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ー/ー
『美沙、やっとアカウント消したみたい!』
『マジで!』
『ああ、終わったー!』
メッセージを打ち込んだ手の力が抜けて、ふぅーと大きな息を吐く。
ここは美沙が加入していないグループメッセージ欄。私たちの作戦会議を行う場所だった。
『あの加工、酷かったよね? 自分だけ美白とか、瞳拡大とか』
『ああ、わかる! しかも、私たちの方だけ太らせる加工とかありえないんだけど!』
『本当! やめてって言ったら、みんな細いから自分と均等にする為とか言い出すし! マジで、倫理観とかどうなってるの?』
『私たちが同じ写真上げたら、外野は「こっちが細くしてる」とか言ってくるし、なんであんな雑な加工分からないのって感じ! あー、思い出すだけでイラつくー!』
このメッセージのやり取りで、またフツフツと怒りが湧いていた私たちは、普段吐き出せない毒をこの場で放出していく。
美沙、志保、直、そして私の四人は高校一年生の夏、四人でSNSを開始した。
初めは楽しく、夏休み中の報告、一緒に遊びに行った時の写真の共有、軽いメッセージでのやり取りを楽しんでいたけど、それは突然姿を変えた。
一年の秋頃、美沙が私達が上げていた写真や動画を無断転載するようになった。
メイク、カフェ、ヘアアレンジ、その他にも覚えられないほどしていて正直気分悪かったけど、悪気はないだろうからと私達は目を瞑ることにしていた。
どうせ、誰も見ていないのだからと。
しかし、私達はネットの凄さを知らなかった。
美沙の投稿を見た人たちが少しずつフォローを始めて、二桁、三桁と増えていき、その勢いは止まらなかった。
それはそのはず。だって私達が軽く話した、役立ち情報、服、メイク用品、オシャレなカフェとかを、さも自分が発信者のように投稿していたから。
だから私たちも負けじと、自分のアカウントで投稿したけど、美沙の二番煎じ扱い。別に良いけど、なんかイラついた。
そして極め付けには四人で撮った写真を加工していたこと。自分だけはともかく、友だちを悪く加工するって絶縁レベルでヤバいよね?
でも私たちは美沙のこと好きだし、悪気がないのならと思ってマジで話し合うことにした。
話したら分かってくれる。そう信じていたんだ。
無断転載、加工を辞めて欲しいと頼み、情報などは節度を持って投稿してと話した。
すると分かってくれたのか謝ってくれ、これで終わりだと思った。
しかし、美沙は全然分かっていなかった。
親友に怒られたとSNSに投稿し、援護のコメントに溢れてバズってしまった。
おかげで私達は学校では悪者扱い。美沙はこの時点で、学校内で知らない人はいないぐらいまで有名になっていたから。
一年の冬にはフォロワー数四桁を越え、私たちは美沙の柵に縛られるようになっていた。
それからの私たちは、いかに美沙を怒らせないかだった。
少しでも嫌な言動をしたら晒される。距離を取っても、イジメだと晒される。怒りでもしたら、それこそ悪者として晒される。
出来るのは、ただ無理に笑って話を合わせることだった。
何これ?
何でこんなことしないといけないの?
何で周りの目に怯えないといけないの?
私たちの悪口言っている人達は、実情を知らないでしょう?
それなら勝手なこと言わないでよ! 放っておいてよ!
本当は叫びたかったけど、そんなこと出来ないよね。
だって、学校に居られなくなってしまうから。
何で美沙と友だちになってしまったのだろう?
何でSNSを始めようと言い出してしまったのだろう?
あれにより、私たちの歯車は狂ってしまった。
こうしている間に、高校三年になる。
そろそろ受験も考えないといけなくて、大学や就職先などは受験生のSNSを確認していることが多いから、管理や場合によっては削除しないといけないと進路指導で聞いているのに、美沙は一向に止めようとしない。
待ってよ。私たちの高校生活だけでなく、未来まで潰す気?
友だちイジメてたとか勘違いされたら、どう責任取ってくれるの?
そう思い進路指導の先生に相談したけど、「SNSの管理の指導は出来るけど削除を強制することは出来ない」が返答だった。
友だちなら話し合えと言われたから、今までの経緯を話したけど、言い方がキツかったんじゃないかと取り合ってもらえない。
違うよ。やんわりと言ったよ。あれでキツいと言うなら、まともな話し合いなんて出来ないじゃない。
私たち三人は何度も解決策を話し合い、泣きながら互いを支え合い、その結論に辿り着いた。
誹謗中傷を偽造しよう、って。
勿論、やっていることは違法で何より倫理的にしてはいけない。
分かっていたけど私たちは実行した。
それぐらいまで追い詰められていたのだと、今なら分かる。
裏アカを作り、美沙に誹謗中傷のコメントを送った。
だけどそのコメントはすぐ消えていて、美沙が逐一消しているのだと分かった。
落ち込んでいる美沙に、「誹謗中傷酷いね、やめたら?」と声をかけたけどダメだった。
もう終わりだと思った時、救世主が現れてくれた。
盗撮。より一線を超えたことをやっている存在が現れたのだ。
正直驚いたし、さすがにやりすぎだろうと、私たちは思わず眉をひそめた。
だけどそれが功を奏してか、やっと消してくれた。
これで、SNSに怯える日々から解放されるんだよね?
やっと終わった。
『しかし、ウケるよね? あの写真を加工だって思ってるなんて。あれは美沙のまんまの姿なのに、鏡とか見てないのかな?』
『本当、初め何言ってるのか分かんなかったし』
『加工写真が本物とか、思ってないよね?』
ハハッっと声に出して笑ったけど、すぐにそれは引っ込んでしまう。
まさか、本当じゃないよね? さすがにそれは……。
美沙の言葉を思い出し、スマホを握る手に力が入ってしまう。
『まあとりあえず、SNSは全削除しよう。変に勘繰られても困るし』
『明日も知らないフリねー』
こうしてこのメッセージグループも削除され、私はただ呆然としてしまう。
そっか。削除か。
次はSNSアプリを開き、スライドしてどんどんと眺めていく。
適当に作った裏アカ。目的が終わったら消すと決めていた裏アカ。
だけど、なんでだろう?
少し、淋しい。
我慢していた私の感情を出してくれた。
未来を守ってくれた。
目的を果たすまで、共に戦ってくれた。
そっか。いつの間にか、このアカウントは私の分身だったんだ。
……今なら、美沙の気持ちも少しだけ分かるかも。
「今までありがとう。さよなら、私の分身」
そう呟き、アカウントの削除。
そしてアンインストールする。
私達を崩壊させた、このツールを。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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『美沙、やっとアカウント消したみたい!』
『マジで!』
『ああ、終わったー!』
メッセージを打ち込んだ手の力が抜けて、ふぅーと大きな息を吐く。
ここは美沙が加入していないグループメッセージ欄。私たちの作戦会議を行う場所だった。
『あの加工、酷かったよね? 自分だけ美白とか、瞳拡大とか』
『ああ、わかる! しかも、私たちの方だけ太らせる加工とかありえないんだけど!』
『本当! やめてって言ったら、みんな細いから自分と均等にする為とか言い出すし! マジで、倫理観とかどうなってるの?』
『私たちが同じ写真上げたら、外野は「こっちが細くしてる」とか言ってくるし、なんであんな雑な加工分からないのって感じ! あー、思い出すだけでイラつくー!』
このメッセージのやり取りで、またフツフツと怒りが湧いていた私たちは、普段吐き出せない毒をこの場で放出していく。
美沙、志保、直、そして私の四人は高校一年生の夏、四人でSNSを開始した。
初めは楽しく、夏休み中の報告、一緒に遊びに行った時の写真の共有、軽いメッセージでのやり取りを楽しんでいたけど、それは突然姿を変えた。
一年の秋頃、美沙が私達が上げていた写真や動画を無断転載するようになった。
メイク、カフェ、ヘアアレンジ、その他にも覚えられないほどしていて正直気分悪かったけど、悪気はないだろうからと私達は目を瞑ることにしていた。
どうせ、誰も見ていないのだからと。
しかし、私達はネットの凄さを知らなかった。
美沙の投稿を見た人たちが少しずつフォローを始めて、二桁、三桁と増えていき、その勢いは止まらなかった。
それはそのはず。だって私達が軽く話した、役立ち情報、服、メイク用品、オシャレなカフェとかを、さも自分が発信者のように投稿していたから。
だから私たちも負けじと、自分のアカウントで投稿したけど、美沙の二番煎じ扱い。別に良いけど、なんかイラついた。
そして極め付けには四人で撮った写真を加工していたこと。自分だけはともかく、友だちを悪く加工するって絶縁レベルでヤバいよね?
でも私たちは美沙のこと好きだし、悪気がないのならと思ってマジで話し合うことにした。
話したら分かってくれる。そう信じていたんだ。
無断転載、加工を辞めて欲しいと頼み、情報などは節度を持って投稿してと話した。
すると分かってくれたのか謝ってくれ、これで終わりだと思った。
しかし、美沙は全然分かっていなかった。
親友に怒られたとSNSに投稿し、援護のコメントに溢れてバズってしまった。
おかげで私達は学校では悪者扱い。美沙はこの時点で、学校内で知らない人はいないぐらいまで有名になっていたから。
一年の冬にはフォロワー数四桁を越え、私たちは美沙の柵に縛られるようになっていた。
それからの私たちは、いかに美沙を怒らせないかだった。
少しでも嫌な言動をしたら晒される。距離を取っても、イジメだと晒される。怒りでもしたら、それこそ悪者として晒される。
出来るのは、ただ無理に笑って話を合わせることだった。
何これ?
何でこんなことしないといけないの?
何で周りの目に怯えないといけないの?
私たちの悪口言っている人達は、実情を知らないでしょう?
それなら勝手なこと言わないでよ! 放っておいてよ!
本当は叫びたかったけど、そんなこと出来ないよね。
だって、学校に居られなくなってしまうから。
何で美沙と友だちになってしまったのだろう?
何でSNSを始めようと言い出してしまったのだろう?
あれにより、私たちの歯車は狂ってしまった。
こうしている間に、高校三年になる。
そろそろ受験も考えないといけなくて、大学や就職先などは受験生のSNSを確認していることが多いから、管理や場合によっては削除しないといけないと進路指導で聞いているのに、美沙は一向に止めようとしない。
待ってよ。私たちの高校生活だけでなく、未来まで潰す気?
友だちイジメてたとか勘違いされたら、どう責任取ってくれるの?
そう思い進路指導の先生に相談したけど、「SNSの管理の指導は出来るけど削除を強制することは出来ない」が返答だった。
友だちなら話し合えと言われたから、今までの経緯を話したけど、言い方がキツかったんじゃないかと取り合ってもらえない。
違うよ。やんわりと言ったよ。あれでキツいと言うなら、まともな話し合いなんて出来ないじゃない。
私たち三人は何度も解決策を話し合い、泣きながら互いを支え合い、その結論に辿り着いた。
誹謗中傷を偽造しよう、って。
勿論、やっていることは違法で何より倫理的にしてはいけない。
分かっていたけど私たちは実行した。
それぐらいまで追い詰められていたのだと、今なら分かる。
裏アカを作り、美沙に誹謗中傷のコメントを送った。
だけどそのコメントはすぐ消えていて、美沙が逐一消しているのだと分かった。
落ち込んでいる美沙に、「誹謗中傷酷いね、やめたら?」と声をかけたけどダメだった。
もう終わりだと思った時、救世主が現れてくれた。
盗撮。より一線を超えたことをやっている存在が現れたのだ。
正直驚いたし、さすがにやりすぎだろうと、私たちは思わず眉をひそめた。
だけどそれが功を奏してか、やっと消してくれた。
これで、SNSに怯える日々から解放されるんだよね?
やっと終わった。
『しかし、ウケるよね? あの写真を加工だって思ってるなんて。あれは美沙のまんまの姿なのに、鏡とか見てないのかな?』
『本当、初め何言ってるのか分かんなかったし』
『加工写真が本物とか、思ってないよね?』
ハハッっと声に出して笑ったけど、すぐにそれは引っ込んでしまう。
まさか、本当じゃないよね? さすがにそれは……。
美沙の言葉を思い出し、スマホを握る手に力が入ってしまう。
『まあとりあえず、SNSは全削除しよう。変に勘繰られても困るし』
『明日も知らないフリねー』
こうしてこのメッセージグループも削除され、私はただ呆然としてしまう。
そっか。削除か。
次はSNSアプリを開き、スライドしてどんどんと眺めていく。
適当に作った裏アカ。目的が終わったら消すと決めていた裏アカ。
だけど、なんでだろう?
少し、淋しい。
我慢していた私の感情を出してくれた。
未来を守ってくれた。
目的を果たすまで、共に戦ってくれた。
そっか。いつの間にか、このアカウントは私の分身だったんだ。
……今なら、美沙の気持ちも少しだけ分かるかも。
「今までありがとう。さよなら、私の分身」
そう呟き、アカウントの削除。
そしてアンインストールする。
私達を崩壊させた、このツールを。