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第7話:ヴァラ編・報告の重み

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 腕が燃えておる。冷たく、黒く。

 【ヘク(人間)】の刃が残したのはただの傷ではない。山に満ちる【グル(聖穢)】が我が【セズ(生命力)】と戦い、治癒を妨げる呪われた裂け目だ。傷口から漂うあの甘い匂い。【グル】が肉の奥深くに根を張った証。

 許しがたい。その侮辱(ぶじょく)も。この痛みも。

 風に削られた山麓(さんろく)をよろめきながら進む。一歩一歩が、崩壊しかけた己が身体との闘いだった。

 最後の岩だらけの尾根を越えた。

 眼下に前線基地。我らが【クラッカ(氏族)】の鋭角的(えいかくてき)紋章(もんしょう)が容赦ない風に(はた)めいておった。

(もう少しだ)

 凍てつく空気の中で息が白く霧となる。すれ違う【ゾルカー(魔族)】の兵士たち。足が止まった。一瞬。その視線。何かを見てはならぬものを見たような目。

(……許さぬ)

 報告せねば。父上に知らせねば。シャアイラが何に堕ちたかを。

 * * *

 境界線の番兵が我を迎え撃つべく動いた。黒木の長柄槍(ながえやり)を構える。穂先(ほさき)甲角獣(こうかくじゅう)の角。黒甲虫の甲殻(こうかく)から作られた重厚な(よろい)。奴らは我を認識し、その姿勢がさらに硬直(こうちょく)した。

「ヴァラ様」一人がうめいた。我が状態に目を見開いて。

「指揮官のもとへ」

 短く言い放ち、奴らを押しのけて通った。

 案内された先は指揮官天幕の入口。そこで待つよう命じられた。

 意図的な侮辱。父のやり方だ。負傷し血を流したまま外に立たされる。己が怒りに煮えたぎりながら。

 天幕の入口の内側。威圧的な甲冑掛(かっちゅうか)けが目に入った。巨大砂丘甲虫(さきゅうこうちゅう)の甲殻。虹色(にじいろ)の板が薄暗い光を飲み込んでおる。我がまだ成し遂げておらぬ試練の証。

 * * *

 ——記憶が蘇る。数年前、訓練場。

 小さく泥にまみれたシャアイラが、我には習得(しゅうとく)できなかった難しい戦闘構えを完璧にこなしておった。指揮官の娘である我には。

 横から見ておった父の目。一瞬、誇りのような光が宿った。我にではなく。奴が我らの一族に連れてきた、甲虫飼(こうちゅうか)いの孤児(こじ)に向けて。

 訓練の後、奴は我の前でシャアイラに言った。「その気迫があれば、いずれ砂丘甲虫も狩れよう」

 我には一瞥(いちべつ)もくれずに。

 * * *

 歯を食いしばった。

 これは単なる任務の失敗ではない。奴が何年も見ようとしなかった真実を、その目に突きつけるための戦いだ。

 ようやく番兵が入るよう合図した。

 * * *

 天幕は質素だった。中央に瞑想台(めいそうだい)。父、キョウランはその上に両脚を折り、背を伸ばして座っておった。目を閉じ、微動だにしない。隅には副官テッサが始めから静かに控えておった。

 奴は目を開けずに話した。声は低く、無感情な唸り。「戻ったか。一人で……しかも負傷して。報告が必要だ。シャアイラはどこだ?」

 我は冷たい土の上に跪き、頭を下げた。視線を奴の台の前の床に落とす。

「父上様」声は固く、姿勢によってくぐもっておった。「シャアイラについてご報告せねばなりませぬ」

 沈黙を一瞬置いた。この(かが)んだ姿勢から、最初の一撃を放つ。

「奴は【カエレン・トール(精神の侵染)】に穢されました」

 一拍。風の音だけが響いた。それから奴の呼吸が止まった。

「【ヘク】の味方をしました」

 奴の目が開いた。冷たい紫の光で燃えておる。

 奴は一つの流れるような動作で立ち上がった。瞑想の静寂は砕け散り、純粋な威圧感(いあつかん)に取って代わられた。

 我は跪いたまま身じろぎもせず、最後の言葉を吐き出した。

「奴は【シャーラク・コトール(裏切り者)】です!」

「黙れ!」

 奴が怒鳴った。その一喝が天幕を震わせた。

 我はひるんだ。だが必死に訴えようとした。「父上、我はこの目で見たのです——」

「黙れと言った」

 それが奴の唯一の反応だった。再び怒鳴ることはなかった。台から動くこともなかった。ただ開いた手を上げただけだった。

 低い唸りが天幕を満たした。近くの油灯(ゆとう)の炎が奴の手に吸い寄せられるように横に伸びた。床の埃が奴の足元で小さな渦を巻き始める。重い革の垂れ布(たれぬの)が内側に吸い寄せられ、留め紐がきしむ音を立てた。

 天幕の中の空気が薄くなった。耳がキーンと鳴った。

 息が——詰まった。何かが胸を掴んでおる。膝が床から離れた。膝から引き剥がされ、天幕を横切って引きずられる。ブーツは固められた土の上で無駄に擦れた。

 その力は我を奴の掌中(しょうちゅう)に叩きつけた。素手で我が喉を掴んだ。冷たい。揺るぎない。ゆっくりと、意図的に、締め始めた。

 息が詰まり——そして止まった。

 肺が燃えた。視界の端で黒い斑点がちらつき、あまりの苦痛に涙が(にじ)んだ。奴の手首を掻きむしることもできた手は、脇で拳に握られたままだった。

(抗うな。もっとひどくなる。弱さを見せるな。耐えろ)

 生涯にわたる奴の残酷な規律(きりつ)を通して学んだ教訓。

 意識を失う寸前。奴が身を寄せた。毒のようなささやきが耳に届いた。

「我が奴をあの辺境(へんきょう)の村から連れてきたのは、お前には決して見ておらぬ戦士の素質を奴に見たからだ」

 締め付けが強まった。

「奴は力で己が場所を勝ち取った。お前は血によってそれが当然だと信じておる」

 視界が暗くなる。

「だからお前は弱い」

 意識の糸が切れかける。

「そしてだから我はお前の哀れで嫉妬深(しっとぶか)い嘘を一言も信じぬ」

 奴は手を開いた。

 * * *

 床。衝撃が腕を貫いた。

「——ッ!」

 (あえ)いだ。空気。空気が足りぬ。喉の奥から、風が鳴くような音が漏れる。視界が——白い斑点が——ゆっくりと消えていく。

 無理やり膝をつき、頭を下げた。

「深くお詫び申し上げます……指揮官」

 奴はすでに背を向けておった。

「テッサ」と奴は隅に控えておった副官に言った。声は再び無感情な唸りとなっておった。「【ズル(追跡者)】部隊を編成し、最も腕の立つ者に率いさせろ」

「はっ」副官は短くうなずいた。

 キョウランは続けた。「任務はシャアイラを見つけることだ。観察のみ。奴らの目が我が目となる。この件の真実を我にもたらせ」

 床から、我は最後の必死の試みをした。声は(かす)れたささやきだった。「父上……我を行かせてください。証明させて……」

 奴は一歩、台から降りた。素早い動きだった。

 素足が我が顎に激突した。

 跪いておった我は後ろに吹き飛ばされ、仰向けに倒れた。頭蓋(ずがい)が割れるような痛み。舌を噛み切り、口の中に血が満ちた。視界が揺れ、二重になった。

 痛みの霞の中で、何が求められておるか我は知っておった。じっとしていたい本能と戦いながら、横向きになり、それからゆっくりと苦痛に耐えながら再び膝をついた。世界が激しく回転した。血が口から固められた土に滴った。

 だが、我は姿勢を保った。

「テッサ」と奴は言った。「娘を閉じ込めておけ。野営地(やえいち)から一歩も出すな。この件、誰にも漏らすな。ヴァラの口からも誰の耳にも入らぬようにせよ」

「はっ」副官のテッサが短く応えた。その口の端にはほとんど見えぬほどの冷笑(れいしょう)が浮かんでおった。「この我が直々(じきじき)に見届けよう……指揮官殿」

 そう言うと、副官の深紅(しんく)の瞳が床に跪く我を射抜いた。

 奴は最後にもう一度、跪く我に向き直った。その目は冷たい石と化しておった。

「お前の話が真か(いつわ)りか、我は見届ける。そしてその時、ヴァラ、お前と我は最後の清算(せいさん)をする」

 奴は瞑想台に戻った。副官が前に出た。

 どうにか我は深く頭を下げた。血が滴り続けておった。「失礼いたします……指揮官」

 奴は我を認めなかった。

 代わりに副官が入口へと歩み寄り、軽蔑(けいべつ)するように垂れ布を引っかけ上げると、顎で外をしゃくった。よろめきながら立ち上がり、入口へと向かった。一歩一歩が苦痛で、地面が足元で揺れておるようだった。副官は天幕の垂れ布を押さえ、侮蔑(ぶべつ)するような目で我が退出を見つめておった。

 * * *

 外に出て三歩も進まぬうちに脚が崩れた。冷たい土の上に倒れ込み、銅と土の味を噛みしめた。

 副官が見下ろしながら冷たく言った。

「泥の中で膝をついて」

 我は震えながらゆっくりと顔を上げた。天幕の影からあの女の深紅の瞳が、(あざけ)るような目で我を見返しておった。

「それがお前の場所だ、ヴァラ様」

 沈黙の後、副官は静かに垂れ布を落とした。重い獣皮(じゅうひ)が落ちる音と共に入口は封じられた。

 * * *

 しばらくして、我は再び立ち上がった。無言で己が住まう天幕へと向かった。

 垂れ布をめくると、三人の従者が駆け寄ってきた。「ヴァラ様!」「お戻りなさいませ!」「まあ、そのお召し物……そしてそのお怪我は!」口々に言いながら、手際よく我が汚れた外套とその下の肌着(はだぎ)を剥ぎ取っていく。温かい湯を含んだ布が鱗と肌を撫で、火酒(かしゅ)(さかずき)が差し出された。

 我はされるがままだった。

 従者の一人が我が腕の傷に触れた時、その黒ずんだ縁を見て息を呑んだ。「ヴァラ様、この傷は……【グル】の呪いのようです」

 我は何も答えなかった。ただ差し出された火酒を飲み干すだけだった。

(だが我は間違ってはおらぬ)

(シャアイラは堕ちた。あの【ヘク】と共に)

(【ズル】が真実を持ち帰った時……父上は己が過ちを知ることになる)

(そしてその時——)

(……我が価値を、認めざるを得なくなる)


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 腕が燃えておる。冷たく、黒く。
 【|ヘク《人間》】の刃が残したのはただの傷ではない。山に満ちる【|グル《聖穢》】が我が【|セズ《生命力》】と戦い、治癒を妨げる呪われた裂け目だ。傷口から漂うあの甘い匂い。【グル】が肉の奥深くに根を張った証。
 許しがたい。その|侮辱《ぶじょく》も。この痛みも。
 風に削られた|山麓《さんろく》をよろめきながら進む。一歩一歩が、崩壊しかけた己が身体との闘いだった。
 最後の岩だらけの尾根を越えた。
 眼下に前線基地。我らが【|クラッカ《氏族》】の|鋭角的《えいかくてき》な|紋章《もんしょう》が容赦ない風に|旗《はた》めいておった。
(もう少しだ)
 凍てつく空気の中で息が白く霧となる。すれ違う【|ゾルカー《魔族》】の兵士たち。足が止まった。一瞬。その視線。何かを見てはならぬものを見たような目。
(……許さぬ)
 報告せねば。父上に知らせねば。シャアイラが何に堕ちたかを。
 * * *
 境界線の番兵が我を迎え撃つべく動いた。黒木の|長柄槍《ながえやり》を構える。|穂先《ほさき》は|甲角獣《こうかくじゅう》の角。黒甲虫の|甲殻《こうかく》から作られた重厚な|鎧《よろい》。奴らは我を認識し、その姿勢がさらに|硬直《こうちょく》した。
「ヴァラ様」一人がうめいた。我が状態に目を見開いて。
「指揮官のもとへ」
 短く言い放ち、奴らを押しのけて通った。
 案内された先は指揮官天幕の入口。そこで待つよう命じられた。
 意図的な侮辱。父のやり方だ。負傷し血を流したまま外に立たされる。己が怒りに煮えたぎりながら。
 天幕の入口の内側。威圧的な|甲冑掛《かっちゅうか》けが目に入った。巨大|砂丘甲虫《さきゅうこうちゅう》の甲殻。|虹色《にじいろ》の板が薄暗い光を飲み込んでおる。我がまだ成し遂げておらぬ試練の証。
 * * *
 ——記憶が蘇る。数年前、訓練場。
 小さく泥にまみれたシャアイラが、我には|習得《しゅうとく》できなかった難しい戦闘構えを完璧にこなしておった。指揮官の娘である我には。
 横から見ておった父の目。一瞬、誇りのような光が宿った。我にではなく。奴が我らの一族に連れてきた、|甲虫飼《こうちゅうか》いの|孤児《こじ》に向けて。
 訓練の後、奴は我の前でシャアイラに言った。「その気迫があれば、いずれ砂丘甲虫も狩れよう」
 我には|一瞥《いちべつ》もくれずに。
 * * *
 歯を食いしばった。
 これは単なる任務の失敗ではない。奴が何年も見ようとしなかった真実を、その目に突きつけるための戦いだ。
 ようやく番兵が入るよう合図した。
 * * *
 天幕は質素だった。中央に|瞑想台《めいそうだい》。父、キョウランはその上に両脚を折り、背を伸ばして座っておった。目を閉じ、微動だにしない。隅には副官テッサが始めから静かに控えておった。
 奴は目を開けずに話した。声は低く、無感情な唸り。「戻ったか。一人で……しかも負傷して。報告が必要だ。シャアイラはどこだ?」
 我は冷たい土の上に跪き、頭を下げた。視線を奴の台の前の床に落とす。
「父上様」声は固く、姿勢によってくぐもっておった。「シャアイラについてご報告せねばなりませぬ」
 沈黙を一瞬置いた。この|屈《かが》んだ姿勢から、最初の一撃を放つ。
「奴は【|カエレン・トール《精神の侵染》】に穢されました」
 一拍。風の音だけが響いた。それから奴の呼吸が止まった。
「【ヘク】の味方をしました」
 奴の目が開いた。冷たい紫の光で燃えておる。
 奴は一つの流れるような動作で立ち上がった。瞑想の静寂は砕け散り、純粋な|威圧感《いあつかん》に取って代わられた。
 我は跪いたまま身じろぎもせず、最後の言葉を吐き出した。
「奴は【|シャーラク・コトール《裏切り者》】です!」
「黙れ!」
 奴が怒鳴った。その一喝が天幕を震わせた。
 我はひるんだ。だが必死に訴えようとした。「父上、我はこの目で見たのです——」
「黙れと言った」
 それが奴の唯一の反応だった。再び怒鳴ることはなかった。台から動くこともなかった。ただ開いた手を上げただけだった。
 低い唸りが天幕を満たした。近くの|油灯《ゆとう》の炎が奴の手に吸い寄せられるように横に伸びた。床の埃が奴の足元で小さな渦を巻き始める。重い革の|垂れ布《たれぬの》が内側に吸い寄せられ、留め紐がきしむ音を立てた。
 天幕の中の空気が薄くなった。耳がキーンと鳴った。
 息が——詰まった。何かが胸を掴んでおる。膝が床から離れた。膝から引き剥がされ、天幕を横切って引きずられる。ブーツは固められた土の上で無駄に擦れた。
 その力は我を奴の|掌中《しょうちゅう》に叩きつけた。素手で我が喉を掴んだ。冷たい。揺るぎない。ゆっくりと、意図的に、締め始めた。
 息が詰まり——そして止まった。
 肺が燃えた。視界の端で黒い斑点がちらつき、あまりの苦痛に涙が|滲《にじ》んだ。奴の手首を掻きむしることもできた手は、脇で拳に握られたままだった。
(抗うな。もっとひどくなる。弱さを見せるな。耐えろ)
 生涯にわたる奴の残酷な|規律《きりつ》を通して学んだ教訓。
 意識を失う寸前。奴が身を寄せた。毒のようなささやきが耳に届いた。
「我が奴をあの|辺境《へんきょう》の村から連れてきたのは、お前には決して見ておらぬ戦士の素質を奴に見たからだ」
 締め付けが強まった。
「奴は力で己が場所を勝ち取った。お前は血によってそれが当然だと信じておる」
 視界が暗くなる。
「だからお前は弱い」
 意識の糸が切れかける。
「そしてだから我はお前の哀れで|嫉妬深《しっとぶか》い嘘を一言も信じぬ」
 奴は手を開いた。
 * * *
 床。衝撃が腕を貫いた。
「——ッ!」
 |喘《あえ》いだ。空気。空気が足りぬ。喉の奥から、風が鳴くような音が漏れる。視界が——白い斑点が——ゆっくりと消えていく。
 無理やり膝をつき、頭を下げた。
「深くお詫び申し上げます……指揮官」
 奴はすでに背を向けておった。
「テッサ」と奴は隅に控えておった副官に言った。声は再び無感情な唸りとなっておった。「【|ズル《追跡者》】部隊を編成し、最も腕の立つ者に率いさせろ」
「はっ」副官は短くうなずいた。
 キョウランは続けた。「任務はシャアイラを見つけることだ。観察のみ。奴らの目が我が目となる。この件の真実を我にもたらせ」
 床から、我は最後の必死の試みをした。声は|掠《かす》れたささやきだった。「父上……我を行かせてください。証明させて……」
 奴は一歩、台から降りた。素早い動きだった。
 素足が我が顎に激突した。
 跪いておった我は後ろに吹き飛ばされ、仰向けに倒れた。|頭蓋《ずがい》が割れるような痛み。舌を噛み切り、口の中に血が満ちた。視界が揺れ、二重になった。
 痛みの霞の中で、何が求められておるか我は知っておった。じっとしていたい本能と戦いながら、横向きになり、それからゆっくりと苦痛に耐えながら再び膝をついた。世界が激しく回転した。血が口から固められた土に滴った。
 だが、我は姿勢を保った。
「テッサ」と奴は言った。「娘を閉じ込めておけ。|野営地《やえいち》から一歩も出すな。この件、誰にも漏らすな。ヴァラの口からも誰の耳にも入らぬようにせよ」
「はっ」副官のテッサが短く応えた。その口の端にはほとんど見えぬほどの|冷笑《れいしょう》が浮かんでおった。「この我が|直々《じきじき》に見届けよう……指揮官殿」
 そう言うと、副官の|深紅《しんく》の瞳が床に跪く我を射抜いた。
 奴は最後にもう一度、跪く我に向き直った。その目は冷たい石と化しておった。
「お前の話が真か|偽《いつわ》りか、我は見届ける。そしてその時、ヴァラ、お前と我は最後の|清算《せいさん》をする」
 奴は瞑想台に戻った。副官が前に出た。
 どうにか我は深く頭を下げた。血が滴り続けておった。「失礼いたします……指揮官」
 奴は我を認めなかった。
 代わりに副官が入口へと歩み寄り、|軽蔑《けいべつ》するように垂れ布を引っかけ上げると、顎で外をしゃくった。よろめきながら立ち上がり、入口へと向かった。一歩一歩が苦痛で、地面が足元で揺れておるようだった。副官は天幕の垂れ布を押さえ、|侮蔑《ぶべつ》するような目で我が退出を見つめておった。
 * * *
 外に出て三歩も進まぬうちに脚が崩れた。冷たい土の上に倒れ込み、銅と土の味を噛みしめた。
 副官が見下ろしながら冷たく言った。
「泥の中で膝をついて」
 我は震えながらゆっくりと顔を上げた。天幕の影からあの女の深紅の瞳が、|嘲《あざけ》るような目で我を見返しておった。
「それがお前の場所だ、ヴァラ様」
 沈黙の後、副官は静かに垂れ布を落とした。重い|獣皮《じゅうひ》が落ちる音と共に入口は封じられた。
 * * *
 しばらくして、我は再び立ち上がった。無言で己が住まう天幕へと向かった。
 垂れ布をめくると、三人の従者が駆け寄ってきた。「ヴァラ様!」「お戻りなさいませ!」「まあ、そのお召し物……そしてそのお怪我は!」口々に言いながら、手際よく我が汚れた外套とその下の|肌着《はだぎ》を剥ぎ取っていく。温かい湯を含んだ布が鱗と肌を撫で、|火酒《かしゅ》の|杯《さかずき》が差し出された。
 我はされるがままだった。
 従者の一人が我が腕の傷に触れた時、その黒ずんだ縁を見て息を呑んだ。「ヴァラ様、この傷は……【グル】の呪いのようです」
 我は何も答えなかった。ただ差し出された火酒を飲み干すだけだった。
(だが我は間違ってはおらぬ)
(シャアイラは堕ちた。あの【ヘク】と共に)
(【ズル】が真実を持ち帰った時……父上は己が過ちを知ることになる)
(そしてその時——)
(……我が価値を、認めざるを得なくなる)