ヴァーサス
ー/ー
小さく深呼吸をしてペンを置く。緊迫し、冷たさすら感じさせるほど教室の雰囲気は張り詰めていた。ただ、時計の針が時を刻む音とかりかりと文字を綴る音だけが心地よく耳に響く。
モニカは一足先に筆記試験の問題をすべて回答し終えて、目立たないように伸びをする。もう空白はどこにもないというのに、集中力を切らさないためにまたペンを手に取って再び思考を巡らせた。
この日、バウディアムスでは期末試験が行われている。大勢の生徒が集まり、一斉に試験に臨んでいる。驚いたことに、バウディアムスの筆記試験は早朝から実施されるのだ。そのせいか、ある者は夜通し勉強していたのか目の下にクマを作って筆記試験とにらみ合いを続け、ある者はうつらうつらと一定のリズムで睡魔と戦い、またある者は、すべてを諦めて神に祈るなど、何か支障をきたしている人物もちらほら見えるようだ。
そして、この筆記試験において、モニカはとある人物と約束していることがあった。
(……見られてるなぁ)
教室の外、既に筆記試験を終えたらしいフィスティシアがそこに立っていた。学園序列一位に君臨するフィスティシアは、当然戦闘能力だけではなく、勉学の才も優れている。そんな『バウディアムス最強の魔法使い』であるフィスティシアにモニカはある勝負を挑まれていた。
『1位を取れ。そうすれば私は、改めてお前を認めてやる』
入学当初、『奇跡』の使用による不正を疑ってフィスティシアはモニカを酷く叱責した。誤解を解き、関係も修復できたと思ったのも束の間、今度は、奇跡の魔法を使わずに筆記試験で一位を取れ、という勝負を仕掛けられてしまったのだ。
(奇跡は使ってない……全知の鍵もフィスティシア先輩に預かってもらってるから、今度こそ疑われることはない)
しかし、その代わりにのしかかってくるのはとてつもない重圧のプレッシャーだった。そもそも、モニカはバウディアムスに入学する際に筆記試験の最優秀者として選ばれている。その手前、この期末試験で杜撰な結果を残すようなことはできない。それどころか、あろうことか学園序列一位の魔法使いとある種賭けのようなことをして更に追い込まれる状況になってしまっている。
「そこまで。ペンを置いて、筆記試験はこれで終了です」
試験官らしき人物がそう言うと教室内の空気は一気に弛緩する。大きくため息をついて落ち込む者や、次の試験に備えて準備をする者も見られる。
モニカは最後まで答案の隅々を穴があくほど見直し、試験官に注意を受けるまで答案用紙を手渡さなった。パーシーに止められてようやく一息つくと、モニカは外で待つフィスティシアに小さく手を振った。
「わざわざ付き合う必要ある? モニカなら不可能じゃないと思うけど、筆記試験で一位とかさぁ、あの人くらいしかできないでしょ」
「そんなことないよ。ちゃんと授業聞いて勉強すれば八割は取れると思うけど」
「悪気なくそういうこと言えるところだけは見習いたいわ。ねぇ、今の聞いた!? レオノール!」
「俺関係ねぇだろ!」
八割どころか三割も回答できているか怪しいレオノールは図星をつかれて顔をひきつらせる。しかし、その裏では緊張を隠せずにいるようで、目を閉じて深呼吸をするレオノールはあまり見たことの無い鋭い表情を見せた。その表情を見て、モニカの心臓の鼓動もまた高鳴っていく。
バウディアムスの期末試験の本番は筆記試験ではない。
「では、次の試験の準備をしてください。訓練場で獄蝶のジョカ先生がお待ちになっておりますので、遅れないようくれぐれもお気をつけください」
バウディアムスは魔法使いを養成する魔法学園。モニカたちが問われているのは知識ではなく、魔法使いとしての実力だ。
「さぁ、いよいよ本命だよ、ソラ!」
「特訓の成果を見せてやるのですよ! モニカ!」
まもなく、期末試験の本番、実技試験が始まる。
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モニカは一足先に筆記試験の問題をすべて回答し終えて、目立たないように伸びをする。もう空白はどこにもないというのに、集中力を切らさないためにまたペンを手に取って再び思考を巡らせた。
この日、バウディアムスでは期末試験が行われている。大勢の生徒が集まり、一斉に試験に臨んでいる。驚いたことに、バウディアムスの筆記試験は早朝から実施されるのだ。そのせいか、ある者は夜通し勉強していたのか目の下にクマを作って筆記試験とにらみ合いを続け、ある者はうつらうつらと一定のリズムで睡魔と戦い、またある者は、すべてを諦めて神に祈るなど、何か支障をきたしている人物もちらほら見えるようだ。
そして、この筆記試験において、モニカはとある人物と約束していることがあった。
(……見られてるなぁ)
教室の外、既に筆記試験を終えたらしいフィスティシアがそこに立っていた。学園序列一位に君臨するフィスティシアは、当然戦闘能力だけではなく、勉学の才も優れている。そんな『バウディアムス最強の魔法使い』であるフィスティシアにモニカはある勝負を挑まれていた。
『1位を取れ。そうすれば私は、改めてお前を認めてやる』
入学当初、『奇跡』の使用による不正を疑ってフィスティシアはモニカを酷く叱責した。誤解を解き、関係も修復できたと思ったのも束の間、今度は、奇跡の魔法を使わずに筆記試験で一位を取れ、という勝負を仕掛けられてしまったのだ。
(奇跡は使ってない……全知の鍵もフィスティシア先輩に預かってもらってるから、今度こそ疑われることはない)
しかし、その代わりにのしかかってくるのはとてつもない重圧のプレッシャーだった。そもそも、モニカはバウディアムスに入学する際に筆記試験の最優秀者として選ばれている。その手前、この期末試験で杜撰な結果を残すようなことはできない。それどころか、あろうことか学園序列一位の魔法使いとある種賭けのようなことをして更に追い込まれる状況になってしまっている。
「そこまで。ペンを置いて、筆記試験はこれで終了です」
試験官らしき人物がそう言うと教室内の空気は一気に弛緩する。大きくため息をついて落ち込む者や、次の試験に備えて準備をする者も見られる。
モニカは最後まで答案の隅々を穴があくほど見直し、試験官に注意を受けるまで答案用紙を手渡さなった。パーシーに止められてようやく一息つくと、モニカは外で待つフィスティシアに小さく手を振った。
「わざわざ付き合う必要ある? モニカなら不可能じゃないと思うけど、筆記試験で一位とかさぁ、あの人くらいしかできないでしょ」
「そんなことないよ。ちゃんと授業聞いて勉強すれば八割は取れると思うけど」
「悪気なくそういうこと言えるところだけは見習いたいわ。ねぇ、今の聞いた!? レオノール!」
「俺関係ねぇだろ!」
八割どころか三割も回答できているか怪しいレオノールは図星をつかれて顔をひきつらせる。しかし、その裏では緊張を隠せずにいるようで、目を閉じて深呼吸をするレオノールはあまり見たことの無い鋭い表情を見せた。その表情を見て、モニカの心臓の鼓動もまた高鳴っていく。
バウディアムスの期末試験の本番は筆記試験ではない。
「では、次の試験の準備をしてください。訓練場で獄蝶のジョカ先生がお待ちになっておりますので、遅れないようくれぐれもお気をつけください」
バウディアムスは魔法使いを養成する魔法学園。モニカたちが問われているのは知識ではなく、魔法使いとしての|実《・》|力《・》だ。
「さぁ、いよいよ本命だよ、ソラ!」
「特訓の成果を見せてやるのですよ! モニカ!」
まもなく、期末試験の本番、|実《・》|技《・》|試《・》|験《・》が始まる。