「いやぁ、最っ高の音だよね~。困っちゃうなぁ」
上機嫌でギャリンギャリンとギターを鳴らすコリ山。
どこまでも強く深く鳴り響く美しい音に、脳みそまで痺れてくるようだった。
『はー、ホントいい音』
『ずっと聞いてたいね』
『かっこいいなーかっこいいなー』
『アナタ、約束を破りましたね?』
「え、ちょっと怖いこと言わないでよ~」
ドキッとした。誰かのいたずらだろうと考えるものの、一抹の恐怖が心臓に負担をかけてくる。
『約束を破ったら、大変なことになりますよお』
「もうオレのギターなんですよ。みんなも言ってくれてたけど、ね、だからもういいんです」
怖さを振り払うように努めて明るく言った。
だが、腕の中に抱えているギターの感触は確かなはずなのに、ひとつも現実味のない感覚。まるで恐ろしい悪魔の赤子を抱えているような……。
『ドーーーーーン!!!!!』
「うわあああ」
コリ山は目の前が遠くなった。
プルルルルルルル……。
コリ山は着信音の音で気がついた。
天井が見える。どうやら床に大の字で寝ているらしい。
どのくらい気を失っていたのか、いつから電話が鳴っているのか。わからないままに音のなる方へ手を伸ばし、耳に当てた。
「コリさん大丈夫ですか!? 配信中に何かあったんですか!?」
通話口の向こうから大きな声が聞こえた。
どうやら配信を聞いていた仲間が心配して電話をかけて来てくれたらしい。
そうか、オレは配信をしていたんだ。
徐々に記憶が蘇ってくる。
「びっくりしましたよー。叫んだかと思ったら静かになるし、ゴトンて大きな音がしたんで、まさか倒れたんじゃないかと思って」
「あ、ああ。大丈夫です。心配かけてすいません」
「大丈夫ならいいんですよ。あーよかった」
通話が切れてから、考える。
オレに一体何が起こったのだろう。コメント欄に登場したあの誰か。まるであの時ギターをくれた黒喪ギタ郎のような話し方だった。
スマホを見てみると、さすがにもう配信は切れており、手掛かりは何もなかった。
通知バーは届いたDMやらLINEやらなにやらで埋まっている。みんなよほど心配しているらしい。
「もう一回つけるか」
コリ山はむくりと起き上がり、再度配信を始めた。
『コリさん、大丈夫!?』
『何かあったんですか?』
『びっくりしたよ~』
『急に倒れるんだもん』
『ギターも無事ですか?』
すぐにリスナーたちが集まり、コメントが流れた。
「みなさんすいませんね、心配かけたみたいで。オレは大丈夫ですから、気にしないでくださいね」
『気にするよ!!!』
『疲れてる?』
『ストレスですか?』
『年齢もあるのかしら』
『不摂生はダメですよ!』
『まさか俺たちがライブ誘ったから……?』
「大丈夫ですって。色々、すみませんね。じゃあ、練習の続き、しましょうか」
『大丈夫ならよかった』
『無理しないでくださいね』
『ギター馬鹿はギターを弾いたら元気になれる』
『ちょっと心配ですけど、コリさんの歌とギター聞きたいです』
「ぎゃりん、ぎゃりりり、ぎゃぎゃぎゃりんりん、ぎゃりん、ぎゃりん」
『え?w』
『何(笑)』
『急にどうした』
「なんか上手く弾けないですね。ぎゃぎゃ、ぎゃりん、ぎゃりーん」
『ちょっとちょっと、どうしちゃったの?』
『ふざけてる?』
「いやふざけてないですよ。真面目にギター弾こうと思ってるんですけど……。さっき倒れたからですかね」
『いやいやいやいやまってまって』
「ぎゃり、ぎゃりーん、ぎゃりぎゃりん、ぎゃーりーん」
『え、おかしくなっちゃった……?』
『本人気がついてないのかな』
『まさか』
『こんなことある?』
『口で言ってる、よね???』
「ぎゃりいん、ぎゃりーん、ぎゃりいーーーん!!!」
―――
おやおや。
理想の音を愛するあまり、自分自身で奏でることになってしまいましたねえ。
彼自身の声でしたら四六時中聞けますからねえ。
ですが、彼の口では上手くいかないようです。
約束を破らなければ、愛するギターを弾き続けることができたのに。勿体ないですねえ。
ヒトの欲望とは恐ろしいものです。
それでも、この世にギター馬鹿が居る限り、わたくしはその哀しみ|《ブルース》をお聞きしていきたいと思います。
さあ、明日はどんなギター馬鹿でしょうか。
ほーっほっほっほっほ。