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#127 神を穿つ月刃 その3 (カグヤ視点)

ー/ー



 ドラゴンの体に生える至宝龍石(スプリームジェム)のアメジストが、一段と輝きを増す。


「アメジストによる瘴気の吸収……大技の準備ですね……」


 掻き集めて蓄えた莫大な魔素(マナ)が魔力に変換され、外敵を討ち滅ぼす魔法として放出される。
 一直線に放たれる闇の波動が、夜の大気を斬り取った。


「あれは『深き怨念の魔波(ディープ・パープル)』か……!」
「気を付けて下さい。次々に撃って来ます……!」


 単発ではなく、先程ダスクが放ったものと同威力のものが四方八方に放たれていく。
 幸いにしてノトスの街に届くほどの射程は無いようだが、放たれたそれらがサーチライトのように不規則かつ広域に動いて薙ぎ払うため、辺りの地形はあっと言う間に滅茶苦茶になってしまった。


「あのダメージでまだこんな攻撃ができるとはな……。全方位にこれだけの弾幕を張られては、単に『安静の幕板(クワイエット・サンバイザー)』で足場を作って接近、というやり方では確実に命中して吹き飛んでしまうぞ」
「ならば──『魔手を躱す舞踊(ダンス・オブ・アヴォイダンス)』……ッ!!」


 闇の魔力を纏い、そこへ衝撃や魔法が命中すると短距離の空間転移を行う回避魔法。


「アンディアラ荒野では大量の瘴気が満ちていたせいで、こうした転移魔法が使えませんでしたが、ここでなら問題ありません」


 どんなに強力な攻撃や魔法だろうと、例えそれが不意打ちだろうと、『魔手を躱す舞踊(ダンス・オブ・アヴォイダンス)』は自動的に発動して完全回避する。


 早速『深き怨念の魔波(ディープ・パープル)』が飛んで来たが、命中と同時に私たちは少し離れた地点に移って事無きを得る。


 これを繰り返していけば、ドラゴンの懐まで安全に接近できる。
 だが、あの狡猾なドラゴンがそんな真似を許すはずも無く、新たな攻撃に移る。


深き怨念の魔波(ディープ・パープル)』の全方位乱射を継続しながら、口から吐き出したものは──


「また重力機雷を放ってきたぞ……!」


 大量の重力機雷が空中に展開、私たちの行動を阻害する。


「恐ろしい攻撃ではありますが、今更恐れるに値しません。もう通じないと理解できているはずなのに、どうしてこの期に及んでこんな手を……?」


 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、ということなのかも知れないが、ここまでに見せ付けられてきたドラゴンの狡猾さを考えると、そんな安易な考えとは思えない。


 ドラゴンの意図は分からないが、今は順当に『超越する次元(ヴォイド・ディメンション)』を発動。
 時を消し去って時空の狭間へ逃れてしまえば、如何なる攻撃も全て無意味となる。


 後はこのまま接近して、時が元通りになると同時に、ダスクが胸の傷へ攻撃を撃ち込めば決着だ。


「なあ、カグヤ……時間が飛んでいる間の出来事を他の奴は認識できないんだよな……?」
「……? ええ。そうですが……」


 何故そんな質問をするのか分からなかったが、直後の言葉に耳を疑った。


「見ろ、奴の眼を。俺たちを追って動いているぞ……!」
「まさか……」


 そんなはずは無いと思いながらも確認してみると、烈火の如き双眸(そうぼう)が、確かにこちらを睨み付けていた。
 更に言えば眼だけでなく、首と体の向きまでも、私たちの移動に合わせて修正していた。
 偶然だとか野生の勘だとか、そんな曖昧なものでは済まされない正確さだ。


「何故俺たちの動きが分かるんだ……?」
「……考えられるとすれば、彼もまた闇の極大魔力の持ち主だから、同じ闇属性の『超越する次元(ヴォイド・ディメンション)』が完全には効いていないのかも知れません。或いは何度か披露したことで慣れて、時間が飛んでいる間のことを僅かながら認識できるようになったのか……」
「両方かもな。いずれにせよ、動きを見通されている状態で懐に入り込むのは危険だ」


 だとすれば同じ『自在なる時空の意志(タイム・アンド・フリー・ウィル)』の『静止する現世(ソリッド・ワールド)』や『改変する運命(オルタナティブ・デスティニー)』でも認識されてしまう可能性が大きく、迂闊に使うのは危険だ。
 回避手段としては依然有効だが、攻撃に繋げようとすれば反撃を受ける。


 時が元通りに動き出すと同時にドラゴンが細かいブレスを連続で放ってきたが、『超越する次元(ヴォイド・ディメンション)』は一度発動すると再発動まで数秒間のインターバルを要するため、『魔手を躱す舞踊(ダンス・オブ・アヴォイダンス)』で次々に回避していく。


「『超越する次元(ヴォイド・ディメンション)』を見切られてしまっては攻め手に欠けるな」
「ノトスの街に被害を出さないためにも、早急(さっきゅう)に決着を付けたいのですが、これでは長引いてしまいそうです。ここまで動き続けたせいで、私もかなり疲れ──疲れ、て……?」


 言いかけて、そこで私はあることに──とても重大な事実に気付いてしまい、愕然とした。


「どうしたカグヤ?」
「……どうやら私たちは、まんまと敵の術中に嵌まってしまったようです」


 震える声で答える。


「術中? 何のことだ?」
「気付きませんか? 辺りの瘴気が薄くなってきていることに……」
「瘴気……? 言われてみれば確かに……──ま、まさか……ッ!?」


 指摘されて、ダスクも気付いたようだ。


「私が自分と同じく瘴気を取り込んで闇の魔力に換えているということに、あのドラゴンも気付いたのでしょう。『リュミスの(あぎと)』があるアンディアラ荒野を離れたのはそのためです」


 アンディアラ荒野に居る内は、『リュミスの(あぎと)』から際限無く溢れ出す瘴気が辺り一帯に満ちていたため、私もダスクもドラゴンも存分に瘴気を吸収して、魔力消費量の多い魔法を惜しみ無く連発できていた。


 このノトス付近にも瘴気はあるものの、アンディアラ荒野に比べればその量は半分も無い。
 つまり、()の地と同じ感覚で魔法を使って瘴気を吸収していると、周囲の瘴気が急激に減少してしまい、遠からず尽きる。


「瘴気が薄い地域へ戦場を移した上で、攻撃を連発して互いに魔力を減らし合う消耗戦に持ち込んだ。辺りの瘴気が減って吸収による魔力補充ができなくなれば、いずれ双方の魔力が枯渇する。それが奴の狙いか……!」
「魔力自体は『望月』の方が上のようですが、それとて無尽蔵ではありません。実際、吸収できる量が大きく減ったせいで、今の私の魔力は万全な状態の半分以下です。源となる魔素(マナ)が足りなくなれば何もできなくなって、種族の絶対的な力の差に物を言わされて終わりです」


 あらゆる生物は魔素(マナ)を摂取して魔力を生成、その魔力を以て魔法を発動する。
 魔法は放たれた後、再び魔素(マナ)に戻って世界に拡散するのだが、エレノアから教えられた話によると、魔法から戻った直後の魔素(マナ)は性質が不安定になっているために、摂取しても魔力に変換できず、変換できる程度に安定化するまで多少の時間を要するのだそうだ。


「……逃げるは恥だが後で勝つ。『夜陰を急ぐ密行者(シークレット・エクスプレス)』で撤退して再戦の機会を待つ手もある。俺はともかく、『邪神の息吹』を鎮められる君だけは絶対に死んではならない」


 状況が不利なら一時撤退するという考えは何ら間違いではなく、それを実行するのも容易いが、


「……ダスクさんはどう思いますか? 本当にそうするべきだと思いますか?」
「逃げたい気持ちは大いにあるが、戦略的に考えると良策とは言い難い。君が主張したように、ここで倒さなければドラゴンを見失う可能性もあるし、回復の時間を与えることになる。加えてこの戦いで俺たちは手の内を晒し過ぎた。再戦したとしても同じ手は通じず、今と同じ状態まで追い詰めることは不可能だろう」


 私の見解と全く同じ回答が返って来たことに、安心したような残念なような、そんな気持ちになった。


「……そうですね。それに何よりも、ここで私たちが戦いを放棄してしまえばノトスの街が危険に晒されます。ひょっとしたら、それを見越した上でこの場所を選んだのかも知れません」


 ノトスの街を事実上の人質にして、私たちが撤退したくてもできない状況を構築する。
 私たちがノトスの安全確保のために戦いを挑んで来たことをあのドラゴンが知っているはずも無いが、同族が大勢暮らす場所を簡単には見捨てられまい、という計算はあるに違い無い。


 今ここで目の前の強敵を確実に仕留めて後顧の憂いを断つ、という意思は互いに同じ。


「決着を付けなくてはなりません。私の『望月』が輝きを失うその前に……!」


 どちらかが力尽きるまで、この戦いは終わらない。


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「アメジストによる瘴気の吸収……大技の準備ですね……」
 掻き集めて蓄えた莫大な|魔素《マナ》が魔力に変換され、外敵を討ち滅ぼす魔法として放出される。
 一直線に放たれる闇の波動が、夜の大気を斬り取った。
「あれは『|深き怨念の魔波《ディープ・パープル》』か……!」
「気を付けて下さい。次々に撃って来ます……!」
 単発ではなく、先程ダスクが放ったものと同威力のものが四方八方に放たれていく。
 幸いにしてノトスの街に届くほどの射程は無いようだが、放たれたそれらがサーチライトのように不規則かつ広域に動いて薙ぎ払うため、辺りの地形はあっと言う間に滅茶苦茶になってしまった。
「あのダメージでまだこんな攻撃ができるとはな……。全方位にこれだけの弾幕を張られては、単に『|安静の幕板《クワイエット・サンバイザー》』で足場を作って接近、というやり方では確実に命中して吹き飛んでしまうぞ」
「ならば──『|魔手を躱す舞踊《ダンス・オブ・アヴォイダンス》』……ッ!!」
 闇の魔力を纏い、そこへ衝撃や魔法が命中すると短距離の空間転移を行う回避魔法。
「アンディアラ荒野では大量の瘴気が満ちていたせいで、こうした転移魔法が使えませんでしたが、ここでなら問題ありません」
 どんなに強力な攻撃や魔法だろうと、例えそれが不意打ちだろうと、『|魔手を躱す舞踊《ダンス・オブ・アヴォイダンス》』は自動的に発動して完全回避する。
 早速『|深き怨念の魔波《ディープ・パープル》』が飛んで来たが、命中と同時に私たちは少し離れた地点に移って事無きを得る。
 これを繰り返していけば、ドラゴンの懐まで安全に接近できる。
 だが、あの狡猾なドラゴンがそんな真似を許すはずも無く、新たな攻撃に移る。
『|深き怨念の魔波《ディープ・パープル》』の全方位乱射を継続しながら、口から吐き出したものは──
「また重力機雷を放ってきたぞ……!」
 大量の重力機雷が空中に展開、私たちの行動を阻害する。
「恐ろしい攻撃ではありますが、今更恐れるに値しません。もう通じないと理解できているはずなのに、どうしてこの期に及んでこんな手を……?」
 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、ということなのかも知れないが、ここまでに見せ付けられてきたドラゴンの狡猾さを考えると、そんな安易な考えとは思えない。
 ドラゴンの意図は分からないが、今は順当に『|超越する次元《ヴォイド・ディメンション》』を発動。
 時を消し去って時空の狭間へ逃れてしまえば、如何なる攻撃も全て無意味となる。
 後はこのまま接近して、時が元通りになると同時に、ダスクが胸の傷へ攻撃を撃ち込めば決着だ。
「なあ、カグヤ……時間が飛んでいる間の出来事を他の奴は認識できないんだよな……?」
「……? ええ。そうですが……」
 何故そんな質問をするのか分からなかったが、直後の言葉に耳を疑った。
「見ろ、奴の眼を。俺たちを追って動いているぞ……!」
「まさか……」
 そんなはずは無いと思いながらも確認してみると、烈火の如き|双眸《そうぼう》が、確かにこちらを睨み付けていた。
 更に言えば眼だけでなく、首と体の向きまでも、私たちの移動に合わせて修正していた。
 偶然だとか野生の勘だとか、そんな曖昧なものでは済まされない正確さだ。
「何故俺たちの動きが分かるんだ……?」
「……考えられるとすれば、彼もまた闇の極大魔力の持ち主だから、同じ闇属性の『|超越する次元《ヴォイド・ディメンション》』が完全には効いていないのかも知れません。或いは何度か披露したことで慣れて、時間が飛んでいる間のことを僅かながら認識できるようになったのか……」
「両方かもな。いずれにせよ、動きを見通されている状態で懐に入り込むのは危険だ」
 だとすれば同じ『|自在なる時空の意志《タイム・アンド・フリー・ウィル》』の『|静止する現世《ソリッド・ワールド》』や『|改変する運命《オルタナティブ・デスティニー》』でも認識されてしまう可能性が大きく、迂闊に使うのは危険だ。
 回避手段としては依然有効だが、攻撃に繋げようとすれば反撃を受ける。
 時が元通りに動き出すと同時にドラゴンが細かいブレスを連続で放ってきたが、『|超越する次元《ヴォイド・ディメンション》』は一度発動すると再発動まで数秒間のインターバルを要するため、『|魔手を躱す舞踊《ダンス・オブ・アヴォイダンス》』で次々に回避していく。
「『|超越する次元《ヴォイド・ディメンション》』を見切られてしまっては攻め手に欠けるな」
「ノトスの街に被害を出さないためにも、|早急《さっきゅう》に決着を付けたいのですが、これでは長引いてしまいそうです。ここまで動き続けたせいで、私もかなり疲れ──疲れ、て……?」
 言いかけて、そこで私はあることに──とても重大な事実に気付いてしまい、愕然とした。
「どうしたカグヤ?」
「……どうやら私たちは、まんまと敵の術中に嵌まってしまったようです」
 震える声で答える。
「術中? 何のことだ?」
「気付きませんか? 辺りの瘴気が薄くなってきていることに……」
「瘴気……? 言われてみれば確かに……──ま、まさか……ッ!?」
 指摘されて、ダスクも気付いたようだ。
「私が自分と同じく瘴気を取り込んで闇の魔力に換えているということに、あのドラゴンも気付いたのでしょう。『リュミスの|咢《あぎと》』があるアンディアラ荒野を離れたのはそのためです」
 アンディアラ荒野に居る内は、『リュミスの|咢《あぎと》』から際限無く溢れ出す瘴気が辺り一帯に満ちていたため、私もダスクもドラゴンも存分に瘴気を吸収して、魔力消費量の多い魔法を惜しみ無く連発できていた。
 このノトス付近にも瘴気はあるものの、アンディアラ荒野に比べればその量は半分も無い。
 つまり、|彼《か》の地と同じ感覚で魔法を使って瘴気を吸収していると、周囲の瘴気が急激に減少してしまい、遠からず尽きる。
「瘴気が薄い地域へ戦場を移した上で、攻撃を連発して互いに魔力を減らし合う消耗戦に持ち込んだ。辺りの瘴気が減って吸収による魔力補充ができなくなれば、いずれ双方の魔力が枯渇する。それが奴の狙いか……!」
「魔力自体は『望月』の方が上のようですが、それとて無尽蔵ではありません。実際、吸収できる量が大きく減ったせいで、今の私の魔力は万全な状態の半分以下です。源となる|魔素《マナ》が足りなくなれば何もできなくなって、種族の絶対的な力の差に物を言わされて終わりです」
 あらゆる生物は|魔素《マナ》を摂取して魔力を生成、その魔力を以て魔法を発動する。
 魔法は放たれた後、再び|魔素《マナ》に戻って世界に拡散するのだが、エレノアから教えられた話によると、魔法から戻った直後の|魔素《マナ》は性質が不安定になっているために、摂取しても魔力に変換できず、変換できる程度に安定化するまで多少の時間を要するのだそうだ。
「……逃げるは恥だが後で勝つ。『|夜陰を急ぐ密行者《シークレット・エクスプレス》』で撤退して再戦の機会を待つ手もある。俺はともかく、『邪神の息吹』を鎮められる君だけは絶対に死んではならない」
 状況が不利なら一時撤退するという考えは何ら間違いではなく、それを実行するのも容易いが、
「……ダスクさんはどう思いますか? 本当にそうするべきだと思いますか?」
「逃げたい気持ちは大いにあるが、戦略的に考えると良策とは言い難い。君が主張したように、ここで倒さなければドラゴンを見失う可能性もあるし、回復の時間を与えることになる。加えてこの戦いで俺たちは手の内を晒し過ぎた。再戦したとしても同じ手は通じず、今と同じ状態まで追い詰めることは不可能だろう」
 私の見解と全く同じ回答が返って来たことに、安心したような残念なような、そんな気持ちになった。
「……そうですね。それに何よりも、ここで私たちが戦いを放棄してしまえばノトスの街が危険に晒されます。ひょっとしたら、それを見越した上でこの場所を選んだのかも知れません」
 ノトスの街を事実上の人質にして、私たちが撤退したくてもできない状況を構築する。
 私たちがノトスの安全確保のために戦いを挑んで来たことをあのドラゴンが知っているはずも無いが、同族が大勢暮らす場所を簡単には見捨てられまい、という計算はあるに違い無い。
 今ここで目の前の強敵を確実に仕留めて後顧の憂いを断つ、という意思は互いに同じ。
「決着を付けなくてはなりません。私の『望月』が輝きを失うその前に……!」
 どちらかが力尽きるまで、この戦いは終わらない。