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24話 解放区シンジュク

ー/ー



 ルナたちにとって長い一日が終わった。

 「極殺小隊」戦を含めると一日半。

 そこからステラの介入。

 キラーツインズとの対決。

 ルナの正体についてのチップ。

 ザクロとの再戦。

 人生で一番密度が高く、ルナの価値観が百八十度変わった日だ。

 とはいえ元の「柊美月」としての記憶に欠落がある以上、今のルナが元の美月に比べてどこを向いているのかはわからない。

 だがそれはもう気にしないと決めたこと。

 柊美月ではなくルナであることを望む仲間がいる限り、彼女はルナだ。

 何故ならルナは「コロシ部」の部長なのだから。

 *

 「タケミカヅチ」の撤退後、「コロシ部」メンバーは亞矢の治療を受けた。

 亞矢は戦闘タイプの「アドバンス」ではなかった。

 彼女は人間の治癒能力を増幅させる力を持っており、それが珍しい力とされてイチガヤの実験施設にいたのだ。

 亞矢と柊陽向との交流はその時からあった。

「陽向ねえ。すごい優しかったかな。あの頃はみんなが戦闘型『アドバンス』なんて感じじゃなかったからね。揉め事があれば庇ってくれたりさ」

 ルナの砕けた左手を治療しながら、亞矢とルナはイチガヤ時代の話をしていた。

「どういうこと? 『アドバンス』は戦う力を持って生まれるんじゃないの?」

「さあね。昔はもう少し力に幅があってさ。みんな実験で死んだり、施設から逃げ出した後のゴタゴタで死んだり色々だけど。ほとんど生きてないよ」

 淡々と語る亞矢だが、陽向の話題になると饒舌になるあたり、まだ当時のメンバーを気にしてはいるようだ。

「ていうかアンタさ。実はアタシと同世代でしょ?」

「……だから?」

 意地の悪い笑みを浮かべる亞矢に対して、ルナは警戒しながら聞き返した。

「だってあの事件のときにあの見た目でしょ。セーラー服なんか着てるけど、十代の着る服よあれ」

「うわ、傷付いた」

「はい治療完了! 後がつかえてるんだからさっさと行きな!」

 ルナの左手にかざしていた両手を離すと、パンと手を打ってルナを追い出しにかかる亞矢。

 「タケミカヅチ」に巻き込まれた比較的軽傷の怪我人が行列を作っているのだ。

 がめついことで地下鉄の外でも有名な亞矢だったが、今日はクレジットを取るつもりはないようだ。

 治療用のテントから出る直前にルナが言い返す。

「でも私は亞矢と違って若いから」

 その言葉は亞矢に打ち返す隙すら与えず深く心に突き刺さった。

 数秒唖然とした後、既にルナの姿はない。

「……性格わるぅ~」

 亞矢は追いかけて引っぱたいてやろうと思ったが、テントに次の怪我人が入ってきて断念する。

 彼女は今、東京が崩壊してから過去一番充実していた。

 *

 その後「コロシ部」は“掃除”によって排除された「アドバンス」少女の生存者を探したり、東京軍の寄越した後方部隊と亡骸を運ぶ手伝いをした。

 その作業は夜通し続き、作業が一区切りついたときにはもう次の朝だった。

「うえ~死んじゃうよ~。カロウシってやつだよ~」

「無駄口叩いてる余裕あったら自分で歩けよなあ」

「今死んだ。余裕ない。もうちっとよろしく」

 アカネと担がれた渚、凛子はルナが「待っている」と端末に送ってきた座標に向かう。

 凛子は身体こそ元通りだったが、精神的な疲労が強そうだった。

 そして「新宿駅東口」と地図上に載っている場所に三人は着く。

 幅の広い道路を崩壊後の東京とは思えない数の人がいる。

 地下鉄世界に影響力を持つ亞矢が声をかけ、集めたものだ。

「なんだあこりゃあ……」

 アカネがの口が大きく開く。大人から子どもまで百人以上確認したところで、アカネは数えるのをやめた。

「もしかして地下の人、かな……」

 凛子の言う通り、確かに彼らは日常的に日の光を浴びてないようで、色が白い。

 そして彼ら地下住民は三人のために道を開けた。

 アカネ、渚、凛子がこれまで受けてきた差別的な扱いではなく、歓迎による態度。

 そうやってできた道の先には、ルナが急造の「お立ち台」に立っている。

 ルナに手招きをされ、壇上に上がる三人。

 台は狭く、四人が立てるギリギリの大きさだ。

「それでは『解放区シンジュク』設立のご挨拶をさせていただきます。『便利屋コロシ部』の部長、ルナです」

 ルナが集まった地下住民に挨拶と説明を始める。

 アカネの渚がコソコソと小声で話し始める。

「そんな話聞いてたかなあ?」

「全然。あ、ちなみにアカネなら何て名前つけたい?」

「え、シンジュ区」

 渚がアカネの足を蹴った。

「『解放区シンジュク』は文字通り、解放された地区です。では何からの解放か……そう、『大東京連合』からです」

 動揺する住民たち。「東京軍」から目を付けられないかと口にする者もいる。

「聞いて下さい。私が解放を望むのは支配からだけではありません。貧困、差別、格差。少しずつ、私のできる範囲のことをしていきます」

 ルナの表情が、声が、身振りが次第に心に訴えるものとなる。

「だから、皆さんの力を貸してください。東京軍がここを攻めることはありません。この『解放区シンジュク』がなくなれば、この区域がさらに混乱するからです」

「ここに住んでた『アドバンス』は? 地下にまで略奪しに来る奴だっていたんだ。そんな状況でオモテで暮らせなんて……」

「『極殺』みたいな新しい連中が来るだけだろう?」

 色の白い前列の男たちが反論する。

 しかしルナは毅然とした態度で答えた。

「彼女たちに手出しはできません。私たち『コロシ部』は『東京軍』から正式に管轄地域としてこの区域を得ています。そこを荒らすことは軍に反発することも同義です」

「『連合』からの解放なのに、軍の後ろ盾を得るのか? 言ってることがおかしいじゃないか」

 別の男からも反論の声が上がった。

「いいえ。おかしくありません。軍の影響力を利用して、『大東京連合』の在り方から外れた新しい自治区を作る。これが私の構想だからです」

「言うだけなら簡単だよ」

「実現が難しいから、誰かがやらないといけないんです」

 アカネ、渚、凛子は大人を弁舌で黙らせ、次第に支持を集めているルナと共にあることを誇らしく思った。

 そしてルナに相応しい仲間でありたいとも。

「『極殺小隊』を倒した私たちに盾突く勢力は『便利屋コロシ部』のルナ、アカネ、渚、凛子が全力で止めます」

 ルナが三人の顔を順々に見ていく。

「『解放区シンジュク』の考えにご賛同いただける方はこの場に残って下さい。強制はしません。例え地下に戻られても、『解放区シンジュク』は何度でも皆さんを受け入れますから」

 一人、二人と去っていく者がいた。だがそれは数人規模のもので十数人ほどで止まった。

 地下住民たちはしばらく沈黙した後、一人がゆっくりと拍手し始めた。

 すると拍手が連鎖していくように広がり、駅前の道路に拍手や歓声が響いた。

 こうして「解放区シンジュク」は住民の支持のもとで設立された。

 彼らに新宿全土を支配する力はなかったが、大きな混乱もなかった。

 地下住民は労働力となり、自治区近隣の「アドバンス」たちの多くは新宿を出ていったからだ。

 時折「アドバンス」に差別意識の少ない大人が移住してくることもある。

 他にも「アドバンス」同士の戦いがないからとやってくる「アドバンス」もいるらしい。

(この自治区を足掛かりにして東京軍へのパイプを作ってもいいし、手を出してきた隙を突いて姉さんに接触を図ってもいい……そのカギはあの子(ステラ)

 *

 解放区が設立されたのと同時刻、ステラこと柊星来は独房に入れられていた。

 「タケミカヅチ」の兵士を連れ、彼女に面会を求めたのは「神使兵」月光の副官ポラリス。

 北極星の名を冠したポラリスは、文字通り従属異種人類たちの指標となるべく、上位者としての権限を与えられていた。

「今回の一件、何のつもりですか。ステラ」

「アンタらさあ、馬鹿じゃない? こんな檻、私なら転移でいつでも抜けられるじゃない」

「それをあなたがしていないということは、次は銃殺刑だということをよく理解しているからでは?」

 ステラが小さく舌打ちし、寝台から身を起こして従属異種人類の指揮官であるポラリスに向き直った。

「そっちこそ何のつもり? 負け犬のツラ拝みに来るなんて、そんなに暇なの?」

「いいえ。忙しいですよ。あなたの後始末で」

 ポラリスは兵士に指示して鍵を開けさせた。ゆっくりと立ち上がるステラ。

「柊陽向の実験記録チップ奪取は失敗に終わりました」

「だったら何?」

「なので柊陽向本人を拉致……いえ、同行していただきます。作戦会議を開くので来てください」

 ポラリスの後ろを歩きながら、ステラは吐き捨てた。

「この世界ってどこまでも柊の血で動いてるのね」

 第一部 完


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 ルナたちにとって長い一日が終わった。
 「極殺小隊」戦を含めると一日半。
 そこからステラの介入。
 キラーツインズとの対決。
 ルナの正体についてのチップ。
 ザクロとの再戦。
 人生で一番密度が高く、ルナの価値観が百八十度変わった日だ。
 とはいえ元の「柊美月」としての記憶に欠落がある以上、今のルナが元の美月に比べてどこを向いているのかはわからない。
 だがそれはもう気にしないと決めたこと。
 柊美月ではなくルナであることを望む仲間がいる限り、彼女はルナだ。
 何故ならルナは「コロシ部」の部長なのだから。
 *
 「タケミカヅチ」の撤退後、「コロシ部」メンバーは亞矢の治療を受けた。
 亞矢は戦闘タイプの「アドバンス」ではなかった。
 彼女は人間の治癒能力を増幅させる力を持っており、それが珍しい力とされてイチガヤの実験施設にいたのだ。
 亞矢と柊陽向との交流はその時からあった。
「陽向ねえ。すごい優しかったかな。あの頃はみんなが戦闘型『アドバンス』なんて感じじゃなかったからね。揉め事があれば庇ってくれたりさ」
 ルナの砕けた左手を治療しながら、亞矢とルナはイチガヤ時代の話をしていた。
「どういうこと? 『アドバンス』は戦う力を持って生まれるんじゃないの?」
「さあね。昔はもう少し力に幅があってさ。みんな実験で死んだり、施設から逃げ出した後のゴタゴタで死んだり色々だけど。ほとんど生きてないよ」
 淡々と語る亞矢だが、陽向の話題になると饒舌になるあたり、まだ当時のメンバーを気にしてはいるようだ。
「ていうかアンタさ。実はアタシと同世代でしょ?」
「……だから?」
 意地の悪い笑みを浮かべる亞矢に対して、ルナは警戒しながら聞き返した。
「だってあの事件のときにあの見た目でしょ。セーラー服なんか着てるけど、十代の着る服よあれ」
「うわ、傷付いた」
「はい治療完了! 後がつかえてるんだからさっさと行きな!」
 ルナの左手にかざしていた両手を離すと、パンと手を打ってルナを追い出しにかかる亞矢。
 「タケミカヅチ」に巻き込まれた比較的軽傷の怪我人が行列を作っているのだ。
 がめついことで地下鉄の外でも有名な亞矢だったが、今日はクレジットを取るつもりはないようだ。
 治療用のテントから出る直前にルナが言い返す。
「でも私は亞矢と違って若いから」
 その言葉は亞矢に打ち返す隙すら与えず深く心に突き刺さった。
 数秒唖然とした後、既にルナの姿はない。
「……性格わるぅ~」
 亞矢は追いかけて引っぱたいてやろうと思ったが、テントに次の怪我人が入ってきて断念する。
 彼女は今、東京が崩壊してから過去一番充実していた。
 *
 その後「コロシ部」は“掃除”によって排除された「アドバンス」少女の生存者を探したり、東京軍の寄越した後方部隊と亡骸を運ぶ手伝いをした。
 その作業は夜通し続き、作業が一区切りついたときにはもう次の朝だった。
「うえ~死んじゃうよ~。カロウシってやつだよ~」
「無駄口叩いてる余裕あったら自分で歩けよなあ」
「今死んだ。余裕ない。もうちっとよろしく」
 アカネと担がれた渚、凛子はルナが「待っている」と端末に送ってきた座標に向かう。
 凛子は身体こそ元通りだったが、精神的な疲労が強そうだった。
 そして「新宿駅東口」と地図上に載っている場所に三人は着く。
 幅の広い道路を崩壊後の東京とは思えない数の人がいる。
 地下鉄世界に影響力を持つ亞矢が声をかけ、集めたものだ。
「なんだあこりゃあ……」
 アカネがの口が大きく開く。大人から子どもまで百人以上確認したところで、アカネは数えるのをやめた。
「もしかして地下の人、かな……」
 凛子の言う通り、確かに彼らは日常的に日の光を浴びてないようで、色が白い。
 そして彼ら地下住民は三人のために道を開けた。
 アカネ、渚、凛子がこれまで受けてきた差別的な扱いではなく、歓迎による態度。
 そうやってできた道の先には、ルナが急造の「お立ち台」に立っている。
 ルナに手招きをされ、壇上に上がる三人。
 台は狭く、四人が立てるギリギリの大きさだ。
「それでは『解放区シンジュク』設立のご挨拶をさせていただきます。『便利屋コロシ部』の部長、ルナです」
 ルナが集まった地下住民に挨拶と説明を始める。
 アカネの渚がコソコソと小声で話し始める。
「そんな話聞いてたかなあ?」
「全然。あ、ちなみにアカネなら何て名前つけたい?」
「え、シンジュ区」
 渚がアカネの足を蹴った。
「『解放区シンジュク』は文字通り、解放された地区です。では何からの解放か……そう、『大東京連合』からです」
 動揺する住民たち。「東京軍」から目を付けられないかと口にする者もいる。
「聞いて下さい。私が解放を望むのは支配からだけではありません。貧困、差別、格差。少しずつ、私のできる範囲のことをしていきます」
 ルナの表情が、声が、身振りが次第に心に訴えるものとなる。
「だから、皆さんの力を貸してください。東京軍がここを攻めることはありません。この『解放区シンジュク』がなくなれば、この区域がさらに混乱するからです」
「ここに住んでた『アドバンス』は? 地下にまで略奪しに来る奴だっていたんだ。そんな状況でオモテで暮らせなんて……」
「『極殺』みたいな新しい連中が来るだけだろう?」
 色の白い前列の男たちが反論する。
 しかしルナは毅然とした態度で答えた。
「彼女たちに手出しはできません。私たち『コロシ部』は『東京軍』から正式に管轄地域としてこの区域を得ています。そこを荒らすことは軍に反発することも同義です」
「『連合』からの解放なのに、軍の後ろ盾を得るのか? 言ってることがおかしいじゃないか」
 別の男からも反論の声が上がった。
「いいえ。おかしくありません。軍の影響力を利用して、『大東京連合』の在り方から外れた新しい自治区を作る。これが私の構想だからです」
「言うだけなら簡単だよ」
「実現が難しいから、誰かがやらないといけないんです」
 アカネ、渚、凛子は大人を弁舌で黙らせ、次第に支持を集めているルナと共にあることを誇らしく思った。
 そしてルナに相応しい仲間でありたいとも。
「『極殺小隊』を倒した私たちに盾突く勢力は『便利屋コロシ部』のルナ、アカネ、渚、凛子が全力で止めます」
 ルナが三人の顔を順々に見ていく。
「『解放区シンジュク』の考えにご賛同いただける方はこの場に残って下さい。強制はしません。例え地下に戻られても、『解放区シンジュク』は何度でも皆さんを受け入れますから」
 一人、二人と去っていく者がいた。だがそれは数人規模のもので十数人ほどで止まった。
 地下住民たちはしばらく沈黙した後、一人がゆっくりと拍手し始めた。
 すると拍手が連鎖していくように広がり、駅前の道路に拍手や歓声が響いた。
 こうして「解放区シンジュク」は住民の支持のもとで設立された。
 彼らに新宿全土を支配する力はなかったが、大きな混乱もなかった。
 地下住民は労働力となり、自治区近隣の「アドバンス」たちの多くは新宿を出ていったからだ。
 時折「アドバンス」に差別意識の少ない大人が移住してくることもある。
 他にも「アドバンス」同士の戦いがないからとやってくる「アドバンス」もいるらしい。
(この自治区を足掛かりにして東京軍へのパイプを作ってもいいし、手を出してきた隙を突いて姉さんに接触を図ってもいい……そのカギは|あの子《ステラ》)
 *
 解放区が設立されたのと同時刻、ステラこと柊星来は独房に入れられていた。
 「タケミカヅチ」の兵士を連れ、彼女に面会を求めたのは「神使兵」月光の副官ポラリス。
 北極星の名を冠したポラリスは、文字通り従属異種人類たちの指標となるべく、上位者としての権限を与えられていた。
「今回の一件、何のつもりですか。ステラ」
「アンタらさあ、馬鹿じゃない? こんな檻、私なら転移でいつでも抜けられるじゃない」
「それをあなたがしていないということは、次は銃殺刑だということをよく理解しているからでは?」
 ステラが小さく舌打ちし、寝台から身を起こして従属異種人類の指揮官であるポラリスに向き直った。
「そっちこそ何のつもり? 負け犬のツラ拝みに来るなんて、そんなに暇なの?」
「いいえ。忙しいですよ。あなたの後始末で」
 ポラリスは兵士に指示して鍵を開けさせた。ゆっくりと立ち上がるステラ。
「柊陽向の実験記録チップ奪取は失敗に終わりました」
「だったら何?」
「なので柊陽向本人を拉致……いえ、同行していただきます。作戦会議を開くので来てください」
 ポラリスの後ろを歩きながら、ステラは吐き捨てた。
「この世界ってどこまでも柊の血で動いてるのね」
 第一部 完