ぐ密行者』に費やして一旦は枯渇した『望月』だが、新たな瘴気を吸収すれば瞬時に闇の魔力に変換され、ダスクに供与すれば追撃が可能。
「正真正銘、最後の一撃だ」
回復した魔力をダスクに供与。
後は攻撃を加えるのみ。
「『陰影の穿破』は今、神を穿つ」
突き出された暗黒の刃先は、神なる巨龍の傷を撃ち抜き、奥に秘められた心臓への到達を果たした。
「攻撃あるのみ、ですね」
魔力を充填している今ならば隙だらけ、近付いて胸の傷へ攻撃を加えることも容易いが、私たちがブレスの射線から外れた瞬間、間違い無く発射してしまう。
ドラゴンの討伐に成功したとしても、引き換えにノトスが消し飛んでしまっては本末転倒、誰にも顔向けできない完全敗北でしかない。
この位置から動くことは許されない。
「「『超重力の純黒星』」」
ダスクに魔力を供与、二人で天に指先を向けて闇の魔力を注ぎ込む。
上空に形成されるは、直径四十メートルは下らない暗黒の巨大球。
見た目こそ『宵月に誘われる宿命』に似通っているが、こちらは質量による純粋な破壊を目的とした攻撃魔法、特異な性質は持たない。
「これで決着が付く。全てを出し切れ」
「はい……!」
まだ辺りに残っている瘴気も限界まで吸い尽くし、先程回復した魔力も存分に費やす。
仕掛けるのはこちらが先。
天に浮かぶ暗黒球が動き出し、地上のドラゴンに向かって急降下していく。
ドラゴンがノトスの街へ攻撃を加えようとしているのは、あくまで私たちを倒すための手段に過ぎない。
落ちて来る『超重力の純黒星』を無視して正面へのブレス砲撃を敢行すれば、私たちとノトスを吹き飛ばすことはできても、ドラゴンもまた『超重力の純黒星』の直撃に晒され、死闘は相討ちという結末を迎える。
ドラゴンの目的は生き延びることであり、差し違えることは彼にとって本末転倒。
必然、身を護るためにドラゴンはブレスの照準を上へ向け、攻撃目標を『超重力の純黒星』へ変更した。
これでノトスの街が吹き飛ばされる事態は回避された訳だが、まだ楽観はできない。
互いの最高威力の攻撃がぶつかり合う。
「きゃあ……ッ!!」
水鉄砲が窓ガラスに当たって飛沫を撒き散らすように、『超重力の純黒星』に衝突したブレスが派手に拡散、広範囲に小威力の破壊をもたらす。
ダスクが『安静の幕板』を張ってくれたお陰で、こちらにブレスの被害が及ぶことは無かったものの、最強魔法同士がぶつかり合うことで生じる強烈な波動、大気の震えは凄まじく、その場に蹲って耐えることしかできない。
「まずいな。奴のブレスに押されて『純黒星』が止まってしまった……ッ!!」
ドラゴンのブレスと『超重力の純黒星』の勢いは完全に拮抗、どちらもそれ以上先へ進まなくなってしまっている。
例え破壊されずとも、ブレスの圧力に負けて押し戻されたり、軌道を変えられてしまう可能性もある。
『望月』のほとんどを費やしてしまった以上、この『超重力の純黒星』が失敗に終われば、もうドラゴンを倒す術は無く、潔く諦めて逃げるだけだ。
その場合に備えて、『夜陰を急ぐ密行者』を一回行う程度の魔力は残してある。
為すべき務めが残っている以上、私がここで死ぬことは許されない。
「お願い……ッ!」
『超重力の純黒星』は絶大な破壊力を有する一方で、攻撃の方向を決めたら後はそちらへ自動的に直進するという単調な動きしかできないため、魔力の有無に関係無く、発動後に術者が軌道や速度に手を加えることは不可能なのだ。
最早私にできることと言えば、ダスクに護られながら、ただ攻撃の成功を祈るのみ。
その祈りが通じたのか、直後に異変が起きた。
「見ろ、『超重力の純黒星』が進み出したぞ……! ブレスを押し切って、じりじりとドラゴンに迫って行く……!!」
「ブレスの勢いが弱まっている……? ──もしかして……!」
魔物大全によれば、魔物たちが使うブレス攻撃は射程と威力に優れる半面、喉や口への負担が大きいそうだ。
銃火器でも、間を置かず撃ち続けることで熱や粉塵などが内部機構に蓄積し、変形や弾詰まりによって暴発の危険を高めたり、銃自体の寿命を縮めたりすると聞いたことがあるが、ブレスでも同じような現象が起こるようだ。
「この戦闘が始まってから今に至るまでに、奴がどれだけのブレスや重力機雷を吐き出してきたかなど俺も憶えてないが、奴の生涯で最も気管を酷使してきた時間だったに違い無い」
「蓄積されたダメージがこの最終局面で表面化して、土壇場の力を削いでいるのですね……!」
決して意図した展開ではなく、ここまで諦めずに重ねてきた過程が偶然実を結んだに過ぎない。
「偶然が生む運命は、私たちに味方した……!」
間近まで迫り来る『超重力の純黒星』を押し戻そうと、ドラゴンも必死の様子でブレスを吐き続けていたが、精神論だけでは克服できないものがある。
限界を迎えたドラゴンの口から、遂にブレスが途絶えた。
抵抗が無くなった瞬間、暗黒の巨大球のスピードがグンと上昇。
ビルの解体作業に使われる鉄球クレーンを遥かに上回る、圧倒的な重量と質量が襲い掛かり、ドラゴンの体を真正面から盛大に打ちのめした。
痛々しい打撃音と、遅れて轟く悲痛な絶叫。
「何とか命中はした、が……流石のタフネス、奴を仕留めるには及ばなかったか……!」
ブレスを浴びせ続けられたせいで『超重力の純黒星』の威力と速度、耐久性が減衰、致命傷を負わせるには今一歩足りず、大きくよろめかせはしたが転倒には至らなかった。
「──ですが、何の問題もありません」
最大威力とは言え、闇属性の『超重力の純黒星』では同属性に耐性のあるアメジスト・ドラゴンの強固な外殻に阻まれ、仕留め切れないであろうことは想定済み。
『夜陰を急ぐ密行者』一回分の魔力を残しておいたのは、逃走のためであると同時に、最後の追撃のための布石でもあった。
体勢が大きく崩れたドラゴンの懐を目指して、速やかに転移。
弱点の胸の傷が今、私たちの目と鼻の先にある。
「仕留められずとも、再びアメジストを砕くことには成功しました」
砕けたアメジストの破片や塵が舞い上がり、流星雨の如く辺りに降り落ちていた。
「アメジストから漏洩した大量の瘴気を吸収すれば、カグヤの『望月』は再び輝く……!」
全力の『超重力の純黒星』と最後の『夜陰を急ぐ密行者』に費やして一旦は枯渇した『望月』だが、新たな瘴気を吸収すれば瞬時に闇の魔力に変換され、ダスクに供与すれば追撃が可能。
「正真正銘、最後の一撃だ」
回復した魔力をダスクに供与。
後は攻撃を加えるのみ。
「『陰影の穿破』は今、神を穿つ」
突き出された暗黒の刃先は、神なる巨龍の傷を撃ち抜き、奥に秘められた心臓への到達を果たした。
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