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観戦者

ー/ー



「おぅ……っす」

「なんだその反応は」


 第一回戦が始まろうとしている中、シード枠であるモニカ達は、観戦席へと場所を移していた。閑静としていた観戦席には、本来ならもっと賑わい、大勢の観客が入るのだろう。だだっ広い観客席には、二人の観客がポツンと座っているだけだった。


「フィスティシア先輩……試験はどうしたんすか」

「実技試験など受けるまでもないからな。筆記だけ終わらせてあとはパスした」

「やっほ、モニモニ! エモール先輩が見に来たよ〜!」

「も、モニモニって、私のことですか?!」


 そのまま観戦する気満々のフィスティシアとエモールに旭は疑いの目をかける。本当にこんな連中が学園の運営に関わっていていいのかと頭を抱える。魔法使いは実力主義の世界ではあるが、フィスティシアはともかく、エモールまでも実技試験をパスできるほどの実力者なのか、疑わざるを得ない。とはいえ、二人を咎めることもできず、旭は渋々観客席に腰を下ろした。


「面白そうな試験じゃないか。あの人といえばあの人らしいが、ずいぶん過激な試験だ」

「俺はどうかと思いますよ。強さだけが魔法使いに求められている資質じゃないでしょ。クラス同士の軋轢を生むだけじゃないですか?」

「ふふ、お前の口からそんな言葉が出てくるとはな」

「悪かったですね」


 自分でも思ってもみなかった言葉が口をついて出たことに、旭は顔には出さずに驚いていた。強さだけが魔法使いに求められる資質ではないなどと、数ヶ月前の旭が聴いたら泡を吹いて倒れるだろう。


「さて、クラス・ジョカの魔法使いたちは曲者が多いらしいな。なんでも、全員がサブウェポンを携えているとか」

「あ〜……そういうの、師匠(せんせい)はやりそうですね」

「旭、お前はどう見る?」

「どう見るか、ですか」


 クラス・ジョカの連中は全員強者だということは、一目見ただけで理解できた。獄蝶のジョカから指南を受けているだけはある。フィスティシア曰く、全員がサブウェポンを携えているならば、苦戦を強いられることもあるだろう。八つの結界内に生徒たちが足を踏み入れる。その様子をじっと見つめて、旭は神妙な面持ちで答えた。


「選出基準がわからないですけど、シード枠の二人は警戒してますよ」


 一回戦目には参加せず、観戦席で悠々と試験を眺める生徒の姿は旭を含めて六人。その全員がシード枠での出場となる。ジョカの独断と個人的な印象のみで定めたシード枠の生徒たちだ。戦闘力だけを鑑みて選ばれたメンバーではない。
 クラス・アステシアから選出されたのは、モニカ・エストレイラ、ガイア・ヴェローニカ、ウェールズ・ダモクレス、騎獅道旭の四人。そして、クラス・ジョカからは二人が選出されている。


「シード枠ってからにはそこそこやれるやつでしょ。まぁ、楽しみではありますね」

「ほう、では勝てるということか?」

「そりゃもちろん」


 一瞬の躊躇いもなく、旭はそう言い切る。いつもよりも冷静なように見えるのは、溢れそうになる闘争心を抑え込んでいるからだろう。その証拠に、旭の真っ黒な瞳は燃えるように紅く輝いている。


「まぁ安心してくださいよ。いくら師匠(せんせい)に魔法を教わっているからと言っても、相手は自分と同じ魔法使い見習いだ」


 全員が結界内に入ったことを確認し、獄蝶のジョカが開始の合図を送る。空高く舞い上がった紅い獄蝶が夜空を美しく染め上げ、火の花のように弾けたのと同時に、いくつもの魔力がぶつかり合う。弾けるような魔力の衝突。余波は観客席まで及んだ。
 戦いの様子を見ていた旭は、ニヤリと笑って席を立った。何かを確信したように、ゆっくりと歩いていく。遅れて理解したのか、その光景を見たフィスティシアも思わず空を仰いで大きな声で笑いだした。


「なるほどな、やるじゃないか!」


 試験が始まって数分にも満たない。それでも、決着には十分すぎたのだ。


「この程度のヤツらに遅れを取るほど、クラス・アステシアは弱くないですよ」


 ついに始まった第一回戦。それぞれ八つの結界内で行われた対人戦のうち、六つの試合が数十秒で決着がついてしまった。それも、勝者は全員クラス・アステシアの生徒たちだ。


「国綱〜! かっこよかったわよ〜!」


 観客席から大きく手を振るヴェローニカに、国綱も結界を出て手を振りかえした。そして、国綱は残る二つの結界に目をやった。


(さて、どうなるかな)


 残る結界は二つ。その結界内にいたのは――


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「おぅ……っす」
「なんだその反応は」
 第一回戦が始まろうとしている中、シード枠であるモニカ達は、観戦席へと場所を移していた。閑静としていた観戦席には、本来ならもっと賑わい、大勢の観客が入るのだろう。だだっ広い観客席には、二人の観客がポツンと座っているだけだった。
「フィスティシア先輩……試験はどうしたんすか」
「実技試験など受けるまでもないからな。筆記だけ終わらせてあとはパスした」
「やっほ、モニモニ! エモール先輩が見に来たよ〜!」
「も、モニモニって、私のことですか?!」
 そのまま観戦する気満々のフィスティシアとエモールに旭は疑いの目をかける。本当にこんな連中が学園の運営に関わっていていいのかと頭を抱える。魔法使いは実力主義の世界ではあるが、フィスティシアはともかく、エモールまでも実技試験をパスできるほどの実力者なのか、疑わざるを得ない。とはいえ、二人を咎めることもできず、旭は渋々観客席に腰を下ろした。
「面白そうな試験じゃないか。あの人といえばあの人らしいが、ずいぶん過激な試験だ」
「俺はどうかと思いますよ。強さだけが魔法使いに求められている資質じゃないでしょ。クラス同士の軋轢を生むだけじゃないですか?」
「ふふ、お前の口からそんな言葉が出てくるとはな」
「悪かったですね」
 自分でも思ってもみなかった言葉が口をついて出たことに、旭は顔には出さずに驚いていた。強さだけが魔法使いに求められる資質ではないなどと、数ヶ月前の旭が聴いたら泡を吹いて倒れるだろう。
「さて、クラス・ジョカの魔法使いたちは曲者が多いらしいな。なんでも、全員がサブウェポンを携えているとか」
「あ〜……そういうの、|師匠《せんせい》はやりそうですね」
「旭、お前はどう見る?」
「どう見るか、ですか」
 クラス・ジョカの連中は全員強者だということは、一目見ただけで理解できた。獄蝶のジョカから指南を受けているだけはある。フィスティシア曰く、全員がサブウェポンを携えているならば、苦戦を強いられることもあるだろう。八つの結界内に生徒たちが足を踏み入れる。その様子をじっと見つめて、旭は神妙な面持ちで答えた。
「選出基準がわからないですけど、シード枠の二人は警戒してますよ」
 一回戦目には参加せず、観戦席で悠々と試験を眺める生徒の姿は旭を含めて六人。その全員がシード枠での出場となる。ジョカの独断と個人的な印象のみで定めたシード枠の生徒たちだ。戦闘力だけを鑑みて選ばれたメンバーではない。
 クラス・アステシアから選出されたのは、モニカ・エストレイラ、ガイア・ヴェローニカ、ウェールズ・ダモクレス、騎獅道旭の四人。そして、クラス・ジョカからは二人が選出されている。
「シード枠ってからにはそこそこやれるやつでしょ。まぁ、楽しみではありますね」
「ほう、では勝てるということか?」
「そりゃもちろん」
 一瞬の躊躇いもなく、旭はそう言い切る。いつもよりも冷静なように見えるのは、溢れそうになる闘争心を抑え込んでいるからだろう。その証拠に、旭の真っ黒な瞳は燃えるように紅く輝いている。
「まぁ安心してくださいよ。いくら|師匠《せんせい》に魔法を教わっているからと言っても、相手は自分と同じ魔法使い見習いだ」
 全員が結界内に入ったことを確認し、獄蝶のジョカが開始の合図を送る。空高く舞い上がった紅い獄蝶が夜空を美しく染め上げ、火の花のように弾けたのと同時に、いくつもの魔力がぶつかり合う。弾けるような魔力の衝突。余波は観客席まで及んだ。
 戦いの様子を見ていた旭は、ニヤリと笑って席を立った。何かを確信したように、ゆっくりと歩いていく。遅れて理解したのか、その光景を見たフィスティシアも思わず空を仰いで大きな声で笑いだした。
「なるほどな、やるじゃないか!」
 試験が始まって数分にも満たない。それでも、決着には十分すぎたのだ。
「この程度のヤツらに遅れを取るほど、クラス・アステシアは弱くないですよ」
 ついに始まった第一回戦。それぞれ八つの結界内で行われた対人戦のうち、六つの試合が数十秒で決着がついてしまった。それも、勝者は全員クラス・アステシアの生徒たちだ。
「国綱〜! かっこよかったわよ〜!」
 観客席から大きく手を振るヴェローニカに、国綱も結界を出て手を振りかえした。そして、国綱は残る二つの結界に目をやった。
(さて、どうなるかな)
 残る結界は二つ。その結界内にいたのは――