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水原瑠花

ー/ー



 場所、ここでいいかしら?
 ありがとう。それで、あなたは中城さんとどのような関係だったの?
 後輩……部活の……そう、ずいぶん親しかったのね。
 それで?
 亡くなった中城さんについて、わたしから何を聞きたいの?
 ……。
 ええ、そうね。お父様のことはかなり敬愛していたみたい。言葉を選ばずに言うなら、依存や執着と言ってもいいかもしれないわ。
 ええ。
 朝倉くんとのことは、おそらくそうなのでしょうね。そんなにも父親のことを慕っていた彼女なら、彼のちょっとした変化にもすぐに気づいたでしょう。自分に対して以前よりどこか冷たくなった父親に対する当てこすりか、あるいは以前のように自分にもっと興味をもってもらうための。
 それはあまり奏功しなかった。そうね、わたしもそう思うわ。だからこそ、彼女はより直接的な行動に出たのでしょうね。
 父親の身辺を調べ上げ、彼が児童買春に手を染めていることを知った。
 パパ活? それは一般に、性交渉を含まないものをそう呼ぶのでしょう? まあ、呼び名はどうだっていいわ。
 彼女はその日、父親にその相手と会う予定があることを知り、その場所に先回りした。そして父親と口論になった。
 ええ。佐々木さんが見たのはきっとその現場なのでしょう。
 佐々木さん? そうかしら、わたしはどちらかというと、わかりやすくて好きよ。ああいう、他人の秘密や内面を見抜くことに長けているような口ぶりで話す人ほど、自分のわきはけっこうあまいものなのよね。そう、あなたの言う通り、彼女自身もまたパパ活をしているわ。自分の愛する父親を惑わせている行為。同じくそれに興じている人間を、中城さんがその後毛嫌いするようになったのは、ある意味当然よね。
 ええ。中城さんは、それでも父親を憎むことはできなかった。冴島先生に呼び出しを受け続けても、頑なに父親の決めた進路を変えなかったことからも、それは明白だわ。
 ただ一方で、父親にその行為をやめさせたいと思ってもいた。それでもパパ活をやめないなんて父親失格? ふふ。そうね、最低だわ。父親としてはね。
 中城さんは、さぞ悩んだでしょうね。苦しみ、追い詰められてもいたでしょう。黒魔術という、怪しげなものに頼らざるを得ないほどに。……あら、そんなところまで調べがついているの? そう、熱心ね。
 言葉による説得が不可能と判断した中城さんは、おそらく黒魔術を使って父親を「心変わり」させることを試みた。彼の「恋人」への興味を失わせようとしたのでしょうね。けれど当然、それはうまくはいかなかった。その後、彼女に残された唯一の方法は、父親の「恋人」を突き止め、直接説得すること。そうして……やがて彼女は、わたしへとたどり着いた。
 あまり驚かないのね。
 でも、そうよね。あなたもこうしてわたしのもとへやってきたということは、色々な人から話を聞いて、考えをまとめた上で来たのでしょう。
 わたしと彼のこと? そうね……最初はわたしも単なるお金目的だったわ。彼もまた、世の多くの中高年男性がそうであるように、間接的あるいは直接的な性的搾取を目的にわたしと会っていたんだと思う。
 でもいつからか、わたしと彼の関係性は変容していった。わたしは彼の、彼はわたしの、心の中のそれまで満たされることのなかった部分を埋めたわ。彼の場合、それは娘を愛するだけでは埋め切れなかった部分なのでしょう。わたしはきっと、この十七年間ずっと実の親から埋めてもらえなかった場所。
 わたしたちはお互いを強く求め合った。まるでそうしなければ生きていけないかのようにね。ふふ。大げさだと思う? でもあなただって、一度手にした幸せをそう簡単に手放したくはないでしょう? それが生まれて初めて手にしたものであれば、なおさら。少なくともわたしには、もう彼なしの生活は考えられなかった。
 だから。
 美耶の頼みを聞き入れることは、わたしにはできなかった。何度、どんな言葉をかけられようとも、決してね。彼女もしつこく食い下がったわ。初めから、わたしと彼女の望みは両立しえないものだった。そんな二人がいくら話し合いを重ねたって、無駄だと思わない?
 もし、彼女がそのことにわたしより先に気づいていれば、結果は逆だったかもしれない。
 ねえ、知ってる? この教室の窓から下に落ちるとね、まるで屋上から飛び降りたように見えるみたい。
 朝倉くんと話したのも、この教室だった。仮にも美耶の交際相手だった彼なら、彼女からわたしとのことを何か聞いてるかもしれないと思って。でも彼は何も知らないみたいだった。
 他にも何人かから話を聞いたけれど、誰もわたしを疑う人はいなかったわ。唯一、冴島という教師にわたしと美耶が話しているところを見られていたのは誤算だったけど……でもまあ、彼がもしそれをネタにわたしに迫ってくるようなことがあれば、こちらにも対抗策がある。あの教師、たぶん生徒とデキてるから。え? LINEのアイコンが同じ猫だったのよ。何のことかわからないわよね。いいの、気にしないで。まあ、それがなくても、彼の女子生徒を見る目つきは以前から気になっていたし。わたし、一人称が「先生」の教師って昔からなんとなく信用できないのよね。
 わたしの話はこれでおしまい。
 それで? あなたはこれからどうするの? わたしのことを告発する?
 ふふ。なに身構えてるの? そんなことしないわよ。でも、次はあなたの話を聞かせてもらえる?
 何をって? ふふ。だめよ、しらばっくれても。わたしが今日、あなたのことを何も調べずにここに来てると思った?
 誰にでも、後ろ暗いことってあるものね。
 さあ、今度はわたしが質問する番。
 聞かせてもらうわよ、あなたの「答え」を。


(了)




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 場所、ここでいいかしら?
 ありがとう。それで、あなたは中城さんとどのような関係だったの?
 後輩……部活の……そう、ずいぶん親しかったのね。
 それで?
 亡くなった中城さんについて、わたしから何を聞きたいの?
 ……。
 ええ、そうね。お父様のことはかなり敬愛していたみたい。言葉を選ばずに言うなら、依存や執着と言ってもいいかもしれないわ。
 ええ。
 朝倉くんとのことは、おそらくそうなのでしょうね。そんなにも父親のことを慕っていた彼女なら、彼のちょっとした変化にもすぐに気づいたでしょう。自分に対して以前よりどこか冷たくなった父親に対する当てこすりか、あるいは以前のように自分にもっと興味をもってもらうための。
 それはあまり奏功しなかった。そうね、わたしもそう思うわ。だからこそ、彼女はより直接的な行動に出たのでしょうね。
 父親の身辺を調べ上げ、彼が児童買春に手を染めていることを知った。
 パパ活? それは一般に、性交渉を含まないものをそう呼ぶのでしょう? まあ、呼び名はどうだっていいわ。
 彼女はその日、父親にその相手と会う予定があることを知り、その場所に先回りした。そして父親と口論になった。
 ええ。佐々木さんが見たのはきっとその現場なのでしょう。
 佐々木さん? そうかしら、わたしはどちらかというと、わかりやすくて好きよ。ああいう、他人の秘密や内面を見抜くことに長けているような口ぶりで話す人ほど、自分のわきはけっこうあまいものなのよね。そう、あなたの言う通り、彼女自身もまたパパ活をしているわ。自分の愛する父親を惑わせている行為。同じくそれに興じている人間を、中城さんがその後毛嫌いするようになったのは、ある意味当然よね。
 ええ。中城さんは、それでも父親を憎むことはできなかった。冴島先生に呼び出しを受け続けても、頑なに父親の決めた進路を変えなかったことからも、それは明白だわ。
 ただ一方で、父親にその行為をやめさせたいと思ってもいた。それでもパパ活をやめないなんて父親失格? ふふ。そうね、最低だわ。父親としてはね。
 中城さんは、さぞ悩んだでしょうね。苦しみ、追い詰められてもいたでしょう。黒魔術という、怪しげなものに頼らざるを得ないほどに。……あら、そんなところまで調べがついているの? そう、熱心ね。
 言葉による説得が不可能と判断した中城さんは、おそらく黒魔術を使って父親を「心変わり」させることを試みた。彼の「恋人」への興味を失わせようとしたのでしょうね。けれど当然、それはうまくはいかなかった。その後、彼女に残された唯一の方法は、父親の「恋人」を突き止め、直接説得すること。そうして……やがて彼女は、わたしへとたどり着いた。
 あまり驚かないのね。
 でも、そうよね。あなたもこうしてわたしのもとへやってきたということは、色々な人から話を聞いて、考えをまとめた上で来たのでしょう。
 わたしと彼のこと? そうね……最初はわたしも単なるお金目的だったわ。彼もまた、世の多くの中高年男性がそうであるように、間接的あるいは直接的な性的搾取を目的にわたしと会っていたんだと思う。
 でもいつからか、わたしと彼の関係性は変容していった。わたしは彼の、彼はわたしの、心の中のそれまで満たされることのなかった部分を埋めたわ。彼の場合、それは娘を愛するだけでは埋め切れなかった部分なのでしょう。わたしはきっと、この十七年間ずっと実の親から埋めてもらえなかった場所。
 わたしたちはお互いを強く求め合った。まるでそうしなければ生きていけないかのようにね。ふふ。大げさだと思う? でもあなただって、一度手にした幸せをそう簡単に手放したくはないでしょう? それが生まれて初めて手にしたものであれば、なおさら。少なくともわたしには、もう彼なしの生活は考えられなかった。
 だから。
 美耶の頼みを聞き入れることは、わたしにはできなかった。何度、どんな言葉をかけられようとも、決してね。彼女もしつこく食い下がったわ。初めから、わたしと彼女の望みは両立しえないものだった。そんな二人がいくら話し合いを重ねたって、無駄だと思わない?
 もし、彼女がそのことにわたしより先に気づいていれば、結果は逆だったかもしれない。
 ねえ、知ってる? この教室の窓から下に落ちるとね、まるで屋上から飛び降りたように見えるみたい。
 朝倉くんと話したのも、この教室だった。仮にも美耶の交際相手だった彼なら、彼女からわたしとのことを何か聞いてるかもしれないと思って。でも彼は何も知らないみたいだった。
 他にも何人かから話を聞いたけれど、誰もわたしを疑う人はいなかったわ。唯一、冴島という教師にわたしと美耶が話しているところを見られていたのは誤算だったけど……でもまあ、彼がもしそれをネタにわたしに迫ってくるようなことがあれば、こちらにも対抗策がある。あの教師、たぶん生徒とデキてるから。え? LINEのアイコンが同じ猫だったのよ。何のことかわからないわよね。いいの、気にしないで。まあ、それがなくても、彼の女子生徒を見る目つきは以前から気になっていたし。わたし、一人称が「先生」の教師って昔からなんとなく信用できないのよね。
 わたしの話はこれでおしまい。
 それで? あなたはこれからどうするの? わたしのことを告発する?
 ふふ。なに身構えてるの? そんなことしないわよ。でも、次はあなたの話を聞かせてもらえる?
 何をって? ふふ。だめよ、しらばっくれても。わたしが今日、あなたのことを何も調べずにここに来てると思った?
 誰にでも、後ろ暗いことってあるものね。
 さあ、今度はわたしが質問する番。
 聞かせてもらうわよ、あなたの「答え」を。
(了)


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