あいつは、けん玉が本当に上手な少年だった。対して私は、何をやらせてもどんくさく、玉を皿に乗せることすらおぼつかなかった。
「膝を柔らかく使うんだよ、こうして……」放課後の誰もいない教室で、あいつは嫌な顔一つせず、何度も私に教えてくれたものだ。自分の膝を曲げてリズムを取ってみせてくれる。
「玉の穴を、よく見て。落ちてくる瞬間を待つんだ」。
何度も失敗して投げ出そうとする私を、笑いながら励まし続けてくれた。「できるようになるまで付き合うからさ。ほら、もう一回」。
あいつの親指の付け根には、小さな、盛り上がった火傷の跡があった。夏休みの最後の夜に、二人きりで花火をした時に作った勲章だ。
卒業を待たず、冬の雨の日に、亡くなったあいつ。それ以来、一度も触れていなかった、思い出そうともしなかった……あの日から十歳のままのあいつ。私は勝手に大人になってしまった。
ーーなぜ今、あいつを。
言いようのない不安がこみ上げ、私は真っ黒な袋の封を震える指で切った。中から現れたのは、丁寧に折りたたまれた紙。
ゆっくりと開いていく、茶色く変色した紙……そこには、あいつのあのうねるような悪筆を思わせる字で、今日のこれからの予定が書き連ねられている。
予定表 一月一日
十四時五十八分: 伯父が笑い上戸になる。
十五時〇二分: 結衣が、茶をこぼす。
十五時十四分: 全員、黙る。
十五時十五分: 床下から手が伸びる。
十五時十六分: 中身の入れ替え完了。
お正月の予定表
「え?何だこれ……中身?」 書き殴られた文字をなぞる指先が、自分のものとは思えないほど冷え切っていた。
「ははは! お前、それは言い過ぎだよ!」
伯父が、箸を握ったまま仰け反って笑い出した。腕時計を見ると、十四時五十八分。
続いて、隣に座っていた結衣が湯呑みを倒した。畳の上に、じわりと温かな茶が広がっていく。十五時二分ちょうどだった。
時間は無慈悲に過ぎていく。
十五時十分、十一分、十二分。