夜の帳が降りると、家のネコ、ルカは必ず私の膝に飛び乗る。
とん、と軽い音。
昼間はただのネコだが、月光に照らされると、人語で話し始める。
「今日も庭の秘密を見てきたよ」
小さな声が、すっと耳に滑り込む。
ルカの瞳は、しんとした月光を映し、宝石のように静かに光っていた。
「見て、あの光……淡い藍色の羽根を持つ小さな精霊が舞っていたんだ。
羽音は、ふわり、さらり。
風が花びらを撫でるみたいで、空気まで揺れていた」
窓の外の庭は闇に沈み、石と草木だけが見える。
だが、ルカの語る庭は違う。
古い石の下の小さな穴から、
ひやりとした風が漏れ、
きら、きら、と光の粒が溢れ出す。
湿った土の匂いが、夜気に混じる。
「この穴から夜の蝶たちが集まるんだ。
体に星の光を抱えてね。
ぱらり、と羽ばたくたび、庭が銀色の砂みたいに煌めく。
草に触れると、ざわ……って、音がするんだよ」
私は恐る恐る庭に出る。
月光は薄く、目には何も映らない。
それでも耳を澄ますと、
草の陰から、かす、かす、と羽音が届き、
頬を撫でる夜風に、微かな光のざわめきが混じる。
ルカは膝の上で、ゆらり、と尻尾を揺らした。
「ほら、わかるでしょ。
昼の庭には隠れているけど、夜だけ、僕たちは触れられるんだ」
影の奥。
葉と葉のすき間に、翡翠色の瞳が瞬いた。
小さな狐の精霊が、しん、と座っている。
光の粒がその体を包み、
庭に、さらさら、と星空が降り注いでいるようだった。
息を吸う。
草の香り。
夜露の冷たさ。
指先に、夜が触れる。
「毎晩少しずつ、庭の秘密は変わる。
風の向き、月の光、虫の音、土の匂い……
全部が魔法のリズムになって、僕に教えてくれるんだ」
私は息を呑み、
きらめきと、音と、匂いの重なりに身を委ねた。
ここはただの庭ではない。
夜ごと命を持つ、異界の端。
ルカは、その静かな案内者だ。
朝になれば、庭は元通りになる。
光も精霊も、音さえも消える。
それでも私は知っている。
ネコだけが見て、私に伝えてくれる庭の秘密が、
確かに、ここにあるのだと。
ルカは膝の上で、くるりと丸くなる。
すぅ、と小さな寝息。
夜の庭の残り香をまといながら、目を閉じた。
その寝顔に、ほんの少しだけ、
星の光が揺れているように見えた。