第20話 焔尖冥道

ー/ー



 焔が消えた時、ぼくの姿はグリューンとなっていた。
 あの、武装したグリューンの姿だ。
 黄金に輝く冠を被り、草色の髪を背の中程まで流し、マントを左の肩だけにかけている。
 さらに、髪と同じ色彩の鎧を身につけていた。

 ——え……どうなってんの、これ?
「今はジンライ、そなたとわしは一心同体ぞえ。それでは、行くぞ!」
 ぼくが——というより、グリューンが地面を蹴った。

 ——わ、わっ。身体が軽い!
 まるで、自分じゃないみたいだ。

 右手に持った”屠るもの”が、振動する。
 歌っているように、ぼくには感じられた。

 その槍の炎の形をした穂先が、揺らめく。
 と思うと、炎の色が噴きだした。
 槍の柄、全体が炎に包まれる。
 が、熱さはまったく感じなかった。

 一歩、駆ける度に、ぼくは戦いの興奮に包まれていた。
 そして、ぼくとグリューンは、炎に包まれた“屠るもの”をギンゲツ目がけて、投げつけた。
 炎は槍の形となって、飛来する。

 ギンゲツが笏杖を振り回すが、炎を受けることなど、できない。
 そして、炎の槍はギンゲツの身体を貫いた。

「あ! あぁっ!」
 悲鳴が響く。
 ギンゲツの身体が吹き飛び、地面の上を転がっていく。
 最後に、宙に飛び上がると、真上から叩きつけられた。
 手と脚を広げて、横たわる。

 ギンゲツは、アリーナの地面に槍で縫い止められたようになっていた。
 天賦でグリューンと同体となっていた姿が解除され、ぼくだけとなっていた。
 ゆっくりと、ギンゲツへと近づいていく。

 ギンゲツは、”屠るもの”に貫かれながら、まだ、息をしていた。
 流血のなか、無様に横たわったまま、動けないでいる。

 ”屠るもの”の柄に手をかけると、ギンゲツが呻いた。
 その声を無視して、ぼくは”屠るもの”を引き抜いた。

「……それが、あなたの天賦ですか」
 ギンゲツが、小さな声で言った。
 出血がひどい。
 すぐ、治癒をしなければ、危ないのかもしれない。

「ああ、そうだ。グリューンの試練に打ち勝ち、獲得したんだよ」
「失望しました……天賦とその槍に頼らなければ、わたしには勝てない、ということですか」
 ぼくは、言葉もなく、ギンゲツを見下ろした。

 これでもまだ、ギンゲツはぼくに勝ったつもりでいるのだろうか。
 哀れとしか、言いようがない。

「あなたの負けだよ、ギンゲツ。もう、二度と会うことはないと思うけどね。さよなら」
 ぼくは、ギンゲツに背中を向けると、腕を振った。
 闘技場より、引き上げていった。


「勝った? ねぇ、チカちゃん。ジンくん、勝ったよー」
「う、うん……」
 闘技場の、一番手前の席で、私たちはジンライの試合を並んで観戦していた。

 こんないい席を選んでくれたのは、学園長のリゼルさんのお陰だ。
 ちょっと、ウザいけど、リゼルさんは人間としては、いい人だろう。
 だって、私のような獣人にも、他の人たちと同じように接してくれるから。
 そのお陰で、私たちは安心して、ジンライとギンゲツの決闘を眺めることが出来た。

 試合は、一見、ギンゲツ優勢で進んでいるように見えていた。
 でも——ジンライは決して、ギンゲツに押されてなどいなかった。
 わざと攻撃させていたのだ。

 たぶん、それはジンライが力を出し切ってしまったら、すぐに終わってしまうから、だろう。
 ジンライなりに、観客をがっかりさせたくない、と思っているのだろう。

 彼には、そんなところがある。
 自分よりも他人——みたいに考えてしまうのだ。

 ジンライが、ギンゲツの雷の呪文を正面から浴びた時は、アカネとふたりで、手を握りあった。
 彼の実力なら、たぶん、正面から呪文を浴びたとしても、大丈夫。
 そう思っていても、はらはらとしてしまう。

 直撃を受けても、ジンライが無事——というか、いっさい、ダメージを受けていないのを見て、私たちは嬉しくて叫び声をあげた。
 そして、ジンライの天賦が発現した。
 はじめて見る、ジンライの必殺技だった。

 炎のなかから、ジンライがあのグリューンという女騎士と一体となり、ギンゲツに迫った。
 決着は、あっという間についた。
 炎の槍を肩口に受けたギンゲツは地面に倒れ伏し、そして、動かなくなったのだ。

 歓声が一気に大きくなる。
 立ち上がり、みんなが拍手をしている。
 ——あぁ……よかった。
 ギンゲツには、言ってやりたいことはあるけど、ジンライが無事で決闘を終えられたことに安心していた。

「チカ!」
 アカネと悦びあっていると、声をかけられた。
「チカだろ?」

 振り返ると、そこには背の高い獣人が立っていた。
 犬の特徴を宿しており、犬歯の族(ルフス)と一見してわかる。
 屈強な体つきをしており、背中と腕が黒い毛に覆われている。
 鼻面が長く、耳だけが茶色なのが、特徴的だった。
 黒い瞳がじっと、私を見つめている。

「……ハーディ」
「チカちゃん、どうしたのー。その人、お知り合い?」
「う……うん。ちょっと、ね」


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 焔が消えた時、ぼくの姿はグリューンとなっていた。
 あの、武装したグリューンの姿だ。
 黄金に輝く冠を被り、草色の髪を背の中程まで流し、マントを左の肩だけにかけている。
 さらに、髪と同じ色彩の鎧を身につけていた。
 ——え……どうなってんの、これ?
「今はジンライ、そなたとわしは一心同体ぞえ。それでは、行くぞ!」
 ぼくが——というより、グリューンが地面を蹴った。
 ——わ、わっ。身体が軽い!
 まるで、自分じゃないみたいだ。
 右手に持った”屠るもの”が、振動する。
 歌っているように、ぼくには感じられた。
 その槍の炎の形をした穂先が、揺らめく。
 と思うと、炎の色が噴きだした。
 槍の柄、全体が炎に包まれる。
 が、熱さはまったく感じなかった。
 一歩、駆ける度に、ぼくは戦いの興奮に包まれていた。
 そして、ぼくとグリューンは、炎に包まれた“屠るもの”をギンゲツ目がけて、投げつけた。
 炎は槍の形となって、飛来する。
 ギンゲツが笏杖を振り回すが、炎を受けることなど、できない。
 そして、炎の槍はギンゲツの身体を貫いた。
「あ! あぁっ!」
 悲鳴が響く。
 ギンゲツの身体が吹き飛び、地面の上を転がっていく。
 最後に、宙に飛び上がると、真上から叩きつけられた。
 手と脚を広げて、横たわる。
 ギンゲツは、アリーナの地面に槍で縫い止められたようになっていた。
 天賦でグリューンと同体となっていた姿が解除され、ぼくだけとなっていた。
 ゆっくりと、ギンゲツへと近づいていく。
 ギンゲツは、”屠るもの”に貫かれながら、まだ、息をしていた。
 流血のなか、無様に横たわったまま、動けないでいる。
 ”屠るもの”の柄に手をかけると、ギンゲツが呻いた。
 その声を無視して、ぼくは”屠るもの”を引き抜いた。
「……それが、あなたの天賦ですか」
 ギンゲツが、小さな声で言った。
 出血がひどい。
 すぐ、治癒をしなければ、危ないのかもしれない。
「ああ、そうだ。グリューンの試練に打ち勝ち、獲得したんだよ」
「失望しました……天賦とその槍に頼らなければ、わたしには勝てない、ということですか」
 ぼくは、言葉もなく、ギンゲツを見下ろした。
 これでもまだ、ギンゲツはぼくに勝ったつもりでいるのだろうか。
 哀れとしか、言いようがない。
「あなたの負けだよ、ギンゲツ。もう、二度と会うことはないと思うけどね。さよなら」
 ぼくは、ギンゲツに背中を向けると、腕を振った。
 闘技場より、引き上げていった。
「勝った? ねぇ、チカちゃん。ジンくん、勝ったよー」
「う、うん……」
 闘技場の、一番手前の席で、私たちはジンライの試合を並んで観戦していた。
 こんないい席を選んでくれたのは、学園長のリゼルさんのお陰だ。
 ちょっと、ウザいけど、リゼルさんは人間としては、いい人だろう。
 だって、私のような獣人にも、他の人たちと同じように接してくれるから。
 そのお陰で、私たちは安心して、ジンライとギンゲツの決闘を眺めることが出来た。
 試合は、一見、ギンゲツ優勢で進んでいるように見えていた。
 でも——ジンライは決して、ギンゲツに押されてなどいなかった。
 わざと攻撃させていたのだ。
 たぶん、それはジンライが力を出し切ってしまったら、すぐに終わってしまうから、だろう。
 ジンライなりに、観客をがっかりさせたくない、と思っているのだろう。
 彼には、そんなところがある。
 自分よりも他人——みたいに考えてしまうのだ。
 ジンライが、ギンゲツの雷の呪文を正面から浴びた時は、アカネとふたりで、手を握りあった。
 彼の実力なら、たぶん、正面から呪文を浴びたとしても、大丈夫。
 そう思っていても、はらはらとしてしまう。
 直撃を受けても、ジンライが無事——というか、いっさい、ダメージを受けていないのを見て、私たちは嬉しくて叫び声をあげた。
 そして、ジンライの天賦が発現した。
 はじめて見る、ジンライの必殺技だった。
 炎のなかから、ジンライがあのグリューンという女騎士と一体となり、ギンゲツに迫った。
 決着は、あっという間についた。
 炎の槍を肩口に受けたギンゲツは地面に倒れ伏し、そして、動かなくなったのだ。
 歓声が一気に大きくなる。
 立ち上がり、みんなが拍手をしている。
 ——あぁ……よかった。
 ギンゲツには、言ってやりたいことはあるけど、ジンライが無事で決闘を終えられたことに安心していた。
「チカ!」
 アカネと悦びあっていると、声をかけられた。
「チカだろ?」
 振り返ると、そこには背の高い獣人が立っていた。
 犬の特徴を宿しており、|犬歯の族《ルフス》と一見してわかる。
 屈強な体つきをしており、背中と腕が黒い毛に覆われている。
 鼻面が長く、耳だけが茶色なのが、特徴的だった。
 黒い瞳がじっと、私を見つめている。
「……ハーディ」
「チカちゃん、どうしたのー。その人、お知り合い?」
「う……うん。ちょっと、ね」