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第64話 自由

ー/ー



 第三分身体の悠木は瞳と共に、内親王瑠璃子の飛花殿と呼ばれる(やかた)に滞在していた。

 温かい春の日だった。悠木はお茶に呼ばれ、応接室で縁に彫刻のあるソファーに座らされた。少し離れて、そろいの御仕着せのメイドが二人並んで控えている。

 瞳と瑠璃子が部屋に入ってきた。

「悠木さん、お待たせ」
 向かいの一人掛けのソファーに瑠璃子がゆったりと足を延ばして座った。

「悠木、寝ないでちょうだい」
 瞳が左隣に座り、範経の肩を抱いた。「少しお話したいの」

「わかってる」と悠木。「だから寝たふりしているんだ」

「だめよ、逃がさないわ」と瞳。「ちょっとだけでいいから話を聞いて」

「いやだよ」と悠木。「もうたくさんだ」

「駄々をこねないで」と瞳。「本当に少しだから」

「何でぼくが聞かなきゃいけないんだ」と悠木。

「相談したいことがあるのよ」と瞳。

「もう結論は出てるんだろ。時間の無駄だよ」と悠木。「ぼくに何をさせたいのか言ってよ」

「そんなんじゃ駄目よ」と瞳。「大事なことだから」

「何かぼくにいいことがあるの?」と悠木。

「もちろんよ」と瞳。

「何?」と悠木。

「自由にしてあげる」と瞳。

「どういうこと?」と悠木。

「文字通りの意味よ」と瞳。「まじめに私たちの相談に乗ってくれたら、その後すぐにあなたは自由よ」

「どこで何をしてもいいと?」と悠木。

「そうよ。どこに行ってもいい、誰に会ってもいいわ。白猫と暮らしても、宇宙に旅立ってもいいわ。もちろん私たちとここに残ってもいい。悪いようにしないわよ」と瞳。「生きるも死ぬもあなた次第よ」

「話を聞くだけ?」と悠木。

「そう。そしてどうするかはあなたが決める」と瞳。

「わかったよ」と悠木。

 悠木以外の一同は満面の笑みを浮かべた。

「それで?」と悠木。

「あなた、他の分身が今どうしてるか知ってるかしら?」と瞳。

「知らない」と悠木。「もう分身じゃない。別人だよ」

「そう」と瞳は一呼吸置いた。「あなた、お茶飲まない? 落ち着いて話したいの」

「ああ、ではいただく」と悠木。

「クーミ、お茶の用意をお願い」と瞳。左側のメイドがお辞儀をして席を離れた。

「タリイは茶器の用意をして」と瞳はもう一人のメイドに指示をした。

 タリイと呼ばれたメイドは、テーブルに用意された三人分の茶器と皿を並べた。

 クーミがお茶のポットと菓子を台車にのせて運んできた。

「悠木、紹介しておくわ、クーミとタリイよ」と瞳。

 二人のメイドは悠木に深々と礼をし、悠木はいぶかしそうに軽く会釈した。

 悠木はクーミが淹れた茶を一口すすった。さすが皇室御用達のお茶だと思った。

「お菓子も召し上がって」
 瑠璃子が勧めた。

 悠木はタリイが取り分けた菓子を一つまみ口にした。美味だった。思わずもう一つ手に取って口に入れた。

「ご遠慮なくどうぞ」
 瑠璃子が猫なで声でさらに勧めた。

 悠木は菓子を頬張り、お茶を飲み干した。クーミが悠木のカップにお茶を注ぎ足し、タリイが菓子を皿に追加した。

「ねえ悠木」
 瞳が悠木の肩をなでた。
「クーミとタリイにあなたの面倒を見させてあげてもいいかしら?」

 悠木はきょとんとした顔をした。

「どうかお世話をさせてください。お願いします」
 二人のメイドは並んで頭を下げた。

 悠木は要領を得ぬままに「ああ、かまわない」と返事をした。

「それで、オレの分身はどうしてる」

「第一分身体は特別攻撃作戦に出撃したわ」と瞳。「私たちを置き去りにして」

「そうか」と悠木。

「驚かないのね」と瞳。

「何に驚くんだ?」と悠木。

「分身って考えることは同じなのね」と瞳。

「当然だ」と悠木。「それでほ他の二人はどうしている?」

「女王が引き取った第四分身体は、女王の夫、黒魚王として冥界のどこかにいるわ」と瞳。「前世の元のさやに戻ったというわけよ」

「なるほど」と悠木。「悪くない」

 瞳は眉をあげて複雑な表情をした。

「あなた、女王って何者か知ってる?」と瞳。

「何者って、女王は女王だろう」と悠木。「ああ確かに、あんなところに神様がいるのは、言われてみれば変だな」

 メイドたちが顔をあげて悠木を見た。

「あら、神ってこと知ってたの?」と瞳。

「ああ、すぐに分かった」と悠木。「あんな魔物、ありえない」

「なぜあそこにいるか、知ってる?」と瞳。

「いや」と悠木。

「あなた、扇坂の妻追い神話を知らないかしら?」と瞳。

「もちろん知っている」と悠木。「何、ナミ神!」

「これは神様の中でも、ほんの一部の身内しか知らないことなのよ」と瞳。



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 第三分身体の悠木は瞳と共に、内親王瑠璃子の飛花殿と呼ばれる|館《やかた》に滞在していた。
 温かい春の日だった。悠木はお茶に呼ばれ、応接室で縁に彫刻のあるソファーに座らされた。少し離れて、そろいの御仕着せのメイドが二人並んで控えている。
 瞳と瑠璃子が部屋に入ってきた。
「悠木さん、お待たせ」
 向かいの一人掛けのソファーに瑠璃子がゆったりと足を延ばして座った。
「悠木、寝ないでちょうだい」
 瞳が左隣に座り、範経の肩を抱いた。「少しお話したいの」
「わかってる」と悠木。「だから寝たふりしているんだ」
「だめよ、逃がさないわ」と瞳。「ちょっとだけでいいから話を聞いて」
「いやだよ」と悠木。「もうたくさんだ」
「駄々をこねないで」と瞳。「本当に少しだから」
「何でぼくが聞かなきゃいけないんだ」と悠木。
「相談したいことがあるのよ」と瞳。
「もう結論は出てるんだろ。時間の無駄だよ」と悠木。「ぼくに何をさせたいのか言ってよ」
「そんなんじゃ駄目よ」と瞳。「大事なことだから」
「何かぼくにいいことがあるの?」と悠木。
「もちろんよ」と瞳。
「何?」と悠木。
「自由にしてあげる」と瞳。
「どういうこと?」と悠木。
「文字通りの意味よ」と瞳。「まじめに私たちの相談に乗ってくれたら、その後すぐにあなたは自由よ」
「どこで何をしてもいいと?」と悠木。
「そうよ。どこに行ってもいい、誰に会ってもいいわ。白猫と暮らしても、宇宙に旅立ってもいいわ。もちろん私たちとここに残ってもいい。悪いようにしないわよ」と瞳。「生きるも死ぬもあなた次第よ」
「話を聞くだけ?」と悠木。
「そう。そしてどうするかはあなたが決める」と瞳。
「わかったよ」と悠木。
 悠木以外の一同は満面の笑みを浮かべた。
「それで?」と悠木。
「あなた、他の分身が今どうしてるか知ってるかしら?」と瞳。
「知らない」と悠木。「もう分身じゃない。別人だよ」
「そう」と瞳は一呼吸置いた。「あなた、お茶飲まない? 落ち着いて話したいの」
「ああ、ではいただく」と悠木。
「クーミ、お茶の用意をお願い」と瞳。左側のメイドがお辞儀をして席を離れた。
「タリイは茶器の用意をして」と瞳はもう一人のメイドに指示をした。
 タリイと呼ばれたメイドは、テーブルに用意された三人分の茶器と皿を並べた。
 クーミがお茶のポットと菓子を台車にのせて運んできた。
「悠木、紹介しておくわ、クーミとタリイよ」と瞳。
 二人のメイドは悠木に深々と礼をし、悠木はいぶかしそうに軽く会釈した。
 悠木はクーミが淹れた茶を一口すすった。さすが皇室御用達のお茶だと思った。
「お菓子も召し上がって」
 瑠璃子が勧めた。
 悠木はタリイが取り分けた菓子を一つまみ口にした。美味だった。思わずもう一つ手に取って口に入れた。
「ご遠慮なくどうぞ」
 瑠璃子が猫なで声でさらに勧めた。
 悠木は菓子を頬張り、お茶を飲み干した。クーミが悠木のカップにお茶を注ぎ足し、タリイが菓子を皿に追加した。
「ねえ悠木」
 瞳が悠木の肩をなでた。
「クーミとタリイにあなたの面倒を見させてあげてもいいかしら?」
 悠木はきょとんとした顔をした。
「どうかお世話をさせてください。お願いします」
 二人のメイドは並んで頭を下げた。
 悠木は要領を得ぬままに「ああ、かまわない」と返事をした。
「それで、オレの分身はどうしてる」
「第一分身体は特別攻撃作戦に出撃したわ」と瞳。「私たちを置き去りにして」
「そうか」と悠木。
「驚かないのね」と瞳。
「何に驚くんだ?」と悠木。
「分身って考えることは同じなのね」と瞳。
「当然だ」と悠木。「それでほ他の二人はどうしている?」
「女王が引き取った第四分身体は、女王の夫、黒魚王として冥界のどこかにいるわ」と瞳。「前世の元のさやに戻ったというわけよ」
「なるほど」と悠木。「悪くない」
 瞳は眉をあげて複雑な表情をした。
「あなた、女王って何者か知ってる?」と瞳。
「何者って、女王は女王だろう」と悠木。「ああ確かに、あんなところに神様がいるのは、言われてみれば変だな」
 メイドたちが顔をあげて悠木を見た。
「あら、神ってこと知ってたの?」と瞳。
「ああ、すぐに分かった」と悠木。「あんな魔物、ありえない」
「なぜあそこにいるか、知ってる?」と瞳。
「いや」と悠木。
「あなた、扇坂の妻追い神話を知らないかしら?」と瞳。
「もちろん知っている」と悠木。「何、ナミ神!」
「これは神様の中でも、ほんの一部の身内しか知らないことなのよ」と瞳。