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#123 黒き神 その5 (カグヤ視点)

ー/ー



 想像を絶する圧力と激痛を受けた巨龍の口から、悲痛な絶叫が爆発する。
 少し可哀想な気もするが、ここまでの戦いで見せ付けられた通り、このドラゴンは野放しにしておけないほどに強過ぎる。


「……死んだ、のでしょうか……?」


 緩やかに地上に降り立ち、うつ伏せになったままピクリとも動かないドラゴンの様子を用心深く観察する。


「そうであって欲しいが、残念ながら恐らくまだ生きている」


 ダスクの見立て通り、次の瞬間には巨体がビクンと跳ね起きた。


「流石はドラゴン、タフですね。しかし体はふらついて息も荒くなっていますから、かなりのダメージがあるのは間違い無さそうです」
「だとしても気を付けろ。手負いの魔物は何をしでかすか分からない」


 窮鼠猫を噛むという言葉があるように、窮地に立たされた者は時に信じ難い底力を発揮する。
 まして目の前の相手はネズミどころか龍なのだから、生命の灯火が完全に闇に呑まれるまで油断など許されるはずが無い。


 ゆっくりと上体を持ち上げたドラゴンが、後肢と尻尾による直立姿勢を取る。
 全長七十メートルという並外れた巨体と、それが漂わせる威圧感がより際立ち、燃え盛る炎を彷彿とさせる紅蓮の眼が、小さな私たちを憎々し気に見下ろす。


 そして轟く大咆哮。
 合わせて輝きを増すアメジスト。


「……一段とご立腹のようですね」


「怒り」という感情の根源には、必ず「恐怖」がある。
 肉体とプライドに深手(ふかで)を負わされ、臨死の恐怖を感じさせられたのだから、激昂するのは当然。


 今まではまだ目障りな存在として、例えるなら人間が蝿や蚊に対して向けるような眼で私たちを捉えており、そこには絶対強者ならではの油断と驕りが少なからずあった。


 だが、もう違う。
 取るに足らない蝿や蚊ではなく、猛毒の蜂や蜘蛛、蛇蝎(だかつ)のような、些細な油断が命取りになる危険生物として私たちを捉え、憤怒と憎悪を極限まで燃やし、全身全霊を以て始末に掛かる。


「奴にとってはここからが本番だな」
「今まで以上の力で攻めに来られるなんて、想像したくありませんね」


 第二ラウンドの開始を告げるドラゴンの攻撃は、再びブレス。
 しかし、今までに放ったものとはまた異なり、まるでシャボン玉でも吹き散らすかの如く、細かいブレスを大量に吐き出していく。


「これは……」


 放たれたのは、直径五メートルほどの闇属性の魔法球。
 正確な個数は分からないが、少なくとも百を下らないそれらが広範囲に拡散、気球のようにプカプカとその場に滞空し始めた。


「……あれは一体何なのでしょうか?」
「何となく想像はできるが、確認してみるか」


 ダスクが『獄炎の飛球(ヘルファイヤー・ボール)』を放ち、魔法球の一つに叩き込む。
 すると、空気を入れ過ぎた風船のように魔法球は急激に膨張、そして破裂を迎え、黒い波動が球状に拡散した。


 黒い波動の範囲は直径二十メートルほどと推測されるが、その現象が何なのか、すぐには分からなかった。


「爆発した……!? いえ、今のは……」
「重力だな。破裂と同時に重力の奔流が広がって、範囲内の物質を粉微塵に削り取ったんだ。単なる爆発なら魔法で防御できたが、あれでは防御ごと削られる。回避するしか無い」


 闇属性魔力が重力に干渉できることは、私もよく知っている。


「衝撃に反応して作動する重力爆弾──いえ、これは『機雷』と言うべきでしょうか……」


 大技で圧倒するだけでなくこうした芸当まで体得しているとは、図体に似合わず器用である。


「辺りに重力機雷をばら撒いて、間合いを詰めさせない作戦でしょうか……?」
「そうらしいな。だが衝撃で作動するのなら、今みたく適当な魔法をぶつけて誤作動させてしまえば済む」


 ただし、ドラゴン自身の攻撃でも作動する点と、一つが作動することによって近くにある他の重力機雷まで連鎖的に作動しかねない点には注意が必要だ。


「急ぎましょう。これ以上機雷をばら撒かれたら、身動きが取れなくなります」
「そうだな」


安静の幕板(クワイエット・サンバイザー)』で階段状に足場を作り、ダスクに抱えられて宙へ躍り上がる。
 私が新たに配置した『安静の幕板(クワイエット・サンバイザー)』を、競泳選手のターンのように押し蹴って、ダスクが猛スピードで直進。
 ダスクが邪魔な重力機雷に『獄炎の飛球(ヘルファイヤー・ボール)』を撃ち込んで誤作動させて進路を確保し、私が『安静の幕板(クワイエット・サンバイザー)』で足場を形成することで、私たちは空を突き抜ける。


 無論、そんな私たちに対してドラゴンが何の手も打たない訳が無く、新たな重力機雷を辺りに吐き散らして、こちらを妨害してきた。


「カグヤ、次の『幕板(サンバイザー)』を……!」
「はい……!」


 直進していた先に重力機雷を配置されたため、指示通り『安静の幕板(クワイエット・サンバイザー)』を出すと、ダスクはそれを踏み付けて九十度上に方向転換。


 私が作っていく魔力の板を文字通り足掛かりにして、ドラゴンの妨害を躱しつつダスクは間合いを詰めていく。


 そしてドラゴンとの距離が五十メートル程度に差し掛かった時、


「ここからなら狙えるな」


 私が供与した魔力を使って、ダスクが魔法を練り上げる。


「『深き怨念の魔波(ディープ・パープル)』」


 向けた剣先から放たれるは、上級の攻撃魔法。
 破壊力満点のレーザービームは一直線に、ダスクが狙った胸の傷へ吸い込まれるように向かって行く。


 既に二回もダスクに突き刺されて今なお出血しているそこに命中すれば、ドラゴンにとって痛恨の一撃となり、形勢は一気にこちらに傾く。
 巨体故に相手の動きは鈍重、機敏な回避など絶対に取れない。


 それに対するドラゴンのアクションは、両の翼の躍動だった。


 僅かな望みに懸けて空へ逃げるつもりかと思いきや、それは全くの勘違い。
 直後に『深き怨念の魔波(ディープ・パープル)』がドラゴンの身に命中したが、そこは胸の傷ではなく、咄嗟に割り込んできた翼だった。


「翼を盾に……!?」
「本当に器用な奴だ」


 体躯に合わせて脳も並外れて大きくなったため知能が発達、あのような並外れた狡猾さや器用さを得るに至ったのではないか、と想像する。


 反撃を防いだドラゴンが、甲高い叫びを上げる。
 これまでに見せてきた、大音量で相手を怯ませるための威嚇ではなく、まるで何かに呼び掛けることを目的とした合図のような、そんな風に感じられた。


 何かが起こる──その予感は正しく、異変はすぐに起きた。
 いくつかの重力機雷が輝き、膨張を始める。


「ぐっ……!」


 すぐ近くの重力機雷が作動したことで、ダスクは自ら『安静の幕板(クワイエット・サンバイザー)』を作り出し、それを蹴り付けて場を離脱、難を逃れた。


「触れてもいないのに、重力機雷が作動した……!? まさか……」
「ああ。今の咆哮に反応したんだ……!」


 今までダスクが放っていた魔法には全く反応しなかったことから考えて、単に空気の振動に反応した訳ではなく、特定の音域や周波数といったものを感知して作動する仕組みではないかと推測される。


「見立てが甘かった……。この重力機雷をばら撒いていた真の狙いは、間合いを詰めさせないための防御じゃない。俺たちを確実に消し飛ばすための布石だった……!」


 ここまで来れば、ドラゴンの意図は明白だ。
 全方位に散らばった重力機雷全てを咆哮で一斉に作動させ、私たちを消し飛ばす気なのだ。


 接触さえしなければ無害という先入観を持たせ、私たちが機雷群の中心へ向かうように重力機雷を配置して、絶妙な誘導を行っていた。


「高い知能の持ち主だということは充分に知っていたつもりでしたが、布石を打ち、そこへ敵を少しずつ追い遣って詰みの状況へ持っていき、(とど)めの一手で確実に葬る──こんな熟練の棋士のような駆け引きまでできるとは思いませんでした……」


 重力機雷は私たちの周囲に三次元的に展開されており、全てが一斉に作動すれば、最早どの方向に移動しようとも効果圏から逃れられず、『安静の幕板(クワイエット・サンバイザー)』や『隠遁者の住処(アンカレット・ヘイヴン)』で防御を試みようと、接触した瞬間に削り取られて粉微塵、髪一本とて残らない。


「流石に奴自身の周りには重力機雷は無いようだが、だからこそ奴は俺たちを徹底して近寄らせなかった。もうここからでは遠過ぎて間に合わない……!」


 思惑通りに事が運び、王手詰み(チェックメイト)を確信したドラゴンが、死刑宣告と勝利宣言を兼ねた咆哮を高らかに上げる。


 全ての重力機雷が反応して膨張、万象を消し去る暗黒の波が拡散する。
 通常の回避では逃げ切れない以上、手は限られる。


「──奥の手を使います」


 収納魔法『亜空の秘蔵庫(エア・ストレージ)』から、特級の魔導書(グリモワール)を取り出す。


「『自在なる時空の意志(タイム・アンド・フリー・ウィル)超越する次元(ヴォイド・ディメンション)』」


 あちらが『重力』で攻めて来るのなら、こちらは『時間』と『空間』で対抗するまで。


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次のエピソードへ進む #124 超越する時 (カグヤ視点)


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 想像を絶する圧力と激痛を受けた巨龍の口から、悲痛な絶叫が爆発する。
 少し可哀想な気もするが、ここまでの戦いで見せ付けられた通り、このドラゴンは野放しにしておけないほどに強過ぎる。
「……死んだ、のでしょうか……?」
 緩やかに地上に降り立ち、うつ伏せになったままピクリとも動かないドラゴンの様子を用心深く観察する。
「そうであって欲しいが、残念ながら恐らくまだ生きている」
 ダスクの見立て通り、次の瞬間には巨体がビクンと跳ね起きた。
「流石はドラゴン、タフですね。しかし体はふらついて息も荒くなっていますから、かなりのダメージがあるのは間違い無さそうです」
「だとしても気を付けろ。手負いの魔物は何をしでかすか分からない」
 窮鼠猫を噛むという言葉があるように、窮地に立たされた者は時に信じ難い底力を発揮する。
 まして目の前の相手はネズミどころか龍なのだから、生命の灯火が完全に闇に呑まれるまで油断など許されるはずが無い。
 ゆっくりと上体を持ち上げたドラゴンが、後肢と尻尾による直立姿勢を取る。
 全長七十メートルという並外れた巨体と、それが漂わせる威圧感がより際立ち、燃え盛る炎を彷彿とさせる紅蓮の眼が、小さな私たちを憎々し気に見下ろす。
 そして轟く大咆哮。
 合わせて輝きを増すアメジスト。
「……一段とご立腹のようですね」
「怒り」という感情の根源には、必ず「恐怖」がある。
 肉体とプライドに|深手《ふかで》を負わされ、臨死の恐怖を感じさせられたのだから、激昂するのは当然。
 今まではまだ目障りな存在として、例えるなら人間が蝿や蚊に対して向けるような眼で私たちを捉えており、そこには絶対強者ならではの油断と驕りが少なからずあった。
 だが、もう違う。
 取るに足らない蝿や蚊ではなく、猛毒の蜂や蜘蛛、|蛇蝎《だかつ》のような、些細な油断が命取りになる危険生物として私たちを捉え、憤怒と憎悪を極限まで燃やし、全身全霊を以て始末に掛かる。
「奴にとってはここからが本番だな」
「今まで以上の力で攻めに来られるなんて、想像したくありませんね」
 第二ラウンドの開始を告げるドラゴンの攻撃は、再びブレス。
 しかし、今までに放ったものとはまた異なり、まるでシャボン玉でも吹き散らすかの如く、細かいブレスを大量に吐き出していく。
「これは……」
 放たれたのは、直径五メートルほどの闇属性の魔法球。
 正確な個数は分からないが、少なくとも百を下らないそれらが広範囲に拡散、気球のようにプカプカとその場に滞空し始めた。
「……あれは一体何なのでしょうか?」
「何となく想像はできるが、確認してみるか」
 ダスクが『|獄炎の飛球《ヘルファイヤー・ボール》』を放ち、魔法球の一つに叩き込む。
 すると、空気を入れ過ぎた風船のように魔法球は急激に膨張、そして破裂を迎え、黒い波動が球状に拡散した。
 黒い波動の範囲は直径二十メートルほどと推測されるが、その現象が何なのか、すぐには分からなかった。
「爆発した……!? いえ、今のは……」
「重力だな。破裂と同時に重力の奔流が広がって、範囲内の物質を粉微塵に削り取ったんだ。単なる爆発なら魔法で防御できたが、あれでは防御ごと削られる。回避するしか無い」
 闇属性魔力が重力に干渉できることは、私もよく知っている。
「衝撃に反応して作動する重力爆弾──いえ、これは『機雷』と言うべきでしょうか……」
 大技で圧倒するだけでなくこうした芸当まで体得しているとは、図体に似合わず器用である。
「辺りに重力機雷をばら撒いて、間合いを詰めさせない作戦でしょうか……?」
「そうらしいな。だが衝撃で作動するのなら、今みたく適当な魔法をぶつけて誤作動させてしまえば済む」
 ただし、ドラゴン自身の攻撃でも作動する点と、一つが作動することによって近くにある他の重力機雷まで連鎖的に作動しかねない点には注意が必要だ。
「急ぎましょう。これ以上機雷をばら撒かれたら、身動きが取れなくなります」
「そうだな」
『|安静の幕板《クワイエット・サンバイザー》』で階段状に足場を作り、ダスクに抱えられて宙へ躍り上がる。
 私が新たに配置した『|安静の幕板《クワイエット・サンバイザー》』を、競泳選手のターンのように押し蹴って、ダスクが猛スピードで直進。
 ダスクが邪魔な重力機雷に『|獄炎の飛球《ヘルファイヤー・ボール》』を撃ち込んで誤作動させて進路を確保し、私が『|安静の幕板《クワイエット・サンバイザー》』で足場を形成することで、私たちは空を突き抜ける。
 無論、そんな私たちに対してドラゴンが何の手も打たない訳が無く、新たな重力機雷を辺りに吐き散らして、こちらを妨害してきた。
「カグヤ、次の『|幕板《サンバイザー》』を……!」
「はい……!」
 直進していた先に重力機雷を配置されたため、指示通り『|安静の幕板《クワイエット・サンバイザー》』を出すと、ダスクはそれを踏み付けて九十度上に方向転換。
 私が作っていく魔力の板を文字通り足掛かりにして、ドラゴンの妨害を躱しつつダスクは間合いを詰めていく。
 そしてドラゴンとの距離が五十メートル程度に差し掛かった時、
「ここからなら狙えるな」
 私が供与した魔力を使って、ダスクが魔法を練り上げる。
「『|深き怨念の魔波《ディープ・パープル》』」
 向けた剣先から放たれるは、上級の攻撃魔法。
 破壊力満点のレーザービームは一直線に、ダスクが狙った胸の傷へ吸い込まれるように向かって行く。
 既に二回もダスクに突き刺されて今なお出血しているそこに命中すれば、ドラゴンにとって痛恨の一撃となり、形勢は一気にこちらに傾く。
 巨体故に相手の動きは鈍重、機敏な回避など絶対に取れない。
 それに対するドラゴンのアクションは、両の翼の躍動だった。
 僅かな望みに懸けて空へ逃げるつもりかと思いきや、それは全くの勘違い。
 直後に『|深き怨念の魔波《ディープ・パープル》』がドラゴンの身に命中したが、そこは胸の傷ではなく、咄嗟に割り込んできた翼だった。
「翼を盾に……!?」
「本当に器用な奴だ」
 体躯に合わせて脳も並外れて大きくなったため知能が発達、あのような並外れた狡猾さや器用さを得るに至ったのではないか、と想像する。
 反撃を防いだドラゴンが、甲高い叫びを上げる。
 これまでに見せてきた、大音量で相手を怯ませるための威嚇ではなく、まるで何かに呼び掛けることを目的とした合図のような、そんな風に感じられた。
 何かが起こる──その予感は正しく、異変はすぐに起きた。
 いくつかの重力機雷が輝き、膨張を始める。
「ぐっ……!」
 すぐ近くの重力機雷が作動したことで、ダスクは自ら『|安静の幕板《クワイエット・サンバイザー》』を作り出し、それを蹴り付けて場を離脱、難を逃れた。
「触れてもいないのに、重力機雷が作動した……!? まさか……」
「ああ。今の咆哮に反応したんだ……!」
 今までダスクが放っていた魔法には全く反応しなかったことから考えて、単に空気の振動に反応した訳ではなく、特定の音域や周波数といったものを感知して作動する仕組みではないかと推測される。
「見立てが甘かった……。この重力機雷をばら撒いていた真の狙いは、間合いを詰めさせないための防御じゃない。俺たちを確実に消し飛ばすための布石だった……!」
 ここまで来れば、ドラゴンの意図は明白だ。
 全方位に散らばった重力機雷全てを咆哮で一斉に作動させ、私たちを消し飛ばす気なのだ。
 接触さえしなければ無害という先入観を持たせ、私たちが機雷群の中心へ向かうように重力機雷を配置して、絶妙な誘導を行っていた。
「高い知能の持ち主だということは充分に知っていたつもりでしたが、布石を打ち、そこへ敵を少しずつ追い遣って詰みの状況へ持っていき、|止《とど》めの一手で確実に葬る──こんな熟練の棋士のような駆け引きまでできるとは思いませんでした……」
 重力機雷は私たちの周囲に三次元的に展開されており、全てが一斉に作動すれば、最早どの方向に移動しようとも効果圏から逃れられず、『|安静の幕板《クワイエット・サンバイザー》』や『|隠遁者の住処《アンカレット・ヘイヴン》』で防御を試みようと、接触した瞬間に削り取られて粉微塵、髪一本とて残らない。
「流石に奴自身の周りには重力機雷は無いようだが、だからこそ奴は俺たちを徹底して近寄らせなかった。もうここからでは遠過ぎて間に合わない……!」
 思惑通りに事が運び、|王手詰み《チェックメイト》を確信したドラゴンが、死刑宣告と勝利宣言を兼ねた咆哮を高らかに上げる。
 全ての重力機雷が反応して膨張、万象を消し去る暗黒の波が拡散する。
 通常の回避では逃げ切れない以上、手は限られる。
「──奥の手を使います」
 収納魔法『|亜空の秘蔵庫《エア・ストレージ》』から、特級の|魔導書《グリモワール》を取り出す。
「『|自在なる時空の意志《タイム・アンド・フリー・ウィル》・|超越する次元《ヴォイド・ディメンション》』」
 あちらが『重力』で攻めて来るのなら、こちらは『時間』と『空間』で対抗するまで。