第165話 それぞれの意見
ー/ー
「とはいえ、杉野の言う通り本気出させるとして、どうやってそれを成すかよね」
「まぁ、それな。話を振っといてなんだが、それが分かれば苦労はないしな」
椎名が初めにそう言い、樫田が元も子もないと笑う。
そりゃそーだ。どうすればいいかが問題であった。
「待って、その方向で話を進めるの?」
未だ納得していないのか、増倉が樫田に聞く。
対して樫田は、落ち着いた様子で聞き返す。
「なら、増倉はどうしたい?」
「どうしたいって……」
「怒っているのは分かった。許せないのも、まぁ、共感できる。けど、だからどうする? って話だ……その点、杉野と椎名の意見は前進的だ」
「それは…………私はほっといていいんじゃないかって思う」
一瞬悩んだ後に、増倉はそう答えた。
その言いぶりは適当になったからではなく、真剣に考えたようだった。
今度は椎名が尋ねた。
「ほっといていいってどういう意味かしら」
「そのまんまの意味。手を抜くようなことするなら、それは淘汰されるべきってこと」
「……良くない考えだわ。少なくとも、先輩としての行動ではないわ」
「だって向こうが後輩として動いてないじゃん」
「そういう問題ではないわ。見捨てるというの?」
「違う。見限られたから相手にしないだけ」
「同じじゃない」
「どこが?」
「二人ともストップだ」
徐々にヒートアップしていく二人を、樫田が止めた。
二人も我に返ったのか、お互い目をそらして、それ以上は何も言わなかった。
「まぁ、時期が時期だしな。それも考えの一つってことで」
樫田は、そう言って話を戻す。
確かに春大会直前の今、そこに労力を割くべきかは悩ましい問題ではあった。
「本気を出させるか放っておくか……他に何か言っておきたい人はいるか?」
「私はさっきも言った通り、劇を楽しんでいないなら、それが一番の問題だと思う。本気じゃなくても楽しんで劇をすべき」
樫田の投げかけに、夏村が答えた。
それは俺や椎名と違う意見だった。夏村なりの演劇へ筋を通そうとする行為なのだろう。
自然と視線は残りの大槻と山路に集まった。
「それで言うなら、俺は夏村の意見に賛成だわ。放っておけないのと、楽しんでないのはダメだろ」
「うーん。僕は割と増倉の意見よりかなー。本人の意志でそうしているなら仕方ないっていうかー」
二人は、それぞれ自分の賛同意見を提示した。
これによって俺たちは三つの意見に分かれた。
みんなの意見が出揃ったところで、大槻が聞く。
「で、樫田的にはどうなんだよ?」
「そうだな。演出家として言わせてもらえば、手を抜いているのは困る。分かるだろ? どんなに隠そうとしても勘のいい客にはバレる。そしてそれは劇全体を冷めさせる。最悪だ」
樫田の説明に、誰かが息を呑んだ。
俺も最悪の想像をして身震いがした。それは田島一人の問題ではなかった。
演劇という総合芸術において、誰かが手を抜くということは全てに悪影響を及ぼすということだった。
「じゃあ、どうするんだよ」
「どうするって……あー、今日はここまでだな」
予想外の言葉にみんな驚く。
さらっとしている樫田に、俺は思わず尋ねた。
「え、これから話し合うんじゃないの?」
「いや、無理だろ。現状でみんなの意見を確認できただけで十分だ」
「じゃあ、これからどうすんだよ」
「そりゃ、それぞれの意見に則って動けばいいだろ。そもそも全員一致の答えが出るとは思ってないだろ」
樫田的には、みんなの意見を聞けただけで今は満足のようだ。
確かに、全会一致の答えになるとは思ってなかったけど……。
「そうね。その通りだわ。これ以上話し合っても、平行線でしょうね」
「私もそう思う。これ以上は無駄だね」
椎名と増倉も樫田に同意した。
落ち着て考えれば、そうなのかもしれない。今出せる情報はもうないし、田島のことだって分かっていないことも多い。
今話しても机上の空論なのかもしれない。
「分かった」
「じゃあ、今日はここまでということで……ああ、一応言っておくが田島との関係性は今まで通りで頼むぞ。少なくとも春大会前の今、面倒事は起こさないでくれよ」
「分かってるって」
樫田がまとめるようにそう言うと、増倉が少し不満そうな顔をしながら頷いた。
他のみんなも、それぞれ心得ていると言わんばかりだった。
こうして、この日か解散になった。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
「とはいえ、杉野の言う通り本気出させるとして、どうやってそれを成すかよね」
「まぁ、それな。話を振っといてなんだが、それが分かれば苦労はないしな」
椎名が初めにそう言い、樫田が元も子もないと笑う。
そりゃそーだ。どうすればいいかが問題であった。
「待って、その方向で話を進めるの?」
未だ納得していないのか、増倉が樫田に聞く。
対して樫田は、落ち着いた様子で聞き返す。
「なら、増倉はどうしたい?」
「どうしたいって……」
「怒っているのは分かった。許せないのも、まぁ、共感できる。けど、だからどうする? って話だ……その点、杉野と椎名の意見は前進的だ」
「それは…………私はほっといていいんじゃないかって思う」
一瞬悩んだ後に、増倉はそう答えた。
その言いぶりは適当になったからではなく、真剣に考えたようだった。
今度は椎名が尋ねた。
「ほっといていいってどういう意味かしら」
「そのまんまの意味。手を抜くようなことするなら、それは淘汰されるべきってこと」
「……良くない考えだわ。少なくとも、先輩としての行動ではないわ」
「だって向こうが後輩として動いてないじゃん」
「そういう問題ではないわ。見捨てるというの?」
「違う。見限られたから相手にしないだけ」
「同じじゃない」
「どこが?」
「二人ともストップだ」
徐々にヒートアップしていく二人を、樫田が止めた。
二人も我に返ったのか、お互い目をそらして、それ以上は何も言わなかった。
「まぁ、時期が時期だしな。それも考えの一つってことで」
樫田は、そう言って話を戻す。
確かに春大会直前の今、そこに労力を割くべきかは悩ましい問題ではあった。
「本気を出させるか放っておくか……他に何か言っておきたい人はいるか?」
「私はさっきも言った通り、劇を楽しんでいないなら、それが一番の問題だと思う。本気じゃなくても楽しんで劇をすべき」
樫田の投げかけに、夏村が答えた。
それは俺や椎名と違う意見だった。夏村なりの演劇へ筋を通そうとする行為なのだろう。
自然と視線は残りの大槻と山路に集まった。
「それで言うなら、俺は夏村の意見に賛成だわ。放っておけないのと、楽しんでないのはダメだろ」
「うーん。僕は割と増倉の意見よりかなー。本人の意志でそうしているなら仕方ないっていうかー」
二人は、それぞれ自分の賛同意見を提示した。
これによって俺たちは三つの意見に分かれた。
みんなの意見が出揃ったところで、大槻が聞く。
「で、樫田的にはどうなんだよ?」
「そうだな。演出家として言わせてもらえば、手を抜いているのは困る。分かるだろ? どんなに隠そうとしても勘のいい客にはバレる。そしてそれは劇全体を冷めさせる。最悪だ」
樫田の説明に、誰かが息を呑んだ。
俺も最悪の想像をして身震いがした。それは田島一人の問題ではなかった。
演劇という総合芸術において、誰かが手を抜くということは全てに悪影響を及ぼすということだった。
「じゃあ、どうするんだよ」
「どうするって……あー、今日はここまでだな」
予想外の言葉にみんな驚く。
さらっとしている樫田に、俺は思わず尋ねた。
「え、これから話し合うんじゃないの?」
「いや、無理だろ。現状でみんなの意見を確認できただけで十分だ」
「じゃあ、これからどうすんだよ」
「そりゃ、それぞれの意見に則って動けばいいだろ。そもそも全員一致の答えが出るとは思ってないだろ」
樫田的には、みんなの意見を聞けただけで今は満足のようだ。
確かに、全会一致の答えになるとは思ってなかったけど……。
「そうね。その通りだわ。これ以上話し合っても、平行線でしょうね」
「私もそう思う。これ以上は無駄だね」
椎名と増倉も樫田に同意した。
落ち着て考えれば、そうなのかもしれない。今出せる情報はもうないし、田島のことだって分かっていないことも多い。
今話しても机上の空論なのかもしれない。
「分かった」
「じゃあ、今日はここまでということで……ああ、一応言っておくが田島との関係性は今まで通りで頼むぞ。少なくとも春大会前の今、面倒事は起こさないでくれよ」
「分かってるって」
樫田がまとめるようにそう言うと、増倉が少し不満そうな顔をしながら頷いた。
他のみんなも、それぞれ心得ていると言わんばかりだった。
こうして、この日か解散になった。