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ヴァーサス ―2―

ー/ー



 昔の話だが、バウディアムスの実技試験は、ある一部の生徒からは『体力測定』などと呼ばれてからかわれていた。それは、その時に実施されていた実技試験が、試験とは名ばかりの形式的な訓練のようなものばかりだったからだ。魔力量の測定、得意な魔法での的当て、強化魔法を使った身体能力の測定など、およそ実技試験とは言い難い内容の試験だった。今でもバウディアムスの実技試験が『体力測定』と呼ばれていたりするのはその名残なのだ。
 そのせいか、多くの生徒はこの実技試験に対して舐めた態度で臨むことが多い。学園側も危機感を覚えたのか、ある年を境にバウディアムスの実技試験は大きく実施内容を変更した。それが――

 ()()()による実技試験である。


「旭、どうかしたか? 体調でも悪いのか」


 顔をしかめる旭の肩を叩いてダモクレスが心配そうに声をかけるも、旭からは気のない返事しか帰ってこなかった。考え事でもしているのか、時折腕を組んで俯いたり、空を仰いだりしている。


「お、きたきた」


 そうこうしているうちに訓練場にたどり着く。吹き抜けになって夜空を見渡せる訓練場に足を踏み入れ、モニカたちは違和感を覚える。違和感と言っても些細なことではなく、あまりにもわかりやすい単純な点だった。


「……あれ?」


 そこに待っていたのは、試験官である獄蝶のジョカと、モニカたちと同じように試験に臨まんとしている生徒たちだった。


「私たち以外にも……いる?」

「……あれ、クラス・ジョカのやつらだ。見た事あんぞ、あのインテリ眼鏡」


 モニカたちは、見落としていたのだ。対人戦。その言葉を聞いて、当然のように、()()()()()()()()()()()と、決めつけてしまった。よく考えてみれば、そんなはずがないのに。
 これは試験だ。モニカたちは試されている。それを、やりようによってはいくらでも不正できるクラスメイトたちとの対人戦になどするはずがなかった。クラスメイト同士では本気でぶつかり合うことも叶わないだろう。


「さて、もう分かっているだろうけど、この実技試験は()()()()()()で実施させてもらう」


 クラス・アステシア VS クラス・ジョカ

 一部の生徒にとっては初めての対人戦となることもあるだろう。逸る心臓を押さえつけて、モニカは何度も深呼吸をして精神を落ち着かせる。


「よし、頑張ろう!」


 そして、何度も心の中で言い聞かせる。きっとできる、大丈夫だと。心配そうに顔を覗き込むソラの頭を撫でて、モニカは頬を叩いて気合いを入れた。


「アステシア先生はまだ来ないのかな?」


 クラス・ジョカの生徒の一人が口を開いた。アステシアが近頃バウディアムスに現れていないことはほとんどの生徒に知れ渡っている。煽るような口調なのもあり、一瞬動揺するモニカは何とか取り繕おうと口を開こうとするも、その口は旭の手によって塞がれた。


「そこのとんがり帽子と違ってうちのは忙しそうでね。暇人と一緒にすんなよ」

「……ちょっと、喋れないじゃん」

「絶対口滑らせるだろお前」

「失礼なやつ〜!」


 上手く躱されてつまらなさそうにする女を一目見て、強者たちはクラス・ジョカの生徒たちを注視する。そして、立ち振る舞いを見ただけで理解する。


「随分強そうな奴らじゃん。アガってくるね」

「同感だ、クラウディア嬢。久しぶりに熱い試合ができそうだな」


 パーシーとダモクレスは品定めをするようにジロジロとクラス・ジョカの面々を観察する。そんな血の気の多い二人をモニカたちが引きずって無理やり引き剥がし、改めて獄蝶のジョカから実技試験の説明を受ける。


「形式はわかりやすいからトーナメントで。基本的に別のクラス対抗になるように組んであるけど、場合によっては例外もあるかも」


 そう言って獄蝶のジョカは手のひらから無数の獄蝶たちを放った。入学試験を思い出すようで、モニカは懐かしさを感じて、舞う獄蝶の中から一匹を手に乗せた。すると、それに呼応するように無色だった獄蝶に色彩が現れる。続々と他の生徒たちの元にも獄蝶が止まり、同じように色とりどりに変色していく。


「同じ色の獄蝶を持つヤツが戦う相手だ。トーナメント表は後で見せるから、とりあえず誰と戦うのか確認しておくようにね」


 モニカの手の上で羽を休ませる獄蝶は鮮やかな紫色をしていた。キョロキョロと辺りを見渡して、言われた通りに対戦相手を探す。


「……あれ? いなくない……?」

「あ、言い忘れてたけど、君はシード枠だよ。エストレイラ」

「――え?」


 そうして、ついに実技試験が開幕する。


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 昔の話だが、バウディアムスの実技試験は、ある一部の生徒からは『体力測定』などと呼ばれてからかわれていた。それは、その時に実施されていた実技試験が、試験とは名ばかりの形式的な訓練のようなものばかりだったからだ。魔力量の測定、得意な魔法での的当て、強化魔法を使った身体能力の測定など、およそ実技試験とは言い難い内容の試験だった。今でもバウディアムスの実技試験が『体力測定』と呼ばれていたりするのはその名残なのだ。
 そのせいか、多くの生徒はこの実技試験に対して舐めた態度で臨むことが多い。学園側も危機感を覚えたのか、ある年を境にバウディアムスの実技試験は大きく実施内容を変更した。それが――
 |対《・》|人《・》|戦《・》による実技試験である。
「旭、どうかしたか? 体調でも悪いのか」
 顔をしかめる旭の肩を叩いてダモクレスが心配そうに声をかけるも、旭からは気のない返事しか帰ってこなかった。考え事でもしているのか、時折腕を組んで俯いたり、空を仰いだりしている。
「お、きたきた」
 そうこうしているうちに訓練場にたどり着く。吹き抜けになって夜空を見渡せる訓練場に足を踏み入れ、モニカたちは違和感を覚える。違和感と言っても些細なことではなく、あまりにもわかりやすい単純な点だった。
「……あれ?」
 そこに待っていたのは、試験官である獄蝶のジョカと、モニカたちと同じように試験に臨まんとしている生徒たちだった。
「私たち以外にも……いる?」
「……あれ、クラス・ジョカのやつらだ。見た事あんぞ、あのインテリ眼鏡」
 モニカたちは、見落としていたのだ。対人戦。その言葉を聞いて、当然のように、|ク《・》|ラ《・》|ス《・》|メ《・》|イ《・》|ト《・》|と《・》|戦《・》|う《・》|の《・》|だ《・》と、決めつけてしまった。よく考えてみれば、そんなはずがないのに。
 これは試験だ。モニカたちは試されている。それを、やりようによってはいくらでも不正できるクラスメイトたちとの対人戦になどするはずがなかった。クラスメイト同士では本気でぶつかり合うことも叶わないだろう。
「さて、もう分かっているだろうけど、この実技試験は|ク《・》|ラ《・》|ス《・》|対《・》|抗《・》|戦《・》で実施させてもらう」
 クラス・アステシア VS クラス・ジョカ
 一部の生徒にとっては初めての対人戦となることもあるだろう。逸る心臓を押さえつけて、モニカは何度も深呼吸をして精神を落ち着かせる。
「よし、頑張ろう!」
 そして、何度も心の中で言い聞かせる。きっとできる、大丈夫だと。心配そうに顔を覗き込むソラの頭を撫でて、モニカは頬を叩いて気合いを入れた。
「アステシア先生はまだ来ないのかな?」
 クラス・ジョカの生徒の一人が口を開いた。アステシアが近頃バウディアムスに現れていないことはほとんどの生徒に知れ渡っている。煽るような口調なのもあり、一瞬動揺するモニカは何とか取り繕おうと口を開こうとするも、その口は旭の手によって塞がれた。
「そこのとんがり帽子と違ってうちのは忙しそうでね。暇人と一緒にすんなよ」
「……ちょっと、喋れないじゃん」
「絶対口滑らせるだろお前」
「失礼なやつ〜!」
 上手く躱されてつまらなさそうにする女を一目見て、強者たちはクラス・ジョカの生徒たちを注視する。そして、立ち振る舞いを見ただけで理解する。
「随分強そうな奴らじゃん。アガってくるね」
「同感だ、クラウディア嬢。久しぶりに熱い試合ができそうだな」
 パーシーとダモクレスは品定めをするようにジロジロとクラス・ジョカの面々を観察する。そんな血の気の多い二人をモニカたちが引きずって無理やり引き剥がし、改めて獄蝶のジョカから実技試験の説明を受ける。
「形式はわかりやすいからトーナメントで。基本的に別のクラス対抗になるように組んであるけど、場合によっては例外もあるかも」
 そう言って獄蝶のジョカは手のひらから無数の獄蝶たちを放った。入学試験を思い出すようで、モニカは懐かしさを感じて、舞う獄蝶の中から一匹を手に乗せた。すると、それに呼応するように無色だった獄蝶に色彩が現れる。続々と他の生徒たちの元にも獄蝶が止まり、同じように色とりどりに変色していく。
「同じ色の獄蝶を持つヤツが戦う相手だ。トーナメント表は後で見せるから、とりあえず誰と戦うのか確認しておくようにね」
 モニカの手の上で羽を休ませる獄蝶は鮮やかな紫色をしていた。キョロキョロと辺りを見渡して、言われた通りに対戦相手を探す。
「……あれ? いなくない……?」
「あ、言い忘れてたけど、君はシード枠だよ。エストレイラ」
「――え?」
 そうして、ついに実技試験が開幕する。