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第167話 ダブルブッキング

ー/ー



「そうか、お前らもか……」

「も?」

 放課後。移動していた時、たまたま会った樫田に昨日の夜のことを話すと気になる言い方をした。
 階段を上りながら、樫田が説明する。

「実はな、俺も昨日夏村とちょっと話していてな。田島に話したいことがあるみたいで、今日の放課後三人で集まりたいって言われたんだ」

「夏村が?」

 いったい何の話をするつもりだろうか。それに樫田が必要なことってなんだ?
 頭の中は疑問で一杯になったが、それ聞く前にいつもの教室に辿り着く。
 扉を開けて中に入ると、一番に目についたのは椎名と夏村、田島、そして池本の四人が何か会話をしているところだった。
 音でこちらに気づいた四人がじっと俺と樫田を見てきた。

「ん? なんかあったか?」

 樫田がそう言いながら、俺たちは四人に近づいた。
 すると夏村が少し面倒くさそうな顔で答える。

「ダブルブッキング」

「なるほど」

 その一言で樫田は察した。というか俺もなんとなく分かった。
 これは夏村と椎名がそれぞれ田島に用があって放課後集まりたいと言ったのだろう。
 揉めている様子はないが、どっちも譲る気もないのだろう。
 まるで冷戦時のロシアとアメリカのごとく、静かに睨み合っていた。
 どうすんのこれ。
 居心地が悪そう話台の中心にいる田島に、樫田が聞く。

「田島的にはどうなんだ?」

「そうですねぇー。内容が分からないとちょっとぉ」

「なんだ。二人とも何を言うか話してないのか」

 今度は夏村と椎名に話を振る。
 二人は一瞬、池本を見た後にそれぞれ答える。

「昨日、杉野と話したことについて」

「私も同じだわ」

 ……ああ、池本の手前はっきりとしたことを言いたくないのか。
 曖昧なことを言う二人に、少しだけ空気が悪くなる。
 池本は自分がいない方がいいんじゃないかと思ったのか、少しおどおどしていた。
対して田島は二人の曖昧な言葉で内容を察したのか、ちらっと俺に視線を送ってから二人に返答する。

「なるほどぉ、そうですかぁ…………でもぉ、それでしたら私は春佳ちゃんと一緒なら聞きますよぉ」

「え?」

 急に名前を出されて池本が驚いた表情になった。
 瞬間的に注目がしたせいか、池本は慌てて弁明する。

「いや、あの、その! 真弓ちゃん! 冗談言っている雰囲気じゃないって!」

「えぇー。私は本気だよぉー」

「その、あの、お邪魔でしたら席を外します!」

 ピりついた空気を感じていたのだろう。そう言って池本がこの場から離れようとした。
だが、樫田がそれを止めた。

「まぁ、待てって。俺と夏村はそれでもいいぞ」

「ちょっと」

「いいから、それなら田島はいいんだろ?」

「はい! それなら問題ないですよ!」

 樫田の提案に満面の笑みで答える田島。
 夏村は少し不満げだったが、樫田の言葉に従った。
 田島が椎名の方を向く。

「椎名先輩はどうしますぅ? 真弓ちゃんも一緒じゃないなら、私は話を聞く気ないですけどぉ」

「……分かったわ。それで構わないわ」

 椎名は少し考えこんで、結局池本の付き添いに同意した。
 池本が、本当に私付いて行って大丈夫だろうか……と不安そうだったが、田島は満足そうだった。
 なぜ池本が同伴なのか、俺はその意図が分からなかった。

「じゃあ、今日の放課後それぞれと話し合ってくれるわけだな?」

「はい! 大丈夫です!」

「分かった。どっちが先とか、細かいことはこっちで決めていいか?」

「はい! いいですよぉ!」

 樫田と田島の二人で、どんどん話が進んでいく。
 おぉ、これぞマルタ会談……あれ? ヤルタ会談だっけ? まぁいいや。
 そんなことを思っていると、どうやら話がついたようだ。

「てなわけで、椎名と夏村はどっちが先に話すかとか決めといてくれ」

「ええ、分かったわ」

「決めておく」

 それだけ言うと、樫田と俺は、カバンを置きにロッカーの方へと歩く。
 背後では女子たちがそのまま別の話を始めたようだった。
 そして俺にしか聞こえないぐらいの声で樫田がぼやいた。

「やるねぇ」

「え?」

 意味が分からず聞き返すと、樫田は困ったような笑みを浮かべていた。
 どういうことだよ、という俺の視線に気づくと樫田は肩をすくめた。

「気にすんな。ちょっとした愚痴(ぐち)だよ」

 ますます言葉の意味が分からなかったが、樫田はそんな俺に特に説明することなく部活の準備を始めるのだった。



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「そうか、お前らもか……」
「も?」
 放課後。移動していた時、たまたま会った樫田に昨日の夜のことを話すと気になる言い方をした。
 階段を上りながら、樫田が説明する。
「実はな、俺も昨日夏村とちょっと話していてな。田島に話したいことがあるみたいで、今日の放課後三人で集まりたいって言われたんだ」
「夏村が?」
 いったい何の話をするつもりだろうか。それに樫田が必要なことってなんだ?
 頭の中は疑問で一杯になったが、それ聞く前にいつもの教室に辿り着く。
 扉を開けて中に入ると、一番に目についたのは椎名と夏村、田島、そして池本の四人が何か会話をしているところだった。
 音でこちらに気づいた四人がじっと俺と樫田を見てきた。
「ん? なんかあったか?」
 樫田がそう言いながら、俺たちは四人に近づいた。
 すると夏村が少し面倒くさそうな顔で答える。
「ダブルブッキング」
「なるほど」
 その一言で樫田は察した。というか俺もなんとなく分かった。
 これは夏村と椎名がそれぞれ田島に用があって放課後集まりたいと言ったのだろう。
 揉めている様子はないが、どっちも譲る気もないのだろう。
 まるで冷戦時のロシアとアメリカのごとく、静かに睨み合っていた。
 どうすんのこれ。
 居心地が悪そう話台の中心にいる田島に、樫田が聞く。
「田島的にはどうなんだ?」
「そうですねぇー。内容が分からないとちょっとぉ」
「なんだ。二人とも何を言うか話してないのか」
 今度は夏村と椎名に話を振る。
 二人は一瞬、池本を見た後にそれぞれ答える。
「昨日、杉野と話したことについて」
「私も同じだわ」
 ……ああ、池本の手前はっきりとしたことを言いたくないのか。
 曖昧なことを言う二人に、少しだけ空気が悪くなる。
 池本は自分がいない方がいいんじゃないかと思ったのか、少しおどおどしていた。
対して田島は二人の曖昧な言葉で内容を察したのか、ちらっと俺に視線を送ってから二人に返答する。
「なるほどぉ、そうですかぁ…………でもぉ、それでしたら私は春佳ちゃんと一緒なら聞きますよぉ」
「え?」
 急に名前を出されて池本が驚いた表情になった。
 瞬間的に注目がしたせいか、池本は慌てて弁明する。
「いや、あの、その! 真弓ちゃん! 冗談言っている雰囲気じゃないって!」
「えぇー。私は本気だよぉー」
「その、あの、お邪魔でしたら席を外します!」
 ピりついた空気を感じていたのだろう。そう言って池本がこの場から離れようとした。
だが、樫田がそれを止めた。
「まぁ、待てって。俺と夏村はそれでもいいぞ」
「ちょっと」
「いいから、それなら田島はいいんだろ?」
「はい! それなら問題ないですよ!」
 樫田の提案に満面の笑みで答える田島。
 夏村は少し不満げだったが、樫田の言葉に従った。
 田島が椎名の方を向く。
「椎名先輩はどうしますぅ? 真弓ちゃんも一緒じゃないなら、私は話を聞く気ないですけどぉ」
「……分かったわ。それで構わないわ」
 椎名は少し考えこんで、結局池本の付き添いに同意した。
 池本が、本当に私付いて行って大丈夫だろうか……と不安そうだったが、田島は満足そうだった。
 なぜ池本が同伴なのか、俺はその意図が分からなかった。
「じゃあ、今日の放課後それぞれと話し合ってくれるわけだな?」
「はい! 大丈夫です!」
「分かった。どっちが先とか、細かいことはこっちで決めていいか?」
「はい! いいですよぉ!」
 樫田と田島の二人で、どんどん話が進んでいく。
 おぉ、これぞマルタ会談……あれ? ヤルタ会談だっけ? まぁいいや。
 そんなことを思っていると、どうやら話がついたようだ。
「てなわけで、椎名と夏村はどっちが先に話すかとか決めといてくれ」
「ええ、分かったわ」
「決めておく」
 それだけ言うと、樫田と俺は、カバンを置きにロッカーの方へと歩く。
 背後では女子たちがそのまま別の話を始めたようだった。
 そして俺にしか聞こえないぐらいの声で樫田がぼやいた。
「やるねぇ」
「え?」
 意味が分からず聞き返すと、樫田は困ったような笑みを浮かべていた。
 どういうことだよ、という俺の視線に気づくと樫田は肩をすくめた。
「気にすんな。ちょっとした|愚痴《ぐち》だよ」
 ますます言葉の意味が分からなかったが、樫田はそんな俺に特に説明することなく部活の準備を始めるのだった。