焔が消えた時、ぼくの姿はグリューンとなっていた。
あの、武装したグリューンの姿だ。
黄金に輝く冠を被り、草色の髪を背の中程まで流し、マントを左の肩だけにかけている。
さらに、髪と同じ色彩の鎧を身につけていた。
——え……どうなってんの、これ?
「今はジンライ、そなたとわしは一心同体ぞえ。それでは、行くぞ!」
ぼくが——というより、グリューンが地面を蹴った。
——わ、わっ。身体が軽い!
まるで、自分じゃないみたいだ。
右手に持った”屠るもの”が、振動する。
歌っているように、ぼくには感じられた。
その槍の炎の形をした穂先が、揺らめく。
と思うと、炎の色が噴きだした。
槍の柄、全体が炎に包まれる。
が、熱さはまったく感じなかった。
一歩、駆ける度に、ぼくは戦いの興奮に包まれていた。
そして、ぼくとグリューンは、炎に包まれた“屠るもの”をギンゲツ目がけて、投げつけた。
炎は槍の形となって、飛来する。
ギンゲツが笏杖を振り回すが、炎を受けることなど、できない。
そして、炎の槍はギンゲツの身体を貫いた。
「あ! あぁっ!」
悲鳴が響く。
ギンゲツの身体が吹き飛び、地面の上を転がっていく。
最後に、宙に飛び上がると、真上から叩きつけられた。
手と脚を広げて、横たわる。
ギンゲツは、アリーナの地面に槍で縫い止められたようになっていた。
天賦でグリューンと同体となっていた姿が解除され、ぼくだけとなっていた。
ゆっくりと、ギンゲツへと近づいていく。
ギンゲツは、”屠るもの”に貫かれながら、まだ、息をしていた。
流血のなか、無様に横たわったまま、動けないでいる。
”屠るもの”の柄に手をかけると、ギンゲツが呻いた。
その声を無視して、ぼくは”屠るもの”を引き抜いた。
「……それが、あなたの天賦ですか」
ギンゲツが、小さな声で言った。
出血がひどい。
すぐ、治癒をしなければ、危ないのかもしれない。
「ああ、そうだ。グリューンの試練に打ち勝ち、獲得したんだよ」
「失望しました……天賦とその槍に頼らなければ、わたしには勝てない、ということですか」
ぼくは、言葉もなく、ギンゲツを見下ろした。
これでもまだ、ギンゲツはぼくに勝ったつもりでいるのだろうか。
哀れとしか、言いようがない。
「あなたの負けだよ、ギンゲツ。もう、二度と会うことはないと思うけどね。さよなら」
ぼくは、ギンゲツに背中を向けると、腕を振った。
闘技場より、引き上げていった。
「勝った? ねぇ、チカちゃん。ジンくん、勝ったよー」
「う、うん……」
闘技場の、一番手前の席で、私たちはジンライの試合を並んで観戦していた。
こんないい席を選んでくれたのは、学園長のリゼルさんのお陰だ。
ちょっと、ウザいけど、リゼルさんは人間としては、いい人だろう。
だって、私のような獣人にも、他の人たちと同じように接してくれるから。
そのお陰で、私たちは安心して、ジンライとギンゲツの決闘を眺めることが出来た。
試合は、一見、ギンゲツ優勢で進んでいるように見えていた。
でも——ジンライは決して、ギンゲツに押されてなどいなかった。
わざと攻撃させていたのだ。
たぶん、それはジンライが力を出し切ってしまったら、すぐに終わってしまうから、だろう。
ジンライなりに、観客をがっかりさせたくない、と思っているのだろう。
彼には、そんなところがある。
自分よりも他人——みたいに考えてしまうのだ。
ジンライが、ギンゲツの雷の呪文を正面から浴びた時は、アカネとふたりで、手を握りあった。
彼の実力なら、たぶん、正面から呪文を浴びたとしても、大丈夫。
そう思っていても、はらはらとしてしまう。
直撃を受けても、ジンライが無事——というか、いっさい、ダメージを受けていないのを見て、私たちは嬉しくて叫び声をあげた。
そして、ジンライの天賦が発現した。
はじめて見る、ジンライの必殺技だった。
炎のなかから、ジンライがあのグリューンという女騎士と一体となり、ギンゲツに迫った。
決着は、あっという間についた。
炎の槍を肩口に受けたギンゲツは地面に倒れ伏し、そして、動かなくなったのだ。
歓声が一気に大きくなる。
立ち上がり、みんなが拍手をしている。
——あぁ……よかった。
ギンゲツには、言ってやりたいことはあるけど、ジンライが無事で決闘を終えられたことに安心していた。
「チカ!」
アカネと悦びあっていると、声をかけられた。
「チカだろ?」
振り返ると、そこには背の高い獣人が立っていた。
犬の特徴を宿しており、|犬歯の族《ルフス》と一見してわかる。
屈強な体つきをしており、背中と腕が黒い毛に覆われている。
鼻面が長く、耳だけが茶色なのが、特徴的だった。
黒い瞳がじっと、私を見つめている。
「……ハーディ」
「チカちゃん、どうしたのー。その人、お知り合い?」
「う……うん。ちょっと、ね」