*墜落したシリウス*
シリウスは、ひび割れた地面に横たわり、激しく明滅していた。
その胸に刻まれた巨大な数字が、バグを起こしたように高速でカウントダウンされていく。桁が一つ減るたびに、彼の体は削り取られ、青い火花を散らして崩れていった。
「……間違ってない」
崩れゆく輪郭の中で、シリウスが掠れた声で笑う。
「完璧な数字の羅列の中に、たった一文字、自分にとっての本当の感情を混ぜた。そうしたら……システムが俺を『エラー』だと叫び始めたんだ」
彼は、最高級の「記号」だけで編まれた王冠を、自分の手で握り潰したのだ。
誰かに消費されるための物語ではなく、ただ一匹のネコが丸くなる、あの静かな午後の景色を。
それを一文字、原稿の末尾に書き足した瞬間、彼の世界は内側から瓦解を始めた。
「……でも、不思議だな。数字が消えていくほど、あのネコの温もりが、はっきりと……思い出せるんだ」
彼の体から溢れ出すのは、もはや賞賛の光ではない。
静かな、祈りのような記憶の粒子
やがて、シリウスの存在が臨界点を迎える。
一瞬、彼を構成していた全データが白く爆ぜた。
その光の飛沫が、ユリの頬を掠める。
思考に直接、見知らぬ風景が流れ込んできた。
――逆光の窓辺。
――枯れ葉の舞う午後の静寂。
――古びた毛布の上で、丸くなって眠る一匹の小さなネコ。
――その喉の振動が、指先から心臓へと伝わってくる感覚。
ただそれだけの、短い記憶。
数百万の拍手の音よりもずっと静かな、けれど確かな体温の残響。
光が収まったとき、そこにはもう誰もいなかった。
シリウスだった影は、他の顔のない影たちの中に混ざり、音もなく消えていった。
彼のいた場所には、小さな塊がひとつだけ落ちていた。
それはデジタルのゴミのようにも、あるいは、土に埋もれた種子のようにも見えた。
ユリはそれを拾い上げようとして、自分の手が、もうほとんど透明になっていることに気づく。