(後) 岬まで
ー/ー 今度は、レオンが着たアロハシャツにプリントされた模様を指差す。
「ほら、サイズは小さいけど、同じパイナップルがいっぱい並んでいるでしょう?」
「ああ」
「ペアルックにしてみたんだよ」
「ペアルック?」
「そう。そっくり同じ服を着るんじゃ芸がないから、ワンランク上のペアルックにしてみたんだよ」
「はあ……」
レオンは曖昧にうなずいた。多分、よくわかっていないのだろうけれど、それでかまわない。
夢の中で、こんなに楽しいことが出来るなんて。律人は、砂浜が続くずっと先を指差して言った。
「ねえ、あっちまで行ってみよう」
「ああ」
歩きながら、レオンがまぶしそうに空を見上げて言う。
「あれは?」
「ああ、あれは太陽だよ。そうか、スチームパンクの世界では、空にはいつもスモッグがかかっていて、太陽が見えないもんね」
太陽は輝き、そこらじゅうに明るい光が降り注ぎ、波に反射してキラキラしている。
「ここは、とてもきれいだ。それに、すごく気持ちいいな」
うっとりしているレオンに、律人は聞いてみた。
「こっちのほうがいい?」
「え?」
レオンが律人の顔を見る。
「僕は、レオンと一緒にいられるならどこだっていいんだ。たまたま僕がそういう小説にハマっていたから、レオンはギアアークの勇者として生まれたけれど、ずっとそうじゃなくちゃいけないってわけじゃない。
そもそも、レオンは実際に敵と戦っているわけじゃないし、それに、アロハシャツもよく似合うし」
「あー、ええと……」
考え込むレオンに、律人は言った。
「ねえ、今ここにいるみたいに、僕が行きたいと思ったらどこにでも行けるんだよ。試してみて、よくわかった。
だから、またスチームパンクの世界に行きたくなったら行けばいいし、ほかのどこにだって行けるんだ。着るものだって、こんなふうに好きに着替えられるし」
「なるほど、そうか」
「ねえ、楽しくない?」
「ああ、すごく楽しいな」
ようやくレオンは微笑んだ。歩きながら律人は、むき出しのレオンの腕に、同じくむき出しの自分の腕を絡める。
「こんなに楽しいなら、ずっと夢の中にいたいなあ。もうずっと目が覚めなくたってかまわないよ。
夢の中にいる限り、杖もいらないし、どこも痛くならないし」
律人がそう言うと、不意にレオンが立ち止まったので、腕を組んだまま歩いていた律人は、後ろに引き戻された。レオンが言った。
「それは、ダメだ」
まさか否定されるとは思っていなかったので、びっくりしながら律人は尋ねる。
「なんで?」
レオンは穏やかに言う。
「ずっと眠っていたら、体によくないだろう。人間は、起きて、物を食べたり、トイレに行ったりしないと」
「それはまあ、そうだけど」
せっかくいい気分で話していたのに、ずいぶん当たり前なことを言うものだと思う。僕だって、本当にそう出来ると思っているわけじゃないのに。
律人が、ちょっとムッとしていると、さらにレオンは言った。
「律人がちゃんと起きて、ご飯を食べて元気にしていなかったら、おばあさんたちが心配するだろう」
「そうだね」
口ではそう言いながら、律人は唇を尖らせた。そんなことは、言われなくたってわかっている。
だが、レオンは続ける。
「俺だって心配だ。律人には、なるべく元気でいてほしい。
もちろん、起きているときは、具合が悪くて辛いこともあるだろうけれど、ずっと眠っていては、きっと体が弱ってしまう。それは、嫌だ」
レオンは、悲しげな表情でうつむいた。なんだか、胸がきゅんとする。
律人は、レオンの腕を、ぎゅっと抱きしめるようにしながら言った。
「わかったよ、心配してくれてありがとう。もう目が覚めなくていいなんて言わない」
「そうか」
「うん。起きているときだって、部屋でレオンと話せるんだし」
「そうだな」
「夢の中でこうしているのも楽しいけど、部屋で話すのも好きだし。ねえ、また次に部屋で話すとき、夢の中で、どこに行って何をするか計画を立てよう」
「そうだな」
さらに歩いて行くと、湾曲して続く砂浜の先に、岬が見えて来た。
「ねえ、あそこまで行ってみよう」
「ああ」(終)
「ほら、サイズは小さいけど、同じパイナップルがいっぱい並んでいるでしょう?」
「ああ」
「ペアルックにしてみたんだよ」
「ペアルック?」
「そう。そっくり同じ服を着るんじゃ芸がないから、ワンランク上のペアルックにしてみたんだよ」
「はあ……」
レオンは曖昧にうなずいた。多分、よくわかっていないのだろうけれど、それでかまわない。
夢の中で、こんなに楽しいことが出来るなんて。律人は、砂浜が続くずっと先を指差して言った。
「ねえ、あっちまで行ってみよう」
「ああ」
歩きながら、レオンがまぶしそうに空を見上げて言う。
「あれは?」
「ああ、あれは太陽だよ。そうか、スチームパンクの世界では、空にはいつもスモッグがかかっていて、太陽が見えないもんね」
太陽は輝き、そこらじゅうに明るい光が降り注ぎ、波に反射してキラキラしている。
「ここは、とてもきれいだ。それに、すごく気持ちいいな」
うっとりしているレオンに、律人は聞いてみた。
「こっちのほうがいい?」
「え?」
レオンが律人の顔を見る。
「僕は、レオンと一緒にいられるならどこだっていいんだ。たまたま僕がそういう小説にハマっていたから、レオンはギアアークの勇者として生まれたけれど、ずっとそうじゃなくちゃいけないってわけじゃない。
そもそも、レオンは実際に敵と戦っているわけじゃないし、それに、アロハシャツもよく似合うし」
「あー、ええと……」
考え込むレオンに、律人は言った。
「ねえ、今ここにいるみたいに、僕が行きたいと思ったらどこにでも行けるんだよ。試してみて、よくわかった。
だから、またスチームパンクの世界に行きたくなったら行けばいいし、ほかのどこにだって行けるんだ。着るものだって、こんなふうに好きに着替えられるし」
「なるほど、そうか」
「ねえ、楽しくない?」
「ああ、すごく楽しいな」
ようやくレオンは微笑んだ。歩きながら律人は、むき出しのレオンの腕に、同じくむき出しの自分の腕を絡める。
「こんなに楽しいなら、ずっと夢の中にいたいなあ。もうずっと目が覚めなくたってかまわないよ。
夢の中にいる限り、杖もいらないし、どこも痛くならないし」
律人がそう言うと、不意にレオンが立ち止まったので、腕を組んだまま歩いていた律人は、後ろに引き戻された。レオンが言った。
「それは、ダメだ」
まさか否定されるとは思っていなかったので、びっくりしながら律人は尋ねる。
「なんで?」
レオンは穏やかに言う。
「ずっと眠っていたら、体によくないだろう。人間は、起きて、物を食べたり、トイレに行ったりしないと」
「それはまあ、そうだけど」
せっかくいい気分で話していたのに、ずいぶん当たり前なことを言うものだと思う。僕だって、本当にそう出来ると思っているわけじゃないのに。
律人が、ちょっとムッとしていると、さらにレオンは言った。
「律人がちゃんと起きて、ご飯を食べて元気にしていなかったら、おばあさんたちが心配するだろう」
「そうだね」
口ではそう言いながら、律人は唇を尖らせた。そんなことは、言われなくたってわかっている。
だが、レオンは続ける。
「俺だって心配だ。律人には、なるべく元気でいてほしい。
もちろん、起きているときは、具合が悪くて辛いこともあるだろうけれど、ずっと眠っていては、きっと体が弱ってしまう。それは、嫌だ」
レオンは、悲しげな表情でうつむいた。なんだか、胸がきゅんとする。
律人は、レオンの腕を、ぎゅっと抱きしめるようにしながら言った。
「わかったよ、心配してくれてありがとう。もう目が覚めなくていいなんて言わない」
「そうか」
「うん。起きているときだって、部屋でレオンと話せるんだし」
「そうだな」
「夢の中でこうしているのも楽しいけど、部屋で話すのも好きだし。ねえ、また次に部屋で話すとき、夢の中で、どこに行って何をするか計画を立てよう」
「そうだな」
さらに歩いて行くと、湾曲して続く砂浜の先に、岬が見えて来た。
「ねえ、あそこまで行ってみよう」
「ああ」(終)
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