光の隙間を通り抜けると、そこは夜空と大地が溶け合うような不思議な場所だった。
宙に浮く無数のキャンドルが、銀のトレイを運ぶ給仕たちの影を長く伸ばしている。そこは、時空の狭間に佇む「星の降るレストラン」だ。猫は慣れた足取りで、一番奥にある特等席へと飛び乗った。
「いらっしゃいませ。未来をお望みですか? それとも、今日のごはんにいたしますか?」
燕尾服を着た給仕が、旅人にメニューを差し出す。見れば、隣の席の猫の前には、すでに一皿の料理が運ばれていた。
それは、夜空の欠片を煮込んだようなスープで、猫が一口舐めるたびに、その長いしっぽの先がパチパチと小さく発光した。
旅人はメニューを開く。そこには『明日の幸運』や『忘れられた初恋の味』といった不思議な料理名が並んでいた。
「猫が食べているのは?」
「あれは『満月のパテ』でございます。一口食べれば、明日が良い日になることを確信できる……猫たちにとっては、最高の『未来』であり『ごはん』なのです」
旅人は、猫の満足げな喉鳴りを聞きながら、自分も一番温かそうなスープを注文した。
扉の向こうにあったのは、世界を救うような巨大な未来ではなかったかもしれない。けれど、冷えた体を温める一杯のスープと、明日を信じられるささやかな安心。
「なるほど。これ以上の未来はないな」
旅人はスプーンを取り、猫と並んで、静かな晩餐を始めた。