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第166話 夜の通話 彼女の変化

ー/ー



 家に帰ってからも、俺は田島のことを考えていた。
 色々考えなきゃいけないことはあるが、まずは本気を出させることだ。
 とはいえ、どうやるかって話なんだよなぁ。
 それに、もう一つ。

「……全国に行けない、か」

 一人呟き、問題を再認識する。
 たぶん、田島は演劇に一家言(いっかげん)あるんだろう。それがどれほどかは分からないが、彼女の中では俺たちが全国に行くことは無理だと思っている。
 そして、それは樫田も薄々考えていたことだった。

 高校生らしさ。
 俺からしたらそっちの方がよっぽどふざけた言葉だが、高校演劇で求められている表現はそういったことなのだろう。
 これは由々しき問題であった。
 全国を目指す俺と椎名にとっては、避けては通れない。
 だからといってどうする?
 これもまた、答えの出ない話だった。

「あー、考えがまとまんないな!」

 俺は自室で、一人ぼやく。
 情報が少ないからか、現状の対策が浮かばなかった。
 田島のことは二年生でも意見が分かれたし、存外、俺が思っている以上に複雑な問題なのかもしれない。
 俺は気分を変えるべく、スマホで動画サイトを開いて適当に曲を流そうとする。
 スマホの画面を確認した時、連絡が来ていた。
 慌てて返信をする。
 数回やり取りを交わすと、スマホに通話がかかってきた。

「もしもし」

『もしもし、寝ていたかしら?』

「いいや、ちょっと考え事してて気づかなかったわ、すまん」

 そう言うと、通話相手の椎名は「そう」と安堵したようだった。
 なんだか、椎名との通話は珍しい気がした。

『少し二人で話したかったの』

「ああ、俺は一人で悩んでいたから丁度良かったわ」

『田島のこと?』

「そうだ。どうすれば本気を出させられるかって」

『何か案は出たかしら』

「いいや、さっぱりだ」

 俺はそう言いながら、ベッドに腰を掛ける。
 スマホの向こうから椎名の声が聞こえる。

『そうよね。簡単に答えの出る問題じゃないもの』

「だよなー。とはいえ、春大会まで時間がないしな……」

『分かっているわ……私たちに話す前に、男子だけで話したときはどうだったのかしら?』

「どうって――」

 俺は大雑把に今日フードコートで話したことを椎名に説明した。
 椎名は俺の話を黙って聞いた。電話越しだったため、どんな様子か分からなかった。

「――樫田が言うには、今年全国を目指せるだけの可能性を証明するしかないって話なんだが」

『……そう、今年は全国に行けない、ね』

 何を思ったのか、椎名はそう呟いた。
 みんなで全国を目指す俺たちにとって、これは致命的な話だった。
 俺は静かに椎名の言葉を待った。

『これは、チャンスかもしれないわ』

「え?」

 予想外の言葉に、俺は思わず聞き返した。
 チャンス? 何がだ?

『私も簡単に全国に行けるとは思っていないわ……でも明確に何がどう劣っているのか、足りていないのか分かっていなかった。もし田島の言葉が本当なら、逆に言えば全国を目指す上で必要なことを田島は知っていることになるわ』

「ああ、なるほど……?」

 分かるような分からないような話だった。
 そんな俺の様子を察してか、椎名は更にかみ砕いて説明してくれる。

『要するに、味方になれば強力ってことよ』

「いやいや、でもよ。田島が全国を目指すことについて詳しく知識があるとは限らないだろ」

『まぁ、それはそうね。でも志が同じなら、仲間にする価値はあるでしょ?』

「そりゃ、そうだけど……そう簡単に行くか?」

『ダメでしょうね』

 ダメなんかい! と心の中でツッコむ。
 じゃあ、今の話は何だよと思う。

『一筋縄ではいかないってだけよ。話してみる価値はあると思うの』

「ああ、そういう……」

『仲間になって、今年の秋から全国を目指してくれるなら、きっと春大会でも本気出すだろうし、万事解決と行かないかしら?』

「理にかなっている、のか?」

 話を聞いていると、なんとなくそうなんじゃないかと思ってくる。
 確かに、田島は俺たちが全国を目指していることを知らない。
 実際に話してみたら、思いのほか上手くいくんじゃないだろうか。
 そんな考えが脳裏をよぎる。

『私は、話してみたいのだけれども、杉野はどうかしら?』

「そうだな。現状打つ手ないし、ありだと思う」

『ありがとう。なら、明日の放課後、三人で話しましょう』

「分かった」

 俺がそう答えると、スマホの向こう側で椎名が喜んでいるのを感じた。
 全国を目指す仲間が増えるかもしれないことが嬉しいのだろう。

『……ねぇ、杉野』

「ん? なんだ?」

『……みんなで全国行きましょうね』

 椎名は小さい声で、そう言った。
 ふと、公園で誓ったあの渇望を思い出す。
 どこか排他的だった椎名が、みんなで目指すことを改めて言葉にしたことに、俺は感動を覚えた。

「ああ、行こうな」

 俺は短く、はっきりと肯定するのだった。



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 家に帰ってからも、俺は田島のことを考えていた。
 色々考えなきゃいけないことはあるが、まずは本気を出させることだ。
 とはいえ、どうやるかって話なんだよなぁ。
 それに、もう一つ。
「……全国に行けない、か」
 一人呟き、問題を再認識する。
 たぶん、田島は演劇に|一家言《いっかげん》あるんだろう。それがどれほどかは分からないが、彼女の中では俺たちが全国に行くことは無理だと思っている。
 そして、それは樫田も薄々考えていたことだった。
 高校生らしさ。
 俺からしたらそっちの方がよっぽどふざけた言葉だが、高校演劇で求められている表現はそういったことなのだろう。
 これは由々しき問題であった。
 全国を目指す俺と椎名にとっては、避けては通れない。
 だからといってどうする?
 これもまた、答えの出ない話だった。
「あー、考えがまとまんないな!」
 俺は自室で、一人ぼやく。
 情報が少ないからか、現状の対策が浮かばなかった。
 田島のことは二年生でも意見が分かれたし、存外、俺が思っている以上に複雑な問題なのかもしれない。
 俺は気分を変えるべく、スマホで動画サイトを開いて適当に曲を流そうとする。
 スマホの画面を確認した時、連絡が来ていた。
 慌てて返信をする。
 数回やり取りを交わすと、スマホに通話がかかってきた。
「もしもし」
『もしもし、寝ていたかしら?』
「いいや、ちょっと考え事してて気づかなかったわ、すまん」
 そう言うと、通話相手の椎名は「そう」と安堵したようだった。
 なんだか、椎名との通話は珍しい気がした。
『少し二人で話したかったの』
「ああ、俺は一人で悩んでいたから丁度良かったわ」
『田島のこと?』
「そうだ。どうすれば本気を出させられるかって」
『何か案は出たかしら』
「いいや、さっぱりだ」
 俺はそう言いながら、ベッドに腰を掛ける。
 スマホの向こうから椎名の声が聞こえる。
『そうよね。簡単に答えの出る問題じゃないもの』
「だよなー。とはいえ、春大会まで時間がないしな……」
『分かっているわ……私たちに話す前に、男子だけで話したときはどうだったのかしら?』
「どうって――」
 俺は大雑把に今日フードコートで話したことを椎名に説明した。
 椎名は俺の話を黙って聞いた。電話越しだったため、どんな様子か分からなかった。
「――樫田が言うには、今年全国を目指せるだけの可能性を証明するしかないって話なんだが」
『……そう、今年は全国に行けない、ね』
 何を思ったのか、椎名はそう呟いた。
 みんなで全国を目指す俺たちにとって、これは致命的な話だった。
 俺は静かに椎名の言葉を待った。
『これは、チャンスかもしれないわ』
「え?」
 予想外の言葉に、俺は思わず聞き返した。
 チャンス? 何がだ?
『私も簡単に全国に行けるとは思っていないわ……でも明確に何がどう劣っているのか、足りていないのか分かっていなかった。もし田島の言葉が本当なら、逆に言えば全国を目指す上で必要なことを田島は知っていることになるわ』
「ああ、なるほど……?」
 分かるような分からないような話だった。
 そんな俺の様子を察してか、椎名は更にかみ砕いて説明してくれる。
『要するに、味方になれば強力ってことよ』
「いやいや、でもよ。田島が全国を目指すことについて詳しく知識があるとは限らないだろ」
『まぁ、それはそうね。でも志が同じなら、仲間にする価値はあるでしょ?』
「そりゃ、そうだけど……そう簡単に行くか?」
『ダメでしょうね』
 ダメなんかい! と心の中でツッコむ。
 じゃあ、今の話は何だよと思う。
『一筋縄ではいかないってだけよ。話してみる価値はあると思うの』
「ああ、そういう……」
『仲間になって、今年の秋から全国を目指してくれるなら、きっと春大会でも本気出すだろうし、万事解決と行かないかしら?』
「理にかなっている、のか?」
 話を聞いていると、なんとなくそうなんじゃないかと思ってくる。
 確かに、田島は俺たちが全国を目指していることを知らない。
 実際に話してみたら、思いのほか上手くいくんじゃないだろうか。
 そんな考えが脳裏をよぎる。
『私は、話してみたいのだけれども、杉野はどうかしら?』
「そうだな。現状打つ手ないし、ありだと思う」
『ありがとう。なら、明日の放課後、三人で話しましょう』
「分かった」
 俺がそう答えると、スマホの向こう側で椎名が喜んでいるのを感じた。
 全国を目指す仲間が増えるかもしれないことが嬉しいのだろう。
『……ねぇ、杉野』
「ん? なんだ?」
『……みんなで全国行きましょうね』
 椎名は小さい声で、そう言った。
 ふと、公園で誓ったあの渇望を思い出す。
 どこか排他的だった椎名が、みんなで目指すことを改めて言葉にしたことに、俺は感動を覚えた。
「ああ、行こうな」
 俺は短く、はっきりと肯定するのだった。