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第6話 支配者の天秤

ー/ー



巨大な正門をくぐり抜けた先には、冷たく研ぎ澄まされた静寂が待っていた。  外の生徒たちの喧騒が、嘘のように遮断されている。

 俺、七夕 (たなばた そう)は、スカーレットの背中を追いかけながら、アカデミーの本部塔――通称『セントラル・スパイア』の広大なエントランスホールを見渡した。  高い。高すぎる天井。  見上げれば、吹き抜けの遥か上空に、幾何学模様の光のリングがいくつも浮遊し、ゆっくりと回転している。

『……うわぁ。なにここ、お城みたい』

 脳内で、リクの声が響いた。  さっきまで外の視線に怯えていた彼だが、今は好奇心が勝っているようだ。

『ねえソウ。ここ、すごく「綺麗」だけど……なんか変だよ』 (変って、何が?) 『静かすぎるんだ。人の気配がしないのに、視線だけ感じる。……壁とか、天井とか、至るところから見られてる気がする』

 リクの言葉に、俺は背筋が寒くなった。  確かに、監視カメラらしきものは見当たらないが、空間そのものが俺たちを観察しているような圧迫感がある。

「……なぁ、スカーレットさん」 「何かしら」 「ここ、本当に学校なのか? すれ違う人が誰もいないんだけど」 「ここは管理棟よ。この塔には、アカデミーの運営機能、中央戦術スパコン、そして最上階には『彼ら』がいるわ」

 スカーレットは足を止めず、コツ、コツと規則正しいリズムで歩を進める。

「この学園の、そして第3階層の支配者たちよ」

 彼女はホールの奥にある、扉のないエレベーターの前で立ち止まった。  ピ、という電子音と共に、青白い光に満ちた箱が現れる。

「乗りなさい。最上階、『天上の間』へ行くわ」

 乗り込んだ瞬間、浮遊感が胃を襲った。  外の景色が見えるシースルーのエレベーター。第3階層のサイバーパンクな夜景が、ぐんぐん遠ざかっていく。

『……ソウ、怖い』

 リクの声が震え出した。

『上に行くほど、空気が重くなってる。……すごいのがいるよ。この上に、化け物みたいなのが二人』 (化け物って……学園長たちのことか?) 『うん。片方は氷みたいに冷たくて……もう片方は、存在自体がぼやけてる。……逃げたい。今すぐ降りようよ、ソウ』

 リクの「勘」は百発百中だ。彼がここまで怯えるなんて、一体どんな奴らが待っているんだ。  俺の心臓の鼓動が早くなる。

「……顔が引きつってるわよ」

 スカーレットがガラス越しに夜景を見ながら言った。

「怯えるのは悪いことじゃないわ。危機管理能力が高い証拠よ。……食われないように気をつけなさい」 「食われないようにって……比喩ですよね?」 「どうかしらね」

 チン、という軽快な音が鳴った。  最上階に到着する。  扉が開いた瞬間、ドッと濃密な空気が流れ込んできた。重力そのものが強くなったような、肌にまとわりつく圧迫感。

『ひっ……!』

 リクが悲鳴を上げ、脳内の奥底へ引っ込んでしまった。

「失礼します。スカーレット・ヴァーミリオン、帰還しました」

 スカーレットが凛とした声で告げ、部屋へと足を踏み入れる。俺も震える足を押さえつけ、その後に続いた。

 そこは、部屋というよりは「宇宙」だった。  壁も天井もなく、全方位が巨大なスクリーンになっており、無数のデータストリームが滝のように流れている。  その情報の奔流の中心に、二つの影があった。

 一つは、巨大な執務机に座る、軍服のようなスーツを着た銀髪の女性。  もう一つは……空中に「浮いて」いた。

「遅かったな、ヴァーミリオン」

 鋭い声が飛んできた。  机に座っていた女性だ。銀縁のメガネの奥にある瞳は、爬虫類のように細く、冷たい。  彼女が書類から目を離し、俺を睨みつけた。

「それで? その薄汚い(ネズミ)が、例の『検体』か」

 検体。  その単語に、俺は息を呑んだ。

「言葉を慎んでください、ヒルダ副学園長。彼は検体ではありません。新たな『適合者』です」 「適合者? 笑わせるな」

 ヒルダと呼ばれた女性は、鼻で笑って立ち上がった。

「報告書は読んだぞ。魔力ゼロ、身体能力Eランク、学力偏差値40。ただの無能な民間人だ。偶然、あの雨の日に現場に居合わせ、バグの捕食から逃げ延びただけのラッキーボーイ」

 ヒルダがコツ、コツと俺に歩み寄ってくる。  長身だ。俺より頭一つ分高い。彼女が見下ろす視線には、明確な殺意があった。

『ソウ! この女の人、本気だよ! 殺される!』

 リクの警告が脳裏を走る。わかってる、でも動けない。蛇に睨まれた蛙のように体が硬直している。

「そんな不確定な存在を『生徒』として迎え入れろだと? リスク管理もできないのか、お前は」 「彼には可能性があります」 「可能性? ゼロだ。私の判断は『廃棄』。今すぐその腹を切り裂いてシードを回収し、この鼠の記憶を消して第1階層へ送り返せ。……脳が壊れなければな」

 廃棄。腹を切り裂く。  彼女は事務処理のように、俺の死を宣告している。

「お待ちください。それは決定事項ではありません」 「黙れ小娘。私は副学園長として、合理的かつ論理的な判断を下している」

 ヒルダの手が伸びてくる。俺の首を掴もうとした、その時だった。

「――まあまあ、そうカリカリしなさんな、ヒルダ君」

 部屋の空気が、ふわりと緩んだ。  今まで沈黙を守っていた「もう一つの影」が、ゆっくりと降りてきた。

 それは、老人だった。  白衣を羽織った小柄な老人だが、その体はテレビのノイズのように絶えず揺らぎ、時折半透明になって向こう側が透けて見える。

『……っ! ソウ、この爺さん、ヤバい』

 リクの声が、今までで一番低く、警戒したトーンになった。

『人間じゃない。……こいつ、データ? 幽霊? わからないけど、僕たちのこと……「中身」まで見えてる!』

「学園長……」  ヒルダが不快そうに手を止めた。  学園長と呼ばれた老人は、重力がないかのようにふわふわと俺の周りを漂い、興味深そうに覗き込んできた。

「ほっほっほ。これが例の少年か。なるほど、なるほど」

 老人の目が、怪しく光った。その瞳の中には、瞳孔の代わりに複雑な魔法陣が回転している。

「名前は?」 「……た、七夕 双です」 「七夕君か。星を繋ぐ架け橋かね。……して、七夕君。君の腹の中、随分と賑やかだねぇ」

 老人が俺の腹に手を伸ばす。  その手は俺の服をすり抜け、皮膚も筋肉もすり抜けて、直接「胃の中」を撫でたような奇妙な感覚が走った。

「うぐっ……!?」 『ひゃああっ!? な、なでられた! 僕まで触られた!』

 リクが悲鳴を上げる。物理的な接触じゃない。魂に直接触れられたような不快感。

「ほう……美しい。実にカオティックだ。バグの『破壊衝動』と、君たちの『生存本能』が、螺旋を描いてダンスを踊っておる」 「ヴォイド学園長。戯れはおやめください」 「ヒルダ君、君の言う『合理性』は退屈だ。我々が相手にしているのは、理屈の通じないバグどもだぞ? 毒を制するには毒が必要じゃよ」

 ヴォイド学園長は、くるりと宙返りをして、空中にあぐらをかいた。

「それに、この少年には『資格』がある」

 ヴォイド学園長のノイズ混じりの指が、俺の胸元を指した。

「彼は『バグ』から生き延びた。あの絶望的な捕食の中で、自我を保ち、生きて帰ってきた。……スカーレット君が連れてきた理由は、そこだろう?」

 スカーレットが無言で頷く。

「そうだわ。彼がシードを持っていること以上に、あの状況下で『死ななかった』こと。その生存能力(サバイビリティ)こそが、これからの戦いに必要だと判断しました」

「ならば、チャンスを与えてやるのが教育者の務めというものじゃ」

 ヴォイド学園長はパチンと指を鳴らした。  空間に巨大なウィンドウが出現し、そこに「入学願書」のような書類が表示される。  ただし、一番下には血のように赤い文字で『同意書』と書かれていた。

「七夕 双君。君をアカデミーに受け入れよう」 「ほ、本当ですか?」 「ああ。ただし――条件がある」

 ヴォイド学園長の顔から笑みが消えた。  そこにあったのは、深淵よりも深い、底知れぬ闇だった。

「入学試験を受けてもらう。筆記でも面接でもない。もっと単純な、『生存証明』のテストだ」

「生存……証明?」 「君が本当にバグに打ち勝てる人間なのか。それとも、ただ運が良かっただけの餌なのか。それを証明したまえ」

 ヒルダが冷ややかな笑みを浮かべ、補足した。

「明日の朝、第13演習場へ来い。そこで『適性検査』を行う。……もし不合格なら、その場で私がシードごと君を『処分』する。いいね?」

 処分。  つまり、死だ。  不合格=退学ではなく、不合格=死。

『……ソウ』

 リクが、震える声で囁いた。

『逃げ場はないよ。……やるしかない。この人たち、僕たちが「NO」って言ったら、今ここで殺す気だ』

 ああ、わかってる。  俺は拳を握りしめた。後ろにはスカーレットがいる。前には二人の怪物がいる。  選択肢なんて最初からなかったんだ。

「……わかりました」

 俺は声を絞り出した。

「受けます。そのテスト」 「結構!」

 ヴォイド学園長が手を叩いて笑った。

「歓迎しよう、七夕 双君。死ぬ気で足掻いてみせたまえ。……我々の退屈を、君の『エラー』で破壊してくれることを期待しておるよ」




みんなのリアクション

巨大な正門をくぐり抜けた先には、冷たく研ぎ澄まされた静寂が待っていた。  外の生徒たちの喧騒が、嘘のように遮断されている。
 俺、七夕 双《たなばた そう》は、スカーレットの背中を追いかけながら、アカデミーの本部塔――通称『セントラル・スパイア』の広大なエントランスホールを見渡した。  高い。高すぎる天井。  見上げれば、吹き抜けの遥か上空に、幾何学模様の光のリングがいくつも浮遊し、ゆっくりと回転している。
『……うわぁ。なにここ、お城みたい』
 脳内で、リクの声が響いた。  さっきまで外の視線に怯えていた彼だが、今は好奇心が勝っているようだ。
『ねえソウ。ここ、すごく「綺麗」だけど……なんか変だよ』 (変って、何が?) 『静かすぎるんだ。人の気配がしないのに、視線だけ感じる。……壁とか、天井とか、至るところから見られてる気がする』
 リクの言葉に、俺は背筋が寒くなった。  確かに、監視カメラらしきものは見当たらないが、空間そのものが俺たちを観察しているような圧迫感がある。
「……なぁ、スカーレットさん」 「何かしら」 「ここ、本当に学校なのか? すれ違う人が誰もいないんだけど」 「ここは管理棟よ。この塔には、アカデミーの運営機能、中央戦術スパコン、そして最上階には『彼ら』がいるわ」
 スカーレットは足を止めず、コツ、コツと規則正しいリズムで歩を進める。
「この学園の、そして第3階層の支配者たちよ」
 彼女はホールの奥にある、扉のないエレベーターの前で立ち止まった。  ピ、という電子音と共に、青白い光に満ちた箱が現れる。
「乗りなさい。最上階、『天上の間』へ行くわ」
 乗り込んだ瞬間、浮遊感が胃を襲った。  外の景色が見えるシースルーのエレベーター。第3階層のサイバーパンクな夜景が、ぐんぐん遠ざかっていく。
『……ソウ、怖い』
 リクの声が震え出した。
『上に行くほど、空気が重くなってる。……すごいのがいるよ。この上に、化け物みたいなのが二人』 (化け物って……学園長たちのことか?) 『うん。片方は氷みたいに冷たくて……もう片方は、存在自体がぼやけてる。……逃げたい。今すぐ降りようよ、ソウ』
 リクの「勘」は百発百中だ。彼がここまで怯えるなんて、一体どんな奴らが待っているんだ。  俺の心臓の鼓動が早くなる。
「……顔が引きつってるわよ」
 スカーレットがガラス越しに夜景を見ながら言った。
「怯えるのは悪いことじゃないわ。危機管理能力が高い証拠よ。……食われないように気をつけなさい」 「食われないようにって……比喩ですよね?」 「どうかしらね」
 チン、という軽快な音が鳴った。  最上階に到着する。  扉が開いた瞬間、ドッと濃密な空気が流れ込んできた。重力そのものが強くなったような、肌にまとわりつく圧迫感。
『ひっ……!』
 リクが悲鳴を上げ、脳内の奥底へ引っ込んでしまった。
「失礼します。スカーレット・ヴァーミリオン、帰還しました」
 スカーレットが凛とした声で告げ、部屋へと足を踏み入れる。俺も震える足を押さえつけ、その後に続いた。
 そこは、部屋というよりは「宇宙」だった。  壁も天井もなく、全方位が巨大なスクリーンになっており、無数のデータストリームが滝のように流れている。  その情報の奔流の中心に、二つの影があった。
 一つは、巨大な執務机に座る、軍服のようなスーツを着た銀髪の女性。  もう一つは……空中に「浮いて」いた。
「遅かったな、ヴァーミリオン」
 鋭い声が飛んできた。  机に座っていた女性だ。銀縁のメガネの奥にある瞳は、爬虫類のように細く、冷たい。  彼女が書類から目を離し、俺を睨みつけた。
「それで? その薄汚い鼠《ネズミ》が、例の『検体』か」
 検体。  その単語に、俺は息を呑んだ。
「言葉を慎んでください、ヒルダ副学園長。彼は検体ではありません。新たな『適合者』です」 「適合者? 笑わせるな」
 ヒルダと呼ばれた女性は、鼻で笑って立ち上がった。
「報告書は読んだぞ。魔力ゼロ、身体能力Eランク、学力偏差値40。ただの無能な民間人だ。偶然、あの雨の日に現場に居合わせ、バグの捕食から逃げ延びただけのラッキーボーイ」
 ヒルダがコツ、コツと俺に歩み寄ってくる。  長身だ。俺より頭一つ分高い。彼女が見下ろす視線には、明確な殺意があった。
『ソウ! この女の人、本気だよ! 殺される!』
 リクの警告が脳裏を走る。わかってる、でも動けない。蛇に睨まれた蛙のように体が硬直している。
「そんな不確定な存在を『生徒』として迎え入れろだと? リスク管理もできないのか、お前は」 「彼には可能性があります」 「可能性? ゼロだ。私の判断は『廃棄』。今すぐその腹を切り裂いてシードを回収し、この鼠の記憶を消して第1階層へ送り返せ。……脳が壊れなければな」
 廃棄。腹を切り裂く。  彼女は事務処理のように、俺の死を宣告している。
「お待ちください。それは決定事項ではありません」 「黙れ小娘。私は副学園長として、合理的かつ論理的な判断を下している」
 ヒルダの手が伸びてくる。俺の首を掴もうとした、その時だった。
「――まあまあ、そうカリカリしなさんな、ヒルダ君」
 部屋の空気が、ふわりと緩んだ。  今まで沈黙を守っていた「もう一つの影」が、ゆっくりと降りてきた。
 それは、老人だった。  白衣を羽織った小柄な老人だが、その体はテレビのノイズのように絶えず揺らぎ、時折半透明になって向こう側が透けて見える。
『……っ! ソウ、この爺さん、ヤバい』
 リクの声が、今までで一番低く、警戒したトーンになった。
『人間じゃない。……こいつ、データ? 幽霊? わからないけど、僕たちのこと……「中身」まで見えてる!』
「学園長……」  ヒルダが不快そうに手を止めた。  学園長と呼ばれた老人は、重力がないかのようにふわふわと俺の周りを漂い、興味深そうに覗き込んできた。
「ほっほっほ。これが例の少年か。なるほど、なるほど」
 老人の目が、怪しく光った。その瞳の中には、瞳孔の代わりに複雑な魔法陣が回転している。
「名前は?」 「……た、七夕 双です」 「七夕君か。星を繋ぐ架け橋かね。……して、七夕君。君の腹の中、随分と賑やかだねぇ」
 老人が俺の腹に手を伸ばす。  その手は俺の服をすり抜け、皮膚も筋肉もすり抜けて、直接「胃の中」を撫でたような奇妙な感覚が走った。
「うぐっ……!?」 『ひゃああっ!? な、なでられた! 僕まで触られた!』
 リクが悲鳴を上げる。物理的な接触じゃない。魂に直接触れられたような不快感。
「ほう……美しい。実にカオティックだ。バグの『破壊衝動』と、君たちの『生存本能』が、螺旋を描いてダンスを踊っておる」 「ヴォイド学園長。戯れはおやめください」 「ヒルダ君、君の言う『合理性』は退屈だ。我々が相手にしているのは、理屈の通じないバグどもだぞ? 毒を制するには毒が必要じゃよ」
 ヴォイド学園長は、くるりと宙返りをして、空中にあぐらをかいた。
「それに、この少年には『資格』がある」
 ヴォイド学園長のノイズ混じりの指が、俺の胸元を指した。
「彼は『バグ』から生き延びた。あの絶望的な捕食の中で、自我を保ち、生きて帰ってきた。……スカーレット君が連れてきた理由は、そこだろう?」
 スカーレットが無言で頷く。
「そうだわ。彼がシードを持っていること以上に、あの状況下で『死ななかった』こと。その生存能力《サバイビリティ》こそが、これからの戦いに必要だと判断しました」
「ならば、チャンスを与えてやるのが教育者の務めというものじゃ」
 ヴォイド学園長はパチンと指を鳴らした。  空間に巨大なウィンドウが出現し、そこに「入学願書」のような書類が表示される。  ただし、一番下には血のように赤い文字で『同意書』と書かれていた。
「七夕 双君。君をアカデミーに受け入れよう」 「ほ、本当ですか?」 「ああ。ただし――条件がある」
 ヴォイド学園長の顔から笑みが消えた。  そこにあったのは、深淵よりも深い、底知れぬ闇だった。
「入学試験を受けてもらう。筆記でも面接でもない。もっと単純な、『生存証明』のテストだ」
「生存……証明?」 「君が本当にバグに打ち勝てる人間なのか。それとも、ただ運が良かっただけの餌なのか。それを証明したまえ」
 ヒルダが冷ややかな笑みを浮かべ、補足した。
「明日の朝、第13演習場へ来い。そこで『適性検査』を行う。……もし不合格なら、その場で私がシードごと君を『処分』する。いいね?」
 処分。  つまり、死だ。  不合格=退学ではなく、不合格=死。
『……ソウ』
 リクが、震える声で囁いた。
『逃げ場はないよ。……やるしかない。この人たち、僕たちが「NO」って言ったら、今ここで殺す気だ』
 ああ、わかってる。  俺は拳を握りしめた。後ろにはスカーレットがいる。前には二人の怪物がいる。  選択肢なんて最初からなかったんだ。
「……わかりました」
 俺は声を絞り出した。
「受けます。そのテスト」 「結構!」
 ヴォイド学園長が手を叩いて笑った。
「歓迎しよう、七夕 双君。死ぬ気で足掻いてみせたまえ。……我々の退屈を、君の『エラー』で破壊してくれることを期待しておるよ」


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