「やーと、消したみたい」
「絵美の演技上手過ぎー! マジで痺れたー!」
「主演、舐めんなよ!」
「さすが! 北星高のスター」
ハハッと手を叩くと、大道具に埋め尽くされた狭い部屋に笑い声が響き渡る。
私と絵美は中学受験を経て、この北西校に入学した。理由は一つ、演劇をしたかったからだ。
私たちは学校で一目置かれる存在で、その名前を知らない生徒はいないと言わしめるほどだった。
坂本美沙、高校から編入してきた余所者が現れるまで。
「しっかし、余所者に私のポジション取られるとは思わなかったわぁ。ああゆうのが北星高校の名を落とすんだよねー。インフルエンサーか何か知らないけど、くだらない写真撮って、適当なこと言っただけでバズるとか、本当に意味分かんないし。しかもあれ、ただのパクツイだし、アイツ、マジで頭カラッポだよなぁ。私の名演技にコロッと騙されて、笑い堪えるの必死だったー」
大きくため息を吐いた絵美は、肩までの髪を指先でクルクルと回す。
「さてと、じゃあ消すかぁ」
「うん、そうだね」
互いにスマホの画面に目を向けると、途端に部室は静まり返り、爪が画面に当たる音のみが響く。
「はい、アカウント削除からのアンインストール完了。萌は?」
「ちょっと待ってね、今やって……」
絵美の差し出されたスマホ画面を確認して、私も見せようとすると「あっ」と声を漏らす。
「あー、ごめん。お母さんからメッセきた。長くなりそうなやつ」
「えー、まっ、後で良いか」
ハァっと呆れたようなため息を吐いた絵美はスマホから目を離さず、途端に耳を刺すような過激な歌声がスマホより放たれる。
「お疲れさまでーす」
「ああ、お疲れ!」
部室のドアが開き一、二年の姿が見えたら、絵美はスマホを止めて、にこやかな表情で後輩たちの話を聞いていく。
つまらない日常話にしか聞こえないけど、絵美はそこに困りごとがあるかもしれないからと耳を傾けているらしい。
「絵美ー、聞いてよー!」
バンっとドアが開けば、そこには別のクラスの女子がワラワラといて、グチっぽい会話がポンポンと飛び交う。
部長を任された絵美は、誰もが頼る存在となっていた。
「じゃあ、練習始めるよー!」
「はーい!」
絵美の先導で部屋を出ていく部員たちも絵美も、誰も私が残っていることなんか気に留めない。
まるで目に見えない、虚像みたいな存在だな私。
ブレザーのポケットに仕舞ってあったスマホを取り出すと、そこには誹謗中傷するために作ったSNSとアカウントが確かに存在している。
ああ、そうだ。私は生きている。……SNSの中で。
みんなが信頼する演劇部の部長が、一人のインフルエンサーを貶めたって分かったらどうなるんだろうな?
坂本美沙に行う嫌がらせについての指示は、SNSの個人のやり取りで受けていた。
アイツの取り巻きも嫌がらせやってるみたいだし、便乗しようとか。誹謗中傷だけだと緩いとか言って、私に盗撮の指示を出したりとか。
それが、うっかり漏れるとか?
うわあ、考えただけでヤッバーイ。
アンインストールなんか、するわけないじゃん。本番は、これからなんだから。