商談67 弔いの旅
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ここは栃木県本須賀町。須賀高原をはじめとした高山地帯で、一年を平均して過ごしやすい。そのため富裕層の別荘地としても有名。近年は地方暮らしが流行りであることも手伝って、都会からの移住者が増加傾向にある。
それもそうだろう、何たって空気が澄み切っている。この澄み切った空気の下で吞むコーヒーの旨さと言ったらもう......たまらん!
俺が今何をしているかって? 本須賀駅前の喫茶店でコーヒーの香味を満喫しているところだ。
近年、移住者の増加に伴って本須賀駅前の発展が目覚ましい。新幹線で片道2時間というアクセスの良さもあって、都心への出稼ぎも不可能ではない。そこに目を付けた事業者は相次いで本須賀駅前へ出店し、今日のような賑わいを見せている。つまり、このコーヒーもその恩恵に肖っているというわけだ。
ここまでの話を聞くと、本須賀という新興地で商談をするのだろうと勘ぐるかもしれない。だが、俺の本懐は別にある。
以前、俺は生死を彷徨っていた時に遭遇した男。対馬衛という男、その顔を忘れるわけもない。何を言うわけでもなかったが、その表情は間違いなく含みを持っていた。俺はどうにも奴の事が気がかりだった。20年以上も前の故人に対して、今更かも知れないが。
それを秋子へ話したところ、彼を訪ねるべきだと後押しされた。秋子は神仏に対して敬意を払っており、故人についても同様に解釈したようだ。秋子曰く『故人の未練は当事者でなければ成就しない』とのこと。要するに自分で解決しろということだ。
それと、ゆなからは『本須賀チーズが食べたいっ!!』とおねだりされている。そういえば、本須賀はチーズの名産地でもあったな。忘れないようにしないと。
話は逸れたが、そろそろ目的地へ向かおう。俺はコーヒーの会計を済ませてバス乗り場へと向かった。
バス乗り場には既に行列が出来ていた。言い忘れていたが、須賀高原はスキーをはじめとしたウィンタースポーツの聖地でもある。本須賀駅は須賀高原へ向かう最寄り駅であり、行列の大半はスキーヤーやスノーボーダーが占める。
そんな中に地味なコートを着たおっさんが佇んでいる。傍から見れば俺の姿は間違いなく浮いているだろう。
早朝の景色は霞み、俺の吐息は一瞬にして白くなる。さっき呑んだコーヒーの温もりも薄らいできた。あぁ、迎えのバスよ早く来てくれないか......。
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ここは栃木県|本須賀《もとすか》町。須賀高原をはじめとした高山地帯で、一年を平均して過ごしやすい。そのため富裕層の別荘地としても有名。近年は地方暮らしが流行りであることも手伝って、都会からの移住者が増加傾向にある。
それもそうだろう、何たって空気が澄み切っている。この澄み切った空気の下で吞むコーヒーの旨さと言ったらもう......たまらん!
俺が今何をしているかって? 本須賀駅前の喫茶店でコーヒーの香味を満喫しているところだ。
近年、移住者の増加に伴って本須賀駅前の発展が目覚ましい。新幹線で片道2時間というアクセスの良さもあって、都心への出稼ぎも不可能ではない。そこに目を付けた事業者は相次いで本須賀駅前へ出店し、今日のような賑わいを見せている。つまり、このコーヒーもその恩恵に肖っているというわけだ。
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以前、俺は生死を彷徨っていた時に遭遇した男。対馬衛という男、その顔を忘れるわけもない。何を言うわけでもなかったが、その表情は間違いなく含みを持っていた。俺はどうにも奴の事が気がかりだった。20年以上も前の故人に対して、今更かも知れないが。
それを秋子へ話したところ、彼を訪ねるべきだと後押しされた。秋子は神仏に対して敬意を払っており、故人についても同様に解釈したようだ。秋子曰く『故人の未練は当事者でなければ成就しない』とのこと。要するに自分で解決しろということだ。
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そんな中に地味なコートを着たおっさんが佇んでいる。傍から見れば俺の姿は間違いなく浮いているだろう。
早朝の景色は霞み、俺の吐息は一瞬にして白くなる。さっき呑んだコーヒーの温もりも薄らいできた。あぁ、迎えのバスよ早く来てくれないか......。