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観月のウソ

ー/ー



 思いがけない急展開に、俺の頭は真っ白になる。
 観月は妹だ。血の繋がりがあろうとなかろうと、大事な妹に変わりはない。でも観月は、俺のことを、兄以上の存在として見てきたと言う。そして血縁関係がないとわかった今、観月は俺を完全に異性として捉え、好意を伝えた。


「……なんて、言うと思った?」


 観月は悪戯っぽく笑った。俺の腕にしがみついたまま、べぇっと舌を出して見せる。
 ここまで雰囲気を作っておいて、すべて冗談でしたっていうのか。何がしたかったんだ?


「義理の妹に告白されるって、どうだった? いい気分だった?」
「何だよ、からかうために、わざわざここまで連れてきたのか?」
「そうだよ。兄さんのことなんか、好きなわけないじゃん。今までのわたしの態度見てきて、よく信じられたね」


 いや、完全に信じられたわけじゃないが。それにしても酷いじゃないか。デリケートな問題なのに、こんな、からかうなんて。


「ねえ、兄さん」
「……何だよ?」
「今日の話、星羅には内緒にしてね」
「何でだよ。言われて困るのか? 冗談なんだろ?」
「冗談でも、星羅に知られたくないこともあるの」


 さて帰ろ、と俺の手を放して立ち上がる彼女。日はすっかり傾いていて、夕日を背にたたずむ彼女は、周りのどの桜よりも美しく見えた。


「たしかに今まで通りとはいかないかもしれない。だけど、それでもいいじゃない。わたしはね、またこうやって連れ出してくれたら嬉しいな。それって、兄妹でも義兄妹でもできることでしょう?」
「そうだな。連れ出してたのは、主にお前だけどな」
「あれぇ、そうだっけ?」


 わかりきったことをとぼける彼女の手を引くと、彼女は俺の腕を抱いて、帰り道を並んで歩く。


「あんまりくっつくと歩きにくいんだけど」
「え、義理の妹にくっつかれると意識しちゃうって?」
「言ってねぇよ」






 二人して玄関に入ると、ちょうど階段を降りてきた星羅と鉢合わせてしまった。なんとなく居心地が悪くなって、俺は彼女から視線を外した。


「……観月、どこ行ってたの?」
「別に、どこでもいいでしょ。アンタに関係ある?」


 ここの関係は相変わらずらしい。まあ、俺と血縁関係がなかったからと言って、姉妹の仲が良くなるわけではないか。


「……その手はなんなの?」


 星羅に言われて気付いた。観月はまだ俺の手に縋りついたままだったのだ。
 どうやら俺まで二人のいざこざに巻き込まれつつあるらしい。


「そんなの……見てわからないの?」


 観月がそんなことを言うもんだから、星羅は俺を睨みつけて、後で話があるから部屋に来て、と言い放った。
 なんか、先日も誰かさんにそんなようなことを言われた気がするなぁ。






 とりあえず風呂を上がって、観月が風呂に入っている間に、星羅の話を聞いておくことにした。割り込んでこられると、間違いなく面倒なことになるからな。


「お兄さー、どういうつもりか知らないけど、観月はやめときなよ。義理の兄妹なら付き合っても問題ないのかもしれないけど、観月と付き合いたいってお兄が言うんなら、あたしは全力で止める。観月だけはないよ」


 いやそんなつもりはないけども。そんなに止めるほどなのか。星羅からの観月の評価はなぜそんなに低いのだろう。俺から見ると、そこまでとは思えないのだが。
 あまりにも真剣に止めるもんだから、その理由が気になってしまう。


「星羅から見て、観月の何がそんなにヤバいんだ?」
「いや、もう全部! 悪魔のような女だよ!」
「でもお前たち、遺伝子レベルで一緒だけど」
「そうなんだよね……本当辛い」


 驚くべきは、冗談ではなくどれも本気で言っているようなのだ。
 まあ、とにかく観月が嫌いってことはわかった。


「観月と付き合うくらいなら、あたしと付き合った方がいいよ。あたしの方が、絶対お兄を幸せにできる。だから、今すぐ観月とは別れて!」
「いや、あの、そもそも俺と観月は付き合ってないんだけど」
「そう言えって言われてるの? どうして観月を庇うの? あたしより観月の方が信じられる?」


 そんなことを喚き散らしながら、星羅は俺に詰め寄ってきた。俺の両肩を掴んで、ずいっと顔を寄せてくる。
 くりくりとした、黒い大きな目。見るだけでもわかる、きめ細かでむっちりとした頬。ぷるんとした瑞々しい唇。小ぶりで可愛らしい鼻。
 近くで見ると、やはり整った顔立ちをしている。俺とは違う遺伝子が入っているんだなと、あらためて思い知らされる。


「とりあえず落ち着いて、俺の話を聞け」


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 思いがけない急展開に、俺の頭は真っ白になる。
 観月は妹だ。血の繋がりがあろうとなかろうと、大事な妹に変わりはない。でも観月は、俺のことを、兄以上の存在として見てきたと言う。そして血縁関係がないとわかった今、観月は俺を完全に異性として捉え、好意を伝えた。
「……なんて、言うと思った?」
 観月は悪戯っぽく笑った。俺の腕にしがみついたまま、べぇっと舌を出して見せる。
 ここまで雰囲気を作っておいて、すべて冗談でしたっていうのか。何がしたかったんだ?
「義理の妹に告白されるって、どうだった? いい気分だった?」
「何だよ、からかうために、わざわざここまで連れてきたのか?」
「そうだよ。兄さんのことなんか、好きなわけないじゃん。今までのわたしの態度見てきて、よく信じられたね」
 いや、完全に信じられたわけじゃないが。それにしても酷いじゃないか。デリケートな問題なのに、こんな、からかうなんて。
「ねえ、兄さん」
「……何だよ?」
「今日の話、星羅には内緒にしてね」
「何でだよ。言われて困るのか? 冗談なんだろ?」
「冗談でも、星羅に知られたくないこともあるの」
 さて帰ろ、と俺の手を放して立ち上がる彼女。日はすっかり傾いていて、夕日を背にたたずむ彼女は、周りのどの桜よりも美しく見えた。
「たしかに今まで通りとはいかないかもしれない。だけど、それでもいいじゃない。わたしはね、またこうやって連れ出してくれたら嬉しいな。それって、兄妹でも義兄妹でもできることでしょう?」
「そうだな。連れ出してたのは、主にお前だけどな」
「あれぇ、そうだっけ?」
 わかりきったことをとぼける彼女の手を引くと、彼女は俺の腕を抱いて、帰り道を並んで歩く。
「あんまりくっつくと歩きにくいんだけど」
「え、義理の妹にくっつかれると意識しちゃうって?」
「言ってねぇよ」
 二人して玄関に入ると、ちょうど階段を降りてきた星羅と鉢合わせてしまった。なんとなく居心地が悪くなって、俺は彼女から視線を外した。
「……観月、どこ行ってたの?」
「別に、どこでもいいでしょ。アンタに関係ある?」
 ここの関係は相変わらずらしい。まあ、俺と血縁関係がなかったからと言って、姉妹の仲が良くなるわけではないか。
「……その手はなんなの?」
 星羅に言われて気付いた。観月はまだ俺の手に縋りついたままだったのだ。
 どうやら俺まで二人のいざこざに巻き込まれつつあるらしい。
「そんなの……見てわからないの?」
 観月がそんなことを言うもんだから、星羅は俺を睨みつけて、後で話があるから部屋に来て、と言い放った。
 なんか、先日も誰かさんにそんなようなことを言われた気がするなぁ。
 とりあえず風呂を上がって、観月が風呂に入っている間に、星羅の話を聞いておくことにした。割り込んでこられると、間違いなく面倒なことになるからな。
「お兄さー、どういうつもりか知らないけど、観月はやめときなよ。義理の兄妹なら付き合っても問題ないのかもしれないけど、観月と付き合いたいってお兄が言うんなら、あたしは全力で止める。観月だけはないよ」
 いやそんなつもりはないけども。そんなに止めるほどなのか。星羅からの観月の評価はなぜそんなに低いのだろう。俺から見ると、そこまでとは思えないのだが。
 あまりにも真剣に止めるもんだから、その理由が気になってしまう。
「星羅から見て、観月の何がそんなにヤバいんだ?」
「いや、もう全部! 悪魔のような女だよ!」
「でもお前たち、遺伝子レベルで一緒だけど」
「そうなんだよね……本当辛い」
 驚くべきは、冗談ではなくどれも本気で言っているようなのだ。
 まあ、とにかく観月が嫌いってことはわかった。
「観月と付き合うくらいなら、あたしと付き合った方がいいよ。あたしの方が、絶対お兄を幸せにできる。だから、今すぐ観月とは別れて!」
「いや、あの、そもそも俺と観月は付き合ってないんだけど」
「そう言えって言われてるの? どうして観月を庇うの? あたしより観月の方が信じられる?」
 そんなことを喚き散らしながら、星羅は俺に詰め寄ってきた。俺の両肩を掴んで、ずいっと顔を寄せてくる。
 くりくりとした、黒い大きな目。見るだけでもわかる、きめ細かでむっちりとした頬。ぷるんとした瑞々しい唇。小ぶりで可愛らしい鼻。
 近くで見ると、やはり整った顔立ちをしている。俺とは違う遺伝子が入っているんだなと、あらためて思い知らされる。
「とりあえず落ち着いて、俺の話を聞け」