1. 永住宣言とアパートの修繕
激しい最終クライマックスから一週間。佐倉亮太の2LDKは、奇跡的な修繕を遂げていた。
ルルの「魔力修復術」とテアの「岩盤硬化技術」の協力により、アパートの構造は見た目以上に頑丈になっていた。床の亀裂は岩盤で塞がれ、壁には結界機能付きのフリルとリボンが装飾され、もはや「2LDKのフリをした異世界要塞」と化していた。
しかし、その分、大家さんへの修理費の請求は免れたものの、ルルの魔力による修繕跡が強烈すぎて、亮太の精神的ダメージは計り知れない。
リビングの中央で、ルル、ヒヨリ、エラシア、テアの四人は、改めて亮太の前に並んでいた。
「マスター、今回の魔獣との戦いで、一つの結論に至りました」
ルルがステッキを握りしめて、神妙に切り出した。
「それは、マスターの魔力(結び目)が、私たちの世界を救う唯一の『鍵』であること。そして、その結び目は、マスターがこのアパートに存在し続けることで、最も安定する、ということであります!」
「フン。王の力が、この現代日本の、しかもこのアパートという俗な場所に依存しているとは嘆かわしい。だが、それが真実であれば仕方ない」
ヒヨリはため息をついたが、その表情は安堵していた。
「我らの里も、夫の魔力を利用した『次元の航海術式』の再構築に成功した。夫を連れ帰る必要はなくなった。……だが、夫が別の雌に寝取られては困るので、我は永住する」
エラシアは剣を鞘に納め、宣言した。
「当然の帰結だ。私が採掘すべき『マナの結晶鉱』は、このアパートの真下に位置していることが判明した。佐倉リョウマ(亮太)は、私の大切な鉱石の『地上の管理人』として、今後も協力してもらう」
テアは眼鏡をくいと上げ、勝手に今後の計画を発表した。
四人それぞれの理由を述べた後、ルルが満面の笑みで締めくくった。
「つまり、亮太! 私たちは、このアパートで永遠に共同生活を送る、ということであります!」
「な、なぁんだって~~~~~~~~!!!」
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2. 隣室からの永久保護宣言
亮太は、自分の人生設計が完全に破綻したことを悟ったが、同時に、ルルたちがもう自分を「連れ去らない」ことに、心から安堵していた。
「分かったよ……。僕の日常は終わったけど、世界が平和になるなら、もう、それでいい……」
亮太が力なくそう答えた、その時だった。
壁を挟んだ隣室から、かつてのような激しい壁ドンではない、微弱ながらも確固たる壁ドンが鳴り響いた。
コン、コン、コン。
そして、壁越しに楓さんの声が聞こえてきた。その声には、アルコールではなく、強い意志が籠められていた。
「佐倉先輩、話は全部、聞こえていますよ」
(盗聴!?)
ヒヨリとエラシアが顔を見合わせる。
「私、神崎楓は、今日この場で宣言します。先輩は『世界の鍵』として、この場所に永遠に留まるのですね?」
「ああ……そういうことになったよ、楓さん」
「結構です!ならば、私もこの部屋から二度と引っ越しません! なんなら、この部屋に同棲してもいいですよ」
楓さんはそこで一拍置き、強い口調で続けた。
亮太は、その大胆な発言に思わず叫んだ。
「そ、その、同棲って……! ぼ、僕でいいのか? その……田辺先輩とか、吉岡部長じゃなくていいのか!?」
「な、何言ってんですか!」
楓さんの壁越しの怒鳴り声が響いた。
「にぶちん!」
さらに心底呆れた絶叫が続いた。
「あなたたちの非日常の騒音と、危険なバトルから、佐倉先輩を永久的に保護することが、私の『人間としての使命』です!」
「そして、先輩が他の女に惑わされないように、目を光らせ続けるのが、後輩としての務めです!」
「ちょ、ちょっと何を勝手に決めているですか!?」
「そ、そうだ!」
ルルたちが抗議しようとしたその瞬間。楓さんはにやりと笑い、最後に壁をドォン!と一回だけ強く叩くと、2LDKの空間は一瞬で静かになった。それは、以前とは違い、「保護の宣言」であり、「宣戦布告」でもあった。
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3. カオスな日常の再構築
亮太は頭を抱え、目の前の四人と、壁の向こうの楓さんを見た。
(五属性。全員、ここに留まるのか……)
「マスター!今から『マスター独占ベッド配置儀式』を行います!」
「何を!王の寝室は、我の冷気が最も集中する場所でなくてはならない!」
「夫の寝床は、私が傍で護衛しやすいよう、剣が抜きやすい配置にすべきだ!」
「私は地盤の調査に戻る。邪魔するな」
いつもの喧騒とバトルが再開した。ルル、ヒヨリ、エラシアが再び火花を散らし、テアは床の亀裂を岩盤で埋めようと魔法を使い始めた。
その騒ぎが響く中、亮太は天井を見た。
「フーハハハハ! 見よ! 火の力はここにあり! 今日も七輪の炎が静かに燃え盛る!」
上階からは、今日も山田さんの「超大奥義」と称する謎の唸り声と、四股を踏む鈍い振動が響いてくる。彼は、世界を救った大魔術の余波を、全て「自分の炎と地の能力」の進化だと確信していた。
亮太は、ボロボロになった自分のフィギュア棚に、そっと手を置いた。
「ああ、僕の日常は、もう帰ってこないんだな……」
だが、その顔には、以前のような絶望ではなく、微かな笑みが浮かんでいた。
(でも、騒音に耐えれば、世界は平和になる。そして、僕の隣には、僕を護ろうとする五人のヒロインがいる)
亮太は覚悟を決めたように、大きく息を吸い込んだ。
「分かった! 誰もフィギュア棚に触るな! そして、ルル! まずは山田さんの四股(しこ)振動を抑える結界を張ってくれ! 電気代の請求書が来たら、また大騒ぎになるぞ!」
五属性のヒロインたちと、一人の受難の主人公の、命がけで、時に甘く、常に騒がしい、「世界の最終防衛ライン」としてのカオスな共同生活は、これからも永遠に続くのだった。
マスター、王、夫、そして僕。この2LDKが世界の鍵だ!
(完)