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Episode 3

ー/ー



 あいつの声が、静まり返りつつある茶の間で再生される。「玉の穴を、よく見て。落ちてくる瞬間を待つんだ」。その声は、かつてないほど鮮明に耳に届いた。


​ 十五時十四分。


​ 唐突に、世界から音が奪われた。
伯父の笑い声も、テレビの音も、一瞬で消失した。


巨大な真空パックの中に閉じ込められたかのような、耳鳴りのする静寂。



 親戚たちは、箸を動かし、湯呑みを口に運ぼうとした姿勢のまま、精密な彫像のように固まっている。


ただ一つ、彼らの「視線」だけが、ゆっくりと、機械仕掛けのようなぎこちない動きで私へと向いていく。その瞳には何の感情も宿っていない。


​ ミ、ミ、……と、畳のイグサが悲鳴を上げた。



私の座っているすぐ脇ーー畳の合わせ目から、
青白い、節くれだった「手」が突き出してきた。



親指の付け根には、あの小さな火傷の跡がはっきりと刻まれている。



​ 十五時十五分。



​ その手は私の足首を、優しく、けれど抗いようのない力で包み込んだ。



「僕が教えてあげるよ、いいかい?」
耳元で、少年の囁きがする。土の匂い。



 私は叫ぼうとしたが、身体は糸を切られた人形のように力を失っていった。自分の肉体という器から、魂が「玉」のように弾き飛ばされ、暗い床下へと吸い込まれていく感覚ーー



​ 十五時十六分。



​ 「……どうした? ぼーっとして。正月早々、景気が悪いぞ」





 伯父の声が響き、世界に熱が戻ってきた。
テレビの中では漫才師が相変わらず笑いを取り、結衣は慌てて畳を拭いている。

 

 「……ううん、なんでもないよ」



 自分でも驚くほど穏やかな声で答え、立ち上がっる。ふと目に入った自分の親指の付け根に、赤く盛り上がった古い火傷の跡があるのを見つけた。


子どもたちが置きっぱなしの、けん玉を拾いあげる。膝を深く沈め、吸い付くような動作で黒い玉を真上へと導く。


​――カチリ。


​硬い木琴のような音を立てて、玉は一点の狂いもなく剣先に突き刺さった。


​ 「おっ、すごいな! お前、そんなにけん玉上手かったか?」


 伯父が感心した声を上げる。



私は畳の隙間に向かって静かに微笑みを返した。

 

賑やかな茶の間の、さらにずっと下。

ひんやりとした土の匂いが漂う、
光の届かない場所から、





​ カチッ……。

 ゴトッ……。カチッ……。
ゴトッゴトッ……。

 カチッ……。ゴトッ……。

 カチッ……。



​ 遠ざかっていく、不格好なけん玉の音。




暗闇の奥へーーさらに奥へ。
どこまでも規則正しく響いていた。










みんなのリアクション

 あいつの声が、静まり返りつつある茶の間で再生される。「玉の穴を、よく見て。落ちてくる瞬間を待つんだ」。その声は、かつてないほど鮮明に耳に届いた。
​ 十五時十四分。
​ 唐突に、世界から音が奪われた。
伯父の笑い声も、テレビの音も、一瞬で消失した。
巨大な真空パックの中に閉じ込められたかのような、耳鳴りのする静寂。
 親戚たちは、箸を動かし、湯呑みを口に運ぼうとした姿勢のまま、精密な彫像のように固まっている。
ただ一つ、彼らの「視線」だけが、ゆっくりと、機械仕掛けのようなぎこちない動きで私へと向いていく。その瞳には何の感情も宿っていない。
​ ミ、ミ、……と、畳のイグサが悲鳴を上げた。
私の座っているすぐ脇ーー畳の合わせ目から、
青白い、節くれだった「手」が突き出してきた。
親指の付け根には、あの小さな火傷の跡がはっきりと刻まれている。
​ 十五時十五分。
​ その手は私の足首を、優しく、けれど抗いようのない力で包み込んだ。
「僕が教えてあげるよ、いいかい?」
耳元で、少年の囁きがする。土の匂い。
 私は叫ぼうとしたが、身体は糸を切られた人形のように力を失っていった。自分の肉体という器から、魂が「玉」のように弾き飛ばされ、暗い床下へと吸い込まれていく感覚ーー
​ 十五時十六分。
​ 「……どうした? ぼーっとして。正月早々、景気が悪いぞ」
 伯父の声が響き、世界に熱が戻ってきた。
テレビの中では漫才師が相変わらず笑いを取り、結衣は慌てて畳を拭いている。
 「……ううん、なんでもないよ」
 自分でも驚くほど穏やかな声で答え、立ち上がっる。ふと目に入った自分の親指の付け根に、赤く盛り上がった古い火傷の跡があるのを見つけた。
子どもたちが置きっぱなしの、けん玉を拾いあげる。膝を深く沈め、吸い付くような動作で黒い玉を真上へと導く。
​――カチリ。
​硬い木琴のような音を立てて、玉は一点の狂いもなく剣先に突き刺さった。
​ 「おっ、すごいな! お前、そんなにけん玉上手かったか?」
 伯父が感心した声を上げる。
私は畳の隙間に向かって静かに微笑みを返した。
賑やかな茶の間の、さらにずっと下。
ひんやりとした土の匂いが漂う、
光の届かない場所から、
​ カチッ……。
 ゴトッ……。カチッ……。
ゴトッゴトッ……。
 カチッ……。ゴトッ……。
 カチッ……。
​ 遠ざかっていく、不格好なけん玉の音。
暗闇の奥へーーさらに奥へ。
どこまでも規則正しく響いていた。


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