爪の付け根が、見たこともないどす黒い紫色に変色している。それを確認しようと曲げた関節が、メキメキと、乾燥した枝が折れるような音を立てた。
痛みはない。
痛みがないことが、何よりも恐ろしい。
僕は震える手で、窓の外のプランターを見た。
そこにあったのは、青々としたミントではなかった。
茎は炭のように真っ黒に縮れ、土からは「焦げた肉」のような、鼻をつく腐敗臭が立ち上っている。
……違う。匂いがしなかったんじゃない。僕の鼻が、自分の体が放つ臭いに、ずっと蓋をしていただけだ。
「……何、これ。僕の、体……」
スマホが異常なほどの熱を帯び始めた。
カバー越しでも火傷しそうな熱量。
それなのに、指先は氷のように冷え切り、感覚を失っている。脳が「熱い」と叫んでも、死んだ皮膚はもう、温度を伝える機能を放棄していた。
テレビの電源が、指一本触れずに入った。
ニュース番組は、三日前の山道での転落事故を報じていた。
犠牲者名簿。そこには、カズキ、サオリ、タクミ、ミサの名前が並んでいる。
そして、その次にあるのは――僕の名前。
僕はドライブを断ってはいなかった。
具合が悪いまま、無理をして乗り込み、
後部座席でーー
スマホが再び震えた。
ミサ:「もう!やっと気づいたの? ずっと返信を無視してたのは、あんたの体だよ」
さっきまで「未読」だった僕のメッセージに、「既読 1000」というあり得ない数字が刻まれていた。
この部屋の暗がりに潜む無数の「誰か」が、僕の断末魔を、腐敗を、面白がって覗き込んでいる。
サオリ:「ね、みんな、待ってるよ」
背後のクローゼットの鏡を見る。
そこに映る僕は、頭からどす黒い土を零しながら、スマホを握りしめたまま、ただ青白く発光していた。
僕はゆっくりと、返信を打ち込んだ。
『今から、そっちに行くね』
送信ボタンを押した瞬間、部屋の明かりが消え、完璧な静寂が訪れた。