ーー ウサギ、健太、チロ ーー
足元で微かに跳ねる光。小さなウサギのぬいぐるみ。健太が幼い頃、祖母にせがんで買ってもらったものだ。
胸に蘇る記憶の断片。冬のある日、ショッピングモールの中にある小さな玩具店に入った時のこと。色とりどりのおもちゃが棚に並び、木の床はほのかに温かかった。小さな手を伸ばして、ウサギのぬいぐるみを見つけた。
「これがいい⋯⋯」目を輝かせる健太に、祖母は優しく微笑む。「じゃあ、大事にしてね」
紙袋に入れたウサギのぬいぐるみを大事に抱え、祖母と手をつないで歩いたあの日の温もり⋯⋯
今、暗い廊下の中、ぬいぐるみの光は同じ温もりを健太に伝えていた。
恐怖に引き裂かれそうな心の奥底で、幼い頃に感じた安心と勇気が呼び覚まされる。まるで、あの夜の祖母の笑顔が後押ししているかのようだった。
「こっちだ!早く!」
小さな声が廊下の空気を震わせる。チロは即座に理解し、尾を振りながら先頭で駆ける。
健太は半信半疑で足を動かし、ぬいぐるみの光と温もりを頼りに後を追った。
黒い影が床や壁から絡みつくが、ぬいぐるみの光に触れると揺らぎ、消える。
階段や傾いたタイルも、チロの俊敏な動きとぬいぐるみの導きで突破する。
二人は、建物の歪みをかいくぐりながら、出口へと進んだ。