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第19話 血は滾らず

ー/ー



 ギンゲツが、踏み込んでくる。
 笏杖を叩きつけてきた。
 ひゅん、と風が鳴る。

 ギンゲツだが、意外と振りは鋭い。
 が——”屠るもの”で受けることもなく、ぼくはわずかに脚を引いただけで、躱した。

 さらに、ギンゲツが攻撃を続けてくる。
 畳みかけてくるが、やはり命中することはない。

 笏杖の攻撃は、単調なので動きが読みやすい。
 振り上げ、叩きつけ、また振り上げ、叩きつけてくる——その連続だ。
 時々、薙ぎ払ってくるが、それも視線の動きでぼくにもわかってしまう。

 それでも、ぼくからは攻撃を仕掛けていないので、ギンゲツは自分のほうが優勢と思っているみたい。
 後ろに下がりながら、ぼくは笏杖の攻撃を避け続けた。

 そして、大きく、笏杖を振り上げたところで、ぼくは姿勢を低くして、足払いをかけた。
 身体を回転させ、蹴りを足首に狙って放つ。

「うぉっ!」
 ギンゲツがバランスを崩した。
 転倒しそうになる。

 ぼくは、”屠るもの”を振り上げた。
 穂先を向けた。
 笏杖で”屠るもの”を受けると、ギンゲツは後方へとジャンプした。
 ぼくから、距離を取る。

「小細工を——」
 腰を低くして、笏杖を両手で構える。

『おい、ジンライ。あのギンゲツだが……』
「う、うん?」
『めちゃ、弱いな! おいおい、これじゃ、血が滾るどころじゃないぞ。凍りついちまうじゃねぇか』

 ”屠るもの”の言う通りだった。
 ギンゲツだが、実力はこの程度だっただろうか……。

「ギンゲツ! 一度だけ、得意な呪文を使ってきなよ。その間、ぼくは一切、攻撃はしないからさ」
 ぼくはそう告げると、アリーナに芝生の上に”屠るもの”を穂先を下にして、突き刺した。
 ゆっくりと、退く。

「ジンライ——わたしをばかにしているのですか」
「一対一の決闘スタイルだと、そちらが不利だからね」
 ギンゲツが、目を細くした。

『……ここで、ジンライからの意外な提案です。余裕なのでしょうか。ギンゲツはこれに果たして、どう応えるのでしょうか』
 アリーナの実況が虚しく、響いた。

 ぼくは、突き立てられた”屠るもの”越しに、ギンゲツを見た。
 腕を組む。

 ——余裕、なんてものはない。
 ただ、相手の得意な攻撃を敢えてさせてみて、その上で叩き伏せるだけのことだ。

 ギンゲツも、近接戦では勝負はつかない、と思ったのだろう。
 警戒しつつも、笏杖を地面に突き、中指と人差し指を揃えて、空中に紋を描いた。

「……讃えあれ、ライニグドよ。雷雲を支配する汝が御名を我は好意によりて招来せんと望む。双陽の光をも遮り、雷鳴を轟かせる汝より強壮なるものは存在せず。霹靂の恩恵もて、天地に告げよ。我、願わくは、雷鳴の諸力によりて破摧ありきことを後世に伝えるなり!」
 ギンゲツが唱える呪文の声が聞こえてくる。
 呪文の内容からして、雷撃系のもののようだ。

『ジンライ……来るぞ!』
 ギンゲツが掲げる笏杖の尖端が金色の光に包まれる。
 その光が大きくなると、放電がはじまる。
 ぼくの肌の上にも、ぴりぴりとしたものが走り抜けていくのを感じる。

 そして、電撃が迫ってきた。
 光条が空間を切り裂いてくる。
 雷撃に、ぼくは貫かれた。

「あぁっ……!」
 声が迸る。
 肌が熱くなり、身体が震えた。

 が——それだけだ。
 痺れのようなものはあるが、それも一瞬のことだった。
「あ……あれ?」

 多少なりとも、ダメージはあるのかな、と思ったのだが、それはなかった。
 これが、ギンゲツの本気なのだろうか。

 ほぼ、ぼくが無傷なのを見て、ギンゲツから表情が消えた。
 細い目を見開いている。
 ぼくの周辺の芝生は、焦げているけど、その程度だった。

 ”屠るもの”へと近づくと、ぼくは槍の柄を握った。
『おい、ジンライ。もう、面倒だ。やっちまえよ!』
「了解」
 ぼくは答えると、”屠るもの”を頭上に掲げた。

『我は放つ、「焔尖冥道(えんせんめいどう)」よ、ジンライの名に於いて命じる、使役の契約を今、果たせ!』
 言葉を放つのと同時に、ぼくの身体が焔に包まれた。
 焔のなかに、グリューンの姿が見える。

「共に、駆けようぞな。ジンライ!」
 力強い、彼女の声が聞こえた。
 そして、ぼくのなかに彼女が入り込んでくるのを感じた。


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次のエピソードへ進む 第20話 焔尖冥道


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 ギンゲツが、踏み込んでくる。
 笏杖を叩きつけてきた。
 ひゅん、と風が鳴る。
 ギンゲツだが、意外と振りは鋭い。
 が——”屠るもの”で受けることもなく、ぼくはわずかに脚を引いただけで、躱した。
 さらに、ギンゲツが攻撃を続けてくる。
 畳みかけてくるが、やはり命中することはない。
 笏杖の攻撃は、単調なので動きが読みやすい。
 振り上げ、叩きつけ、また振り上げ、叩きつけてくる——その連続だ。
 時々、薙ぎ払ってくるが、それも視線の動きでぼくにもわかってしまう。
 それでも、ぼくからは攻撃を仕掛けていないので、ギンゲツは自分のほうが優勢と思っているみたい。
 後ろに下がりながら、ぼくは笏杖の攻撃を避け続けた。
 そして、大きく、笏杖を振り上げたところで、ぼくは姿勢を低くして、足払いをかけた。
 身体を回転させ、蹴りを足首に狙って放つ。
「うぉっ!」
 ギンゲツがバランスを崩した。
 転倒しそうになる。
 ぼくは、”屠るもの”を振り上げた。
 穂先を向けた。
 笏杖で”屠るもの”を受けると、ギンゲツは後方へとジャンプした。
 ぼくから、距離を取る。
「小細工を——」
 腰を低くして、笏杖を両手で構える。
『おい、ジンライ。あのギンゲツだが……』
「う、うん?」
『めちゃ、弱いな! おいおい、これじゃ、血が滾るどころじゃないぞ。凍りついちまうじゃねぇか』
 ”屠るもの”の言う通りだった。
 ギンゲツだが、実力はこの程度だっただろうか……。
「ギンゲツ! 一度だけ、得意な呪文を使ってきなよ。その間、ぼくは一切、攻撃はしないからさ」
 ぼくはそう告げると、アリーナに芝生の上に”屠るもの”を穂先を下にして、突き刺した。
 ゆっくりと、退く。
「ジンライ——わたしをばかにしているのですか」
「一対一の決闘スタイルだと、そちらが不利だからね」
 ギンゲツが、目を細くした。
『……ここで、ジンライからの意外な提案です。余裕なのでしょうか。ギンゲツはこれに果たして、どう応えるのでしょうか』
 アリーナの実況が虚しく、響いた。
 ぼくは、突き立てられた”屠るもの”越しに、ギンゲツを見た。
 腕を組む。
 ——余裕、なんてものはない。
 ただ、相手の得意な攻撃を敢えてさせてみて、その上で叩き伏せるだけのことだ。
 ギンゲツも、近接戦では勝負はつかない、と思ったのだろう。
 警戒しつつも、笏杖を地面に突き、中指と人差し指を揃えて、空中に紋を描いた。
「……讃えあれ、ライニグドよ。雷雲を支配する汝が御名を我は好意によりて招来せんと望む。双陽の光をも遮り、雷鳴を轟かせる汝より強壮なるものは存在せず。霹靂の恩恵もて、天地に告げよ。我、願わくは、雷鳴の諸力によりて破摧ありきことを後世に伝えるなり!」
 ギンゲツが唱える呪文の声が聞こえてくる。
 呪文の内容からして、雷撃系のもののようだ。
『ジンライ……来るぞ!』
 ギンゲツが掲げる笏杖の尖端が金色の光に包まれる。
 その光が大きくなると、放電がはじまる。
 ぼくの肌の上にも、ぴりぴりとしたものが走り抜けていくのを感じる。
 そして、電撃が迫ってきた。
 光条が空間を切り裂いてくる。
 雷撃に、ぼくは貫かれた。
「あぁっ……!」
 声が迸る。
 肌が熱くなり、身体が震えた。
 が——それだけだ。
 痺れのようなものはあるが、それも一瞬のことだった。
「あ……あれ?」
 多少なりとも、ダメージはあるのかな、と思ったのだが、それはなかった。
 これが、ギンゲツの本気なのだろうか。
 ほぼ、ぼくが無傷なのを見て、ギンゲツから表情が消えた。
 細い目を見開いている。
 ぼくの周辺の芝生は、焦げているけど、その程度だった。
 ”屠るもの”へと近づくと、ぼくは槍の柄を握った。
『おい、ジンライ。もう、面倒だ。やっちまえよ!』
「了解」
 ぼくは答えると、”屠るもの”を頭上に掲げた。
『我は放つ、「|焔尖冥道《えんせんめいどう》」よ、ジンライの名に於いて命じる、使役の契約を今、果たせ!』
 言葉を放つのと同時に、ぼくの身体が焔に包まれた。
 焔のなかに、グリューンの姿が見える。
「共に、駆けようぞな。ジンライ!」
 力強い、彼女の声が聞こえた。
 そして、ぼくのなかに彼女が入り込んでくるのを感じた。