夜が深まると、ゴーストタウンには「影」たちが這い出してくる。
かつてはこの場所で熱を帯びた言葉を綴っていたはずの作家たちの、成れの果てだ。
彼らにはもう、顔がない。
顔があるべき場所には、ぼんやりとした液晶の光のような空白があるだけだ。
彼らは互いに言葉を交わすことはない。ただ、すれ違いざまに相手の胸元に浮かぶ「評価数」という名の器を、ひどく卑屈な手つきで覗き込む。
ある影は、自分の器が空であることに絶望し、地面に這いつくばって、誰かが落とした「古い流行語」の残骸を拾い集めていた。
またある影は、数年前のたった一度の「スマッシュヒット」の記憶だけを栄養に、スカスカになった指で空中のキーボードを叩き続けている。
「……あと、少しなのに」
一人の影が、ユリの横を通り過ぎる際に漏らした。
「あと三つ『いいね』があれば、私は次の階層へ行けたはずなんだ。あと三つ。三つあれば、私は人間でいられた……」
その影の指は、ユリよりもずっと透けていた。もはや霧と区別がつかないほどに希薄だ。それなのに、彼は自分の物語が何色だったか、どんな結末だったかなど、もう一文字も覚えていないようだった。
彼らが取り憑かれているのは、物語を届ける喜びではない。
ランキングという巨大な秤の上で、昨日より数ミリでも高く浮き上がること。その一点だけに執着し、目的を見失ったまま、永遠に終わらない「更新」を繰り返している。
ユリは、彼らの虚ろな足音を聞きながら、自分の席へ戻った。
霧は容赦なく足元から這い上がり、彼女の膝を浸食していく。孤独が実体を持って、皮膚の表面を薄く削り取っていくような痛痒さがあった。
(私も、いつかああなるのだろうか)
数字を追いかけ、数字に食われ、最後には自分が誰であるかも忘れて、ただ「0」を「1」にするためだけに徘徊するだけの影に。
恐怖を振り払うように、ユリはキーボードに指を置いた。