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第171話 本気を出させるために

ー/ー



「それって手を抜いていることについてか?」

「そう、目下の問題」

 樫田が聞くと、夏村は当然と言わんばかりに即答した。
 確かに、現状のことを考えるとそっちの方が問題か。

「いや、俺的には――」

「分かっている。それでも私は心配」

 何かを言う前に夏村が遮り、樫田は少し困ったような顔をした。
 二人はお互い顔を見合う。そして降参したように樫田がため息をついた。

「はぁ、分かった。それについても話そうか。杉野と椎名もそれでいいか?」

「ああ、大丈夫だ」

「もちろんよ」

 俺たちは即答する。全国のことも大切だが、田島の方も早期解決しないといけない問題だ。
 了承を得ると、樫田は少し考えた後に話し出す。

「……とりあえず、春大会まで後八日。手を抜いている田島に本気を出させるって話だが……これは前に杉野に言ったことだが、今年の秋でも全国に行ける可能性があることを示せば本気出すんじゃないか?」

「簡単に言わないで」

「じゃあ、椎名は何か案があるのか?」

「それは……」

 樫田の投げかけに椎名は言葉を詰まらせる。
 とはいえ、樫田の言っていることも難易度が高い。それが出来れば苦労はしない。
 そう思ったのは夏村も同じなのか、樫田を睨む。

「そういう言い方はない」

「……悪かった」

 樫田が謝罪する。なんか、樫田が怒られているが珍しかった。
 謝られた椎名も少し驚いていた。
 そんな俺たちを気にせず、夏村は話を戻す。

「私としては、本気を出すというより楽しんでいないことが問題。それは観客を冷ます」

 夏村は手を抜いているということより、俺が言った『つまらなそうだった』ということの方を問題のようだ。
 まぁ確かに、役者が楽しめない劇というのはそれだけで場がしらけてしまう要因になる。

「それって、本気を出してないから田島自身が楽しめてないんじゃないか?」

「それなら、結局問題の本質は一つね」

 樫田や椎名の言う通り、つまらなそうだった理由もきっと手を抜いているからだろう。
 ただ、それが分かったとしても、それ対する解決策が浮かばなかった。
 俺たち四人は、それぞれ頭を抱えたり、腕を組んで考えだす。
 不意に、樫田が聞いてきた。

「杉野、どうだ? 何か案はないか?」

「あったら言っているよ」

「そりゃそうなんだが……このままじゃ手詰まりすぎる。なんか情報がほしくてな。稽古の時、田島の目の奥がつまらなそうだったって言ってたけど、感じたのはそれだけか?」

 樫田に問われて、改めて俺は考え出す。
 田島との演技で感じたこと……。
 ……………………。

「…………苦しそうだった、かな」

 そう呟いた俺の言葉に、三人は黙った。
 それぞれ静かに考えだす。
 数秒の静寂の後、始めに口を開いたのは夏村だった。

「どうして、そう思った?」

「うーん。なんていうか、つまらなそうだったけど、それは冷めているとかじゃなくて、堪えているっていうのかな。無理して手を抜いている感じ?」

「……つまり、本当は本気で演技したいってことかしら?」

「そこまではなんとも」

 椎名の質問に、はっきりと答えられなかった。
 しかし、三人は俺の言葉を吟味するように、真剣な表情になった。

「難しいな。情報としては有益だが、それで解決策に繋がるかといえばそうじゃないな」

 独り言のように樫田がそう呟くと、椎名と夏村が頷く。
 どうやら、悪くはないが良くもない答えだったらしい。
 とはいえ、これ以上何かあるわけじゃない。
 本気を出させるような、何かないものだろうか。

「なぁ、樫田」

「ん?」

「演出家として、今の田島をどう見る?」

 俺は、なんとなくそんな質問をした。
 樫田は俺たち役者とは違う視点を持っている。それ故、何かヒントになる言葉が出てくるかもしれない。

「そうだなぁ。前も言ったが演技自体は困るほどじゃない。最低限は出来ているし、他の役者と比べて見劣りするほどじゃない……ただ、余力を残しているなっていうもの分かる。強いて言うなら受け身すぎるってことだな」

 ……なるほど。受け身か。…………ん? 待てよ。受け身?
 俺の脳内で、ぽんっと一つの案が生まれた。
 いや、でも、そんな単純な事か?
 一人頭の中で色々考える。

「「「……」」」

 現実に戻ると、三人がじーっと俺の方を見てきた。
 え、何でしょうか……?

「杉野、お前今何か浮かんだだろ」

「まぁ……はい」

「いいなさい」

「早く」

 椎名と夏村が、睨みつけてくる。
 言うから! 言いますからそんな睨むなよ!

「えっと、その例えばなんだが――」

 俺は思い浮かんだ案を三人に話した。
 一通り話し終わると、樫田が賛同した。

「いいじゃん。それが出来るなら案としてはいいと思うぞ」

「待って。簡単に言うけど、やれと言われて出来ることでもないでしょ」

「……杉野なら、出来そう」

「ちょっと佐恵? そんな簡単じゃ――」

「分かっている。けど、何もしないよりはマシ」

「そうだけど…………杉野? あなたは出来るというの?」

 椎名が心配そうに俺を見てきた。
 確かに、言い出しておいてアレだけど、難しいとは思う。
 けど。

「俺は、やってみる価値はあると思う」

「そう……分かったわ。やって見ましょう」

 椎名は決意を固めたように頷き、肯定した。
 こうして、田島に本気を出させるために俺たちは動き出した。


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「それって手を抜いていることについてか?」
「そう、目下の問題」
 樫田が聞くと、夏村は当然と言わんばかりに即答した。
 確かに、現状のことを考えるとそっちの方が問題か。
「いや、俺的には――」
「分かっている。それでも私は心配」
 何かを言う前に夏村が遮り、樫田は少し困ったような顔をした。
 二人はお互い顔を見合う。そして降参したように樫田がため息をついた。
「はぁ、分かった。それについても話そうか。杉野と椎名もそれでいいか?」
「ああ、大丈夫だ」
「もちろんよ」
 俺たちは即答する。全国のことも大切だが、田島の方も早期解決しないといけない問題だ。
 了承を得ると、樫田は少し考えた後に話し出す。
「……とりあえず、春大会まで後八日。手を抜いている田島に本気を出させるって話だが……これは前に杉野に言ったことだが、今年の秋でも全国に行ける可能性があることを示せば本気出すんじゃないか?」
「簡単に言わないで」
「じゃあ、椎名は何か案があるのか?」
「それは……」
 樫田の投げかけに椎名は言葉を詰まらせる。
 とはいえ、樫田の言っていることも難易度が高い。それが出来れば苦労はしない。
 そう思ったのは夏村も同じなのか、樫田を睨む。
「そういう言い方はない」
「……悪かった」
 樫田が謝罪する。なんか、樫田が怒られているが珍しかった。
 謝られた椎名も少し驚いていた。
 そんな俺たちを気にせず、夏村は話を戻す。
「私としては、本気を出すというより楽しんでいないことが問題。それは観客を冷ます」
 夏村は手を抜いているということより、俺が言った『つまらなそうだった』ということの方を問題のようだ。
 まぁ確かに、役者が楽しめない劇というのはそれだけで場がしらけてしまう要因になる。
「それって、本気を出してないから田島自身が楽しめてないんじゃないか?」
「それなら、結局問題の本質は一つね」
 樫田や椎名の言う通り、つまらなそうだった理由もきっと手を抜いているからだろう。
 ただ、それが分かったとしても、それ対する解決策が浮かばなかった。
 俺たち四人は、それぞれ頭を抱えたり、腕を組んで考えだす。
 不意に、樫田が聞いてきた。
「杉野、どうだ? 何か案はないか?」
「あったら言っているよ」
「そりゃそうなんだが……このままじゃ手詰まりすぎる。なんか情報がほしくてな。稽古の時、田島の目の奥がつまらなそうだったって言ってたけど、感じたのはそれだけか?」
 樫田に問われて、改めて俺は考え出す。
 田島との演技で感じたこと……。
 ……………………。
「…………苦しそうだった、かな」
 そう呟いた俺の言葉に、三人は黙った。
 それぞれ静かに考えだす。
 数秒の静寂の後、始めに口を開いたのは夏村だった。
「どうして、そう思った?」
「うーん。なんていうか、つまらなそうだったけど、それは冷めているとかじゃなくて、堪えているっていうのかな。無理して手を抜いている感じ?」
「……つまり、本当は本気で演技したいってことかしら?」
「そこまではなんとも」
 椎名の質問に、はっきりと答えられなかった。
 しかし、三人は俺の言葉を吟味するように、真剣な表情になった。
「難しいな。情報としては有益だが、それで解決策に繋がるかといえばそうじゃないな」
 独り言のように樫田がそう呟くと、椎名と夏村が頷く。
 どうやら、悪くはないが良くもない答えだったらしい。
 とはいえ、これ以上何かあるわけじゃない。
 本気を出させるような、何かないものだろうか。
「なぁ、樫田」
「ん?」
「演出家として、今の田島をどう見る?」
 俺は、なんとなくそんな質問をした。
 樫田は俺たち役者とは違う視点を持っている。それ故、何かヒントになる言葉が出てくるかもしれない。
「そうだなぁ。前も言ったが演技自体は困るほどじゃない。最低限は出来ているし、他の役者と比べて見劣りするほどじゃない……ただ、余力を残しているなっていうもの分かる。強いて言うなら受け身すぎるってことだな」
 ……なるほど。受け身か。…………ん? 待てよ。受け身?
 俺の脳内で、ぽんっと一つの案が生まれた。
 いや、でも、そんな単純な事か?
 一人頭の中で色々考える。
「「「……」」」
 現実に戻ると、三人がじーっと俺の方を見てきた。
 え、何でしょうか……?
「杉野、お前今何か浮かんだだろ」
「まぁ……はい」
「いいなさい」
「早く」
 椎名と夏村が、睨みつけてくる。
 言うから! 言いますからそんな睨むなよ!
「えっと、その例えばなんだが――」
 俺は思い浮かんだ案を三人に話した。
 一通り話し終わると、樫田が賛同した。
「いいじゃん。それが出来るなら案としてはいいと思うぞ」
「待って。簡単に言うけど、やれと言われて出来ることでもないでしょ」
「……杉野なら、出来そう」
「ちょっと佐恵? そんな簡単じゃ――」
「分かっている。けど、何もしないよりはマシ」
「そうだけど…………杉野? あなたは出来るというの?」
 椎名が心配そうに俺を見てきた。
 確かに、言い出しておいてアレだけど、難しいとは思う。
 けど。
「俺は、やってみる価値はあると思う」
「そう……分かったわ。やって見ましょう」
 椎名は決意を固めたように頷き、肯定した。
 こうして、田島に本気を出させるために俺たちは動き出した。