8 幻の再会

ー/ー



 
(家族でもないのについてきてしまった……そしてどうしよう。心配で帰れない)

 ここは占い師さんが救急車で運ばれた病院のロビー。
 両手を固く握りしめ、私は神に祈りを捧げる。

(神様、占い師さんを助けてください。お願いします)

 よく知らない他人をそこまで心配するのには理由がある。
 私の悪運が彼に乗り移ってたらどうしよう。
 そんな不安が拭えないのだ。

「あんた、死相が出とるぞな」

 占い師は確かにそう言った。死にかけの金魚でなあなあにされたけど、金魚だろうが人間だろうが、死にかけなのは同じだと気づく。

(ああああっ。私って不幸の権化? 無駄のテンプレどころの話じゃない!?)

 悶えていたら看護師さんが私に声をかけてきた。

「救急車で運ばれた方のお連れさんですよね」
「はいっ」

 私はぶん、と顔を上げた。

「脱水症状があり、熱中症を起こしかけていたんですが、先程目がさめました」
「よかったっ。ありがとうございますっ」

 礼を言うために立ち上がった瞬間、預かっていた占い師さんの大きなバッグが膝から落ち、「あわわ、す、す、水晶が!」私は青ざめる。

(音、しなかったから、大丈夫よねっ)
 
「あの、どうかしましたか?」

 看護師さんが心配そうに顔を覗き込んできた。

「いいえ、なんでも……あ、それで、部屋番号は」

 教えてもらった後、バッグを開ける。
 水晶玉は無事だった。

(よかった……)

 へなへなと体の力が抜けていく。
 パワーストーンを壊すなんて縁起が悪すぎて、流石に立ち直れないところだった。
 安堵のため息をついた私の目に、高級そうな革靴が目に入る。
 つま先がこちらに向いており、
 そして……。

「君は一体何をしてるんだ」

 多分、世界で一番尊いバリトンが、鼓膜を叩いた。
 顔を上げると、そこに烏丸さんがいた。
 まっすぐに私を見つめている。
 あまりにもなカッコよさ。本物だったら、どれほどときめいた事だろう。
 しかし、私は騙されない。
 
「烏丸さんの幻が見える……よっぽど疲れてるんだわ」

 心の声が思わず漏れて、私はすっくと立ち上がる。
 今日は色んな事がありすぎた。現実逃避に推しの幻を見る程度には。
 柑橘系の香りがふわっと鼻腔をくすぐり、私の胸を切なくさせる。

「まるで本物そっくりね。ああ、駄目。切ない」

 幻とはいえ、本体がいるから、つい言葉にしてしまう。

「……バカとは思ったが、ついに頭がおかしくなったか」

 幻は呆れたように眉根を寄せる。
 さすが私。
 自分の頭が作り出した幻想なのに、本人が言いそうなセリフをよくぞ思いつくものだ。
 内心自画自賛しながら、バッグを抱え、教えられた病室に向かう。

「おいこら……」

 呼び止められている気がするけれど、振り向かない。
 さっきバッグを落としてしまい、心臓が止まる思いをした。
 人生には落ち着きが必要なのだ。でないと大変なポカをする。
 それにしても……。
 
(駄目だなあ。私。それどころじゃないのに、推しの幻を見るなんて……)

 もう2度と会いたくないと思うほど、トラウマな出来事があったのに、それでも不安になると、彼を思い出すなんて……。
 私って本当に懲りないなあ。

(烏丸さんはやっぱり私のパワースポット……)

 何故だかキュンと胸が震える。
 ただの推しだったはずなのに、この胸のときめきは、まるで片想いの相手と再会したみたいである。占い師さんの生死がかかっているのに、なんたる事。
 場違いな感情を振り払うために、私は大股で歩を進め……。

「迷った……」

 エレベーターを下りたり上がったりして、よくわからないフロアで立ち尽くす。
 看護師さんに尋ねたら、一緒に病室の前まで案内してくれた。

「ありがとうございますっ」

 頭を下げ、ふう、と気合を入れながら、ドアをノックし、返事を待って中へ。


「失礼します」

 ドアを開けて中に入りカーテンをめくる。
 と、その瞬間、部屋を満たすまばゆい光に圧倒されて目を閉じた。

「おお、ひかりさん」

 嬉しそうな占い師さんの声に、部屋を間違えたわけではないと知り、私は恐る恐る目を開ける。
 そしてポカン、と口をあけた。

「紹介しよう。わしの命の恩人、倉田ひかりさんじゃ」

 ベッドで半身を起こした占い師さんの横には、光り輝くオーラを放つ、見知ったイケメンが立っていた。
 涼しげな目、すらりと伸びた長い手足、少し長めの艶のある髪、明らかに全身から漂う眩いオーラと圧倒的な王者感。
 そして。

「はじめまして。烏丸怜です」

 耳に残る澄んだバリトン。
 見間違いでも幻でもない。
 それは紛うことなき、私の推し(そして恐怖の権化)烏丸怜本人だった。




みんなのリアクション

 
(家族でもないのについてきてしまった……そしてどうしよう。心配で帰れない)
 ここは占い師さんが救急車で運ばれた病院のロビー。
 両手を固く握りしめ、私は神に祈りを捧げる。
(神様、占い師さんを助けてください。お願いします)
 よく知らない他人をそこまで心配するのには理由がある。
 私の悪運が彼に乗り移ってたらどうしよう。
 そんな不安が拭えないのだ。
「あんた、死相が出とるぞな」
 占い師は確かにそう言った。死にかけの金魚でなあなあにされたけど、金魚だろうが人間だろうが、死にかけなのは同じだと気づく。
(ああああっ。私って不幸の権化? 無駄のテンプレどころの話じゃない!?)
 悶えていたら看護師さんが私に声をかけてきた。
「救急車で運ばれた方のお連れさんですよね」
「はいっ」
 私はぶん、と顔を上げた。
「脱水症状があり、熱中症を起こしかけていたんですが、先程目がさめました」
「よかったっ。ありがとうございますっ」
 礼を言うために立ち上がった瞬間、預かっていた占い師さんの大きなバッグが膝から落ち、「あわわ、す、す、水晶が!」私は青ざめる。
(音、しなかったから、大丈夫よねっ)
「あの、どうかしましたか?」
 看護師さんが心配そうに顔を覗き込んできた。
「いいえ、なんでも……あ、それで、部屋番号は」
 教えてもらった後、バッグを開ける。
 水晶玉は無事だった。
(よかった……)
 へなへなと体の力が抜けていく。
 パワーストーンを壊すなんて縁起が悪すぎて、流石に立ち直れないところだった。
 安堵のため息をついた私の目に、高級そうな革靴が目に入る。
 つま先がこちらに向いており、
 そして……。
「君は一体何をしてるんだ」
 多分、世界で一番尊いバリトンが、鼓膜を叩いた。
 顔を上げると、そこに烏丸さんがいた。
 まっすぐに私を見つめている。
 あまりにもなカッコよさ。本物だったら、どれほどときめいた事だろう。
 しかし、私は騙されない。
「烏丸さんの幻が見える……よっぽど疲れてるんだわ」
 心の声が思わず漏れて、私はすっくと立ち上がる。
 今日は色んな事がありすぎた。現実逃避に推しの幻を見る程度には。
 柑橘系の香りがふわっと鼻腔をくすぐり、私の胸を切なくさせる。
「まるで本物そっくりね。ああ、駄目。切ない」
 幻とはいえ、本体がいるから、つい言葉にしてしまう。
「……バカとは思ったが、ついに頭がおかしくなったか」
 幻は呆れたように眉根を寄せる。
 さすが私。
 自分の頭が作り出した幻想なのに、本人が言いそうなセリフをよくぞ思いつくものだ。
 内心自画自賛しながら、バッグを抱え、教えられた病室に向かう。
「おいこら……」
 呼び止められている気がするけれど、振り向かない。
 さっきバッグを落としてしまい、心臓が止まる思いをした。
 人生には落ち着きが必要なのだ。でないと大変なポカをする。
 それにしても……。
(駄目だなあ。私。それどころじゃないのに、推しの幻を見るなんて……)
 もう2度と会いたくないと思うほど、トラウマな出来事があったのに、それでも不安になると、彼を思い出すなんて……。
 私って本当に懲りないなあ。
(烏丸さんはやっぱり私のパワースポット……)
 何故だかキュンと胸が震える。
 ただの推しだったはずなのに、この胸のときめきは、まるで片想いの相手と再会したみたいである。占い師さんの生死がかかっているのに、なんたる事。
 場違いな感情を振り払うために、私は大股で歩を進め……。
「迷った……」
 エレベーターを下りたり上がったりして、よくわからないフロアで立ち尽くす。
 看護師さんに尋ねたら、一緒に病室の前まで案内してくれた。
「ありがとうございますっ」
 頭を下げ、ふう、と気合を入れながら、ドアをノックし、返事を待って中へ。
「失礼します」
 ドアを開けて中に入りカーテンをめくる。
 と、その瞬間、部屋を満たすまばゆい光に圧倒されて目を閉じた。
「おお、ひかりさん」
 嬉しそうな占い師さんの声に、部屋を間違えたわけではないと知り、私は恐る恐る目を開ける。
 そしてポカン、と口をあけた。
「紹介しよう。わしの命の恩人、倉田ひかりさんじゃ」
 ベッドで半身を起こした占い師さんの横には、光り輝くオーラを放つ、見知ったイケメンが立っていた。
 涼しげな目、すらりと伸びた長い手足、少し長めの艶のある髪、明らかに全身から漂う眩いオーラと圧倒的な王者感。
 そして。
「はじめまして。烏丸怜です」
 耳に残る澄んだバリトン。
 見間違いでも幻でもない。
 それは紛うことなき、私の推し(そして恐怖の権化)烏丸怜本人だった。


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