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38頭目 甥っ子は助っ人

ー/ー



『日本代表、世界への切符を掴んだっ!!!』
 熾烈なPK戦の末、日本はワールドカップ本戦出場権を勝ち取った。アルゼンチン相手に拮抗するとは、日本のサッカーも捨てたもんじゃない。
 俺が現役の頃は、日本がワールドカップ出場というだけでダークホース扱いだった。そういう意味で、日本サッカーの躍進は感慨深いものがある。
『ブー、ブー……』
 勝利の余韻に浸りたいところだが、俺のスマートフォンに着信あり。電話の主は居場、こんな時に何の用だ……?
『おっーす、馬の骨! 日本代表の本戦出場が決まって、感無量の俺だっ!』
 居場よ、俺もちょうどその試合を見ていたところだ。奇遇だな。
 まさか、そんな事を話すために電話してきたのか? それなら、SNSにメッセージを送れば良いだけの話だろう。
『お前もあの試合観ていたか! 俺はてっきり、種馬として精を出しているかと思ってたぜ!』
 仁王像、いきなりキラーパスとは大胆だな。残念ながら、俺に妻子はいない。
『おっと、話がアウェーになるところだった。お前んとこの甘太郎……だったか? 明日暇してるか?』
 仁王像、随分とアウェーな言い間違えじゃないか。しかも、地方で論争になる今川焼きを引き合いに出すとは、キラーパスにも程がある。
『悪いが、一つ助っ人を頼まれてくれないか……?』
 ツッコミどころのハットトリックに翻弄されていたが、ここにきて居場が頼み事……?
 事情は皆目見当がつかないものの、おそらく牛郎は明日も暇を持て余しているだろう。なので、あとは要件次第といったところだ。
『明日の少年サッカー、練習試合のスタメンが1人足りなくなっちまってな……』
 県内屈指の強豪・栃木FCがスタメン不足……? 謎は深まるばかりだ。
 けれど、同志の頼みとあっては無碍に断る訳にもいかない。念のため、俺は牛郎に意向を聞くことにした。

ーー

 翌日、俺達は助っ人として練習試合へ向かうこととなった。この話を、牛郎は『面白そう!』の一言で快諾した。
 会場となる栃木FCスタジアムに到着したものの、居場から詳細は聞かされていない。とりあえず、到着を知らせることも兼ねて連絡を入れよう。
『おーっす、馬の骨! お前達の到着をマチカネフクワライってとこだ』
 仁王像、こんなところでしょうもないオヤジギャグをかますな。ただでさえ広い会場なんだ、早いところ集合場所を教えてくれ。
『そうだなぁ……とりあえず、青いユニフォームの集まりを見つけてくれ』
 青いユニフォームが目印……。栃木FCのユニフォームは黒に稲妻のマークだったはずだが?
 とにかく、細かいことはあとで聞こう。俺達は居場の元へ急いだ。

ーー

「おーっす、馬の骨! 今日はありがとなっ!」
 俺達は漸く居場と合流したが、そこは相手方であろう矢切FC東。これは一体どういうことなんだ……?
「早速だが、甘太郎はゴールキーパーについてくれ。今日はよろしく頼むぞ!」
 居場の言葉に、牛郎は二つ返事で快諾している。色々と端折られているが、おそらく居場はオファーを辞退したんだろうなぁ。
「みんな、よろしくねっ!」
 意気揚々な牛郎に対して、チームメイト達は意気消沈。相手が県内屈指の強豪チームとあっては、それも当然だろう。
『ピーッ!』
 牛郎が合流して間もなく、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。さて、両者の実力はいかほどか。
 俺が見る限り、チームの実力差は否めない。栃木FCはこちらを格下と見ているのか、補欠以下のスタメンなのは明白だ。
「へへっ、矢切東は大したことねぇや!」
 栃木FCのフォワードには、牛郎とクラスメイトの小梛君。教育ママはスポーツにも力を注いでいるのだろうが、残念ながら彼には不相応といえよう。
 しかしながら、矢切FC東とて地元少年の寄せ集めに過ぎない。正直、補欠以下の相手に翻弄されてしまうのは、見ている側としても実に歯痒い。
「キーパーは吉野屋か。悪いけど、初得点は頂くぜっ!」
 素人同然の牛郎を侮ったのか、小梛君はボールを転がすようにシュートを放った。さて、牛郎はどうするのか。
「あぁーっ、じれったいなもうっ!!」
 じっと待つことに痺れを切らしたのか、牛郎はボールを勢いよく蹴り返した。だが、問題となったのはその軌道。
「……」
 あろうことか、ボールは天高く舞い上がってしまった。そう、どこまでもどこまでも……。
 突拍子もない出来事に、小梛君をはじめ一同は天を仰いで絶句。俺は思う、時が止まるというのはこう言うことだと。
 その後も、ボールは一向に落ちてこないので予備のボールを用いて試合を再開した。牛郎のセーブが牽制となったのか、栃木FCの士気は急降下しているように見受けられる。
「お前達、今がチャンスだ!」
 居場は檄を飛ばすが、矢切FC東の実力では到底攻めきれない。傍から見ても、泥試合と化しているのは明白だ。
 もはや、これは互いの士気を削り合うだけの消耗戦。かと思われたが……。
『スポーンッ!』
 まさかとは思ったが、忘れた頃にボールが空中から舞い戻ってきた。しかも、ゴールポストに吸い寄せられような形で。
『ピーッ!』
 あり得ない話だが、なんと審判がこれを得点と判定。本来であればブーイングは避けられないが、もはや子供達にその気力はないようだ。
 皮肉にもこれが決勝点となり、矢切FC東の勝利で練習試合は終了した。俺としては、試合に勝って勝負に負けたような苦さが否めない。
「甘太郎、今日はありがとう! また頼むぜっ!」
 終始グダグダな泥試合にも拘らず、居場は満面の笑みを浮かべている。仁王像、お前はそれでいいのか……?
「うーん、どうしようかぁ……?」
 当の本人は、呑気にムンクの叫びのような変顔を披露している。とりあえず、いろいろとカオス。


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 俺が現役の頃は、日本がワールドカップ出場というだけでダークホース扱いだった。そういう意味で、日本サッカーの躍進は感慨深いものがある。
『ブー、ブー……』
 勝利の余韻に浸りたいところだが、俺のスマートフォンに着信あり。電話の主は居場、こんな時に何の用だ……?
『おっーす、馬の骨! 日本代表の本戦出場が決まって、感無量の俺だっ!』
 居場よ、俺もちょうどその試合を見ていたところだ。奇遇だな。
 まさか、そんな事を話すために電話してきたのか? それなら、SNSにメッセージを送れば良いだけの話だろう。
『お前もあの試合観ていたか! 俺はてっきり、種馬として精を出しているかと思ってたぜ!』
 仁王像、いきなりキラーパスとは大胆だな。残念ながら、俺に妻子はいない。
『おっと、話がアウェーになるところだった。お前んとこの甘太郎……だったか? 明日暇してるか?』
 仁王像、随分とアウェーな言い間違えじゃないか。しかも、地方で論争になる今川焼きを引き合いに出すとは、キラーパスにも程がある。
『悪いが、一つ助っ人を頼まれてくれないか……?』
 ツッコミどころのハットトリックに翻弄されていたが、ここにきて居場が頼み事……?
 事情は皆目見当がつかないものの、おそらく牛郎は明日も暇を持て余しているだろう。なので、あとは要件次第といったところだ。
『明日の少年サッカー、練習試合のスタメンが1人足りなくなっちまってな……』
 県内屈指の強豪・栃木FCがスタメン不足……? 謎は深まるばかりだ。
 けれど、同志の頼みとあっては無碍に断る訳にもいかない。念のため、俺は牛郎に意向を聞くことにした。
ーー
 翌日、俺達は助っ人として練習試合へ向かうこととなった。この話を、牛郎は『面白そう!』の一言で快諾した。
 会場となる栃木FCスタジアムに到着したものの、居場から詳細は聞かされていない。とりあえず、到着を知らせることも兼ねて連絡を入れよう。
『おーっす、馬の骨! お前達の到着をマチカネフクワライってとこだ』
 仁王像、こんなところでしょうもないオヤジギャグをかますな。ただでさえ広い会場なんだ、早いところ集合場所を教えてくれ。
『そうだなぁ……とりあえず、青いユニフォームの集まりを見つけてくれ』
 青いユニフォームが目印……。栃木FCのユニフォームは黒に稲妻のマークだったはずだが?
 とにかく、細かいことはあとで聞こう。俺達は居場の元へ急いだ。
ーー
「おーっす、馬の骨! 今日はありがとなっ!」
 俺達は漸く居場と合流したが、そこは相手方であろう矢切FC東。これは一体どういうことなんだ……?
「早速だが、甘太郎はゴールキーパーについてくれ。今日はよろしく頼むぞ!」
 居場の言葉に、牛郎は二つ返事で快諾している。色々と端折られているが、おそらく居場はオファーを辞退したんだろうなぁ。
「みんな、よろしくねっ!」
 意気揚々な牛郎に対して、チームメイト達は意気消沈。相手が県内屈指の強豪チームとあっては、それも当然だろう。
『ピーッ!』
 牛郎が合流して間もなく、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。さて、両者の実力はいかほどか。
 俺が見る限り、チームの実力差は否めない。栃木FCはこちらを格下と見ているのか、補欠以下のスタメンなのは明白だ。
「へへっ、矢切東は大したことねぇや!」
 栃木FCのフォワードには、牛郎とクラスメイトの小梛君。教育ママはスポーツにも力を注いでいるのだろうが、残念ながら彼には不相応といえよう。
 しかしながら、矢切FC東とて地元少年の寄せ集めに過ぎない。正直、補欠以下の相手に翻弄されてしまうのは、見ている側としても実に歯痒い。
「キーパーは吉野屋か。悪いけど、初得点は頂くぜっ!」
 素人同然の牛郎を侮ったのか、小梛君はボールを転がすようにシュートを放った。さて、牛郎はどうするのか。
「あぁーっ、じれったいなもうっ!!」
 じっと待つことに痺れを切らしたのか、牛郎はボールを勢いよく蹴り返した。だが、問題となったのはその軌道。
「……」
 あろうことか、ボールは天高く舞い上がってしまった。そう、どこまでもどこまでも……。
 突拍子もない出来事に、小梛君をはじめ一同は天を仰いで絶句。俺は思う、時が止まるというのはこう言うことだと。
 その後も、ボールは一向に落ちてこないので予備のボールを用いて試合を再開した。牛郎のセーブが牽制となったのか、栃木FCの士気は急降下しているように見受けられる。
「お前達、今がチャンスだ!」
 居場は檄を飛ばすが、矢切FC東の実力では到底攻めきれない。傍から見ても、泥試合と化しているのは明白だ。
 もはや、これは互いの士気を削り合うだけの消耗戦。かと思われたが……。
『スポーンッ!』
 まさかとは思ったが、忘れた頃にボールが空中から舞い戻ってきた。しかも、ゴールポストに吸い寄せられような形で。
『ピーッ!』
 あり得ない話だが、なんと審判がこれを得点と判定。本来であればブーイングは避けられないが、もはや子供達にその気力はないようだ。
 皮肉にもこれが決勝点となり、矢切FC東の勝利で練習試合は終了した。俺としては、試合に勝って勝負に負けたような苦さが否めない。
「甘太郎、今日はありがとう! また頼むぜっ!」
 終始グダグダな泥試合にも拘らず、居場は満面の笑みを浮かべている。仁王像、お前はそれでいいのか……?
「うーん、どうしようかぁ……?」
 当の本人は、呑気にムンクの叫びのような変顔を披露している。とりあえず、いろいろとカオス。