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雪翼惨禍

ー/ー



「アリシア〜! 頑張れ〜!」


 観戦席から熱い声援を送るモニカの声を耳にして、アリシアの口角が思わず吊り上がる。そして、一瞬にして気持ちを切り替えるように、両頬を叩いてスイッチを入れた。


「応援されてるよ。応えなくていいのかい」

「ええ。お礼なら後でいくらでもするわ。あなたに勝った後でね」


 アリシア・トルリーン。バウディアムスに二人しかいない()()()()()の一人。一般の試験よりも更に厳しい試験を乗り越えてバウディアムスへやってきた猛者である。


「冗談が上手だね。こうやって話すのは試験以来かな。同じクラスになれなくて残念だったけど、楽しくやってそうで何よりだよ」

「どうも。それにしてもお互い、運がないわね」

「そうだね。シード枠で一回戦目は楽できると思ったんだけど」

「そう上手くもいかないわね」


 開始の合図はされているというのに、世間話で盛り上がる二人を見て、観戦席のモニカは疑問を浮かべる。相手の出方を伺っているわけでもなく、次の一手を考えているわけでもない。ただ、友達と話すみたいに会話をしている二人の姿がそこにはあった。


「相手が気になるか? エストレイラ」

「ひょふぇ!」


 意識の外からフィスティシアに声をかけられて、YESともNOとも取れない返事をするモニカは腰を抜かして倒れ込むように椅子に寄りかかった。心配をしつつも、フィスティシアは話を続ける。


「トルリーンの相手は『クロウ・ナハトェイド』。お互いに推薦合格者だ」

「ど、どっちも……ですか!?」

「あぁ、どうやらくじ運が悪かったようだな?」


 フィスティシアは意味深にニヤリと笑ってそう言った。暗に何かを伝えようとしているのか、モニカは今一度試験について振り返った。
 実技試験、監督官は獄蝶のジョカであり、一切の不正は許されない。そして、今回の形式は勝ち残り、トーナメントだ。その組み分けは獄蝶によってランダムに――


「……ランダムじゃ、ない?」

「ふふっ、やっと気がついたか」


 普通のトーナメント形式なら、ランダムな組み合わせでもなんの問題もない。強い者が勝ち残り、ただ一人の勝者を決める。それだけで十分だ。
 しかし、今回の場合はクラス対抗の勝ち残り形式。それも、これは実技試験だ。モニカたちは試されている。一体何を?


「私たちの対戦相手は仕組まれてたってことですか?」

「そうだろうな。でなければ試験にならない。概ね、弱点である要素を持った相手と当たるように仕組んであるのだろうな」

「……ってことは」

「試されているのはどちらだろうな?」


 アリシアの弱点をモニカは知らない。そもそも、モニカはアリシアがまともに魔法を使ったところすら見たことがないのだ。アリシアが推薦合格者だということも今知ったくらい、モニカはアリシアのことを理解できていない。
 少し華やかそうに見えた結界内に不穏な空気が漂う。二人の柔和な表情は、みるみるうちに険しい顔に変わっていった。


「さて、そろそろどうかな? みんな待ちきれないって顔してるよ」

「そうね。じゃあ、始めましょうか」


 合図はない。だというのに、二人の波長は驚くほど一致していた。まったく同じタイミングで、魔力が弾ける。真っ直ぐに迫り来るクロウに対して、アリシアは一歩後ろに引いて、即座に魔法を発動させる。


幻想の雪(スノードーム)


 展開されたその魔法が、結界内の気温を一瞬にして低下させる。真白な雪はどこからともなく降ってくる。稀に見る美しい雪景色が広がっていた。


「じゃあ、本気でいくわ」


 トルリーン家は魔法使いの名門。アリシアは最も気高く、最も美しい魔法を扱う、紛れもない天性の才能を持つ魔法使いである。


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「アリシア〜! 頑張れ〜!」
 観戦席から熱い声援を送るモニカの声を耳にして、アリシアの口角が思わず吊り上がる。そして、一瞬にして気持ちを切り替えるように、両頬を叩いてスイッチを入れた。
「応援されてるよ。応えなくていいのかい」
「ええ。お礼なら後でいくらでもするわ。あなたに勝った後でね」
 アリシア・トルリーン。バウディアムスに二人しかいない|推《・》|薦《・》|合《・》|格《・》|者《・》の一人。一般の試験よりも更に厳しい試験を乗り越えてバウディアムスへやってきた猛者である。
「冗談が上手だね。こうやって話すのは試験以来かな。同じクラスになれなくて残念だったけど、楽しくやってそうで何よりだよ」
「どうも。それにしてもお互い、運がないわね」
「そうだね。シード枠で一回戦目は楽できると思ったんだけど」
「そう上手くもいかないわね」
 開始の合図はされているというのに、世間話で盛り上がる二人を見て、観戦席のモニカは疑問を浮かべる。相手の出方を伺っているわけでもなく、次の一手を考えているわけでもない。ただ、友達と話すみたいに会話をしている二人の姿がそこにはあった。
「相手が気になるか? エストレイラ」
「ひょふぇ!」
 意識の外からフィスティシアに声をかけられて、YESともNOとも取れない返事をするモニカは腰を抜かして倒れ込むように椅子に寄りかかった。心配をしつつも、フィスティシアは話を続ける。
「トルリーンの相手は『クロウ・ナハトェイド』。お互いに推薦合格者だ」
「ど、どっちも……ですか!?」
「あぁ、どうやらくじ運が悪かったようだな?」
 フィスティシアは意味深にニヤリと笑ってそう言った。暗に何かを伝えようとしているのか、モニカは今一度試験について振り返った。
 実技試験、監督官は獄蝶のジョカであり、一切の不正は許されない。そして、今回の形式は勝ち残り、トーナメントだ。その組み分けは獄蝶によってランダムに――
「……ランダムじゃ、ない?」
「ふふっ、やっと気がついたか」
 普通のトーナメント形式なら、ランダムな組み合わせでもなんの問題もない。強い者が勝ち残り、ただ一人の勝者を決める。それだけで十分だ。
 しかし、今回の場合はクラス対抗の勝ち残り形式。それも、これは実技試験だ。モニカたちは試されている。一体何を?
「私たちの対戦相手は仕組まれてたってことですか?」
「そうだろうな。でなければ試験にならない。概ね、弱点である要素を持った相手と当たるように仕組んであるのだろうな」
「……ってことは」
「試されているのはどちらだろうな?」
 アリシアの弱点をモニカは知らない。そもそも、モニカはアリシアがまともに魔法を使ったところすら見たことがないのだ。アリシアが推薦合格者だということも今知ったくらい、モニカはアリシアのことを理解できていない。
 少し華やかそうに見えた結界内に不穏な空気が漂う。二人の柔和な表情は、みるみるうちに険しい顔に変わっていった。
「さて、そろそろどうかな? みんな待ちきれないって顔してるよ」
「そうね。じゃあ、始めましょうか」
 合図はない。だというのに、二人の波長は驚くほど一致していた。まったく同じタイミングで、魔力が弾ける。真っ直ぐに迫り来るクロウに対して、アリシアは一歩後ろに引いて、即座に魔法を発動させる。
「|幻想の雪《スノードーム》」
 展開されたその魔法が、結界内の気温を一瞬にして低下させる。真白な雪はどこからともなく降ってくる。稀に見る美しい雪景色が広がっていた。
「じゃあ、本気でいくわ」
 トルリーン家は魔法使いの名門。アリシアは最も気高く、最も美しい魔法を扱う、紛れもない天性の才能を持つ魔法使いである。