ーー 脱出 ーー
やがて、細い光の裂け目が現れる。
「ここだ、早く!」ぬいぐるみの声が鋭く響く。
チロは先頭で裂け目を駆け抜け、健太は光を頼りに必死で後を追う。
外の明かりに触れた瞬間、建物の歪みは後ろに広がり、黒い影の手は届かなくなる。
健太は膝をつき、チロを抱きしめ、ぬいぐるみも手元で微かに揺れた。
「戻ってきた……本当に戻ってきたんだ……」
朝日が昇る。チロと健太のそばには、ウサギのぬいぐるみが静かに横たわっていた。
ーー 呼びかけ ーー
二人が無事戻った夜、メビウス・ゲートは静まり返った。
⋯⋯内部では、低く唸るような息がひそかに残っている。
窓の奥、閉ざされたフロアの奥深く、黒い影が揺れ、マネキンの瞳は光る。
光の筋が床を這い、壁や天井を通して耳の奥に反響する無音の笑い声。
建物の意思は、次の“お客様”を探していた。
遠くの都市で、夜通し配信を続ける若い動画配信者の画面に静かに通知が届く。
「廃墟探検の依頼」
送信者はリミナル・モール、添付された写真は深夜のメビウス・ゲート正面。
闇に沈む入口、微かに揺れる影が写り込み、建物の意思が次の標的を見据える視線のように迫る。
画面を凝視する配信者の背後で、微かな笑い声が響き、空気がざわめく。
リミナル・モールは静かに、新たなお客様を待ち受けている。
ゆらめく窓、歪む廊下、影の形、オルゴールの音、子どもたちの歓声。
「お客様、お探しのものは何でしょうか」