8.不穏な異変

ー/ー



 精霊は、さっきまで楽しそうに俺の周りを飛び回っていた。
 それは――不意に止まった。

『ど、どうした?』

 ぴたりと止まった精霊は、ゆっくりと森の奥を見てる……と思う。
 まるで、何かを見つけたように。


 ――不穏だ。


 先日、ログさんに聞いた《精霊は敵意や異変に敏感です》っていうのが正にそうだと思ったからだ。

 呼びかけても反応はない。
 代わりに、光がわずかに揺らぎ始めた。

《変化を確認》

『変化?』

 何のことかさっぱりなんだけど。



《神樹を起点とした魔力の流れが、外周部で歪んでいます》

 外周部。
 つまり――俺から、かなり離れた場所だ。

 そのとき、森のどこかで低い音がした。
 木が軋むような、地面が鳴るような……そんな、嫌な音。


 その瞬間――
 魔力が、はっきりと“流れた”。

《警告。周辺環境における魔力循環が、自然値を逸脱しています》

『……それって』

《はい。既に、世界の側が反応を開始しています》

 世界が、反応している。
 俺が、ここに存在しているだけで。

 森は静かだった。
 だが、その静けさが――ひどく、不自然に思えた。


◇◇◇◇◇◇


「あーいってぇ」

「畜生、なんなんだったんだあの魔物!」

「魔法が効かないように感じましたわ」

 ここは冒険者御用達(ごようたし)の病院。
 あらゆる冒険者達が負った任務による怪我や病気などの面倒を見る大病院である。
 病院ができた経緯はかなり昔に遡るが――長いので割愛(かつあい)されよう。

 入院に来る冒険者は多い。
 魔物討伐、毒草調達、希少食材の納品……などの任務で来るものがほとんどだ。



 そして彼らは、封鎖前の迷宮に挑んできた愚か者――冒険者だ。

「さて、あなた達が遭遇したっていう魔物の特徴を教えてくれますか」

 院長が男たちに問う。

「どんな武器も弾かれて、魔法も効いてる感じがしなかった」

「青い体に黄色の目で、人型でしたわ」

「……強い、速い、硬い。これしかいえないな」

 大男、女性、リーダーの順に答えたところ、院長は記録用の羽根ペンを止めた。

「……他に特徴はありますか?」

 男たちは一斉に黙り込む。
 すると、リーダーがなにかに気づいたかのように声を上げる。

「……あ! たしかあいつがいた部屋の奥になにかいたような……」

「どんなものでしたか」

「魔物の死体だと思う。たてがみがあって、鱗のあった尻尾を持ってて……あと、頭の上にも頭があったような……」

「よく覚えてんなお前、怖」

 そう言い終えた瞬間――

「ま、まさか! き、キマイラだと言うのか!!」

 院長が叫ぶ。

「君達、キマイラの名前くらい、聞いたことあるであろう?」

「ああ、かなりの力を持った魔物だって」


「……キマイラは、迷宮の主(ダンジョンボス)級なのだよ……それでは退出する。ギルドマスターに報告しなくては」


 院長が告げた事実は、恐ろしいものだった。

 迷宮の主(ダンジョンボス)はA⁺ランクだ。
 A⁺ランクは小国が半壊するほどの力を持つのだ。
 そのダンジョンボスがその部屋にいた。ということは――



アイツ(・・・)は、ボスを上回るだと……!」

 リーダーは戦慄する。
 思えば、あの人型は傷を負ってなかった。それすなわち、キマイラが(がい)(しゅう)(いっ)(しょく)されたということ。

 その事実に怯えながら、ゆっくりと傷を癒やすのだった。


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 精霊は、さっきまで楽しそうに俺の周りを飛び回っていた。
 それは――不意に止まった。
『ど、どうした?』
 ぴたりと止まった精霊は、ゆっくりと森の奥を見てる……と思う。
 まるで、何かを見つけたように。
 ――不穏だ。
 先日、ログさんに聞いた《精霊は敵意や異変に敏感です》っていうのが正にそうだと思ったからだ。
 呼びかけても反応はない。
 代わりに、光がわずかに揺らぎ始めた。
《変化を確認》
『変化?』
 何のことかさっぱりなんだけど。
《神樹を起点とした魔力の流れが、外周部で歪んでいます》
 外周部。
 つまり――俺から、かなり離れた場所だ。
 そのとき、森のどこかで低い音がした。
 木が軋むような、地面が鳴るような……そんな、嫌な音。
 その瞬間――
 魔力が、はっきりと“流れた”。
《警告。周辺環境における魔力循環が、自然値を逸脱しています》
『……それって』
《はい。既に、世界の側が反応を開始しています》
 世界が、反応している。
 俺が、ここに存在しているだけで。
 森は静かだった。
 だが、その静けさが――ひどく、不自然に思えた。
◇◇◇◇◇◇
「あーいってぇ」
「畜生、なんなんだったんだあの魔物!」
「魔法が効かないように感じましたわ」
 ここは冒険者|御用達《ごようたし》の病院。
 あらゆる冒険者達が負った任務による怪我や病気などの面倒を見る大病院である。
 病院ができた経緯はかなり昔に遡るが――長いので|割愛《かつあい》されよう。
 入院に来る冒険者は多い。
 魔物討伐、毒草調達、希少食材の納品……などの任務で来るものがほとんどだ。
 そして彼らは、封鎖前の迷宮に挑んできた愚か者――冒険者だ。
「さて、あなた達が遭遇したっていう魔物の特徴を教えてくれますか」
 院長が男たちに問う。
「どんな武器も弾かれて、魔法も効いてる感じがしなかった」
「青い体に黄色の目で、人型でしたわ」
「……強い、速い、硬い。これしかいえないな」
 大男、女性、リーダーの順に答えたところ、院長は記録用の羽根ペンを止めた。
「……他に特徴はありますか?」
 男たちは一斉に黙り込む。
 すると、リーダーがなにかに気づいたかのように声を上げる。
「……あ! たしかあいつがいた部屋の奥になにかいたような……」
「どんなものでしたか」
「魔物の死体だと思う。たてがみがあって、鱗のあった尻尾を持ってて……あと、頭の上にも頭があったような……」
「よく覚えてんなお前、怖」
 そう言い終えた瞬間――
「ま、まさか! き、キマイラだと言うのか!!」
 院長が叫ぶ。
「君達、キマイラの名前くらい、聞いたことあるであろう?」
「ああ、かなりの力を持った魔物だって」
「……キマイラは、|迷宮の主《ダンジョンボス》級なのだよ……それでは退出する。ギルドマスターに報告しなくては」
 院長が告げた事実は、恐ろしいものだった。
 |迷宮の主《ダンジョンボス》はA⁺ランクだ。
 A⁺ランクは小国が半壊するほどの力を持つのだ。
 そのダンジョンボスがその部屋にいた。ということは――
「|アイツ《・・・》は、ボスを上回るだと……!」
 リーダーは戦慄する。
 思えば、あの人型は傷を負ってなかった。それすなわち、キマイラが|鎧《がい》|袖《しゅう》|一《いっ》|触《しょく》されたということ。
 その事実に怯えながら、ゆっくりと傷を癒やすのだった。