観月の告白
ー/ー
約束の金曜日になった。
星羅を置いてきたらしく、一人で帰ってきた観月は、支度するからとしばし部屋に籠っていた。その間に、星羅も遅れて帰ってきた。
「おかえり、星羅」
「あ、ただいま、お兄。観月、帰ってる?」
星羅の方は、もうすっかり普通に話せるようになった。ただ、今までのように罵倒されることが減り、口調も柔らかくなったのは、少し寂しくはあるが。
「さっき帰ってきたよ。何かあったのか?」
「ううん。でも、なんか今日 機嫌良かったよ?」
今日は俺との話で気が滅入っているのかと思っていたが。学校で何かいいことでもあったのだろうか。
「お兄、あのさ……」
「ん? どうした、星羅?」
彼女は何か言いたげに俺の袖を掴んでくる。だが、言うべきかどうか、迷っているようにも見えた。そんな彼女の頭を優しく撫でてやると、強張っていた表情は少し和らいで、ふっと笑みを見せる。
「やっぱいいや。また今度」
そう言い残して、彼女は自分の部屋へ、階段を駆け上がっていった。それとすれ違うように、制服から私服に着替えてきた観月が降りてくる。
紺のひらひらしたブラウスに、膝上ほどの白いスカート。あまり見ない格好だ。ちょっと出るだけにしては、えらく気合が入っている。どこまで行く気だろうか。
「兄さん、行きますよ」
「ああ、うん」
彼女に連れられて、住宅街を横切る大きな川沿いを歩く。川といっても、堀が深いわりに、ほとんど水は流れていない。大雨の時にだけ、この深い水位が満杯になったのを見たことがあった。
もう三月も下旬に差し掛かる頃。満開とはいかないが、川の両側に立ち並ぶ桜はちらほらとその顔を見せ始めていた。
「兄さん、覚えてますか? ここ、昔よく歩きましたよね」
会話もなく並んで歩いていたら、観月はふとそんなことを漏らした。
「星羅とケンカすると、お前はよく家を飛び出してたよな」
「それで、兄さんがわたしを迎えに行く羽目になってましたよね」
出ていった観月は、この先にある“憩いの広場”にいることが多かった。だから、探すのに苦労はしなかった。どちらかというと、宥める方が苦労した記憶がある。
やがて少し歩くと、“憩いの広場”に着いた。少し開けた場所に、ちょっとした屋根とベンチが並んでいるだけ。正面には、川に降りられる梯子がついているが、川遊びなどもってのほか。点検用に使われているのだろうことがうかがえるほど、錆びついていた。
「ここは、星羅は知らない、わたしと兄さんとの思い出の場所なんです」
そう言う観月からは、嫌悪感などまったく感じられず、むしろ見たこともないような満面の笑みさえ湛えていたのだった。
彼女に促されて、二人並んでベンチに座る。と、彼女は早速 話を始めた
「兄さん、勘違いしてるみたいだから言っておきますけど、今まで通りにはいかないっていうのは、嫌いになるって意味じゃないですよ」
「え、違うのか? じゃあ、どういう……?」
「それは……あれですよ。血縁関係がないってことは、その……あれじゃないですか、あれ……察してくださいって、もう」
いや、わかんねえよ。血縁関係じゃないってことは……の後は結構色々あるだろ。何をそんなに気にしているんだろうか。
「兄さんと血の繋がりがないって聞いて、わたし、本当は安心したんです。だって、ずっとわたしがおかしいんだと思ってましたから。でも、おかしくなかったんですね」
俺の方も見ずに、観月は淡々と言葉を紡ぐ。俺の腕を抱き寄せて、寄りかかるようにして、彼女は自分の頭を俺の肩に預けた。
まさかとは思うが、観月の気にしてたことって……。
「観月、お前、もしかして……」
「ようやく気付いてくれました? わたしの気持ちは、ずっと前から変わってないんです」
いやいや、そんなわけ……。だって、俺に対してあんなに冷たい目を向けて、キツい言葉を投げかけて。あれが好意だと思ってるなら、ちょっと歪んでるって。
「静夜さん……わたし、あなたのことが好きなんです」
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「おかえり、星羅」
「あ、ただいま、お兄。観月、帰ってる?」
星羅の方は、もうすっかり普通に話せるようになった。ただ、今までのように罵倒されることが減り、口調も柔らかくなったのは、少し寂しくはあるが。
「さっき帰ってきたよ。何かあったのか?」
「ううん。でも、なんか今日 機嫌良かったよ?」
今日は俺との話で気が滅入っているのかと思っていたが。学校で何かいいことでもあったのだろうか。
「お兄、あのさ……」
「ん? どうした、星羅?」
彼女は何か言いたげに俺の袖を掴んでくる。だが、言うべきかどうか、迷っているようにも見えた。そんな彼女の頭を優しく撫でてやると、強張っていた表情は少し和らいで、ふっと笑みを見せる。
「やっぱいいや。また今度」
そう言い残して、彼女は自分の部屋へ、階段を駆け上がっていった。それとすれ違うように、制服から私服に着替えてきた観月が降りてくる。
紺のひらひらしたブラウスに、膝上ほどの白いスカート。あまり見ない格好だ。ちょっと出るだけにしては、えらく気合が入っている。どこまで行く気だろうか。
「兄さん、行きますよ」
「ああ、うん」
彼女に連れられて、住宅街を横切る大きな川沿いを歩く。川といっても、堀が深いわりに、ほとんど水は流れていない。大雨の時にだけ、この深い水位が満杯になったのを見たことがあった。
もう三月も下旬に差し掛かる頃。満開とはいかないが、川の両側に立ち並ぶ桜はちらほらとその顔を見せ始めていた。
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会話もなく並んで歩いていたら、観月はふとそんなことを漏らした。
「星羅とケンカすると、お前はよく家を飛び出してたよな」
「それで、兄さんがわたしを迎えに行く羽目になってましたよね」
出ていった観月は、この先にある“憩いの広場”にいることが多かった。だから、探すのに苦労はしなかった。どちらかというと、宥める方が苦労した記憶がある。
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「ここは、星羅は知らない、わたしと兄さんとの思い出の場所なんです」
そう言う観月からは、嫌悪感などまったく感じられず、むしろ見たこともないような満面の笑みさえ湛えていたのだった。
彼女に促されて、二人並んでベンチに座る。と、彼女は早速 話を始めた
「兄さん、勘違いしてるみたいだから言っておきますけど、今まで通りにはいかないっていうのは、嫌いになるって意味じゃないですよ」
「え、違うのか? じゃあ、どういう……?」
「それは……あれですよ。血縁関係がないってことは、その……あれじゃないですか、あれ……察してくださいって、もう」
いや、わかんねえよ。血縁関係じゃないってことは……の後は結構色々あるだろ。何をそんなに気にしているんだろうか。
「兄さんと血の繋がりがないって聞いて、わたし、本当は安心したんです。だって、ずっとわたしがおかしいんだと思ってましたから。でも、おかしくなかったんですね」
俺の方も見ずに、観月は淡々と言葉を紡ぐ。俺の腕を抱き寄せて、寄りかかるようにして、彼女は自分の頭を俺の肩に預けた。
まさかとは思うが、観月の気にしてたことって……。
「観月、お前、もしかして……」
「ようやく気付いてくれました? わたしの気持ちは、ずっと前から変わってないんです」
いやいや、そんなわけ……。だって、俺に対してあんなに冷たい目を向けて、キツい言葉を投げかけて。あれが好意だと思ってるなら、ちょっと歪んでるって。
「|静夜《しずや》さん……わたし、あなたのことが好きなんです」