空中通路の上から律人の姿を見つけたレオンが、階段を駆け下りてそばまでやって来た。
「律人」
肩で息をしながらつぶやくレオンを見て、律人はうれしさのあまり、思わず笑い声を上げる。
「レオン、カッコいい」
「いや……」
律人の言葉にはにかむ表情も素敵だ。それで、律人は言葉を重ねる。
「ここまで走って来る姿もカッコよかったよ」
「律人に、早く会いたくて」
まっすぐに律人を見ながらそう言ってくれるレオンが、やっぱり大好きだ。
「僕もだよ。僕もレオンに早く会いたかった。
ねえ、今日は何をしようか」
「そうだな……」
ここはスチームパンクの世界、律人の夢の中だ。この夢を見始めたばかりの頃は、自分が夢の中にいることがわからなかった。
だが、何度も連続した夢を見て、現実の世界でもレオンと話すうちに、今では、これが自分が見ている夢であることも、レオンと自分の関係も、すべて認識出来るようになった。
夢の中では、律人が嫌だと思うことは何も起こらないし、すべては律人の思いのままに展開する。おそらくそれは、律人が夢のすべてを創り出している、言わば神からだ。
街中を見回していると、蒸気式の路面電車がやって来るのが見えた。律人は指差しながら言う。
「あれに乗ろう」
シートに並んで座りながら、レオンが言った。
「この電車は、どこに向かっているんだ?」
「レオンは、どこに行きたい?」
「そうだな……」
考えている端正な横顔を見ながら、律人は聞いた。
「じゃあさ、海と山、どっちがいい?」
レオンがこちらを向いて、鳶色の瞳で、じっと律人を見つめる。
「それは、どういう……」
レオンは、そのどちらも知らないのだと思い至り、律人は言った。
「じゃあ、海に行こう。次の駅に着いたら、もう海のそばだよ」
路面電車を降りると、そこは白い砂浜だった。その向こうに、青い海と水平線と、白い雲を浮かべた青空が広がっている。
「わぁい!」
律人はうれしくなって駆け出した。後ろから、レオンのブーツがザッザッと砂を踏みしめる音がついて来るのが聞こえる。
「ほら、これが海だよ。気持ちい~い!」
両手を広げ、海から吹いて来る風が髪を乱すのにまかせる。振り返ると、レオンが呆然としたように海を眺める姿が目に入った。
その姿も表情も素敵だけれど、それにしても。律人は、くすりと笑いながら言った。
「海とスチームパンクファッションって、似合わないね」
すると、レオンがこちらを見てすかさず言った。
「海とパジャマも似合わないけどな」
律人は自分の体を見下ろす。一度、レオンに、自分もスチームパンクファッションを身に着けてみてはどうかと言われたものの、まだ着てみたことはなく、相変わらずパジャマのままだ。
「たしかに。じゃあさ、海にふさわしい服に着替えようか」
「おう……」
「ちょっと待ってね」
律人は目を閉じて、想像する。海辺を歩くのにふさわしい服装は……。
「よし」
目を開けると、不安げな表情のレオンがこちらを見ていた。
「うわ……!」
一瞬、レオンの姿に釘付けになった後、律人は吹き出した。レオンは、いっそう不安げな顔になってつぶやく。
「な、なんだよ。おかしいか?」
律人は、まだ笑いながら、首を横に振る。
「ううん、すごく似合ってる。でも、こんな格好のレオンって……」
律人は、レオンをアロハシャツとハーフパンツに着替えさせようと思った。そして、それはとてもうまくいったのだが、ギアアークの勇者レオン・クロックワークのアロハシャツ姿は、あまりにも意外過ぎた。
半袖から伸びる腕も、ハーフパンツからのぞく膝から下も、すんなりと長くて形がよく、とても素敵なことには変わりないけれど。
それから、ようやく自分の体を見下ろす。律人の服装は、Tシャツとハーフパンツにしてみた。
「ねえ、これを見て」
律人は、Tシャツの胸に描かれたイラストを指差す。
「これはパイナップルっていう南国のフルーツなんだよ。海辺にぴったりだと思って」
「はあ」
「それから、これ」