六月の湿った夜。ベランダに置いて育てている鉢植えのミントは、街灯の光を浴びて青々と茂った姿を見せている。
いつもなら窓を開ければ爽やかな香りが届くはずなのに、今夜はどういうわけか、あの透き通った匂いがほとんどしない。
「……うーん。まだ、鼻が詰まってるのかなあ」
三日前、急な体調不良でドライブをキャンセルして以来、味覚も嗅覚もぼんやりしたままだ。
スマホの画面が、深夜の闇を刺すように照らしている。五人だけのグループチャット「いつめん」通知は、三日間途絶えたままだ。
「ねえ、明日どうする? 育ててるミントでモヒート作れるよ」
僕が送ったメッセージの横には、既読の数字がつかない。一分、五分、十分。
自分が思っている以上に、みんなを怒らせてしまったのだろうか。熱っぽい体を引きずってでも、あの時一緒に行くべきだったのかもしれない。
無性に喉が渇いて、机の上のマグカップを手に取った。
一口含んだ瞬間、喉は激しく拒絶反応を起こす。
「……っ、げほっ!」
爽やかなはずのハーブティーは、舌の上でジャリジャリとした「砂」の感触に変わっていた。
慌てて吐き出し、カップの中を見ると、そこには泥のような灰色の液体が淀んでいる。
風邪のせいで味覚がおかしくなった、なんてレベルじゃない。……そもそも、この飲み物はいつ淹れたものだったか。
『ピコン』
静寂を切り裂いて、通知音が鳴った。
カズキ:「ごめんごめん、やっとこっち落ち着いた」
サオリ:「モヒートいいじゃん! でも、みんなで飲んだほうが美味しいよ」
タクミ:「今から迎えに行こうか?」
心臓がドクリと跳ねた。
安堵が胸に広がる。だが、返信を打とうとして、スマホを持つ自分の指先に目が釘付けになった。
「えっ……?」