#125 神を穿つ月刃 その1 (カグヤ視点)
ー/ー
『超越する次元』が解除、時は再び刻み始める。
「喰らえ……!」
ダスクの『陰影の穿破』がドラゴンの背中に突き刺さる。
最初から亀裂が入っていた胸部よりも堅牢だが、『望月』の供与で限界まで貫通力を高めれば突破できないほどではない。
そして先程のように、ダスクが剣に魔力を流し込むことで分厚い外殻に亀裂を入れ、その下に隠れるドラゴンの肉や内臓に継続的なダメージを与えていく。
「胸側よりも与えるダメージは小さいが、安全度は背中側が上だ」
と思いきや、次の瞬間には凶暴な顔面が私たちを直視していた。
「そ、そうでした……ドラゴンは人間と違って首が長いから、自分の背中に顔を向けることができるのですね……」
読みの甘さを嘆く暇も無く、ドラゴンが再びブレスの準備に入る。
ブレスが相手では防御は難しく、回避してこのポジションを明け渡すのも良い選択とは言えない。
「では、どうぞお召し上がり下さい……ッ!!」
要領は先程やったのと全く同じ、大量の『安静の幕板』を作り出し、重ねて塔を作る。
ただし今回は回避が目的ではないため、私はその場から動かない。
さながら孫悟空の如意棒のように『安静の幕板』の塔を一気に伸ばし、ブレスを溜め込んだドラゴンの口に突っ込ませた。
発射口に異物を突っ込まれた状態で引き金を引いてしまうと、果たして銃弾はどうなるだろうか。
たちまち口の中で爆発が起きて、折れ飛んだ牙と血反吐が派手に宙を舞う。
「防御がそのまま攻撃に繋がっている。やるなカグヤ……!」
どんな生物でも口の中は脆弱なもので、痛々しい悲鳴を上げたドラゴンが身を捩る。
これでまた流れはこちらに来た、と安心したのも束の間、ドラゴンが新たな動きを見せた。
両翼が躍動、巻き起こる風が巨体を宙へ持ち上げていく。
「こいつ、飛ぶ気か……!?」
陸を離れ、私たちを乗せたドラゴンは空高くへ急上昇。
龍の背に乗って夜空を翔ける──文章にすると何とも詩的で夢を感じさせるが、実際に体験してみると夢どころか悪夢そのものだ。
「きゃあああああああああああ……ッ!!」
両親に反発して一人で遊園地へ行った時、生まれて初めてジェットコースターに乗った経験が思い出される。
あれは安全性に配慮されたアトラクション故にスリルを楽しめたが、今乗っているドラゴンの背中には、当然ながらシートベルトも安全バーも緊急停止装置も無く、スピードは遥かに上、故にただ恐怖しか感じられない。
天地が目まぐるしく逆転し、突風のせいで体は凍えて眼もまともに開けられず、意識を持っていかれそうだ。
「縦横無尽に飛び回って私たちを振り落とす気です……!!」
「しっかり掴まってろ。絶対に俺から離れるな……!!」
私はダスクに、ダスクは突き刺した剣に必死にしがみ付き、この如何ともし難い状況が終わるのを待つ。
必死に耐えていると、唐突にドラゴンの動きが変わった。
のたうち回って邪魔者を振り落とそうとする飛び方から一転、飛行機のように安定した真っ直ぐな飛行へ切り替わったのだ。
瘴気に覆われた空を切り裂いて、巨龍はぐんぐんとその速度を上げていく。
「急に大人しくなったぞ。こいつ、今度は何を考えている……?」
「まるでどこかを目指しているような……でもどこへ?」
『リュミスの咢』があるアンディアラ荒野がこのドラゴンの巣窟だった訳だから、そこを飛び立って他に向かう場所など見当も付かない。
「瘴気のエリアは抜けたようだな」
「ええ。普通の空が懐かしく感じられます」
空を見上げれば、そこには月と星々の輝き。
この辺りにもまだ瘴気は漂っているが、それでも充満した瘴気に全てが閉ざされていたアンディアラ荒野に比べれば、夜空がはっきりと見える程度に澄んでいる。
その月明かりに照らされて地上の様子が窺えた。
このドラゴンが今まさに目指している方角、その大地に灯る無数の光。
「あれは、街明かり……? まさか……」
「アンディアラ荒野に近い街……ということは、あれがノトスか……!?」
ヴェセルの母方の実家イーグ家がある街で、エルマーの故郷。
私もダスクも訪れたことは無いが、見えているあれがノトスと考えて間違い無いだろう。
そのノトスの方角へ向けてドラゴンが真っ直ぐ飛行しているのは、何かの偶然だろうか。
否、只の偶然であって欲しいと願ったまさにその時、滑走路への着陸態勢に入った旅客機のように、ドラゴンが緩やかに高度を下げ始めた。
「そんな、まさか……偶然じゃない……このドラゴン、ノトスを目指しているの……!?」
「まずいぞ。こんな奴が突っ込んだら街は終わりだ……!」
ノトスを襲う可能性のあるドラゴンを討伐して被害を未然に防いで欲しい、というのがヴェセルやエルマーの願いだというのに、そのノトスにドラゴンを向かわせてしまっては本末転倒だ。
夜間故に眠っている者が多く、そんな時間帯にこんな物騒な来客を許してしまっては、人々は対応できず日中以上の被害が出てしまう。
「ダスクさん、攻撃を加えてドラゴンを墜落させて下さい……!」
「駄目だ。今はしがみ付くのが精一杯、攻撃するだけの余裕が無い……ッ!」
翼は動きを止め、巨体は地球の重力に従って流星の如く滑空していく。
あと一分もしない内に住民の命を踏み潰して、ノトスの街に着陸してしまう。
「今のドラゴンは翼による推進力ではなく、重力加速による滑空で飛んでいる。それなら……」
しかし、そのためには一手足りない。
「『自在なる時空の意志・静止する現世』」
この世の時間と事象が完全固定され、認識と活動が行えるのは私とダスクのみ。
「時を止めたのか……! だが……」
「ええ。最大停止時間は十秒程度、それに止まっている間はどんな攻撃を加えようともダメージは一切与えられません」
時間が止まればドラゴンの急降下も止まり、それに伴う気流も止まるため、次の魔法を快適に発動できる。
「『宵月に誘われる宿命』!」
強い重力を発生させる暗黒の巨大球を上方へ打ち上げる。
以前のアンデッドとの戦いで作り出したものは直径五メートル程度だったが、今回は七十メートルを超える巨体と強力な闇属性魔力を持つアメジスト・ドラゴンが相手であるため、サイズは以前の二十倍──直径は百メートルほどに調節した。
『静止する現世』が解けて、止まっていた時が再始動する。
ドラゴンはさぞ驚いたことだろう。
何せノトスへ向けて急降下していたのが一転、背中から落ち始めたのだから。
突如としてバランスを失ったドラゴンは『宵月に誘われる宿命』へ向けて、空の方向へ真っ逆様に落ちて行くのみ。
「掴まれ……!」
「はい……!」
このままドラゴンの背に留まっていると巻き込まれるため、ダスクに抱えられて即離脱。
『安静の幕板』で足場は自由に設置できるため、私たちはドラゴンが落ちて叩き付けられる瞬間を何の心配も無く見届けることができた。
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『|超越する次元《ヴォイド・ディメンション》』が解除、時は再び刻み始める。
「喰らえ……!」
ダスクの『|陰影の穿破《アンノウン・チャージ》』がドラゴンの背中に突き刺さる。
最初から亀裂が入っていた胸部よりも堅牢だが、『望月』の供与で限界まで貫通力を高めれば突破できないほどではない。
そして先程のように、ダスクが剣に魔力を流し込むことで分厚い外殻に亀裂を入れ、その下に隠れるドラゴンの肉や内臓に継続的なダメージを与えていく。
「胸側よりも与えるダメージは小さいが、安全度は背中側が上だ」
と思いきや、次の瞬間には凶暴な顔面が私たちを直視していた。
「そ、そうでした……ドラゴンは人間と違って首が長いから、自分の背中に顔を向けることができるのですね……」
読みの甘さを嘆く暇も無く、ドラゴンが再びブレスの準備に入る。
ブレスが相手では防御は難しく、回避してこのポジションを明け渡すのも良い選択とは言えない。
「では、どうぞお召し上がり下さい……ッ!!」
要領は先程やったのと全く同じ、大量の『|安静の幕板《クワイエット・サンバイザー》』を作り出し、重ねて塔を作る。
ただし今回は回避が目的ではないため、私はその場から動かない。
さながら孫悟空の如意棒のように『|安静の幕板《クワイエット・サンバイザー》』の塔を一気に伸ばし、ブレスを溜め込んだドラゴンの口に突っ込ませた。
発射口に異物を突っ込まれた状態で引き金を引いてしまうと、果たして銃弾はどうなるだろうか。
たちまち口の中で爆発が起きて、折れ飛んだ牙と血反吐が派手に宙を舞う。
「防御がそのまま攻撃に繋がっている。やるなカグヤ……!」
どんな生物でも口の中は脆弱なもので、痛々しい悲鳴を上げたドラゴンが身を|捩《よじ》る。
これでまた流れはこちらに来た、と安心したのも束の間、ドラゴンが新たな動きを見せた。
両翼が躍動、巻き起こる風が巨体を宙へ持ち上げていく。
「こいつ、飛ぶ気か……!?」
陸を離れ、私たちを乗せたドラゴンは空高くへ急上昇。
龍の背に乗って夜空を翔ける──文章にすると何とも詩的で夢を感じさせるが、実際に体験してみると夢どころか悪夢そのものだ。
「きゃあああああああああああ……ッ!!」
両親に反発して一人で遊園地へ行った時、生まれて初めてジェットコースターに乗った経験が思い出される。
あれは安全性に配慮されたアトラクション故にスリルを楽しめたが、今乗っているドラゴンの背中には、当然ながらシートベルトも安全バーも緊急停止装置も無く、スピードは遥かに上、故にただ恐怖しか感じられない。
天地が目まぐるしく逆転し、突風のせいで体は凍えて眼もまともに開けられず、意識を持っていかれそうだ。
「縦横無尽に飛び回って私たちを振り落とす気です……!!」
「しっかり掴まってろ。絶対に俺から離れるな……!!」
私はダスクに、ダスクは突き刺した剣に必死にしがみ付き、この如何ともし難い状況が終わるのを待つ。
必死に耐えていると、唐突にドラゴンの動きが変わった。
のたうち回って邪魔者を振り落とそうとする飛び方から一転、飛行機のように安定した真っ直ぐな飛行へ切り替わったのだ。
瘴気に覆われた空を切り裂いて、巨龍はぐんぐんとその速度を上げていく。
「急に大人しくなったぞ。こいつ、今度は何を考えている……?」
「まるでどこかを目指しているような……でもどこへ?」
『リュミスの|咢《あぎと》』があるアンディアラ荒野がこのドラゴンの巣窟だった訳だから、そこを飛び立って他に向かう場所など見当も付かない。
「瘴気のエリアは抜けたようだな」
「ええ。普通の空が懐かしく感じられます」
空を見上げれば、そこには月と星々の輝き。
この辺りにもまだ瘴気は漂っているが、それでも充満した瘴気に全てが閉ざされていたアンディアラ荒野に比べれば、夜空がはっきりと見える程度に澄んでいる。
その月明かりに照らされて地上の様子が窺えた。
このドラゴンが今まさに目指している方角、その大地に灯る無数の光。
「あれは、街明かり……? まさか……」
「アンディアラ荒野に近い街……ということは、あれがノトスか……!?」
ヴェセルの母方の実家イーグ家がある街で、エルマーの故郷。
私もダスクも訪れたことは無いが、見えているあれがノトスと考えて間違い無いだろう。
そのノトスの方角へ向けてドラゴンが真っ直ぐ飛行しているのは、何かの偶然だろうか。
否、只の偶然であって欲しいと願ったまさにその時、滑走路への着陸態勢に入った旅客機のように、ドラゴンが緩やかに高度を下げ始めた。
「そんな、まさか……偶然じゃない……このドラゴン、ノトスを目指しているの……!?」
「まずいぞ。こんな奴が突っ込んだら街は終わりだ……!」
ノトスを襲う可能性のあるドラゴンを討伐して被害を未然に防いで欲しい、というのがヴェセルやエルマーの願いだというのに、そのノトスにドラゴンを向かわせてしまっては本末転倒だ。
夜間故に眠っている者が多く、そんな時間帯にこんな物騒な来客を許してしまっては、人々は対応できず日中以上の被害が出てしまう。
「ダスクさん、攻撃を加えてドラゴンを墜落させて下さい……!」
「駄目だ。今はしがみ付くのが精一杯、攻撃するだけの余裕が無い……ッ!」
翼は動きを止め、巨体は地球の重力に従って流星の如く滑空していく。
あと一分もしない内に住民の命を踏み潰して、ノトスの街に着陸してしまう。
「今のドラゴンは翼による推進力ではなく、重力加速による滑空で飛んでいる。それなら……」
しかし、そのためには一手足りない。
「『|自在なる時空の意志《タイム・アンド・フリー・ウィル》・|静止する現世《ソリッド・ワールド》』」
この世の時間と事象が完全固定され、認識と活動が行えるのは私とダスクのみ。
「時を止めたのか……! だが……」
「ええ。最大停止時間は十秒程度、それに止まっている間はどんな攻撃を加えようともダメージは一切与えられません」
時間が止まればドラゴンの急降下も止まり、それに伴う気流も止まるため、次の魔法を快適に発動できる。
「『|宵月に誘われる宿命《フェイタル・アトラクション》』!」
強い重力を発生させる暗黒の巨大球を上方へ打ち上げる。
以前のアンデッドとの戦いで作り出したものは直径五メートル程度だったが、今回は七十メートルを超える巨体と強力な闇属性魔力を持つアメジスト・ドラゴンが相手であるため、サイズは以前の二十倍──直径は百メートルほどに調節した。
『|静止する現世《ソリッド・ワールド》』が解けて、止まっていた時が再始動する。
ドラゴンはさぞ驚いたことだろう。
何せノトスへ向けて急降下していたのが一転、背中から落ち始めたのだから。
突如としてバランスを失ったドラゴンは『|宵月に誘われる宿命《フェイタル・アトラクション》』へ向けて、空の方向へ真っ逆様に落ちて行くのみ。
「掴まれ……!」
「はい……!」
このままドラゴンの背に留まっていると巻き込まれるため、ダスクに抱えられて即離脱。
『|安静の幕板《クワイエット・サンバイザー》』で足場は自由に設置できるため、私たちはドラゴンが落ちて叩き付けられる瞬間を何の心配も無く見届けることができた。