#124 超越する時 (カグヤ視点)
ー/ー
発動と同時に、アンディアラ荒野の景色が流れるように消え去った。
まるで宇宙空間にでも放り出されたような、暗黒の虚空だけが漠然と広がり、全てを満たしている。
「こ、これは一体……!?」
術者である私に触れているダスクだけは、私と同じ体験が可能だ。
理解を超越した現象に動揺する彼に、私は冷静に言い聞かせる。
「大丈夫です。ここは『時空の狭間』──どの世界にも属さない空間です」
『招聖の儀』でこの世界に召喚された時や、『自在なる時空の意志・改変する運命』で時空を遡る時も、この時空の狭間を訪れた。
地面も無ければ重力も無いため、今は宇宙飛行士の如く虚空を漂う身。
「時空の狭間……? 何だそれは。この魔法は一体何なんだ……?」
「『自在なる時空の意志・超越する次元』──時間と次元を飛び越える魔法です」
簡単に説明したが、ダスクの頭上に浮かんだ疑問符が消える様子は無い。
「さっぱり訳が分からないが、時間を飛び越える、か……。そう言えば初めて会った夜、聖騎士に取り押さえられていた君がそんな感じの動きを見せていたが……」
そのお陰で、聖騎士たちがダスクに浴びせようとした聖水を代わりに受けることができた。
「あの時は完全な無意識だったため、自分でも何が起きたのか全く認識できませんでしたが、意識的に発動した今は、こうして時が飛んでいる間の出来事がはっきりと観測できています」
アンディアラ荒野の地形は消えたが、ここからでもドラゴンの姿と、大量の重力機雷が作動して辺りを呑み込んでいく様子が確認できる。
「まずいぞ、早く逃げないと粉微塵だ……!」
「大丈夫です。今見えているドラゴンの姿や重力機雷の様子は映像──虚像や幻影のようなもので、実害はありません」
二次元が三次元に、三次元が四次元に干渉できないように、あのドラゴンが如何なる攻撃をしようとも、次元を超越して時空の狭間へ移った今の私たちには触れることさえ叶わない。
「……つまりこういうことか? 『超越する次元』は、この時空の狭間とやらに避難することで、あらゆる干渉を無効化する魔法だと」
「その通りです。効果が切れない内にドラゴンの近くまで移動しましょう」
この魔法は単に次元の狭間へ一時避難するだけでなく、時間の流れを消し去っており、その最中の出来事を他の者は一切認識できない。
時間と事象を完全停止させる『静止する現世』とは違い、時の流れに変化は生じないため、『超越する次元』の効果時間が終了して元の次元に帰る頃には、重力機雷による抹消も終わっている。
足場も重力も消えてしまっているせいで歩いたり走ったりはできないが、しかし空間を滑るように移動することはできるため、スムーズにドラゴンの弱点、胸の傷の目の前まで問題無く行ける。
「発動中は一切の干渉を受け付けませんが、逆にこちらから干渉することもできません」
「攻撃を加えるのは『超越する次元』が終了して、時間と次元が元通りになった瞬間だな」
『超越する次元』の最大効果時間は約十秒。
時が戻り、瘴気に包まれたアンディアラ荒野の禍々しい景色が瞬時に甦る。
ドラゴンの視点では、以前私がサウレリオン大聖堂で無意識にやった時のように重力機雷の作動がいつの間にか終わっていて、私たちが瞬間移動したように見えたはず。
「『陰影の穿破』」
絶対不可避、完全決着の攻撃を無傷で回避された挙句、気付かぬ内に懐に潜り込まれていたという異常事態に理解が追い付かず、ドラゴンが動揺を見せた。
その瞬間を見計らって、ダスクの絶妙な攻撃を撃ち込む。
同じ箇所に同じ攻撃を三度も喰らわされ、苦悶の叫びと共に巨体がぐらりと傾いた。
「体勢が崩れました……!」
「ならこのまま剣に魔力を流し込む……!」
今までは攻撃が命中したら即離脱していたが、反撃が来ないのであれば追撃あるのみ。
注射針で毒液を注入するが如く、突き刺した剣を通してドラゴンの体内に魔法を送り込むことで、ダスクが心臓の破壊を試みる。
そうはさせまいとドラゴンが前足を動かして私たちを叩き潰しに来たが、そこは私の出番。
「『安静の幕板・八重奏』」
重ねて耐久性を増した八枚の防壁に、ドラゴンの前足が衝突。
その一撃だけで半壊してしまったが、防御には成功した。
邪魔を撥ね退け、ダスクの攻撃ターンは続く。
「まだ倒れないか……! 本当にタフな奴だな」
それでもダメージは確実に蓄積して、最強生物の生命力に翳りが見え始めているのは確かだ。
またしてもドラゴンが口を開け、そこに魔力が溜まっていく。
「前足の打撃では威力不足と見て、攻撃方法を切り替えたようですね」
胸に留まっている私たちにブレスを放てば、ドラゴン自身の体も無傷では済まないのは確実だが、このままダスクの攻撃で体内器官に深刻なダメージを受け続けるよりはマシという判断だろう。
魔力充填に要した時間は五秒程度、ドラゴンが破壊の吐息を解き放つ。
「それならもう一度──『超越する次元』ッ!!」
時間が消え去り、私たちの身は再び時空の狭間へ移る。
相手の攻撃を完全に無効化しつつ、安全に移動できる無敵の魔法。
しかし発動中はこちらの攻撃も無効化されるため、ダスクが突き刺した剣もドラゴンの体から離れてしまって仕切り直しだ。
「今の内に背後に回り込もう。背中を刺して逆側から心臓を狙う」
数度の攻撃に晒されて出血までしている胸よりも、背中の外殻の防御力は高いが、この狡猾な巨龍相手に同じ部位ばかり狙っていると動きを読まれかねない。
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発動と同時に、アンディアラ荒野の景色が流れるように消え去った。
まるで宇宙空間にでも放り出されたような、暗黒の虚空だけが漠然と広がり、全てを満たしている。
「こ、これは一体……!?」
術者である私に触れているダスクだけは、私と同じ体験が可能だ。
理解を超越した現象に動揺する彼に、私は冷静に言い聞かせる。
「大丈夫です。ここは『時空の狭間』──どの世界にも属さない空間です」
『招聖の儀』でこの世界に召喚された時や、『|自在なる時空の意志《タイム・アンド・フリー・ウィル》・|改変する運命《オルタナティブ・デスティニー》』で時空を|遡《さかのぼ》る時も、この時空の狭間を訪れた。
地面も無ければ重力も無いため、今は宇宙飛行士の如く虚空を漂う身。
「時空の狭間……? 何だそれは。この魔法は一体何なんだ……?」
「『|自在なる時空の意志《タイム・アンド・フリー・ウィル》・|超越する次元《ヴォイド・ディメンション》』──時間と次元を飛び越える魔法です」
簡単に説明したが、ダスクの頭上に浮かんだ疑問符が消える様子は無い。
「さっぱり訳が分からないが、時間を飛び越える、か……。そう言えば初めて会った夜、聖騎士に取り押さえられていた君がそんな感じの動きを見せていたが……」
そのお陰で、聖騎士たちがダスクに浴びせようとした聖水を代わりに受けることができた。
「あの時は完全な無意識だったため、自分でも何が起きたのか全く認識できませんでしたが、意識的に発動した今は、こうして時が飛んでいる間の出来事がはっきりと観測できています」
アンディアラ荒野の地形は消えたが、ここからでもドラゴンの姿と、大量の重力機雷が作動して辺りを呑み込んでいく様子が確認できる。
「まずいぞ、早く逃げないと粉微塵だ……!」
「大丈夫です。今見えているドラゴンの姿や重力機雷の様子は映像──虚像や幻影のようなもので、実害はありません」
二次元が三次元に、三次元が四次元に干渉できないように、あのドラゴンが如何なる攻撃をしようとも、次元を超越して時空の狭間へ移った今の私たちには触れることさえ叶わない。
「……つまりこういうことか? 『|超越する次元《ヴォイド・ディメンション》』は、この時空の狭間とやらに避難することで、あらゆる干渉を無効化する魔法だと」
「その通りです。効果が切れない内にドラゴンの近くまで移動しましょう」
この魔法は単に次元の狭間へ一時避難するだけでなく、時間の流れを消し去っており、その最中の出来事を他の者は一切認識できない。
時間と事象を完全停止させる『|静止する現世《ソリッド・ワールド》』とは違い、時の流れに変化は生じないため、『|超越する次元《ヴォイド・ディメンション》』の効果時間が終了して元の次元に帰る頃には、重力機雷による抹消も終わっている。
足場も重力も消えてしまっているせいで歩いたり走ったりはできないが、しかし空間を滑るように移動することはできるため、スムーズにドラゴンの弱点、胸の傷の目の前まで問題無く行ける。
「発動中は一切の干渉を受け付けませんが、逆にこちらから干渉することもできません」
「攻撃を加えるのは『|超越する次元《ヴォイド・ディメンション》』が終了して、時間と次元が元通りになった瞬間だな」
『|超越する次元《ヴォイド・ディメンション》』の最大効果時間は約十秒。
時が戻り、瘴気に包まれたアンディアラ荒野の禍々しい景色が瞬時に甦る。
ドラゴンの視点では、以前私がサウレリオン大聖堂で無意識にやった時のように重力機雷の作動がいつの間にか終わっていて、私たちが瞬間移動したように見えたはず。
「『|陰影の穿破《アンノウン・チャージ》』」
絶対不可避、完全決着の攻撃を無傷で回避された挙句、気付かぬ内に懐に潜り込まれていたという異常事態に理解が追い付かず、ドラゴンが動揺を見せた。
その瞬間を見計らって、ダスクの絶妙な攻撃を撃ち込む。
同じ箇所に同じ攻撃を三度も喰らわされ、苦悶の叫びと共に巨体がぐらりと傾いた。
「体勢が崩れました……!」
「ならこのまま剣に魔力を流し込む……!」
今までは攻撃が命中したら即離脱していたが、反撃が来ないのであれば追撃あるのみ。
注射針で毒液を注入するが如く、突き刺した剣を通してドラゴンの体内に魔法を送り込むことで、ダスクが心臓の破壊を試みる。
そうはさせまいとドラゴンが前足を動かして私たちを叩き潰しに来たが、そこは私の出番。
「『|安静の幕板《クワイエット・サンバイザー》・|八重奏《オクテット》』」
重ねて耐久性を増した八枚の防壁に、ドラゴンの前足が衝突。
その一撃だけで半壊してしまったが、防御には成功した。
邪魔を撥ね退け、ダスクの攻撃ターンは続く。
「まだ倒れないか……! 本当にタフな奴だな」
それでもダメージは確実に蓄積して、最強生物の生命力に|翳《かげ》りが見え始めているのは確かだ。
またしてもドラゴンが口を開け、そこに魔力が溜まっていく。
「前足の打撃では威力不足と見て、攻撃方法を切り替えたようですね」
胸に留まっている私たちにブレスを放てば、ドラゴン自身の体も無傷では済まないのは確実だが、このままダスクの攻撃で体内器官に深刻なダメージを受け続けるよりはマシという判断だろう。
魔力充填に要した時間は五秒程度、ドラゴンが破壊の吐息を解き放つ。
「それならもう一度──『|超越する次元《ヴォイド・ディメンション》』ッ!!」
時間が消え去り、私たちの身は再び時空の狭間へ移る。
相手の攻撃を完全に無効化しつつ、安全に移動できる無敵の魔法。
しかし発動中はこちらの攻撃も無効化されるため、ダスクが突き刺した剣もドラゴンの体から離れてしまって仕切り直しだ。
「今の内に背後に回り込もう。背中を刺して逆側から心臓を狙う」
数度の攻撃に晒されて出血までしている胸よりも、背中の外殻の防御力は高いが、この狡猾な巨龍相手に同じ部位ばかり狙っていると動きを読まれかねない。